先日、NHKのニュースを見ていたら、NHK放送技術研究所の公開が行われるとのこと。
NHK技研公開2015 ~究極のテレビへ、カウントダウン!ー~
てっきり渋谷区のNHK放送センターにでもあるのかと思ったのだが、世田谷区砧にあるとのこと。
世田谷区と言われても勘が働かないが、「砧」とか未知の地名だし、読み方のアテもつかんぞ。
そんなわけで地図を調べてみると、駅からちょっと離れたところにあるのでバスでのアクセスが普通みたいだ。
とはいえ、小田急の祖師ヶ谷大蔵駅からそんなに遠くないみたいだし、わりと容易に行けそうだという算段を立てて出かけた。
そんなわけで小田急に乗って祖師ヶ谷大蔵駅で降りて、とにかく南にあるいていく。
途中、街区表示板のフリガナを確認すると「砧」は「きぬた」と読むそうだ。出発前にも確認したのだが、まったくしっくりこない。
日本大学商学部の立派な建物があるなと思いながら進むと世田谷通りという太い道路に出る。
それをさらに東に進むと国立成育医療センター、さらに進むと立派なビルがあるが、これがNHK放送技術研究所である。
実はこの世田谷通りはバスが頻発していて、特に渋谷駅~成城学園前駅のバスは本数が多く、
都心方面からだと渋谷駅からバスに乗りっぱなしが一番わかりやすいだろう。所要時間はかかるかもしれないが。
もしくは小田急の成城学園前駅からバスか。こちらは直行臨時バスも運行されていた。
あと駅から歩くにしても祖師ヶ谷大蔵駅からのルートはやたら複雑なので、ちょっと距離は伸びるけど千歳船橋駅からの方が迷わず歩けるのでよいのではないかと。
帰りは祖師ヶ谷大蔵駅に行こうと試みたが、さっぱり見当が付かないので千歳船橋駅に向かったわけだし。
そんな具合にたどり着いた、NHK放送技術研究所、略して技研であるが、とにかく8K関係の展示が多かった。
というのも、今回の技研公開の目玉は8Kの衛星放送実験の公開だったからだろう。
去年の段階では放送という形に組み立てられてはいなかったところ、今年は実際に衛星に飛ばしてアンテナで拾ってということができるまでになっていたのだという。
来年から8K試験放送を行う予定とのことだが、もうその直前まで来ていることを実感させるものである。
今となってはハイビジョンというのは当たり前のものになったけど、このハイビジョンを生み出したのはこのNHK技研である。
高精細カメラや符号化方式、送受信機の開発を行い、1989年に試験放送、1994年には正式な放送がスタートしたのだった。
もっとも当時はアナログのMUSE方式ということでさほど普及はしなかったのだが、画期的なことではあった。
その後、2000年にBSデジタル放送が開始し、ハイビジョンは大きく普及することになったわけだ。
標準化にも精力的で、放送方式は標準化しきれなかったが、映像の形式はNHKの提案を元に標準化されたはず。
そういう歴史がある研究所なわけで8Kに力が入るのも当然である。
8K放送の課題は多岐にわたり、符号化方式はともかく、素材の転送も有線だと光ファイバー、無線だと今のハイビジョンのより高い周波数帯を使っての転送が必要となる。
あとこれは知らなかったんだけど、8Kって音響は22.2ch、色空間もハイビジョンより拡張されていて表現力が上がっている。
特に色空間の拡大は実際に広色域のプロジェクタ、ディスプレイを見て驚いたんだけど、これだけで8Kの価値はあるぐらいかもしれない。
もっともプロジェクタは8K完全対応を果たしたのだが、ディスプレイでは8Kの色空間全てを再現するのは現状たいへん難しいらしく、今後の発展が期待されるところではある。
講堂ではNHK交響楽団の8K映像の上演が行われ、8Kの全てを身をもって体験できるようになっていたが、確かにすごい。
今すぐ家庭で8Kの全てを楽しめるかというとそこは疑問があるんだけど、そのための技術が完成されていることは驚くべき事だ。
8Kの展示が多かったが、テレビに通信を取り入れた技術の展示も多かった。
こっちの方が未来のテレビっぽい展示かなと思ったが。
通信の活用度が上がると放送とはなんぞやということにもなりかねないのだけど、
研究員に聞いた話だと、なにが難しいかというと複数の映像ソースをぴったり同期させることだとかそんなことを言ってたな。
他にもいろいろ問題はあるのだろうが、今のところは未来のテレビの色が濃い展示ではあるのかなと。
もちろんある程度は実現されているものもあるわけだけどさ。
展示を見ている合間に昼ご飯を食べようと技研の食堂に行ってみた。
食券を買ったら「NHK共済会技研食堂」と書かれていたが、NHKの職員食堂そのものだ。
当たり前の事ながら技研の研究者も放送センターで放送に携わる人と同じNHK職員だ。
7階にあったのだけど、いい眺めだったな。
展示を見終わって帰ろうと思ったわけだけど、展示を見ていたときに「NHK放送博物館 in 渋谷」と書いたチラシをもらった。
今年は東京放送局がラジオ放送を初めて90年の節目にあたる年だが、それに合わせたリニューアル工事のため現在、放送博物館は閉館している。
けどその展示物の一部を渋谷区のNHK放送センターにあるNHKみんなの広場ふれあいホールに移設して展示している。
それを宣伝するチラシだったのだが、せっかくだし帰りに寄ろうかと思ったのだ。
渋谷ならバスで揺られていくのもいいかなと思ったのだが、渋谷駅からNHK放送センターに行くのに坂を上がるのもなぁ。
チラシに最寄り駅の1つとして代々木公園駅が書かれていたが、代々木公園駅の近くに小田急の代々木八幡駅がある。
なので小田急に乗り、代々木八幡駅で降りて、とことこ歩いて行ってみた。
ラジオ放送の起こりから、戦時中のラジオ、テレビ放送、カラー放送、衛星放送に至るまでの歴史が展示されていた。
本来の放送博物館は東京都港区の愛宕山にあるのだが、これはかつての東京放送局の局舎のあったところだ。
その展示を見て気づいたんだけど、今の渋谷区の放送センターって1963年に東京オリンピックの放送センターとして作られたものだったんだね。
衛星放送の開始も見据えての移転だったそうだが、気づいてみればハイビジョンに設備は入れ替わり、今度は8Kになるのだと考えるとすさまじいことだ。
ちなみにNHKは全国各地に大阪放送局だとか放送局を設置しているが、東京都にはなくて、NHKの本部にあたるNHK放送センターだけがある。
今まで出てきた東京放送局というのはNHKができる以前にあった団体の名前で現在はそういう名前の組織は存在しない。
ただし、その内部組織として地域の番組製作・営業を行う首都圏放送センターというのがある。
一方で東京の放送センター以外でも全国放送の番組の製作はするわけだし、どこまで特別なのかもようわからんが。
全国にたくさんの放送局を持つ一方で1法人というかなり特殊な組織ゆえに生じることだが。
あれもNHK、これもNHKということだが、未来のテレビだと思ってたものがいつしか手の届くところまで来ていたのだ。
いままでの歴史を見てもそうだよね。
実現までには長い期間がかかり、その間は未来のテレビだの言うわけだけど、得てして実現される日は来るのである。
そんなことを実感した技研公開だった。