先日、ファイザー製ワクチンの配分について、VRSへの登録状況を見て行うという話を書いた。
VRSへの登録が遅れると困る
現状、国レベルでワクチンの消化状況を知る方法がVRSしかないが、
各地の接種体制によりVRSへの登録が遅れているところがあり、
国から見れば各市町村に大量のワクチンが滞留しているように見えると。
全市町村からの要求数を合計すると供給可能数を超過するため、ワクチンの在庫があるように見えるところは供給量を減らすと。
これで必死こいてVRSへの入力が進んだが……まだ40日分の在庫が滞留しているように見えているらしい。
で、これはファイザー製ワクチンの話なので、モデルナ製ワクチンは別にある。
集団接種会場ではモデルナ製ワクチンの使用も可能ということだったから、
ファイザー製ワクチンの都道府県内での配分調整に加えて、モデルナ製ワクチンで不足分を補う考えが必要だと。
これはすでに国や都道府県などが設置している接種センターや、既設の市町村の接種会場の転換を含む。
医療機関での接種はファイザー製で貫くのは確定しているので、そこに影響がないように集団接種会場で調整すると。
そんなわけで準備を進めていた都道府県・市町村も多かったのだが……
なんとモデルナ製ワクチンの供給不足が明らかになったのである。
ワクチン職域接種、受付再開断念 供給量上回り対応困難 (朝日新聞デジタル)
原因は職域接種の申込みが相次いだことから。
モデルナ製ワクチンについて、当初は市町村の接種に影響しないようにと、
広域の接種センターでの利用を優先したが、それだけでは消化しきれないということや、
高齢者への接種完了の目処が見えてきたこともあって、それ以下の年代への接種を進めていく上でも、
職場で医師などのスタッフを確保してもらい、モデルナ製ワクチンを提供して接種してもらうという作戦に出たわけである。
それでいろいろな職場で体制を整えたわけだけど、提供可能数との調整をしていなかったので、
急遽申請は打ち切り、申請済みでも未確定分は精査が行われるという。
ワクチン足りず、配送は目詰まり?「五月雨式だから…」 (朝日新聞デジタル)
この絵に描いてあるんですが、モデルナ製ワクチンの行き先は「企業/大学」と「自治体/大規模接種」となっている。
で、後者については元々ファイザー製ワクチンも使ってたんだから、それも考えるという話だが、
一方で医療機関での接種分が確保できることが前提で、それが足りないからモデルナ製ワクチンを申請したところもある。
その点では解決になってるのかは微妙なところである。
実はこの点で不利を受けるんじゃないかと思っているのが東京都である。
そもそも、東京都は一般住民向けのモデルナ製ワクチンを使った接種センターは、
国が大手町に設置した接種センターが唯一だが、これは東京都の高齢者だけでは埋まりにくかった。
当初は世田谷区など高齢者接種完がやや遅れる見込みだった地域ではそこそこ利用されたが、
概して東京都は接種体制の立ち上がりが早く、高齢者がわざわざ遠出して接種に行く理由は乏しかった。
東京都は 築地市場跡地(まもなく代々木公園に移転予定)と都庁展望室に接種センターを作ったが、
前者は消防・警察職員、後者はオリンピック・パラリンピック関係者の接種を主としている。
また、医療従事者で未接種の人も対象としている。実はまだ回りきっていなかったのである。(システムの不具合も重なったらしい)
本来なら消防職員も含めて、最優先で接種が回っていてもよかったはずだが、回りきらなかったのを挽回してるんですね。
ところがこの接種センター、必ずしも東京都在住者だけが対象ではない。
警察職員にはオリンピックのために他府県から応援に来る警察官のうち、当地で優先接種が受けられない人も、
東京都で警察活動に従事する人には違いないからと、警視庁の警察官と同じく扱うことにしているそう。
また、オリンピック・パラリンピック関係者も他府県在住者を含む。
もちろん割合として多くは東京都民に回るとは思うが、住民の接種加速という点での寄与度はやや低い。
それは職域接種もそうで、東京都は大企業が多いので急速に立ち上がって、
おそらく配分数でみれば東京都は人口に比しても相当に多いんじゃないかと思うが、
ただ、それは東京都外からの通勤者や、あるいは隣接地域の事業所からの接種にも回されるとみられる。
例えば、日本郵政グループは多数の事業所(郵便局)があるのだが、本社(千代田区)と新宿郵便局の2箇所に関東圏の接種を集約している。
もちろんこういうことは認識しているはずだが、問題はそれが実際にどこの住民に接種されたか知るのは先になる。
