昨日、こんなことが発表されていた。
全日本的なダート競走の体系整備について (地方競馬全国協会)
以前、大井で3歳ダート三冠が整備されるという発表があった。
従来はローカル重賞の羽田盃・東京ダービーがJpnI、現在のジャパンダートダービーは秋に移設して、名前はジャパンダートクラシックになると。
芝のクラシック三冠、牝馬三冠と同じ春2戦・秋1戦に合わせるということである。
ヨーロピアンスタイルの3歳ダート三冠
それに伴って、前哨戦が必要ということになるが、他にもいろいろ手が入る。
年間を通じたチャンピオン決定戦を整備するためにこうなる。
- 川崎記念(2100m)を1月下旬→4月上旬に変更
(東京大賞典と帝王賞の間で、フェブラリーステークスと被らない時期に)
- さきたま杯(1400m)をJpnII→JpnIと格上げして定量戦に
(上半期のスプリント王決定戦に位置づけるため)
- エンプレス杯(牝馬限定2100m)を3月上旬→5月上旬に変更して定量戦に
(上半期の牝馬チャンピオン決定戦に位置づけるため)
- マリーンカップを3歳牝馬限定戦にして9月下旬に設定
(秋の3歳牝馬チャンピオン決定戦にするため)
川崎記念といえば、チュウワウィザードがドバイワールドカップの前哨戦に使っていたのが印象的である。
ただ、日本国内では東京大賞典とフェブラリーステークスに挟まれていて、
これらのレースと被らない時期に動かした方がよいとなったらしい。
スプリント路線と牝馬路線のチャンピオン決定戦はJBCデーにしかなかったが、
上半期にも必要ということで選ばれたのが、現状上半期で最も格が高い さきたま杯とエンプレス杯だったというわけ。
3歳牝馬については、三冠とはいかないのだが、春1戦(関東オークス)・秋1戦という形で用意された。
牝馬のダート戦はJRA側の体制が全然整ってないので、ここら辺が落とし所となったのか。
ところで今回の「全日本的なダート競走の体系整備について」で示されたレースは、
地方所属馬限定のレース(ネクストスター)を除き、日本グレード格付管理委員会による格付けが付いている。
この格付けを得るためには最低2年の実績が必要で、全く新しい重賞レースの場合、最低2年は無格付けで行わなければならない。
- JBCレディスクラシックは2011年・2012年は無格付け、2013年からJpnIに
- サウジアラビアロイヤルカップは2014年(いちょうステークス)・2015年は無格付け、2016年からGIIIに
- 葵ステークスは2018年~2021年は無格付け、2022年からGIIIに
(2021年にGIII格付けになる予定だったが、レーティングの要件を満たせず1年延期になった)
下2つは国際的な格付けで厳格なルールがあるのでそうかなと思うけど、
日本ローカルのJpn格付けでも基本的には何らかの実績が必要である。
とはいえ、元々、地方全国交流あるいは地元馬限定の重賞に対して、
これはG1級の実績があるとか、そういうことを言えるわけはなく、見込みで付けている部分は多いにある。
ただ、元になったレースの位置づけにより格付けが決まっている部分もあり、
羽田盃と東京ダービーは南関東三冠としての実績を評価された上で、見込みを加えてG1級としたんだろうという理解はできる。
それ以外ではブルーバードカップと雲取賞がJpnIII、京浜盃と不来方賞がJpnIIからのスタートとなる。
ブルーバードカップは現在は「準重賞」と位置づけられており、大出世と。
でも「準重賞」もパターンレースではあるので一定の実績はあり、妥当性はある。
京浜盃は羽田盃の前哨戦として重要なレースなのでG2級の見込みはわかるが、
不来方賞って岩手のローカル重賞なのだが、これがいきなりG2級なのは不思議な気がする。
その理由は地方全国交流のダービーグランプリの実績を使っているためらしい。
ダービーグランプリ(盛岡)は不来方賞と名称を変更して10月上旬開催のJDCの前哨戦としてJpnⅡ競走として実施される。
(【ダート3冠】ジャパンダートダービーはジャパンダートクラシック(JDC)に改称し10月に施行 競走体系も大幅に見直しへ (東スポ競馬))
確かにダービーグランプリが地方・中央交流になればG2級という見込みは理解できる。
従来、地方競馬にとっての3歳秋のチャンピオン決定戦がこれだった。
これがそのまま中央・地方交流のチャンピオン決定戦になればよさそうだが、
実際にはジャパンダートダービーの時期をずらし、ジャパンダートクラシックに改名して、こちらが3歳秋のチャンピオン決定戦となった。
そして、ダービーグランプリはこの前哨戦にシフトすると考えたが、名前は変えた方がよいと。
そこで岩手のダービーグランプリの前哨戦である不来方賞の名前をこっちに持ってきたらしい。
一見、大出世に見える不来方賞だが、実はそこまでのことはなかったと。
他もなかなか無理くりな感じがしますけどね。
TCK女王盃は兵庫(園田)に移設して兵庫女王盃になるとあるが、
ダートグレード競走の主催者間での移設というのは初めてなのかな?
