この見出しは部分的には正しそうなのですが……
マイナ保険証で初診21円増 4月から患者負担、反発の声も (Yahoo!ニュース)
マイナンバーカードを利用して健康保険証の情報を取り出すことができる仕組みが導入され、医療機関にも端末が設置されつつあるわけですが、
これを使うと使わない場合に比べて診療報酬が加算される?
というニュースだが、厳密な加算要件は少し異なる。
ただ、マイナンバーカードを使わないと部分的な加算しかできないことも確かである。
そもそもマイナンバーカードを健康保険証として利用できるのは、オンライン資格確認というシステムによるものである。
健康保険証の難点を解決したい
ただ、オンライン資格確認は従来の健康保険証にも適用できる。
これによるメリットの1つが限度額適用認定証の取得が不要になること。
患者からの同意を前提に、オンライン資格確認で限度額情報が確認出来るためである。
もう1つが毎月の健康保険証のチェックが省略できること。
定期的に医者にかかっている人は月はじめには健康保険証を見せてという話があるはず。
オンライン資格確認では健康保険証の有効性をリアルタイムで確認出来る。
保険証の現物確認は必ずしも確実なチェックと言えない面もあったので、
目視確認からオンライン資格確認への切替は医療機関にとってもメリットがある。
ただ、実はそれだけではなく、そこが冒頭に出てきた診療報酬加算の背景である。
【厚生労働省】診療報酬の加算を算定できます! (オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト)
最大21円加算というのはこの部分である。
保険医療機関向け
オンライン資格確認を導入しており、患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して診療等を実施した場合
初診料に対しての加算:7点
再診料に対しての加算:4点
外来診療料に対しての加算:4点
保険薬局向け
オンライン資格確認を導入しており、患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して調剤等を実施した場合
調剤管理料に対しての加算:3点※1
※1: 月1回に限り所定点数に加算
7点=70円で、この3割負担だから21円というわけですね。
ただ、この文章を見てわかると思うが「患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して」という記載がある。これがポイントだ。
オンライン資格確認には、薬剤情報・特定健診情報の取得という機能もある。
こういう情報を把握することで、重複する検査や、治療効果の向上とか、そういうことを期待しているわけですね。
オンライン資格確認は導入にあたって補助が行われたが、ランニングコストの手当としてこのような加算が導入されたと。
しかし、それは長期的に見れば、治療効果の向上とか医療費・治療負担の軽減とか、そういうところに結びつくことを期待している。
だから加算することには合理性がある。という主張だと思う。
まぁ上記で書いたことが本当か? というと実はけっこう疑問はあるのだが、
それはおいておいて、この薬剤情報・特定健診情報の取得というのはオンライン資格確認の機能なのだから、従来の健康保険証で受診する場合も適用されるのでは?
気になって調べたところ、ほとんどの場合、従来の健康保険証では取得不可能である。
なぜかというと、これらの情報取得には患者の同意が必要で、
なおかつその同意にはマイナンバーカードが必須だからである。
マイナンバーカードが必須なのはより確実な本人確認が必要という趣旨か。
なお、限度額適用認定証の情報についてはマイナンバーカードなしで同意可能である。
ただ、特定疾患療養受療証を同システムで取得する場合はマイナンバーカードが必須とのこと。よりセンシティブな情報だからか。
とはいえ、マイナンバーカードを健康保険証として使うからといって、
これらの情報取得に同意する必要は必ずしも無い。不同意すれば加算はできない。
というわけで冒頭に書かれた「マイナ保険証で初診21円増」については、
マイナンバーカードを保険証として使わなければ加算できないという点では正しい。
ただ、医療機関に薬剤情報・特定健診情報を取得して利用する仕組みが無ければ加算できないし、
