夢洲に見える水面の意味

東京港の埋立地の話を書いたが、埋立地といえば気になるのが大阪の夢洲のこと。

ここで万博が行われるとか、統合リゾート(IR)が作られると言われて見せられた航空写真は水面も見えて、

果たしてこの埋立地は完成しているのだろうか? と気になってしまう。

実際のところ、夢洲というのはとても複雑な埋立地である。


夢洲と言われて大阪オリンピック構想が思い浮かぶ人は果たしてどれぐらいいるのか。

2008年のオリンピック招致に大阪市が立候補したとき、舞洲がメイン会場、隣接する夢洲が選手村になるという話だった。

ところがオリンピック招致は失敗してしまった。

とりあえずは舞洲スポーツアイランドの施設はアマチュア中心に活用され、

夢洲の東側はスーパー中枢港湾の指定もあり、大規模なコンテナターミナルとなったのだった。

オリンピック合わせで準備していたインフラのうち、夢咲トンネルはコンテナターミナルとの関連もあり比較的早期に開通した。

道路・鉄道を併設しているが、当初は道路のみの開通である。


そんなこんなでオリンピックが頓挫した夢洲の埋立はのんびりと進められていた。

夢洲は西側1/4ぐらいが廃棄物の埋立地、残りが土砂の埋立地である。

ちなみに舞洲も西側1/5ほどが廃棄物の埋立地で残りが土の埋立地である。

廃棄物の埋立地としての名前は夢洲・舞洲あわせて北港処分地である。

すでに舞洲に相当する北地区は1986年に埋立が完了しているが、

夢洲に相当する南地区の埋立は現在も続いており、埋立進捗は90%(2024年12月)とのこと。

埋立処分実績(北港処分地) (大阪広域環境施設組合)

