いろいろやらないといけない仕事はあるけど……
その前に書かないといけないドキュメントがあれこれあって、
今週は気合い入れて作業して、だいたい片付いたので、次の仕事に移れると思ったら、
まだ別のドキュメントがあることを思い出して、てんやわんや。
ある種の整理作業なのだが、それはそれで知識や経験が求められる。
高専卒業生に学位を与えるのはどうだろうか? と動いている国会議員がいるらしい。
【高専の学位について】本日、国立高等専門学校機構本部を訪ね、谷口理事長と意見交換を行いました。 (選挙ドットコム)
現在、高専本科の卒業生には準学士の「称号」が与えられている。
大学卒業者に与えられる学士は「学位」だが、この「称号」は国内限定のものとされている。
実際のところは国内でもあまり使い道はないのだが……
かつて短期大学の卒業者にも準学士の称号が与えられていたが、
2005年に短大卒業者には「短期大学士」の学位が与えられることになり、
これに伴いそれ以前に短大卒業者に与えられた準学士の称号は、短期大学士の学位とみなされることになった。
すなわち現在も準学士の「称号」を持っているのは高専卒業者のみである。
ただ、この差異は国内ではほぼ意識されていない。
そもそも短期大学士というのは変な名前だと思ったかも知れないが、
「短期大『学士』」 ということで学士の一種と考えるべきなのだろう。
国際的に見ると短大のような学校の卒業者に学位を与えるのは一般的で、
アメリカでいう “Associate Degree” に相当するものとされている。
学士を指す”Bachelor”とは違うんですけどね。でもそれに近いものと考えていると。
日本国内でそう思われているかというのはけっこう疑問はあるけど、
短期大学は法制度上は大学の一種となっている点は考慮されたようだ。
- 大学の目的: 学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること (学校教育法83条)
- 短期大学の目的: 深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成すること (学校教育法108条)
と言い方は違うんですけど「知的、道徳的及び応用的能力」と「職業又は実際生活に必要な能力」はほぼ同義でしょう。
となれば、その広さの違いであり、4年制と2~3年制の差である。
では高専はというと「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」(学校教育法115条)となっている。
短大の定義に似ているが、職業人の養成に主眼を置いていることがわかる。
実際、高専は工学と商船以外ではほぼ適用されていないので、その通りとしか言えないのですが。
で、実はこれに似た学校ってのがあって専門職大学ですね。
- 専門職大学の目的: 深く専門の学芸を教授研究し、専門性が求められる職業を担うための実践的かつ応用的な能力を展開させること (学校教育法87条の2)
- 専門職短期大学の目的: 深く専門の学芸を教授研究し、専門性が求められる職業を担うための実践的かつ応用的な能力を育成すること(学校教育法108条)
- 専門職大学院の目的: 学術の理論及び応用を教授研究し、高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うこと (学校教育法99条)
専門職大学ってのはあんまりないんですけど。
専門職大学院は 法科大学院・教職大学院やビジネス系の専門職大学院がそこそこある。
で、専門職大学・専門職大学院の卒業・修了者には学位が与えられる。
これがちょっと変な表記なんですよね。
- 専門職大学の卒業者: 学士(専門職) (例: 農業学士(専門職))
- 専門職短期大学の卒業者: 短期学士(専門職) (例: 農林業短期大学士(専門職))
- 専門職大学院の修了者: 修士(専門職) (例: 経営学修士(専門職), 教職修士(専門職))
- 法科大学院の修了者は 法務博士(専門職)
現在は一般的な学位は「修士(工学)」のように後ろに括弧書きで専攻分野を付けるが、
この専門職系の学位というのは「(専門職)」と付けるルールなので、専攻分野は前に付くようである。
あと、法科大学院の修了者は修士相当のはずなのに 法務「博士」なんですよね。
これはアメリカでは Juris Doctor(J.D.) と呼んでいることにならったもので、
実は日本の「学士(医学)」もアメリカの Doctor of Medicine (M.D.)に相当するものとされている。
医者のことを博士でなくてもドクターと呼ぶことがあるのはここから来ている。
なので「学士(医学)」の英語表記を Doctor of Medicine にしている例も多いという。
専門職大学の学位と似たようなものとして「専門士」という称号がある。
これは修業年限2年以上など一定の要件を満たす専門学校(専修学校専門課程)の修了者に与えられる。
さらに修業年限4年以上で一定の要件を満たす専門学校の修了者には「高度専門士」という称号もある。
ただ、称号なんで国内限定なんですけど。
この称号はほぼ大学の編入資格、大学院の入学資格にほぼ等しいので、
日本国内においては短大卒、大学学部卒とほぼ同等に扱うべきということになる。
もっとも専修学校は学校教育法1条に定める学校ではなく、その位置づけはだいぶ曖昧なものだが。
専門職大学というのは専門学校の担っていた役割に近い部分まで大学が担っていくべきという考えがあったんだと思う。
職業人の養成に特化しているが、しっかり大学であると。
ゆえに与えられるものは称号ではなく学位である。ただし「(専門職)」と付けなければならない。
しかし、残念ながらそこまで普及しているわけではない。
専門職大学院はけっこう多いのだが、大学学部卒や専門学校修了者を受け入れる学校は大学院だという理由もある。
そんなこんなで話は戻って高専卒業者への学位ということで言えば、
専門職系の学位がおそらく近しいが、それを何と言うのかという話はある。
「工学短期大学士(専門職)」ではあんまりな言い方である。
高専の特徴からすると、中学校を出てから5年学ぶということで、
専門分野については学士レベルとみてもよいとは思う。
かといって大学学部卒とはまた違うわけで、なんとも難しい。
高専と学位という話をすれば、やはり専攻科修了者ですよね。
高専卒業後、2年学び大学改革支援・学位授与機構の審査により学士の学位が取得でき、
これにより大学院への進学、あるいは大学卒業相当での就職が可能になる。
僕もそうだが、高専と大学院の間を埋める目的で選ぶ人が多いとは思う。
これがめんどくさい制度なんですよね。
2015年度から特例制度も導入されて、学位授与の審査も簡略化されたように思うが、
そもそも高専が専攻科修了者に学位を授与できない状況は変わっていない。
高専卒業者がこの方法で学位授与を受ける場合、
卒業前後合計で○単位というのは本科1~5年・専攻科のどこから拾ってもよい。
どちらかというと卒業後(=専攻科で)取得する単位数の制約が大きくて、
専門科目以外も多く受講する必要があり、職業人の養成と「広く知識を授ける」大学レベルのギャップなのかなと。
専門分野では大学院に近いが、それ以外ではむしろ大学の1~2年に近いのかも知れない。
中学校卒業から5年の課程で職業人を養成したことを表すこと。
そこに2年付け足して大学学部卒相当となったことを表すこと。
これが高専自身ができるようになるとよいわけだが、なかなか難しいですかね。
結局のところ、高専は工学と商船がほぼ全てということで、
これらの分野の人には知られていることがとても大きいわけですよ。
でも、他の分野とか国際整合とか考えると非常に難しいんですよね。
短期大学士や専門職系の学位の創設からすると、
高専卒業者の学位は専門職系の学位に近いものであるべきとはなるんだろうが、
そういうものが欲しいかと言われると微妙ですよね。
自分はすでに「修士(工学)」の学位を持ってるってのはあるんですけどね。