また、マイナンバーカードを使うとしても情報取得に同意しなければ加算できない。
というわけでこの点では誤った情報である。
一方でオンライン資格確認を導入するだけで、マイナンバーカード使用の有無、薬剤情報・特定健診情報取得の有無によらず、下記の加算はある。
保険医療機関向け
オンライン資格確認を導入しており、健康保険証またはマイナンバーカードで資格確認を実施(薬剤情報又は特定健診情報等の取得なし)した場合
初診料に対しての加算:3点(令和6年3月 31 日まで)
保険薬局向け
オンライン資格確認を導入しており、健康保険証またはマイナンバーカードで資格確認を実施(薬剤情報又は特定健診情報等の取得なし)した場合
調剤管理料に対しての加算:1点※2(令和6年3月 31 日まで)
※2 3月に1回に限り所定点数に加算
当面はこれがオンライン資格確認導入による加算の主なところになるでしょう。
ただ、この薬剤情報・特定健診情報の取得にはマイナンバーカードが必要というのには例外がある。
それは災害時ですね。災害時には他の医療機関で投薬情報の確認ができる方がよい。
オンライン資格確認自体は健康保険証があれば使える仕組みなので、
災害時にはマイナンバーカードなしでも同意があればOKということである。
この場合はマイナンバーカードを保険証として使わなくても加算があると思うが、
しかしそのようなケースであれば加算もやむなしであろうと。
実のところ、薬剤情報・特定健診情報を取得しても、それを診療に活用するのは現時点では難しいと思われる。
薬剤情報については保険診療のデータを集約して確認できる一方で、
その情報はお薬手帳に記載する内容に比べると少なく、リアルタイム性も低い。
なので、「お薬手帳見せて」にかなうものはないのが実情である。
このあたりは今後、処方せんの電子化 でリアルタイム性や詳細度が高まると思うが、
その基礎となるオンライン資格確認自体がまだ普及途上であるのだから、
そこから処方せんの電子化というところへの発展はまだかかるだろうと。
健診情報も現時点では40歳以上対象の特定健診情報だけ。
これも今後、拡充を予定しているがまだ途上である。
このため現時点では実質的に薬剤情報・特定健診情報の活用体制はないに等しい。
ただ、災害時の備えになることはある程度確かではある。
またオンライン資格確認自体は無効な保険証をつかまされるリスクが減り、経営面のメリットもある。
とりあえずオンライン資格確認を導入すれば、多少の加算はあるので、まずはそこを足がかりにしてオンライン資格確認の普及を進めるという考えは理解できる。
それにしてもマイナンバーカードの有無でそんな差があるとは。
ただ、これもそう遠くないうちにマイナンバーカードに一本化される可能性がある。
以前も紹介したのだが、健康保険について外国人のなりすまし受診が問題という話がある。
そこで受診時に顔写真付きの本人確認書類の呈示を求めることを考えたが、
健康保険に加入できる外国人に限れば在留カード・特別永住者証明書を持っているはずだが、
日本人は顔写真付きの本人確認書類を持っているとは限らないわけである。
住民であれば国籍を問わず利用できるのが健康保険であり、外国人に限り呈示を求めるのはおかしな話である。
そこを打開する策として考えられるのが、マイナンバーカードの呈示である。
マイナンバーカードは住民なら誰でも発行できる。
常に最新の保険証情報が取得できるから、従来の保険証よりも確実性が高い。
今のところはそのための外堀を埋めている段階と言えるのではないか。
正直なところ、今のところは従来の健康保険証の方が実務的には便利だと思うが、
しかしオンライン資格確認の必須化であるとか、本人確認の必須化であるとか、電子処方せんの活用であるとか――
そういう話になってくるとマイナンバーカードを使わないことが不便となる。
というわけで、冒頭で紹介したニュースは深掘りが足りないと思うが、
しかしながらマイナンバーカードを健康保険証としてつかうと、うっかり加算要件を満たすことがあり、
逆に従来の健康保険証を使えば、災害時以外は加算要件を満たすことはできない。
ただし、オンライン資格確認を導入した医療機関では、どうやって受診しようが比較的少ない加算がある。
そのことは覚悟しなければならない。でもそれが標準になる日は近いので。