ARMのゴテゴテした命令

ARM Cortex-Rを触っている話を書いているが、

アセンブラを触っているとサンプルコードにこんな命令が。

ldrhne r0, [lr, #-2]

ldrhneって一体どんな命令だと調べてもすぐには出てこない。

実はこれldr命令に2つの装飾が付いているのだ。


ARMの命令は基本的な命令にいろいろな付加機能を付けることができる。

1つが条件付き命令である。

プログラムでは演算結果に応じて処理を分岐することはよくある。

前の演算結果でZフラグが0(演算結果が0以外、引き算して0以外は不一致を表す)でLABEL1に分岐するのは、こう書く。

bne LABEL1

実はB命令をNE(Z=0)という条件で装飾したものという位置づけである。

なので、他の命令も多くはこういう装飾ができてしまう。

movne r0, #10

MOV命令をNEで装飾し、Z=0のときにr0に10を格納するという意味になる。

1命令やるかやらないか程度ならジャンプしなくてよいと。


各種演算命令では結果に応じてフラグを変更して分岐などに使うことができるが、

そのようなフラグを変えたくないというニーズもありうる。

各種の演算命令にSを付けるとフラグに反映するというルールがある。

subs r0,r0,r1
sub r2,r2,r3

こうやって並んでいるとr0-r1の計算結果に応じたフラグが残ると。

さらに各種の命令にはビットシフトを装飾できる。

orr r0,r0,r1,lsl #3

これで r0=r0|(r1<<8)というような操作になる。

なので単なるビットシフト命令はmovのエイリアスという扱いになるそうで、

lsl r0, r0, #3
mov r0, r0, lsl #3

上の書き方をしても下の書き方に相当する命令が生成されると。


メモリ上のデータをレジスタに格納するLDR命令にはビット幅のバリエーションがある。

ldrhだとハーフワード(16bit幅)、ldrbだとバイト幅と。

さらに符号拡張との組み合わせもあって、ldrshだと符号付きハーフワードと。

あと、参照先のアドレスへの加算も1命令で書けてしまう。

ldr r0,[r2, +#2]
ldr r0,[r2, r3, lsl #2]

なんて書き方をすると r0=*(r2+2) とか r0=(r2+r3<<2) のような意味になる。

レジスタの値をビットシフトして加算するというのは配列の参照で出番が多い。


で、冒頭に書いたのは ldr + h + ne と分解して読むことが出来て

メモリ上のlr+2のアドレスにある値をハーフワードで読んでr0に格納する、

という動作をフラグがZ=0の場合のみ実行するということを表している。

ゴテゴテした命令なので単純に調べてもひっかからないが、

分解すると実はそういう意味があると。


この命令、調べてみるとSVCハンドラのサンプルコードがひっかかる。

msr r0,spsr
tst r0,#0x20
ldrhne r0,[lr,#-2]
bicne r0,r0,#0xFF00
ldreq r0,[lr,#-4]
biceq r0,r0,#0xFF000000

実はSVC割り込みでSVC番号を確認するには、命令を確認しないといけない。

しかも厄介なことにCortex-M以外ではSVC命令が2種類考えられる。

1つは32bit固定のARM形式の命令、もう1つは可変長のThumb形式の命令。

SVC命令はThumb形式ならば16bitで表される。

そこで、SVC割り込み前のフラグ(SPSR)を見て、Tビットを判定する。

TビットはSVC割り込み前にThumb形式の命令を実行していた否かを表す。

lrレジスタには割り込みからの復帰先のアドレスが入っているので、

lrより1つ前の命令はSPSR.T=1の場合は-2、SPSR.T=0の場合は4引けばよい。

SPSR.Tの判定結果に応じてSVC命令部分をレジスタにロードする方法を分けていると。

それでARM命令だと下位24bit、Thumb形式だと下位8bitがSVC番号になっているので、

これを抽出するのにbic命令を使っているが、これも条件に応じて分けている。

bic命令は指定されたビットをクリアするという意味である。


Thumb形式で書かれたプログラムへジャンプするときは、

アドレスを奇数アドレスにすることで識別するという考えがある。

Cortex-MではThumb形式だけをサポートするから、プログラムは奇数アドレスでの表記ばかりになる。

こういう命令セットの使い分けも面倒な話である。

ちょっとこれでひっかかったところがあった。


というわけでARMはいろいろゴテゴテしているという話だった。

こんなの手で書こうって言っても無理があるので、

普通はコンパイラに任せればよいのだが、どうしてもアセンブラで書かないといけないところもある。

こんな条件付き命令とかガリガリ使うアセンブラを読み書きするのは初めてで、

なんだこれ? となるのも仕方ない話である。

百貨店か疑わしいからストライキ

当初、まさかこんなことになるとは思わなかったんだけど。

そごう・西武、31日のスト実行へ 大手デパートでは60年ぶりスト (朝日新聞デジタル)

交渉次第で回避の可能性は残されているが、今のところは決行の可能性がかなり高いようである。


そごう・西武って買いたいですか?

セブン&アイホールディングス傘下で百貨店を営む そごう・西武 だが、

赤字続きで、株主からの圧力もあり売却に向けて動いたという話。

この記事は売却先が決まる前に書いたもので、誰が買いたいんだろうねと書いている。

結果的に売却先に決まったのは投資ファンドのフォートレスだった。

また、この事業のパートナーには ヨドバシホールディングス が付くとのことだった。


第一報を聞いたときに、なるほどヨドバシかと感心したのである。

ヨドバシといえば、電器店として日本一の売上を誇ると言われるヨドバシ梅田である。

直営売場だけ見ても電器店の枠組みに留まるものではないが、

テナントを含めれば衣食住が揃い、規模・立地の面では百貨店に近い。

このような店舗を手がける会社ならば、そごう・西武 の立て直しの道もあるのかもしれないと。


しかし、フォートレス・ヨドバシ連合の考えは僕が思っていたものとは違う点が多かった。

まず、ヨドバシがパートナーとして付く店舗について。

そごう・西武 は店舗整理を進めたものの、福井・秋田といったローカル店舗もある。

これらの店舗の立て直しも期待されていると思うのだが、

ヨドバシが興味があるのは 池袋・渋谷・千葉 に限られるということ。

この時点でかなり失望したのだが、池袋への出店形態も問題だった。

西武池袋本店といえば全国有数の売上を誇る百貨店である。

都心型の百貨店として広域からの集客をしているところである。

これに対してフォートレス・ヨドバシの当初構想はこんなのだったらしい。

セブン立案「池袋西武トンデモ改装」で深まる迷走 (東洋経済ONLINE)

