JR東海はすでに全線へのICカード導入という方針を示しているが、
現状はいくつか穴があって、その最たるものが高山本線である。
国内外の観光客が多く利用する ひだ号 をカバーできないためである。
この問題について 下呂・高山・飛騨古川(いずれも特急停車駅)にTOICAを導入し、
e5489でチケットレス特急券の販売を行うことが発表された。
特急「ひだ」のチケットレス乗車サービス開始について (pdf) (JR東海)
特急停車駅にICカードを導入し、チケットレス特急券を導入するのは、
西日本管内では やくも号 や くろしお号 でみられた。
(くろしお号の走る きのくに線は 現在は全駅ICカード導入済み)
e5489というJR西日本のインフラを活用する点でも重なる点は多い。
ひだ号の利用状況からするともっと早く実現してもよさそうだと思っていたが、
ある人から 運賃計算上の問題があるのでは? という話を聞いた。
ひだ号は主に名古屋~高山~富山を結ぶ特急である。
名古屋~高山を岐阜経由で走り、岐阜駅では方向転換が行われる。
なお、1往復は大阪~高山の運行で、岐阜駅で名古屋発着の編成が方向転換するところに解結を行う。
一見どうということはないのだが、このルートは名古屋~飛騨方面の最短ルートではない。
昔は名古屋~鵜沼を名鉄経由で走る北アルプス号なんてありましたが……(cf. 高山経由の富山行きは絶景三昧)
そういう話ではなくて、JRだけ見ても最短ルートではないんですよ。
名古屋~美濃太田は多治見・太多線経由が54.0kmに対して、岐阜経由が57.6kmである。
距離だけ見れば微妙な差なのだが、高山本線・太多線の距離は運賃計算上1.1倍するので、
この換算キロで見ると 55.8km と 60.3km で4.5kmの差がある。けっこう運賃差が出る。
この区間で紙のきっぷは実際の乗る経路のきっぷを買うルールである。
ひだ号の特急券と同時に買えば当然、岐阜経由の乗車券が出てくる。
名古屋駅の運賃表などは岐阜経由と多治見経由の運賃が併記されていて、どちらか選んで買う。
ところがICカードでは経路の識別ができないことが多いので、
これまでのTOICAのルールでは最短経路で計算することになっていた。
この結果、名古屋~美濃太田を岐阜経由で乗っても多治見経由の運賃が引き落とされるし、
岐阜~中津川を名古屋経由で乗っても太多線経由の運賃が引き落とされる。
東濃地域と岐阜県の他の地域を移動する場合、鉄道では本数が多くて早い名古屋経由での移動が一般的だが、
遠回りなので本来は高いのだけど、ICカードでは安い太多線経由の運賃になる。
後で書くのだが、このような問題に目をつぶっている例はあるが、
JR東海としては気になったようで、今回の拡大にあたっては下記の制度が適用される。
※高山本線の下呂、高山、飛騨古川の3駅は、特急「ひだ」のチケットレス乗車サービス開始に伴いTOICAをご利用いただけるようにすることから、これら各駅と名古屋等の駅との運賃は、特急「ひだ」の運行区間である岐阜経由で計算することとします。
というわけで、基本的には岐阜経由での運賃計算になる。
ただし、特急での利用に限るというわけではなく
※高山本線の下呂、高山、飛騨古川の3駅については、特急「ひだ」ご利用の場合に加えて、当該3駅の各駅相互間または高山本線岐阜~美濃太田間の各駅と当該3駅の各駅相互間ご利用時に限り、普通列車をご利用の場合についてもTOICAをご利用いただけるようにします。
というわけで、運賃計算の問題が生じない 岐阜~古川 は対応駅同士であれば普通列車でもICカードでの乗車が可能となる。
本数や所要時間を考えると限られたニーズのような気はするけど。
実運用上どうなるか定かではないところはあるが、
上記の記載では岐阜~古川のIC導入駅間と特急停車駅相互に限るとはなっていない。
なので金山~高山のような利用もカバーするということだろう。
こういう利用がカバーできないとけっこう不便である。
これを岐阜経由で計算するところには異論はないだろう。
ただ、多治見~高山のような利用はどうだろうか?