なぜならばVRSへの登録には接種券が必要だが、職場での接種では接種券は後追いでの接種で問題ないからである。
ちなみに東京都では接種ペースが早い市町村が多く、すでに65歳以下で持病持ちの人の接種に移りつつあるところが多い。
6月下旬~7月上旬あたりで職域接種も考慮して対象全住民への接種券送付を行うところも多く、実は僕のところにもついさっき届いた。
なので、そこまで後追い登録にならない気もするけど、リアルタイムでの把握はできないことは前提にしないといけない。
僕が懸念しているのは、東京都では割と多くのモデルナ製ワクチンが供給されたが、
このペナルティとして市区町村や東京都に供給されるワクチンが減らされるんじゃないかということである。
他の地域の大規模接種センターは一般の高齢者、後にそれ以下の年齢の一般住民を対象としたものが多いが、
東京都の接種センターは本来最優先のはずの医療従事者、救急業務に関わりうる消防職員、オリンピックにも関連する警察職員や大会スタッフ、
といった高齢者ではないが、わりと明確な理由があって優先して接種を受ける人を対象としている。
実際の対象者はやや広すぎる感はあるが、名目は上の通りである。
その次には学校・保育園関係者の集団接種が予定されている。(府中市と立川市の病院で実施されるそうだ)
東京都 ワクチン大規模接種 新たに2か所設置へ 教職員など対象 (NHK)
これは夏休み期間に集中接種したいという事情もあったらしい。
ところが東京都が接種センターで必要なワクチンを国に要請してもなかなか確保されないということが報じられた。
【独自】官邸の“兵糧攻め”で小池都知事がダウン?東京都へのワクチン供給がストップし、大混乱 (AERA)
上のような事情により、東京都だけが不利な扱いを受けているとも言えないかもしれないが、
ただ、東京都は高齢者接種ではモデルナ製ワクチンをあまり使っていない。
このため、高齢者用と思って確保したワクチンを、接種会場が埋まらないからとそれ以下の年齢の住民に回すことはできない。
この点においては明らかに不利ではある。
かといって東京都内にモデルナ製ワクチンが来ていないわけではない。
大手町の接種センターは1回目接種があらかた完了し、逐次VRS登録しているので、接種者の在住地別の集計はできるが、
それ以外は東京都設置の会場、職域接種ともに他府県在住者にも接種するが、その実態はすぐにはわからない。
(さっきの学校・保育園関係者も、大半は都内在住者と思うが、都内在勤なら他県在住者も対象となっている)
一方で東京都在住者が明確に利益を受けたものとしては、大手町の接種センターの65歳未満への開放がある。
これは当時接種券を持っていた人が対象だったが、この時点で持っていた対象者というのは、
接種進度が早い一部の市区町村に限られ、東京都の一部に偏っていたとされている。
ここは明確にプラスに働いたものの、そもそも接種進度の早い地域の人がより早く接種を受けられるということがおかしく、
本来であれば接種進度を平準化する役割が期待されている広域接種センターの目的には反するところである。
ただ、当時は本当に急を要する状況で、1週間ぐらいは国の職員に打ったりして時間を稼いでたらしいが、
そのうちにはそれ以下の年齢に対象者を拡大しないと接種枠が無駄になるので、仕方なくというところはある。
市区町村も接種券送付の段取りがあるから、急に早めるのは難しいですしね。
なかなか先が見通しにくいところはあるものの、
このままいくと市町村の集団接種会場の開設日を減らしたり、場合によっては閉鎖ということにもなりかねない。
こうすると高齢者以外で直近で接種を受けられる人というのは、
- 持病持ちの人 (医療機関での接種は普段から通院している人が優先だろう)
- 勤務先で接種を受けられる人 (その職域接種の申請も早い者勝ち)
- 大手町の接種センターの予約を早い者勝ちでつかんだ人
となり、持病持ちの人が優先されることは妥当だが、それ以外は相当な不公平があり、
本来ならば社会参加が活発で重症化リスクもそこそこ高い50代、それに準じて40代といったところに行き渡ることを優先したかったが、
どうもそれは怪しくなってきてしまったというのが今のところの感想である。
この点では市町村に接種を任せれば、それぞれの考えに多少の差はあれど、リスクの高い順に接種を回すことを考えただろう。
ただ、一方で職域接種に頼ったことにはそれなりの理由もある。
ワクチンがすでにあるのに、スタッフが確保できないなどという理由で接種は回らないのがもったいないが、