地下1階から地上6階までぶち抜きでフロアの大半をヨドバシが占めるという。

池袋といえばビックカメラ、ヤマダデンキ と同業の大型店舗がある中で、

共存共栄を考えればこれはかなり厳しいと思うのだが……

なにより百貨店としての事業の継続性に疑問が付く内容である。

確かにそごう・西武の経営する店舗には百貨店としての期待に乏しい店もあるが、

池袋・千葉・広島あたりは各都市を代表する百貨店として期待が大きい。


これには地元の反発も大きかったのだが、労働組合の反発も大きかった。

その後、池袋への出店計画は見直されたのだが、それでも依然としてヨドバシが多くを占める状況は変わらなかった。

ヨドバシは1階と地下1階への出店を一部にとどめ、中層階以上への進出をメインとする方針に転換する。藤沢氏は「(低層階は)どうしても欲しかったが、お譲りしようということになった」とし、ヨドバシカメラが占める専有面積については「半分くらいを検討している」と述べた。

(ヨドバシ、西武池袋への進出を一部断念…中層階以上メインに (読売新聞))

これでは百貨店としての事業継続に疑問が付くことに代わりは無いし、

ヨドバシカメラが出店するというのは、その部分がそごう・西武の経営ではなくなるということ。

これは従来、そごう・西武で働いていた人の雇用が失われる可能性が高いと。


ストライキに至るまでの経緯として、セブン&アイホールディングスが労使交渉に出てこないのもあったよう。

そごう・西武の従業員と セブン&アイホールディングスの間には直接的な関係はない。

セブン&アイが そごう・西武 の持分を売却したとしても会社がなくなるわけではない。

売却後の会社の経営方針は売却後の経営陣と交渉することができる。

このような理屈もあるのか、労使交渉に出てこようとしなかったらしい。


ただ、ストライキに向けた動きが進む中で、セブン&アイホールディングスも労使交渉には出てくるようになったらしい。

労組のスト権確立後は、セブン&アイの井阪隆一社長が交渉の場面に顔を出し、現状の事業計画などを示して説得を続けてきたという。

(そごう西武スト通告 セブン&アイ深まる労使の溝 イメージ悪化も? (毎日新聞))

この点では一定の効果はあったようだが、実効的な議論が深まったとは言えないようだ。

セブン&アイにとってみれば売却してしまう事業、ストライキも大した痛手ではない。


セブン&アイにとってもいかんともしがたい問題ではあるのだろう。

そもそもこの売却は株主からの圧力を受けてのもの。

これまでも そごう・西武 の事業は整理を進めてきたが、地権者や従業員との関係もあるので、すぐに改善することは難しい。

そんな中で一括して売却に応じてくれる会社がいたことは渡りに綱だった。

雇用維持は売却の前提条件だから、表面上は問題ない。

なぜこんな条件で引き受けたのかという背景を考えてみると、百貨店としての事業継続は疑わしい。

でも、GOサインを出すべき条件は揃ってしまっている。


一方で そごう・西武 にとってもどうしようもない話である。

結局は親会社の意向に従うしかないのである。

だから、労働組合としては実質的な決定権のある セブン&アイ を労使交渉に引きずり出したのだが……

だからといって問題が解決したわけではない。


いろいろ振り返ってみると、確かにヨドバシは都心型の大型店舗を経営し、

その中には百貨店的な機能を持つ店舗もあるのは確かなのだが、

周辺店舗との協調は疑わしいよなとか、根本的には電器店だよなとは思った。

特に池袋は従来型の百貨店ビジネスが受け入れられる一方で、

一般的な電器店のニーズは十分に満たされている土地ではないかとも思う。

このような事情も考慮した上で、共存共栄の道が示されるべきだと思うのだが、

そういう道も示せないのかと気づいてしまってはガッカリである。

本当にこれやるんですかね? 千葉と渋谷もどうなんですかね?

割り込まれたらSVCモードに戻る

先日、ARM Cortex-Rシリーズの話を書いた。

Cortex-Rシリーズはめんどくさい

チームメンバーと役割分担しながら作業を進めている。

主に割り込みハンドラの部分をCortex-Aのコードを参考に書いていたのだが、

チップの仕様差を吸収するのがけっこう大変なのでは?

と思ったが、いろいろ掘り下げていくと、結局は当初のCortex-Aのコードと同じようになってしまうという。


サンプルコードを限りなく流用したわけだが、気になることがあった。

以前、紹介したがCortex-A, Cortex-Rにはこんな仕組みがある。

Cortex-RではUSR, FIQ, IRQ, SVC, ABT, SYS, UNDの7つのモードがある。

リセットとSVC割り込みがあるとSVCモードに、FIQ割り込みがあるとFIQモード、IRQ割り込みがあるとIRQモードに、未定義命令例外でUNDモード、アボート例外でABTモードに入る。

これらの5つのモードにはr13,r14,spsrレジスタが独立に存在する。(略)

割り込みが入るとレジスタバンクを切り替えて、割り込み前のプログラムカウンタをr14、プロセッサ状態を表すcpsrをspsrに格納する。

このようにレジスタバンクの切替とレジスタ間の転送で退避処理をすると。

この仕組みを効果的に使うためには、割り込み前のモードが重要である。


で、このプログラムは基本的にSVCモードで動くらしい。

ちなみにリセットハンドラに入る時にもSVCモードだそう。

で、IRQ割り込みが発生すると、次のような退避処理を行う。

  1. spsr_irq, r14_irqに退避されている割り込み前のcpsr, pc をSVCのスタックに退避 (SRS命令)
  2. SVCモードに切り替える (CPS命令)
  3. r0~r3, r12, r13_svcを(SVCの)スタックに格納する (STM命令)

サンプルコードを解読していて、SRS命令には驚いた覚えがある。

なんとIRQモードでSVCのスタックポインタが操作出来てしまうという。

これに相当する処理を他の方法で書くと相当めんどくさいはず。

で、ここでSVCモードに切り替えたことで、割り込みマスクを解除してIRQ割り込みが再度発生しても同様に処理できる。


これはこれでよかったのだが、SVCハンドラを見て、あれ? と思った。

  1. spsr_svc, r14_svcに退避されている割り込み前のcpsr, pc をSVCのスタックに退避
  2. r0~r3, r12を(SVCの)スタックに格納する
  3. r14_svcの代わりにダミーデータをスタックに格納する

SVCモードにいる状態で、SVC割り込みが入ると、それ以前の spsr_svc, r14_svc が上書きされてしまう。

spsr_svcは割り込み時の退避にしか使わないからよいとして、

r14_svcは普通にプログラムでも関数の戻り先などに使うレジスタなのだが、

SVC割り込みで消えてしまうので、スタックにダミーデータを格納する謎の作業をしていた。


そんなことして大丈夫なの?

気になってSVC割り込みを発生させる部分を確認したらこう書いてあった。

__asm__(“svc %0″::”i”(svc_no):”lr”);

そもそもSVCは supervisor call の略でソフトウェア割り込みの一種である。

通常はOSの機能を呼び出すために使われるものらしい。

ARMではSVC命令(昔はSWI命令と呼んでいたそう)で割り込みを発生できるが、

この書き方でlr(r14レジスタの別名)が破壊されるとコンパイラに伝わるので、

必要ならばr14レジスタは呼出側で退避してくれるようだ。

SVCは発生する場所が決まっているので、こういう対応ができるらしい。


ただ、そもそもなんでSVCモードでプログラムを動かしてるんだ?

