今回のオリンピックの追加種目にスポーツクライミングがある。
長年オリンピック採用に向けて動いていたところで、やっと採用にこぎつけたというものらしい。
このスポーツクライミングは「複合」ということで、スピード・ボルダリング・リードの3種目の総合種目になっている。
元々、これらの種目は単独で大会が行われていたのだが、オリンピック採用のために複合種目ができたという経緯があるよう。
後で書くけど、この3種複合種目は東京オリンピックが最後になるらしい。
この複合種目の順位決定方法は、3種目各々の順位のかけ算で決まるんですね。
昨日の男子複合予選で通過した8人の順位決定式を並べると、
- ミケル・マウェム(フランス) スピード3位×ボルダリング1位×リード11位=33 [3.2]
- 楢崎智亜(日本) スピード2位×ボルダリング2位×リード14位=56 [3.8]
- コリン・ダフィー(米国) スピード6位×ボルダリング5位×リード2位=60 [3.9]
- ヤコプ・シューベルト(オーストリア) スピード12位×ボルダリング7位×リード1位=84 [4.4]
- アダム・オンドラ(チェコ) スピード18位×ボルダリング3位×リード4位=216 [6.0]
- アルベルト・ヒネスロペス(スペイン) スピード7位×ボルダリング14位×リード3位=294 [6.6]
- バサ・マウェム(フランス) スピード1位×ボルダリング18位×リード20位=360 [7.1]
- ナサニエル・コールマン(米国) スピード10位×ボルダリング11位×リード5位=550 [8.2]
3つの順位の乗算で順位を決めるというのは、言い換えれば順位の幾何平均(相乗平均とも)で順位を決めるとも言える。
幾何平均というのは、N個の数字を全て掛け合わせて、N乗根を取るということである。
[]内に書いた数字はかけ算した数字の3乗根ということで、これが順位の幾何平均ということですね。
オリンピックには異なる複数の種目の総合成績で競う種目がいくつかある。
調べた範囲では下記があると思ったが、見逃しがあるかもしれない。
- 体操総合(個人・団体) : 各種目の得点の合計
- 総合馬術(個人・団体) : 各種目の減点を合計
- 陸上 十種競技(男子)・七種競技(女子) : 各位種目の成績(走破時間・投てき距離・跳躍距離)を計算式により得点化
- ノルディック複合 : 先に行うジャンプの得点をタイム差に換算して、後で実施するクロスカントリーのスタートに反映
- 近代五種 : 先に行う4種目の結果をタイム差に換算して、最後に実施するレーザーランのスタートに反映
この中で一番シンプルなのは体操ですね。各種目の採点システムの完成度が高いですからね。各種目の重み付けは均等と言える。
総合馬術については先日書いたが、クロスカントリーで大きな得点差が付きやすく、他の2種目で小差を競う感じですね。
陸上競技は時間・距離というものを計算式で得点化して総合力を競う種目があるが、これはタフですね。
スキーのノルディック複合と近代五種は、最後の種目のタイム差に換算して、最後の種目のゴールに入った順位で競うという。
そんな中では順位の幾何平均というのは珍しい方式と言えるが、
スポーツクライミングのボルダリングとリードという種目は、大会毎に課題が異なり、その課題は直前に呈示される。
課題の難しさによって、その結果の持つ意味が違うので、絶対値で得点化することが難しいということだと思う。
陸上競技の十種競技・七種競技は各種目の数字の持つ意味はことなるが、各種目の難易度というのは決まっている。
なので、それぞれの競技ごとの得点を定式化することはできそうな気はする。
スポーツクライミングでもスピードは決まった壁を登り切るのにかかる時間なので、これだけは定式化できるかもしれないが、
ボルダリングとリードはそういうわけにもいかず、従来からの順位を決めるルールに頼り切っているわけですね。
その上で幾何平均という方法はどうだろうという話である。
幾何平均での比較というのは順位の対数を平均して比較することに等しいとも言えるらしい。
1位と2位の差は2位と4位、4位と8位、8位と16位の差に等しいということだから、
上位争いに参加できる選手は非常に評価される一方で、下位の順位差はそこまで気にしなくてよいと。
この結果、スピードでは上位争いできるが、他の種目はそこまで……という選手も参加しているようで、
男子予選の数字で言えば、バサ・マウェム選手はスピードで卓越した成績を出して決勝進出を果たしたといえるわけですね。
冒頭にも書きましたが、この方式での複合種目はおそらく東京オリンピックが最後になる。
スポーツクライミングは次回、パリオリンピックでの採用も決まっている。
上位勢を見てもわかるが、日本もフランスもクライミングが盛んな地域ですからね。
一応はまだ追加種目という扱いらしいのだが、このまま定着していきそうな感じはする。
で、そのときにはスピードは単独種目となり、ボルダリングとリードの2種複合種目との2本立てになるようで。
これは決まった壁でタイムトライアルをするスピードと、
直前に与えられた課題を頭と身体を使ってボルダリング・リードは求められる性質がだいぶ違うことによる。
スピードは単独種目になるので、それは単純にタイムで競うのでよいとして、
2種複合はやはり2種類の種目の合計で競うが、順位の幾何平均ということではなくなるようで。
スポーツクライミングコンバインド「2種複合」の新ルール 第4回CJC 2021年6月時点 (Mickipedia)
両種目の課題達成状況を点数化して、1位の選手の得点を100点に正規化して合計するという方法が考えられているよう。
理論上の満点で正規化するんじゃなくて、実際に1位の選手の成績で正規化するというのが難易度調整なんでしょうね。
ボルダリングの得点だけで順位を取れば、概ねこれまでのボルダリングの順位と同じようになるはずだし、
リードの得点だけで順位を取れば、概ねこれまでのリードの順位と同じようになるように設計されている。
問題は合計したときにそれがどうやって現れるかというところである。
順位の幾何平均だと課題達成状況が小差でも1位・2位の差は大きかったし、大差でも7位と8位の差は小さい。
これが得点を正規化して合計する方式なら、ボルダリングの完登数・リードの高度で並ぶような小差であれば得点差は小差となる。
なのでもう一方の種目で差を付けることが求められるわけですね。この点では総合力が問われやすくなる。
一方で、リードはトップレベルの争いは1つ高度を上げられるかが大違いなのに、ボルダリングほどは得点差が出にくいのでは? という指摘もある。
実際にこのルールで実施された大会では、ボルダリングの得点差はリードではほぼ挽回できてないですね。
スポーツクライミング 第4回コンバインドジャパンカップ/リザルト (日本山岳・スポーツクライミング協会)
優勝した選手が決勝ではどっちも1位(100点)なんだから、それはもう文句の付けようはないんですけど。
陸上の十勝競技・七種競技だとべき関数により点数が規定されているので、高度を進めるごとに重みが増えて行く方が面白いかも知れませんね。
というわけで総合種目は難しいですね。
陸上の十種競技・七種競技とか近代五種なんてほとんど無理くりだろと思うわけですけど、総合力を競うことの面白さもあるわけですよね。
(それにしても近代五種は無理のある競技だが)
スポーツクライミングは今回の東京オリンピックはオリンピックでは最初で最後のクライミング王決定戦になるかもという話もあった。
スピードが独立した競技としてオリンピックに登場することの方がクライミング界にとっては大きなことだと思うんだけど、
3種複合もそれはそれでおもしろい種目だったねと振り返る意見もあるようだ。大会でやるかは別問題なんでしょうけど。