こんなニュースが流れていたんだけど。
ファクトチェック : 「野党議員は自宅待機 自民党議員は無症状即入院」ツイートは不正確 (毎日新聞)
まず思ったのは、ファクトチェックって誰かもよく知らない人が言っている与太話を検証することなのか? ということだが。
調べてみると、毎日新聞では最近1年ぐらいファクトチェックに積極的に取り組んでいるようで、
国内外の政治家の発言、他社の報道、インターネットの与太話などいろいろ。
ただ、この記事は珍しくも全文が無料で読めるんですね。(他のファクトチェックは大概有料記事になっている)
新聞社としての社会的使命も考えてのことだろう。根拠に乏しい話が広がり続けるのを防ぐことはできるかもしれない。
この件の毎日新聞の判定は「不正確」となっているが、
これは問題となったTweetで、国会議員の感染者と入院状況を整理しているところの一部に誤りがあるということで、
全く誤りではないが、全てにおいて正しいわけではないということで「不正確」としていると思われる。
フェイクではないが、ファクトとも言えないということですかね。
この記事の最後でこうも書かれていて、
「石原氏が優先的に入院できたかどうかは今後、検証されるべきことです」と五野井氏は指摘した上で
ということで、仮にこれが事実であることが判明すれば、このファクトチェックは「ほぼ正確」という判定になると思う。
が、現時点では検証できないので、こういう与太話が出回ることは誤解を招くということである。
そこを掘り下げるのが報道機関の役目ではないかというのはともかく、すぐに明らかになる話ではないだろう。
一方で、この記事ではどうしてこういう与太話が広がったのかという点について分析している。
森友・加計学園や「桜を見る会」などの疑惑を例に挙げ、こう分析する。
「安倍政権下で政権に近い一部の人が優遇されているのではないかという疑念が人々の間で生まれたのではないでしょうか」
政治家が病気を理由に病院に逃げがちだとか、政権に取り入ったものが優遇されているんじゃないかとか、
そういう経験則により、与党会派の議員は優先的に入院できているのでは? という類推につながっていると。
与党会派の議員が模範的な行動をしないことも、このような非難を過熱させているとも言える。
自公衆院議員2人が深夜に銀座のクラブへ、取材に陳謝 (朝日新聞デジタル)
まとめとしてインターネット社会への警鐘が書かれていて、この主張自体はそうなんだけどね
自分の信じたいものだけを信じる傾向がネットの普及とともに増幅されており、その現象の一つといえます。事実に基づかないで批判するのは陰謀論ともいえ、危険です
ただ、そういう類推をされてしまうのは、過去に疑惑を晴らすように政治家が努力してこなかったからではという気もする。
そこに対して、毎日新聞はこういう記事をインターネット社会に投げ込んだわけだが、納得感があるかは別問題かなと。
さて、新型コロナウイルスの診断を受けて、自宅療養になった後、症状が悪化しても入院できないということは問題となっている。
以前よりも診断能力が増したことで、診断を受けた患者の総数が増えており、
軽症のまま推移する人が多い以上は、自宅療養を基本に考えて、家庭の状況・持病・現在の症状により療養先を考えざるを得ないと。
ここに異を唱える人は少ないと思うが、これは症状悪化時に適切な処置を受けられることが前提であって、
あまり予兆もなく症状が急激に悪化するようなケースもあるからこそなおさらである。
緩和策として「HOTセンター」を設けて、そこで入院まで酸素吸入などの処置を受けられるようにするという案がある。
<新型コロナ>病床ひっ迫、入院待機者の臨時施設を発足へ 酸素投与など実施 神奈川県 (東京新聞)
宿泊療養の一種なのかな? 本来なら入院が相当としても、すぐに処置できないケースがあるのを解決したいと。
事情はいろいろあるようで、1つは新型コロナウイルスの患者を受け入れるということは人的リソースの消費が激しいということ。