USR, FIQ, IRQ, SVC, ABT, SYS, UNDの7つのモードがあり、

USRモードは非特権、他は特権モード。SYSとUSRは同じレジスタバンクを使う。

FIQ, IRQ, SVC, ABT, UNDの5モードはいずれも独立したレジスタバンクを持ち、割り込みで遷移する。

という事情を考えたときに、どの割り込みも入る可能性があるときは、

USRモードまたはSYSモードでプログラムを動かすのが正しいのでは?

USRまたはSYSモードのレジスタはどの割り込みが入っても無事だし。


そもそも、このプログラムは簡略化のために全て特権モードで動かす方式をとっている。

特権モードとユーザーモードを使い分けることでメモリのアクセス制限などできるが、

その必要が無い簡単なシステムを想定して省略してしまっていると。

そのこと自体は問題ないのだが、それならばSYSモードを使えばよいはず。

でも、なぜかSVCモードを使っているらしい。


他でもこういう実装例が出てくるから、わりと一般的なのかも。

SVC割り込みを発生させる側でr14を退避させれば問題ないのは確かで、

実用上の問題はないのでこのまま使おうと思うのだが、

なんでSYSモードを使わないのかというのは謎である。


何でもかんでも特権モードで動かすってどうなのよ?

という考えも最初はあったけど、今回の用途はそこを考えても仕方なくて、

全て特権モードで簡略化すること自体はそこまで珍しくないようである。

確かにCortex-Mシリーズを使ってたときもそんなこと考えたことなかったしなぁ。

実はCortex-Mでも特権・非特権という概念は存在するようで、

MPU(Memory Protection Unit)が搭載されていればアクセス制限ができるという。

実はこの部分はCortex-Rと同じような仕様だったんですね。

(Cortex-RではMPUはキャッシュアクセスのコントロールの役目もある)

簡略化した結果こうなっていると忘れなければ問題なさそうだ。

電車専用道路とモノレール専用道

昨日、芳賀・宇都宮LRTの「電車専用道路」の話を書いた。

路面電車の名前と制度あれこれ

書いた後で、鬼怒川橋りょう区間を含めて40km/h規制を受ける根本的な理由ではないなとは気づいたものの、

調べてみるとこの特殊街路による軌道整備は意外な活用をされているようだ。


そもそも、軌道法という法律の話。

軌道法は一般には路面電車のための法律と考えられている。

この法律では事業の許可を「特許」と呼んでいる。特別に許可すると。

特許を受けると特別に道路上に軌道を敷設する許可が得られるわけである。

ただ、実際には軌道特許を受けるには、事業者負担で道路を拡幅するとか条件が付くわけですよね。

昔は路面電車が資金を出して道路拡幅というのもけっこうあったらしい。


時代を経て、道路を利用する車も多くなり、道路上空にモノレールを建設する話が出てきた。

普通鉄道ほどの輸送力はないが、道路上にコンパクトに敷設できると。

道路に支柱を立てるモノレールは軌道法を適用するべきで、

軌道法を適用するということは支柱や軌道(インフラ部と呼ぶ)は道路として建設できる。

と、こういう話になり、道路上に建設されるモノレールは軌道法を適用し、

インフラ部は行政で整備し、これを事業者が利用するという形で採算を取りやすくした。

道路上に建設されるAGT(いわゆる新交通システム)にも同様の考えが適用されている。

詳しいことは後で書くけど、道路扱いだと補助率がすごくよい。


ちょっと脱線するけど、地下鉄も道路の地下を利用するので軌道法を適用するべきという説があったらしい。

OsakaMetro(旧 大阪市交通局)はこの考えで軌道法を適用してきたが、他の地下鉄は鉄道事業法による。

地下鉄には事業費の35%を国が補助する制度がある。

地方でも国と同額補助して計70%、残りは事業者で借金して賄ってねと。

大阪市もこの制度で地下鉄建設していたので、国の補助という点でのメリットはなかったと思う。


行政がモノレールなどのインフラ部を整備する名目が「特殊街路」である。

都市計画道路の中で、一般の自動車が利用する以外のものをそう呼ぶ。

多くは歩行者道で、駅で線路の両側を結ぶ通路が特殊街路として整備されていることはあまりに多い。

都市計画道路には通常は「9・6・1」のような番号が付いているのだが、

それぞれ、区分・幅・区分ごとの番号 を表している。

で、この最初の数字が「8」だと特殊街路の歩行者道・自転車道、「9」だとモノレール道等、「10」だと路面電車道とのことである。

「9」「10」から始まる都市計画道路を見つければ、行政が軌道を敷設した、あるいはその計画があるということになる。


で、いろいろ調べたんだが、多くはモノレール・AGTだった。

千葉都市モノレール、ゆりかもめ※、日暮里・舎人ライナー、多摩都市モノレール、シーサイドライン、リニモ、ニュートラム※、大阪モノレール、ポートライナー※、六甲ライナー※、アストラムライン※、スカイレール、北九州モノレール、ゆいレール

(※は臨港道路区間や地下鉄区間が対象外)

臨港道路は港湾施設なので、臨港道路上に敷設するのは軌道法の対象外と。

これらの路線の建設当時は道路は建設省、港は運輸省と役所は分かれていたのだが、両者協調して同様の補助をしていたそう。


路面電車道というのは思った以上に少なかった。

  • 芳賀・宇都宮LRT(全区間)
  • 富山地方鉄道 富山港線(旧富山ライトレール) 富山駅~奥田小学校前
  • 富山地方鉄道 市内電車 丸の内~西町、安野屋~富山大学前
  • 岡山電気軌道 岡山駅前~駅前広場(建設中)、大雲寺前~西大寺町(計画路線)
  • 広島電鉄 駅前大橋線(建設中)

これらはいずれも近年の新設・改良区間である。具体的に動き出していない計画路線もある。

富山港線はJR高架化に合わせて富山駅付近で路面走行を導入するためのもの。

丸の内~西町は環状線のため、安野屋~富山大学は道路拡幅に合わせた複線化のため。

歴史的には路面電車は事業者側で必要な道路整備をして敷設するものだったので、

行政が道路事業で路面電車を整備するというのは新しい考え方らしい。


そしてこんなのも「モノレール道等」の特殊街路として存在した。

  • ゆとりーとライン(ガイドウェイバス) 大曽根~小幡緑地
  • かしてつバス専用道 石岡駅~四箇村駅 のうち石岡市内
  • 北大阪急行電鉄 箕面船場阪大前~箕面萱野 (建設中)

