ニュースで見て、確かにこういうケースってあるよなぁと。
日本国籍を剝奪された2人の孫 元最高裁判事も知らなかった非寛容さ (朝日新聞デジタル)
母日本人、父アメリカ人でイギリス在住でイギリス出身の子がいて、
生まれながら日本国籍・アメリカ国籍があり、国籍留保の手続きをしたので、
日本の国籍法の規定により、20歳まで(成人から2年以内)に国籍選択をする必要があると思っていた。
ここで父がイギリス国籍を取得して、これにより子は届出によりイギリス国籍を取得できた。
イギリス在住なのでこの手続きをしたところ、「自己の志望によって外国の国籍を取得した」ことに該当し、日本国籍を喪失していたという話である。
このような規定は世界的に見てもそこまで珍しいものではない……と思うが。
生まれながらの重国籍の解消を求める国は数字では少数派である。
この記事によれば、そのような国は47ヶ国、中国・韓国・インドなど。
他に調べてみるとタイ・マレーシア・ベトナム・インドネシアも該当する。
アジアでは珍しくないんですよね。
さらに生まれながらの重国籍を解消しなくてよい国でも、自ら手続きをして他の国籍を取得すると国籍を喪失する規定を持っていることはある。
そこまで含めて少数派かはわからない。
とはいえ、「自己の志望によって」と言うものの、子はまだ未成年だろう。
実態としては親の都合によりイギリス国籍を取得したというのが正しい。
生まれながらの重国籍などは20歳まで留保できるのに、ひどいじゃないかと。
確かにそれはその通りで、なので日本人の子は日本国籍を失っても、いろいろなワークアラウンドが用意されている。
まず、日本人の子は「日本人の配偶者等」の在留資格が取得できる。
生まれたときに親が日本国籍を持っているという条件を満たせばよい。
この在留資格があれば、日本に住むことと無制限に働くことが出来る。
日本に住むとなればまずこの在留資格を取得することになる。
日本人の子なのに日本国籍がないという中には、国籍留保の手続きを怠ったケースが考えられる。
日本人の子でも、外国で生まれて日本以外の国籍がある場合は国籍留保の手続きをしないと日本国籍は得られない。
出生届に「日本国籍を留保する」と記載すればよくて、在外公館に置かれている出生届にはすでに刷り込まれているとのこと。
(外国で出生した後、日本で出生届を出す場合にはあえて書かないといけない)
しかし、それを忘れても18歳未満で日本に住んでいれば「国籍再取得の届出」が可能になる。
国籍留保した人や日本生まれの人には関係ない話だが。
それ以外の場合で日本国籍を回復する場合は、帰化の手続きによる。
日本人の子が帰化する場合の要件は大幅に緩和されている。
住所要件は日本に住んでいればよく、能力要件・生計要件が緩和される。
日本に定住して、親族に養ってもらってでも生活していけそうで、
なおかつ素行面で問題がなければ帰化できるということですね。
すでに持っている外国籍を放棄することが最大のハードルでしょうか。
一方、外国人として日本に滞在し続けることを希望する場合だが、
この場合は永住者として認められる条件が緩和される。
日本人・永住者・特別永住者の子は最低1年以上在留すればよい。
必ずしも1年で永住申請が可能になるとは限らないのだが、
素行面で問題が無くて、日本での生活に問題がなさそうならば、比較的早期に永住者になれる可能性がある。
日本人の配偶者等も日本での就労に制限はない在留資格ではあるが、
永住者は無期限で取り消されにくいのでより安定的である。
再入国許可が得られれば最大5年間、日本を離れても永住者として日本に戻れる。
このように日本国籍を失っても、日本人の子が日本との地縁を回復する手段はいろいろある。
ただ、日本国籍の回復や永住許可は日本に定住することが前提である。
冒頭に書いたケースでは失敗したが、外国在住のまま日本国籍を維持し続け、
重国籍だと20歳までに選択が必要だが、外国在住でも日本国籍は選択できる。
日本国籍だけを維持した場合と、日本人の子である外国人として暮らす場合の違いで、