各社の産業医などに協力してスタッフ確保などの体制を整えることができればスムーズな接種ができると。
スタッフの確保は市町村の接種を邪魔しないようにという誓約事項もあった。
ここで、ワクチン管理上の都合もあって1接種会場1000人以上に接種することという制約が付いた。
これが職域接種の申請数を抑える歯止めになると思ったかも知れないが、実際はそうはならなかった。
1つは複数社が共同で接種する方法。工業団地などでは有効な方法だし、必ずしも悪い方法だとは思わないが。
ただ、こういう申請がはびこると地域の中小企業の従業者がドカッとまとまってやってくるので計算が狂う。
もう1つは家族も接種対象に含めて接種人数をかさ増しする方法である。
吉本興業の職域接種は、グループの従業員およびその家族、所属タレントとその家族を対象に実施。第1回では東京1500人、大阪1000人が接種予定。第2回は7月26日から30日に実施する。
(吉本興業、職域接種を開始 ペナルティ・ヒデら参加「お客様に安心・安全を」 (マイナビニュース))
同社の従業員と所属タレント(形式上、自営業者だが従業員と同一視してもよいだろう)はさておき、これだけだと人数は満たさないのだろう。
そこで、家族を加えて東京・大阪両拠点で1000人以上稼いだとみられる。
芸能業界ではガリバーの1つとして知られる吉本興業だが、それでさえ本来は論外なのだがやってしまったと。
それを先進事例であるかのように大臣が視察に行くのだから、これは市町村の怒りを買っても仕方ない。
職域接種は地域ごとの偏在がひどくなるだろうなとか、際限なく申請が来ては大変だろうなと思っていた。
接種人数1000人以上というのを1社でやることを考えれば大企業の多い地域に集中する。
なので共同での接種も地域によっては考えるべきだが、そのあたりの地域性は必ずしも考慮されてなかった。
地域ごとのターゲットというのを決めておくべきだったんじゃないかなとも思う。
これを後追いで調整しようとすると、東京都には多くのワクチンがあるとみなされて、市町村の集団接種会場は閉鎖に追い込まれるんじゃないか。
東京都も地域によるとは思うんですが、他の地域に比べると医療機関での接種の立ち上がりが早いような話を聞いている。
医療機関での接種にファイザー製ワクチンを回すのは最優先だし、そこを絞ってよいことはなにもない。
ところが医療機関での接種は多段階に移送されるだろうから、納入~接種で持つ在庫は集団接種より多めになりそうだし、
さらにVRSへの登録も遅れる傾向にあるから、システムでは過大な在庫があるとみなされてしまうのでは? と。
これによりファイザー製ワクチンの供給も削られれば、医療機関での接種まで影響を受けては大問題である。
全住民にワクチンを行き渡らせるという点では、今誰に打っても最終的には打つのだから変わらないと言えるが
早い者勝ちという面が強くなると、それが不平につながるというのは、今までの経緯を見てもわかる通りである。
あと、僕はあくまでもリスクが高いところを優先するべきだと思っていて、
その観点では50代以上は確実に先行できるようにするべきだったと思う。
逆に若い人は後回しの方がいいですよ。ただでさえ感染リスク軽減が不十分なのがワクチン接種でタガが外れかねないので。
半端にワクチン接種が進むほど怖い
職域接種で高年齢の人を優先してもらえば、結果としてこれは実現できるんじゃないかとか、
学校での集団感染を防ぐ観点では、学校関係者(場合によっては学生・生徒)を優先した方がいいんじゃないかというのはある
でも、基本は市町村での接種を持病・年齢に応じて進めることであって、それを補完するのが都道府県の接種だと思うんですよ。
その市町村・都道府県の接種を邪魔するようならそんなことはするなと怒られるのは当然のことだ。
大野知事 ワクチン配分で河野大臣に要望/埼玉県 (Yahoo!ニュース)
もちろんやむを得ない事情もあるし、何でもかんでも国の無策だというのはどうかと思う。
大手町の接種センターを接種進度の速い市区町村の住民が埋めてしまったことは明らかな失策だが、
一方で、当時それ以外の策は乏しかったということもまた理解しなければならない。
一貫して市町村とのコミュニケーションに問題があったことは、このセンターの最大の反省点である。
なにもかもダメだったわけじゃないし、その反省は予約開始はさておき早めに接種券を送るという形で反映された。
ただ、それでも大手町の接種センターの高齢者以外への開放には大概間に合わなかったですね。仕方ないね。