ゆとりーとライン は走っているのはバスだが、この区間は軌道法準拠なので。

ただ、この先例があったからなのか、旧鹿島鉄道の跡地の一部を利用したバス専用道も「モノレール道等」の特殊街路として規定されていた。

この区間は道路交通法でバス専用道として規制しているだけの道路そのもの。

代替バスが国道6号線との交差部で渋滞にはまるのを回避するために、

廃線後にバス専用道を行政が道路として整備するために特殊街路に指定したらしい。

行政が道路としてバス専用道を整備するのは後にひたちBRT(日立電鉄跡地)でも行われたが、こちらは都市計画上の位置づけはないらしい。

ただ、一般の自動車用ではない道路を行政が整備するという点では共通的である。


そして、最後に書いた北大阪急行の箕面市内区間、来年春開業である。

実は千里中央~箕面萱野の延伸事業は画期的な仕組みで国から高率の補助を引き出している。

道路扱いだと補助率がよいと書いたが、社会資本整備総合交付金 という制度は国が最大50%を補助する制度で、様々な社会資本に使える。

しかし、陸上交通関係は昨年度までは道路が唯一の用途だった。

モノレール・AGTを道路扱いにすると、この補助金が使えて国の補助が最大50%付くと。

これは地下鉄の国35%などと他の鉄道の補助制度よりとてもよい。


そこで箕面市はこの制度を使うためにこんな口実を考えたようである。

  1. 箕面船場~萱野で新御堂筋上を走る軌道を敷設する
  2. あわせて両駅に交通広場などの道路整備してバスルートの再編を行う
  3. これらの効果を発揮させるためには千里中央~箕面船場の地下鉄を整備して北急と接続して、1.の軌道にも電気設備などを付ける必要がある (関連事業)
  4. 追加で北急の車両を購入することで1~3の効果を高める (効果促進事業)

という口実で1~4の全てに最大50%の国補助を取り付けたわけである。

普通はモノレールなどを整備するための制度だが、北急と接続することで効果を発揮するということで、

地下鉄と同規格の高架鉄道、そして千里中央~箕面船場は明らかな地下鉄を整備する有様。


冒頭に芳賀・宇都宮LRTの専用区間が道路扱いであることは「40km/h規制を受ける根本的な理由ではない」と書いたが、

軌道運転規則では、新設軌道(道路以外に敷設する軌道)または路面以外に敷設する併用軌道は鉄道の規定を適用するとなっている。

道路に敷設する軌道でも高架や地下だけを走行するならば、鉄道の規定が適用できる。

これは特殊街路として整備されたモノレール道でも同様である。

鉄道としての保安装置を備えて、軌道運転規則の40km/h制限によらず制限速度を定めることが出来る。


ただし、路面走行とそれ以外が混在する場合、全体に軌道運転規則を適用できるともなっている。

芳賀・宇都宮LRTの電車専用道路には砕石を敷いた路面走行とは言えない区間もある。

しかし、それでも全体に軌道運転規則を適用しなければならない理由がある。

実は保安装置がないのである。

路面電車は40km/h制限を受ける一方、複線ならば保安装置なしの目視運転が許されている。

現状の芳賀・宇都宮LRTはこの方式にしか対応できないらしい。

速度制限緩和のための条件は今後の役所との調整により決定し、必要ならば保安装置を取り付けるということなのだろう。


特殊街路として路面電車専用道路を整備するのは初の事例と思われるが、

道路上空に モノレール専用道、AGT専用道 というのは多数整備あるし、

箕面市に至っては実質的な高架鉄道を道路として整備しようとしている。

これらは全て鉄道の規則に従って運転を行っている。

路面電車の場合、既存の道路敷地を利用する場合は路面走行になってしまうが、

今回は鬼怒川を電車専用橋で渡る必要があり、電車専用道路が発生した。

ここで鉄道相当を選択することもできた可能性はあるが、全部を路面走行区間と同等に扱うことを選んでいるのが現状である。

路面電車の名前と制度あれこれ

昨日、芳賀・宇都宮LRTが開業した。

路面電車がなかった都市に路面電車が新設されるのは1948年の高岡市内(現:万葉線)以来のことだという。

とても珍しい取り組みだが、これにはそれなりの理由がある。


それはさておき、この路線をどう呼ぶかというのは微妙なところがある。

  • 運行会社: 宇都宮ライトレール
  • 届出上の路線名: 宇都宮芳賀ライトレール線
  • 案内上の路線名: 芳賀・宇都宮LRT

とそれぞれ微妙に違うのである。

宇都宮ライトレールとして報じられることも多かったのだが、それは社名。

当地では「ライトライン」という記載もあるが、これは車両の愛称らしい。

でも、実は「ライトライン」が一番通りがよい名称なのかもしれない。


このような交錯の背景には宇都宮市・芳賀町にまたがる路線というのもあるのだと思う。

芳賀町はこれまで鉄道がなかったので、これが初めての軌道系交通機関である。

宇都宮駅から芳賀へ至る路線と理解するとわかりやすい一方、走行するのは大半が宇都宮市内である。

おそらくこれが現れたのが「芳賀・宇都宮LRT」という名前なのだろう。

一方でこの計画は宇都宮市が主導しており、宇都宮駅より西側の計画もある。

そのような事情から社名は 宇都宮ライトレール(株) となったのだと思う。

なお、同社には芳賀町も出資しているので、宇都宮市だけのものではない。


届出上の「宇都宮芳賀ライトレール線」だが、これは都市計画上の名前である。

路面電車・モノレールは都市計画法で特殊街路として扱われる。

すなわち路面電車の線路やモノレール軌道は道路事業で作ることができる。

現在、東大阪方面への延伸を行っている大阪モノレールもそうで、

支柱・軌道桁(インフラ部)は大阪府が公共事業として建設を行っている。

芳賀・宇都宮LRTも同様で線路は宇都宮市・芳賀町が建設している。

ともかく、都市計画上の名前をそのまま届出したのではないか。

こういうのは他でもあって、大阪モノレールでも彩都線の届出上の路線名は「国際文化公園都市モノレール線」とかいうクソ長い名前だったりする。

いかにも都市計画上の名前ですね。(国際文化公園都市は彩都の計画上の名前)


路面電車は道路事業として整備されることに関連して、こんなものがある。

これは踏切なの? 「宇都宮LRT」道路との交点に遮断機なし 代わりにあるものとは 開業まもなく (乗りものニュース)

芳賀・宇都宮LRTの多くは路面走行区間だが、鬼怒川を渡る前後を中心に道路から離れて走るところがある。

一般的に線路と道路が交差するところは踏切という。

ただ、路面走行区間では電車も道路のルールに従って走るので、一般的には踏切とは呼ばない。

一方で路面電車でも遮断器を設けた踏切は存在する。

軌道法の規定では軌道は原則道路に敷設するが、道路から離れることも認めており、これを「新設軌道」というそう。

都電荒川線、東急世田谷線、嵐電は大半が新設軌道でごく一部が路面走行区間なので、ほぼ普通の鉄道である。

新設軌道では一般の鉄道の規定が適用される部分があり、道路との交差部は踏切となる。

(東急世田谷線は環七通りと交差する通称「若林踏切」を除き、道路との交差は踏切で処理している)