最も大きいのはそのさらに子の地位ではないかと思う。
日本国籍を維持し続ければ、そのさらに子には生まれながら日本国籍がある。
日本国籍があれば、日本での滞在は自由で「帰国」が拒否されることはない。
重国籍だと20歳までに解消が求められるが、そこまでは重国籍でもよい。
一方、日本人の子である外国人の子(日本人の孫)には日本国籍はない。
親が元日本人としても子が生まれた時点で日本国籍がなければこうなる。
では、この日本人の孫が日本にやってくるとなるとどうなるか。
この場合は日系3世として定住者の在留資格が得られる場合がある。
定住者も日本で無制限の就労が可能な在留資格ではあるのだが、
日系3世で定住者の在留資格を得る場合は「素行が善良であること」という条件が付く。
なお、日本人の子である外国人として日本に滞在している場合、
最短1年で永住者の在留資格が取得できる可能性があるとかいた。
日本で生まれた永住者の子も永住者となるのが通常である。
外国で生まれた永住者の子は、未成年で未婚のうちは定住者の在留資格が得られる。
日本に定住すれば最短1年で永住者の在留資格が取得できる可能性がある。
いずれのケースでも日系3世よりはだいぶ有利である。
元日本人の本人にしても、ここまで書いたようなワークアラウンドはあるが、
必ずしもこのように日本との地縁を回復できるとは限らないことだよね。
そもそも特別永住者以外の外国人には上陸拒否事由というのがある。
国内外で1年以上の懲役刑が確定した場合、薬物犯罪で有罪になった場合など。
日本以外での生活が困難なら入国を認めざるを得ないけど、
国籍のある国などで生活が可能と判断されれば認められないだろう。
帰化や永住が認められれば、そこからの地位はかなり安定するが、
そのためには素行に問題が無いとか、生計面の問題が無いとか、税金や社会保険料を納めているかが問われる。
永住許可が出ても、親の素行不良が原因で子の永住許可が出ないケースがあるという。
(この場合も永住者の配偶者等として子の在留自体は可能である)
永住者といっても、その地位が全く脅かされないわけではない。
というわけでやはり日本国籍を失うことは面倒な話である。
いらない手間が増えるし、確実とは言えない部分も多々ある。
とはいえ多くの場合は元日本人自身は日本との地縁を回復できるだろう。
それでも重国籍を解消させるのは、その次の代まで重国籍が連鎖することは避けたいという考えがあるんじゃないかと思う。
日系3世までは「素行が善良」ならば定住者の在留資格が得られるが。
(それにより定住者として在留する日系3世の未婚で未成年の子までは定住者)
最近、特別永住者として日本に住んでいて韓国籍として登録されているのに、
韓国の住民登録を怠ってパスポートを発行に困る人がいると見た。
外国人でも日本で生まれてそのまま日本で居続けるならパスポートは必要ではない。
日本で生まれれば最初に日本の役所に出生届を出すことになる。
特別永住者だと市町村の窓口で在留資格の取得手続きまで完了する。
これで住民票も在留資格もあるので日本で暮らす分には困らない。
(朝鮮籍として登録されている人はそうして代々暮らしてきた人である)
親が韓国籍ならば出生届を出した後、本来は韓国の住民登録をしなければならない。
でも、これをしないままの人もいると。それが2代以上続いていることもあるらしい。
重国籍ではないが、これは国籍国を離れて何代も重ねることの難しさを表していると思う。
重国籍も1代ならばそこまで害はないのかなという気はする。
本国を離れて移住した人との関係を維持するために、重国籍を積極的に認めるように方針転換した国もあると見た。
日本にしても日本人の子は外国人になっても特別な扱いが多々ある。
そこまでするなら日本国籍を維持してもいいじゃないかと思う部分もある。
でも、そのまま外国で代を重ねるとそれはそれで大変なことである。
外国在住でも日本国籍しかない人は、何代でも認めざるを得ないけど、
日本以外の国籍を選べばそこまでと、この歯止めには意味があると思った。