感染症対策に手間がかかること、病床に出入りする人を減らすために通常の病床よりも看護師が担う役割が多いことなどがある。
「ベッドは余っているじゃないか」というのはまさにミスリードである。
これは課題だと思うんだけど、例えばインフルエンザの患者より手間がかかるのは事情を考えれば仕方ないとも思う。
新型コロナウイルス患者を受け入れる病院が他の患者を受け入れにくくなった分は、
他の医療機関が肩代わりするという分業で乗り切って行こうという話で、これはある程度うまく行っているそうだ。
ところが、ここに課題があって、院内感染などの懸念から医療機関の分業に支障を来しているという話がある。
これが症状悪化した患者がなかなか入院して処置を受けられないことの要因の1つであると。
救急搬送断り続け、苦しむ医師「触れることもできない」 (朝日新聞デジタル)
コロナ患者の転院支援へ、大阪府が新チーム 病床を圧迫 (朝日新聞デジタル)
従来、ケガの患者はその程度によっては整形外科の専門病院に搬送するという対応でよかったが、
ケガ+発熱となると、新型コロナウイルスの疑いがあるため、なかなか受け入れ可能な病院が見あたらないと。
こういう疑いのある患者から他の患者への感染を抑制できず、院内感染につながったケースも事実としてあるので、
この対応自体は妥当であるものの、そこに対応できる医療機関は限られ、
そういう医療機関は往々にして新型コロナウイルス患者で逼迫しており、受入不可という回答をせざるを得ないと。
もう1つの問題が、患者がなかなか退院できないという問題。
3次救急医療機関は難しい患者を受け入れて処置して、症状が安定した時点で他の病院に転院させるという分業をしている。
ところが、新型コロナウイルスの患者の場合、症状が安定したとしても、感染性が失われるまでは受け入れ先が限られる。
主には他の病気で治療を受けいていても、新型コロナウイルスの感染を否定できないケースも同様ではないか。
そもそも新型コロナウイルスは重症化した場合、治療が長期化するケースがあって、これも大変なのだが、
そこまで行かずとも転院がうまくいかず病床を圧迫し続けるケースがあって困ると。
とはいえ、安易に受け入れては院内感染の懸念があるので、これもまた難しい問題である。
このことから、医療機関の立場にすれば、できるだけ病院に入れないというオペレーションを取ることに合理性はあると。
医療機関もやってきた患者を行くところもないのに退院させるわけにはいかないなら、入口を絞ると。
新型コロナウイルスに対してはほとんど対処療法しかないのだから、入院したところでできることは限られる。
そういう意味では妥当なのかなと思うところもあるが、宿泊療養で酸素吸入までするというのは、なかなかのことだなと。
医師の処置を受けられずに死亡するケースがいろいろ報告されていて、これはまさに野党会派の国会議員が経験したことですが。
「俺、肺炎かな」検査への車中急変、会話途切れ 羽田氏 (朝日新聞デジタル)
死後の診断となったのはともかく、特徴的な症状は死亡直前までなく、急変後は手をつけられず死亡という経緯を見る限り、
大きな不備もなく、不運だが死亡という結果を変えることは難しかったんじゃないかと思う。
(激動の1年と思えばそれほどでも)
与太話の発端となった、自民党の石原議員が無症状ながらに早期に入院できたことと比べられがちなことである。
こういう事例があったこと自体は事実であり、それが先ほどのような類推を補強してしまっているわけですよね。
ただし、これはかなり事情は違うことなので、これはこれで掘り下げて検証した方がよいと思いますけどね。
ということで、このファクトチェックは陰謀論への警鐘という点では一定の意味はあるかもしれないが、
背景となっている事象の掘り下げという点では足りていないのかなと思った。
このような陰謀論を打ち消すことができないのは、ここ最近の社会の課題ではあって、
そこを打開するためにファクトチェックの記事を全文無料公開したのだとすると、その方向性自体は正しいと思いますけどね。
問題はその内容が必ずしも正しい理解につながらないということであって。