で、芳賀・宇都宮LRTで道路から離れて走る区間の扱いなのだが、

どうも 電車専用道路 という扱いで、新設軌道ではないらしい。

実際、緊急車両の走行を想定して舗装されている区間が多いらしい。

(鬼怒川橋りょう など、砕石を敷いた一般的な鉄道の構造の区間もあるが)

公共事業で線路を建設する方便だとか、踏切の新設が原則認められないことへの対応とかいろいろ言われているが。

デメリットとしては軌道法の規定により40km/hの速度規制を受けること。

(ただし、鬼怒川橋りょうなどで将来的な速度制限緩和の計画はあるそう)

電車専用道路と一般道の交差部は道路同士の交差として扱うことができるので、

一般道に「止まれ」の標識を付ければ交差部の処理としては問題ないと。

とはいえ、さすがにこれだけでは心配と警報器は取り付けられているよう

ただ、それを言うなら電車専用道路に通行止(電車を除く)の標識が必要だと思うのだが……

一応、交差部の路面には「はいらないで」という表示はあるけど。


芳賀・宇都宮LRTが実現したことには工業団地への通勤路線という裏付けがある。

すなわち工業団地の送迎バスからの移転である程度利用が見込めると。

それに加えて沿線のバス利用・自家用車からの転換に期待しているわけである。

多くが路面走行区間ではあるが、電車の走行空間は独立して確保できているのでスムーズな走行が期待できる。

路面電車では珍しい快速運転も予定されており、追い越し設備も用意されている。

芳賀町にとっては町域の端にある工業団地を通過するに留まるが、

芳賀町工業団地管理センター前停留所(長い!)に隣接してトランジットセンター(旧:芳賀バスターミナル)が設けられ、

バス・自転車・自家用車といった町内交通と接続できるようになっている。

道路空間をうまく利用しながら、宇都宮市街の道路交通を削減することが、芳賀・宇都宮LRTの目的ということになろうと思う。

自家用車からの転換がどれぐらい実現するかが課題でしょうか。


当面は運賃収受に時間を要することも考えて余裕を持ったダイヤ設定だが、

利用者が慣れてくることを前提に詰めていく予定である。

そうすると全区間走破して快速で37分、各停で44分という想定らしい。

平均速度24km/h(快速)・20km/h(各停)というのは物足りない気もするけど、それでも従来のバスよりは速くなる想定らしい。

鬼怒川橋りょう などのスピードアップも実現すればさらに効果的になる。

なかなかこういう条件が揃うところは少ないと思うのだが、

道路整備と一体化できることなど、路面電車ならではの特色を生かせれば確かに面白い。

塩にトリチウムはないと思うが

日本ではこういう話は聞かないけど、韓国・中国ではこういう動きがある。

韓国で「塩」が商品棚から消えた…買いだめの理由は「処理水の海洋放出」 野党代表は「核排水」と発言 (東京新聞)

中国各地で塩の買い占め、処理水放出で影響出ると誤った認識広まったか (東京新聞)

よりによって塩なんて小学校レベルの化学の知識があれば無意味なことが理解できるはずだが。


そもそも、今回、福島第一原子力発電所から放出される処理水とは何なのかという話。

原子炉への地下水の流入に起因して放射性物質を多く含む水が発生し、

そのまま垂れ流しというわけにはいかないのでくみ上げて処理することになった。

まず、セシウムとストロンチウムを除去する。

そして、次にRO膜を使って原子炉の冷却に使う淡水を確保する。

残った塩水を多核種除去設備(ALPS)で処理することで、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質を除去する。

この状態で所内のタンクに大量に保管されているわけである。

これを海水で希釈して環境基準以下であることを確認した上で海に放出する。

放出する放射性物質の総量は通常運転時の排出量、年22兆Bq以下とすると。


放射性物質もいろいろあるが、例えばヨウ素の放射性同位体、129Iがある。

ALPSでの除去でも特に苦労している物質らしい。

そもそも同位体というのは、中性子数の異なる元素のことを指す。

銅は 63Cuと65Cuと異なる中性子数の元素が69%, 31%で混ざって利用されている。

同位体は化学的性質はほぼ同じで、物理的にも容易には分離出来ない。

同位体というのはそういうものなので放射性同位体だけを除去するのは難しい。

ただ、汚染水の129I について言えば Iを含む物質を水から除去すれば目的は達成される。

ALPSでは化学的手法(例えば、薬剤を注入して沈殿する物質にする)や、物理的手法(例えば、活性炭への吸着)を組み合わせて、放射性物質を除去している。

必ずしも放射性同位体を含む元素のみを狙い撃ちにしているとも言えなくて、

活性炭への吸着では当然他にもいろいろな物質が除去されてしまうが、目的を達成する点では問題はない。

廃棄物という点では問題はあるかもしれないけど……

東電の見通しの甘さ、ここにも 福島第一原発で放射性汚泥の満杯迫る (朝日新聞デジタル)