東日本に集中しているので、全体的なバランスも考慮して西日本での開催にしたようだけど。
全国1社のJRAと異なり、地方競馬は各主催者が独立しているので、移管というのはけっこう大きな話である。
兵庫女王盃というネーミングはそれでいいのか? と言われてたが。
あと、この発表の最後にこのような記載がある。
日本のダート競馬の国際的な評価を高めるべく、地方競馬では2028年から段階的に「Jpn」表記の使用を取り止め、全てのダートグレード競走を国際競走とすることを目指します。
JRAでは平地オープン競走(九州産馬限定を除く)の全てが国際競走になっている。
しかし、地方競馬では外国馬の受入体制の問題もあり、国際競走は東京大賞典と全日本2歳優駿の2つのみである。
国際競走でなければ、国際的な格付けを得ることはできない。
ただ、日本ローカルの格付けも並立しているので、例えばJpnIの格付けがあれば、日本国内では国内外のGIと同等とみなされる。
日本国内の事情を言えばそれでもよいが、国際的な評価が伴わないことが課題である。
昨年、ブリーダーズカップディスタフを優勝したマルシュロレーヌが、国際的にはリステッド4勝、G3では3着までの馬にしか見えなかったのはその一例。(cf.ダート競馬での大快挙)
2033年に国際格付けへの全面移行を目指しているようだが遠い道のりである。
設備面の問題は地方競馬主催者で協調して整備していくということでよいが、
問題は格付けに必要なレーティングを得ることが難しいということである。
例えば、2019~2021年のJBCスプリントの年間レースレーティングは109.00ポンドだが、
これはGIどころかGIIの格付けに必要なレーティング(110)にも少し足りない。
レースレーティングを高めるには出走馬のレーティングを高めればよく、手っ取り早いのは外国の強豪を呼んでくればよいのだが、多分難しい。
なぜ難しいかというと、ダート競馬の強豪はすなわちアメリカの馬だが、なかなか遠征には消極的である。
サウジカップデーのリヤドダートスプリント、G3とはいえ高額賞金は魅力的だが、昨年はアメリカ勢不在だったし。
というわけで日本馬のレーティングを地道に高めるしかないのである。
最後に書いた話もあるので、地方競馬としてはJRA勢と対等に戦えるようになるどころか、世界と戦えるようになる必要がある。
馬主としては地元馬限定の重賞とかで手堅く賞金を稼げた方がいいという考えもあると思うが、
好調な馬券売り上げが、サラブレッド生産者の競争力強化につながる道を考えると、
地方競馬としても国際競走の充実という方向に向かわざるを得ない。
地元馬限定・地方所属馬限定のチャンピオン決定戦というのは減る方向であろう。
新しい3歳ダート三冠とその前哨戦については、JRA枠が少なく、地方所属馬の枠が多く取られているそう。
東京ダービーはJRA枠4頭で、羽田盃・ユニコーンステークスの上位馬優先を考えると、
UAEダービー優勝しても、賞金順では出走枠が得られない可能性もある?
これは有力馬の地方デビューを促したいという地方競馬の意向も踏まえたものらしい。
ただ、その地方所属の有力馬が、JRA勢相手に勝負するより、地方所属馬限定のレースで手堅く稼ぐのだとなると、スッカラカンになってしまう。
(実際に一部のダートグレード競走で起きていることである)
そうならないようにレース体系の見直し、ボーナスの設定などやるべきことはやるという意思表示だろう。
大変なことだと思うけど、これしか道はないと思いましたね。
芝では日本競馬は世界的に高い評価を得ているが、そこにはJRAの長年の努力と、それに連動した馬主・牧場の努力はあったわけである。
ダートについてはJRAの年間レース数の制約もあり、できることは限られる。
そこで地方競馬の主催者が馬主・牧場を巻き込んでやっていくしかないと。
好調な馬券売上があるからこそやらなければならないことである。