美濃太田駅は特急停車駅だから、なので太多線に乗り換えるのは変な使い方ではない。
とはいえ、こういう使い方をカバーしようとすると、
太多線経由を適用する範囲と岐阜経由を適用する範囲の線引きが難しくなる。
こういうのはスコープ外になりそうだが、明確なところはわからない。
さっき「このような問題に目をつぶっている例はある」と書いたが、
やくも号の走る伯備線がまさにその典型例である。
やくもを含む伯備線の列車は倉敷経由で岡山まで乗り入れている。
ところが岡山~総社には吉備線(桃太郎線)もあって、こちらの方が距離は短い。
ただし、吉備線は利用者の割には設備が貧弱なので倉敷経由で移動すべきである。
なので、このあたりの運賃表は倉敷経由の運賃にほぼ統一されている。
ところがICOCAの最安経路ルールはこの区間にも適用されるので、
やくも号を含む伯備線を利用する人はICOCAだと運賃が若干安くなるのである。
西日本管内で紙のきっぷとICカードの最安経路ルールの乖離がよく発生するのはここぐらいである。
加茂~大阪は通常は大和路線経由だが、実は学研都市線経由の方が短い。
しかし、ここら辺は大阪近郊区間の特例により、紙のきっぷでも多くは最短ルートでの計算になる。
大都市近郊区間は経路が複雑なのでこのようなルートが設けられている。
近郊区間内外をまたぐと紙では正しく経路指定する必要があるのでICカードの方がスコープは広いが大差ない。
京都(山科)~敦賀(近江塩津)の米原経由と湖西線経由、
海田市~三原の山陽本線経由と呉線経由は必ず最安経路で計算するルールだし、
東岡山~相生は安い山陽本線ルートのきっぷで赤穂線ルートも利用できる。
大阪~和田山は はまかぜ号利用の場合は乗車券・特急券とも こうのとり号と同じ福知山経由で計算するルールがある。
ICOCAで利用する場合ははまかぜ号利用に限らず、すべて最安ルート計算になるが大差はない。
徳山(櫛ヶ浜)~岩国は岩徳線はICカード未導入だが、
紙のきっぷで山陽本線ルートや新幹線を利用する場合も安い岩徳線ルートで計算するルールなので、
岩徳線はICOCAでは乗れない(岩国~徳山を貫通する場合もNG)が、最安ルートの計算には入る。
微妙にスコープの違いはあるが、多くの場合は紙のきっぷ同様になる。
東日本管内に至ってはICカード導入区間で環状経路がある区間は、
大都市近郊区間の特例を適用し、紙のきっぷと一致するようにしている。
その副作用で 松本~いわき のような相当長距離の利用でさえ途中下車できなくなっている。
関東圏では直通運転なども相まって、最安経路と実際の乗車ルートの乖離がけっこう大きい。
例えば北千住~清澄白河、どう考えても東武~半蔵門線直通を使う区間だが、
直通だと押上で会社をまたぐ一方、東京メトロだけで閉じるルートが存在し、そちらの方が安い。
本来のルートで紙のきっぷを買うと360円なのに、ICカードでは209円となる。
こうなると東武は運賃を得られないように思えるが、実際には最短ルートで徴収した運賃を会社間で分配しているそう。
なので、今回の高山本線の対応は全国的にも珍しい対応である。
自動改札機で切り分けて実際の乗車ルートで徴収できるようにしているのはありますけどね。
太多線経由のルートを運賃計算に使ったり使わなかったりする特殊な対応となる。
おおよそ ひだ号以外での利用が考えられないということで、この対応は妥当と言えるのだろう。
東海管内ではもう1つ面倒な区間があり、それが津~伊勢市・熊野市方面である。
こちら、快速みえ や 南紀号の運行区間だが、これらは伊勢鉄道経由である。
伊勢鉄道にICカード導入の意志があるかというのは1つ問題ではあるが、
最安経路で計算すると多くの場合は亀山経由となり実態との乖離が大きい。
四日市(河原田)~津を貫通する利用は伊勢鉄道経由とみなすというような処理を導入することは考えられる。
もっとも、こちらは他の問題もあって、それが近鉄との共用駅である。
津・松阪・伊勢市と3駅も共用駅があるため、近鉄・JRの識別に困ってしまう。
(現状、この3駅はJR所有の自動改札機が近鉄のICカード精算に対応している)
柏原・吉野口のように一方の路線の利用者は必ずホーム・通路上の改札機にタッチするという運用は考えられるが、
そこまでしてICカード導入の必要があるかというのは難しい問題である。
南紀号は4往復で、新幹線接続特急としては全国有数の少なさである。
(津・伊勢・鳥羽などの主要都市へは近鉄特急が使われることが多いため)
快速みえのこともあるので、検討はされてると思うんですけどね。
検討した上でNO GOという判断はあるとは思うんですが。