放射性物質を多く含んだ汚泥が大量に貯まっているのだが、処理方法は決まっていない。

脱水により減容・安定化を図る方針は定まっているのだが、まだ脱水には至っていない。


トリチウム(3H)の除去が困難であるのは、水(H2O)として存在するためである。

汚染水の主成分は言うまでもなく水であり、それを捨てない限りはどうにもならない。

化学的性質に差がない同位体を分離することはおおよそ困難である。

これがトリチウムだけは放出しなければならない理由である。

一方、放出されたところで他の水素原子との化学的性質には差はない。

生物が水を飲むと、多くは排出され、一部は体内に残るわけだが、

一般的な水とトリチウムを含む水は化学的に差がないので、入ってきたのと同じ比率で排出・蓄積されることになる。

トリチウム分がやたらと高い水を飲み続ければ、放射線の影響はあるかもしれないが、

幸いにして海には大量の水があるため、これで希釈すれば比率は大きく下げられる。

海水で希釈しても総量が減るわけではないが、トリチウムの比率がやたらと高い水が存在する状況は回避される。


これがトリチウムを含む処理水を放出する理屈である。

その上で食塩ってどうなのかと考えて見る。

食塩の主成分は言うまでもなく塩化ナトリウム(NaCl)であり、

微量成分として にがり(塩化マグネシウム:MgCl)なども含むが。

塩を作る中では水分を何らかの方法で減らしていくので、当然その中でトリチウムがあっても抜けていく。

少なくとも処理水に必ず残るといっているトリチウムとは関係がない。


もしも他の放射性同位体が存在すれば、それが濃縮される可能性は別途検討がいるが、

日本ではイオン交換膜法による製塩が行われている。

日本の伝統的な製塩は塩田で濃度の濃い塩水を作って煮詰める方法だったが、

この濃度の濃い塩水を作る部分をイオン交換膜と電気エネルギを使ってやる方法にしたと。

実はこの方法、塩田のように広大な土地がいらない以外に、分子量の大きな物質は濃縮されないという特徴もある。

単純に海水の水分を減らして濃縮する方法だと重金属や有機物も濃縮される可能性があるが、

イオン交換膜だと膜を通り抜けられないので濃縮されず、排出されてしまう。


確かに中国や韓国では天日塩の生産を行っているようである。

そのため、日本とは同じように考えられないところもあるのだが、天日塩の場合、洗浄という工程が入る。

洗浄というのは塩を飽和塩水で洗う工程で、NaCl以外の成分を除去する作業である。

こちらの方がNaClの割合が高めやすいとされており、このためソーダ工業用の塩は日本でも輸入天日塩を使っているのが実情である。


というわけで食塩の主成分はNaCl、せいぜいMgClを含む程度である。

と考えれば、そこに今回放出される処理水の放射性物質は寄与しないのは明らか。

これが小学生レベルの化学の知識があれば理解できるという理由である。

放射性同位体だなんだというけれど、化学反応に限って言えば何も特別なことはなにもないのである。


放出まで時間を要したのは関係者の調整というのもあるのだが、

技術的な問題もなかったとは言えない。

先ほども書いたようにALPSは物理的・化学的手法により放射性物質を除去する装置だが、

元々の濃度が高くて除去率が低い放射性同位体もあって、129I, 106Ruあたりが問題だったよう。

現在は改良によりこれらも基準以下の濃度に下げられるようになったものの、

かつては不十分な場合であると知りながらも除去を続けざるを得なかったという。

なぜかというとタンクから放出される放射線量の低減が必要だったからである。


海水で希釈して放出する施設に投入する処理水はトリチウムを除く告示濃度比総和1倍以下であることが求められている。

トリチウムを除けば、希釈せずに海水に放出しても問題ないという意味である。

ところが実際にタンクにある水のうち、これを満たすのは35%だという。

用語として、ALPSを通したが基準を満たさない水を「処理途上水」と呼んでいる。

処理途上水をALPSに通し直せばそれは当然基準を満たすが、

それ以外の方法としてはRO膜を使った処理も考えられているようである。

RO膜は水(放射性同位体はトリチウムのみ考えればよい)を通し、

それ以外の物質(トリチウム以外の放射性同位体を含む)を多く含む水を分離できる。

分離された水だけをALPSに通し直して、それ以外は排出に回す。

そういうフローもありうるとは言っているが、まだ確定はしていない。

まずは基準を満たすALPS処理水に注力するとのことである。


もう1つの問題が年間22兆Bqという排出基準である。

そもそも原子力発電所では運転時にトリチウムなどの放射性物質を排出している。

そのときのトリチウム排出量の基準が年間22兆Bqで、これを処理水の排出にも適用すると。

初回の放出では31200トンの処理水を放出し、これが5兆Bq相当らしい。

年間放出量のおよそ1/4で、そして現在タンクにある水は134万トンである。

さらに新たに流入する水もあるので、放出は30年程度続くという見積もりである。

かなりの長丁場であり、これだけの長期間にわたり、安全に保管できるか、設備を維持できるかというのは課題と言える。

どうにもならない数字なら基準値の変更も考えたんだろうけど、

これなら対応可能と通常運転時の基準値を適用したのだろうが、これはこれで大変である。

トリチウムだけならば、十分希釈できれば問題ないような気もするが……仕方ないかな。

普通部から高校が分かれて中学校

全国高等学校野球選手権記念大会、優勝したのは慶應義塾高校だったのだが、

なんと107年ぶりの優勝だったそうである。

第2回大会、当時は「全国中等学校優勝野球大会」という名前だった。

まだ甲子園球場ができる前の時代、豊中球場での開催だったという。

そんなこともあるんだなぁという感じだけど。


今回優勝したのは横浜市港北区にある慶應義塾高等学校だが、

107年前に優勝したのは東京市にあった慶應義塾普通部である。

そして「慶應義塾普通部」という学校は現在も存在している。

この名前で中学校である。

なんでも学校名に「中」と入らない中学校は全国でここだけらしい。


歴史の長い学校にはいろいろあるということなのだが、

この名前の学校ができたのは1890年、慶應義塾大学部の発足時である。

慶應義塾は1873年に7年制の正則科、17歳以上で入学できる変則科を設けていた。

当時は私立の大学が設立できなかった時代ということもあり、

この学校は当時の中学校(13~17歳)に位置づけられていたそう。

そのため従来のコースを普通部、新設された発展的なコースを大学部としたそうである。

1898年に 幼稚舎 6年・普通部 5年・大学部 5年という体系が確立された。

大学部は専門学校(単科大学相当)に位置づけられている。

私立大学の設置が認められてから、1920年に大学に移行、慶應義塾大学という名前が付いた。


そして、太平洋戦争後の学制改革によりこれらの学校は再編される。

普通部の後2年、大学部の前1年を組み合わせて、慶應義塾第一高等学校を設立した。

普通部は新制度の中学校に移行したということらしい。

なお、慶應義塾にはもう1つ、現在の中学校年代の生徒がいた学校があり、

その生徒の移行先として中学校として慶應義塾中等部を設立している。

こちらは移転せず、東京都港区に現在も存在している。

高校年代については慶應義塾第二高等学校に移行したが、高校は2つ合併して、現在の慶應義塾高等学校となって、後に移転している。


慶應義塾普通部で中学校というのも驚いたけど、慶應義塾幼稚舎で小学校というのも驚いた。

いかにも幼稚園っぽい名前なんだけど、当初の慶應義塾の幼年者を受け入れる寄宿舎に由来する学校なのでこういう名前になってるらしい。

普通部を基準にして、それより幼年ということなんですね。


それにしても小学校・中学校って名前に入れなくてもいいんですね。

「幼稚部」「小学部」「中学部」「高等部」は特別支援学校では1つの学校内の部門として規定されているが、

それ以外のケースでは制度が異なる学校ごとに独立した学校として扱われる。

例えば、大学によっては2年のコースを「短期大学部」として設けていることがあるが、

「○○大学短期大学部」という名前の短期大学が独立して存在している扱いになるらしい。

短期大学は大学の一種なのに、学部・大学院とは同時に存在できないらしい。

(このあたりも短期大学の数が減る中で今は昔という感じもあるけど)


そんな都合もあるので学校の名称に制度上の名前を含まないとはできないのだろう。

以前、義務教育学校の名前が一定しないという話を書いた。

ところでこういう過小規模の小中学校は小学校と中学校が一体化していることも多いが、

2016年から「義務教育学校」という制度ができて、名実共に一体化できるようになったらしい。(略)

義務教育学校の名称には決まったルールがないので「○○義務教育学校」とか「○○学園」とか「○○学校」とか、あるいはシンプルに「○○小中学校」というのもある。

(離島じゃないが休校したり再開したり)

義務教育学校とか小中学校と付いていれば意味はわかるけど、

「江東区立有明西学園」とか書かれても何かなぁとなるよね。


他に名前が一定しない学校としては特別支援学校も知られている。

こちらは旧制度の「盲学校」「聾学校」「養護学校」の名前が残っているため。

特別支援学校は障害の種類によらず包括的に取り扱える制度だが、

視覚障害・聴覚障害向けの教育は専門性が高いので、現在も独立した学校で行っていることが多い。

このため旧制度の名前をそのまま残した方がわかりやすい面はある。

一方で旧来の養護学校を中心に命名を改めたものもあるが、

「特別支援学校」と付けるとは限らず「支援学校」となった地域もある。

「東京都立南大沢学園」のように特別支援教育と一見してわからないような命名もある。

(ちなみにこの特別支援学校は高等部しかないので、実質的に高校相当である)


あと、もう1つ名前が一定しない学校があって「認定こども園」である。

認定こども園 には幼稚園・保育所が認定を受けたものと、

認定こども園法に基づく「幼保連携型認定こども園」が存在する。

このうち幼稚園と幼保連携型認定こども園は学校に位置づけられる。

幼稚園は3歳以上のみを受け入れるが、幼保連携型認定こども園は福祉施設としての側面もあるため2歳以下でも受け入れ可能という違いがある。

学校コード表を見てみると「こども園」と入った幼稚園は多数あるし、

「幼稚園」「保育園」と入った幼保連携型認定こども園も多数ある。

(ただ、公立学校では「幼稚園」「保育園」で幼保連携型認定こども園というケースはないようだ)


こういうのに比べれば稀だけど中学校・小学校でも独特な命名があると。

慶應義塾普通部についてはその歴史の長さがそのまま現れた名前で、

実際には普通部の機能は高校も継承しているし、そっちの方が大きいぐらい。

高校を分離するという体裁を取ったためこうなったが、そのアプローチが珍しいとも言える。

パパ活マニュアルが詐欺幇助

「詐欺幇助」というあまり聞かない名前の容疑を見た。

「頂き女子りりちゃん」逮捕 パパ活マニュアルで詐欺手助け容疑 (朝日新聞デジタル)

「恋愛感情を利用して男性から現金をだまし取るためのマニュアルを販売する」ということが詐欺幇助にあたるらしい。

「恋愛感情を利用して男性から現金をだまし取る」のが詐欺で、

マニュアルを販売することによりこれを容易にしたという理屈である。


それで気になって調べてみると、特殊詐欺に関与した人が詐欺幇助になることが比較的あるらしい。

それって共同正犯じゃないの? と思ったのだが……

そうなるとも言えないところが特殊詐欺の複雑さを表しているとも言える。


一般的にイメージする共犯というのは、だいたい共同正犯だと言われている。

共同正犯というのは関与した人がそれぞれ正犯として処罰されることを言う。

最近のニュースでこういうのがありましたね。

ALS患者への嘱託殺人事件 元医師が初公判で起訴内容を否認 (朝日新聞デジタル)

医師がインターネットのやりとりを通じて、ALS患者本人の依頼で薬物を投与して殺したという事件である。

ここに関わった医師が2人いて、薬物を投与した医師とともに、見張り役を担った医師がおり、どちらも嘱託殺人罪で起訴されたという話である。

見張り役など実際に手を下したわけではない人も共同正犯になることが多いという。

このケースでは、患者が見張り役を担った医師の口座にお金を振り込んでおり、

何も知らずに見張りをしていたとは考えられないと判断したと思われる。


特殊詐欺は様々な役目の人が分業することで実行されることが多い。

電話をかける「かけ子」、金品を受け取る「受け子」、現金を引き出す「出し子」などいるが、

根本的に詐欺を企て、詐欺による利益の多くを得る首謀者がいるわけである。

とはいえ、なかなか詐欺の首謀者を捕まえるのは実情として難しい。

実際に特殊詐欺で捕まるのは末端にいる共犯者である。

これらの共犯者も共同正犯で詐欺罪が成立すると考えていた。

「かけ子」の場合、実際に人をだます行為をやっているわけで、

これが詐欺罪の正犯にならないことはまず考えられないとされている。

しかし、末端にいる「受け子」や「出し子」は怪しいと思いつつも、詐欺による利益を得ているという自覚が薄いケースもあるようだ。

この場合、詐欺を容易にしたという解釈で 詐欺幇助 となるケースがあるらしい。


とはいえ、一般的な幇助のイメージは冒頭に書いたようなものだと思う。

犯罪に使われると知りながらも道具を与えたようなケースが該当しうる。

実行役と共謀して道具を用意すれば、それは共同正犯になるが、

そこまで具体的ではないケースだと幇助という考えが出てくる。

激励などで犯罪実行の意思を強化しても幇助になりうるようで、これを心理的幇助と言うらしい。

酒に酔った人が車を運転する(後に死傷事故を起こす)のを制止せず、これに同意して同乗した人が危険運転致死傷幇助罪に問われたケースがあるらしい。


もっとも冒頭に書いた人について言えば、このマニュアルは自らの経験を踏まえて作ったものと考えられている。

このため本人の詐欺行為が立証されれば、そちらの詐欺罪での立件も考えられる。

ただ、現時点でこれは明らかではない。(それだけ詐欺がうまいという説も)

まずは他人の詐欺を容易にしたというところで逮捕したということと考えられている。


「パパ活」が詐欺で問題になるのは珍しいケースなのかなあ。

よく聞くのは脱税ですよね。

個人間でも対価性のある金銭のやりとりをすれば所得となる。

(個人間で対価性がなければ贈与税になるが……)

「パパ活」だなんだと言っても実態としては何らか対価性があるだろうと。


というわけでいろいろな意味で「そんなのあるのね」という話だった。

このような形で明確は犯罪としてつながるのは珍しいとは思うが、

確かにこれが事実ならば詐欺幇助だねと納得。

マイナスの燃料費調整が入っていない

今の家に引っ越して東京電力エナジーパートナーと契約して電気を使っている。

社宅の頃は会社で一括契約して、部屋ごとに付けられたメーターで割り振る方法だった。

今どきはスマートメーターということで翌日には使用電力量が「くらしTEPCO Web」で見られる。


この取得したデータを使って翌月の電気代の概算値を出してくれるのだが、

今月の電気代の概算値が異常に高い気がした。

確かに従量電灯B(規制料金)も6月から見直されたけど。

しかし、それにしてもこんなに高いのか? と疑問に思って調べてみた。

そしたら原因が判明した。それは燃料費調整の影響だった。


燃料費調整というと燃料費が高い分を調整するものだと思いがちだが、

6月以降は燃料費が低い分を調整してマイナスの調整が適用されている。

8月検針分だとこんな感じだった。

  • 電力量料金 30.00円/kWh(120kWhまで)、36.60円/kWh(300kWhまで)、40.69円/kWh(それ以上)
  • 再エネ発電割賦金 1.40円/kWh
  • 燃料費調整額(8月検針分) –11.21円/kWh

概算値には燃料費調整額が入ってないように見える。

そうするとだいたい本来の電気代より4割ほど高い金額に見えてしまうと。

これでは全く概算になってない気がするのだが。


規制料金を含む電気代の見直しは、燃料費の高騰で調整額で調整できる範囲を越えたことが原因である。

このため当時の燃料費を元にして電気料金を再設定したわけだが、

その後に燃料費が下がったので、この結果マイナスの調整になってしまったと。

不思議な感じはするのだが、今はこういう状態である。


概算は高すぎたが、確定した電気代もそこそこ高かった。

検針期間が33日と1ヶ月よりやや長いことも要因の1つではあるが、

やはり暑い日にエアコンの電気代がかさんだのがありますね。

休日など1日家にいる日は電気代がかさむのはあるのだが、

平日の夕方~朝だけでも暑い日はけっこうな電気代になってしまう。

そりゃ家に帰ってくると室内が恐ろしい暑さになってることも多かったからな。

こういうのはどうにもならないね。


ただ、このマイナスの燃料費調整額の背景には「電気・ガス価格激変緩和対策事業」もある。

現在1kWhあたり7円の値引きは燃料費調整額に反映されている。

それを除いてもまだマイナスの燃料費調整額ではあるのだが。

10月検針分から値引き幅は半分となり3.5円/kWhとなる。

その時点の燃料費次第ではあるが、冬になるとかなりかさみそうではある。

このあたりは仕方ないんですけどね。


というわけで概算値があまりアテにならない話だった。

来月も電気代の概算値は高いが、電力量の概算値から計算するとそこまでの金額にはならないようだ。

夏も冬もピークの1ヶ月間がえげつない金額になるけど、

その前後は中間期より若干高いぐらいで済む印象。

冬は寒冷地だともっと重いのだと思うが、ここら辺はそんなこともないので。

ビジターチームのファン向けの座席

昨日、サッカーワールドカップのスタジアムの話を書いた後、

昔に書いた野球場についての記事を掘りだして、そういえば今はどうなんだろうと。

座席の売り方もいろいろではあるが


この記事では特に広島東洋カープのことを書いている。

ご存じの通り、広島カープは大変絶好調で、ファンも多いとのこと。

そうすると内野自由席も含めて売り切れで大変という話がある。

ただ、その一方でビジターチームのファンがビジターパフォーマンス席を埋められるほど来ないという話もある。(略)

単に空席があるだけなら仕方ないのだが、この問題が根深いのは、完売なのに空席が見受けられることがあるという話。

これってどういうことって、カープファンがチケットを買って、場内に入っては立ち見しているという話らしい。

ビジターパフォーマンス席が余る問題と、内野自由席が存在する問題。

今はどうなったんだろうと調べてみた。


まず、ビジターパフォーマンス席はこれを書いた翌年2018年から「3塁側パフォーマンス席」が設定されることとなった。

ビジターパフォーマンス席は阪神ファンの来場状況に合わせて用意したと言われており、

ほとんどの試合では埋まらないため、このような形にしたようである。

なお、阪神戦でも3塁側パフォーマンス席の設定はあるようで、この場合は阪神ファンが座ることも多いようである。

(カープの応援をしてもよいが、ビジターチームの応援をしてもよいため)

もう1つの疑問だった内野自由席だが、こちらは一部が内野2階指定席に改められた。

原因は新型コロナウイルス騒動で管理の都合、全席指定化したようである。

その後、一部が自由席に戻されたということらしい。なぜ戻したのかはよくわからないけど。


ビジターチームのファン向けの席をどれだけ用意するかという話で、

広島カープはビジター向けの席が需要に対して多いことが問題だった。

この逆にビジターの需要が旺盛なんだけど……という話。

阪神ファン大暴走で…今秋にもビジター応援席から「締め出し」か (日刊サイゾー)

阪神戦でのビジター応援席の縮小を考えている? という話。

どこのチームとは書いていないが、条件的には横浜ベイスターズか?


横浜スタジアムは1塁側がBAY SIDE、3塁側がSTAR SIDEとなっている。

両チームのファンのすみわけとしてはこんな感じで考えているよう。

  • BAY SIDE
    • 内野指定席・ウイング席 : 基本的にベイスターズファン向け
    • ホーム外野指定席 : ベイスターズファン向け
  • STAR SIDE
    • DB応援内野指定席 : ベイスターズファン向け
    • 内野指定席・ウイング席 : 両チーム混在
    • ビジター外野指定席 : ビジターチームのファン向け
    • ホーム外野指定席(試合により設定) : ベイスターズファン向け

BAY SIDEの内野・ウイング席については明示的なルールはないが、ベイスターズファンで埋まるというのが一般的な考えである。

一方のSTAR SIDEは外野席は明示的にホームかビジターか区切っている。

内野席・ウイング席は混在が基本だが、一部を「DB応援」と付けて明示的にベイスターズファン向けとしている。


現状、阪神戦ではSTAR SIDEの外野席はすべてビジター向けらしいが、

これの変更を考えているのでは? ということである。

これによりベイスターズファン向けの席が多く確保されるようになると。

最近は地元のベイスターズファンも多く、十分埋まるのではないか。

と、地元のファンが来場しやすくする仕組みとしては効果があるかもしれない。


ただ、そううまくいくとは思えないところもある。

なぜならばタイガースファンの需要がとても強いためである。

阪神タイガースは全国的にファンの多いチームである。

特に東京・横浜では3チームのビジターゲームが行われるため観戦機会も多い。

このため関東圏のタイガースファンは相当多いと言われている。

最近では優勝に向けて独走態勢ということもあり特に需要旺盛である。

このため阪神戦ではビジター向けの席が早々に売り切れ間近になっている中、

ホーム向けの席はまだずいぶん余裕があるという状況が珍しくない。


これによりホームチームのファン向けの席を留保しているという見方もあるが、

タイガースファンの無秩序な流入を招けばトラブルの元である。

ビジター向けの席を削減するのってそっちの方が心配ですけどね。


ちなみに阪神タイガースの本拠地、甲子園球場のビジター向けの席は極狭い。

レフト外野席の一角に「レフトビジター専用応援席」がある。

ライト外野席は「阪神タイガース専用応援席」と明示がある一方、

ビジター専用応戦席以外のレフト外野席にはそのような記載がないので、

両チーム混在の位置づけだが、実態はほぼタイガースファンで埋まるという。

3塁アルプス席は比較的ビジターチームのファンがいるというが、

基本的にはタイガースファンが多い中に混ざる形だという。


そんなわけでビジターチームのファンの扱いはところによりいろいろである。

システム的には広島のビジターパフォーマンス席が一番悪い気がして、

なぜかというと、この席から観戦すると死角がけっこう大きいらしいから。

しかし、ここ以外を選ぶとカープファンに囲まれてしまう状況なので、それでもここを選ばざるを得ないのが実情だと。

ここも甲子園と同じでホームのファンが圧倒的に多いがゆえの話ではある。