一方の土の埋立地としての夢洲だが、こちらはほぼ埋立完了である。

万博合わせで埋立を完成させた部分はあるが、元々ほぼ土は入っていたということである。

ただ、制度上未完成の部分も残されていて……というのは後で紹介する。


さて、オリンピックで選手村になると思っていた一帯は埋立を完成させないままだったが、

転機が訪れたのは大阪に統合リゾートを誘致するという話が出てきた2014年頃である。

未利用でまとまった土地が確保できる夢洲はまさに好都合だった。

さらにIRのまちびらきに合わせて国際博覧会を誘致しようということになり、

夢洲は国際観光拠点という役目が明確になったわけである。

これに伴ってオリンピック構想の頃の計画がいろいろ復活してきて、

夢咲トンネルの鉄道部がOsakaMetro中央線として開通したり、夢舞大橋の歩道部が開通したり……

万博合わせのインフラ整備に見えるものも多くは昔からの計画というのが実情である。


さて、夢洲の土地利用だが、すでにコンテナターミナルや倉庫として活用されている一帯を除くと、

中央部の国際観光拠点としての整備は1期・2期・3期と分けて行われ、

1期はすでにIRの整備が決定している。

2期は万博会場の中心となるパビリオンワールドで、万博後の用途について公募が行われたという話があった。

3期は万博会場のウォーターワールドと呼ばれるエリアと思われる。

ウォーターワールドは名前の通り、水面が見えている部分である。

ここは制度上は埋立が未完成になっているが、後で書く通りほぼ完成である。

西側はグリーンテラスゾーンとして整備が行われることになっているが、

先ほど書いたようにここはまだ現役の廃棄物処分場でもある。

暫定利用として2013年から一部に太陽光発電施設が設置されている。

それ以外の一部が万博会場のグリーンワールドとして利用される。

広場や駐車場を中心とした利用で建物は少ないが、一部には建物がある。

そこで工事しているときにメタンガスでの爆発事故があったんですね。


現在も夢洲の航空写真で見える水面にはいくつかのタイプがある。

廃棄物の埋立地で見える水面は埋立が未完の部分と排水処理施設の部分がある。

廃棄物系の埋立地の南端に当たる部分に三角形の池が見えるが、

実はこれは排水処理施設である。ここで埋立地から出る水を排水基準を満たすように処理している。

かつての舞洲でもこのような池を使って排水処理をしていて、

昔の航空写真を見ると、南西の一角(現在は太陽の広場になっているあたり)にもそんなのがあった。

埋立完了後も排水処理が続くうちはこの池は残るとみられる。


次に浚渫土系の埋立地だが、こちらも南東に池がある。

これは沈殿池らしく、土の埋立地から出る雨水と廃棄物の埋立地で排水処理施設を経た水が集まる。

この沈殿池なのだが、鳥のすみかになっているという事情もあり、

将来的にもこのエリアは水辺として残すことが期待されているのではないかと思う。

そこに隣接して水面が続き、万博会場のウォーターワールドが構成されている。

先ほど書いたが、ここは国際観光拠点としての3期にあたり、埋立地としては未完成のエリアである。

というのも、夢洲内の工事をする中でヒ素などを含む土砂が出てきて、処分をどうするか問題となり、

埋立地として未完なのをよいことに、夢洲内の汚染土処理に使うことになったのである。

薬剤などで処理をして置くので安全面では問題ないとのことである。

夢洲内の開発が進む中でどの程度埋まるかはわからないが、

水鳥のすみかとして重要であることは認識されているので、

最終的にも水面が残って完成となるというのが見立てでである。


グリーンテラスエリアは暫定的には太陽光発電で活用されるが、

あくまでも将来的な計画は緑地化である。

ただ埋立地としての役目はまだ続くのでかなり先のことである。

実際のところよくわからないのは舞洲もそうなんだよね。

廃棄物の埋立地部分は舞洲緑道という細長い緑地はあるが、恒久的な施設はその程度。

未利用地は太陽の広場などのイベント広場としての活用されているが、

他もグランピング施設、サーキット、ソフトボール場、太陽光発電、駐車場など、いかにも暫定利用っぽい。


なお、舞洲自体はプロスポーツの拠点として活用されている。

舞洲アリーナはBリーグの大阪エヴェッサが練習・試合に利用するようになり、

オリックスバファローズは2軍本拠地となる球場を新設、屋内練習場なども整備した。

セレッソ大阪は天然芝2面・人工芝1面のフィールドを整備して練習拠点としている。

舞洲スポーツアイランドというのもよくわからないと思われていたが、意外に成功した感がある。


万博はともかく、IRは大阪にとって重要なことである。

大阪にはグランキューブ大阪、インテックス大阪、大阪城ホールなど、

国際会議・展示会・大規模イベントのための施設は一通りあるが、規模や利便性の面で課題がある。

夢洲では国際会議場・展示場・高級ホテルを一体で整備することで、

従来では誘致できなかったような国際会議・展示会などの誘致が可能となる。

エンターテイメントという観点でもいろいろ考えられており、

IRの計画には劇場も含まれているし、万博跡地の2期計画ではアリーナなどの整備が入りそうである。

特にインテックス大阪なんてIR開業後は再整備という話もあるんじゃないかと思うが、

総じて大阪で様々なイベントができるようになり、大阪・関西の国際交流が活発になるはずである。

で、その原資というのは大半がIR内のカジノでの収入ということで、

本当にそんなに儲かるのか? とは疑問に思っているところはあるものの、

これは事業者が約束している内容ので、そこはやってくれるということだろう。

そんなことやるのにちょうどいい島があったってのはラッキーだったって話。

廃棄物の埋立地ってこんなの

今年3月28日に海の森公園がオープンする。

海の森というと2021年の東京オリンピックで馬術競技(総合馬術クロスカントリー)の舞台となったのが印象的である。

昔から海の森とは言われていたけど、ここが正式に海の森という町名になったのは2020年、

中央防波堤埋立地一帯の境界争いが決着してからのことである。

ちなみに大田区に属することになった一角は令和島という町名が付いている。


埋立地にもいろいろなタイプがある。

埋立地ってゴミを埋めてるんじゃないの? と思うかも知れないが、

実のところ、割合として多いのは浚渫土の埋立地である。

東京港の埋立地というと、13号地(台場・青海・東八潮)や10号地(有明)がよく知られているが、

あれは全部浚渫土を中心とした土の埋立地なんですね。

埋まっているのは土なので、その後は多様な使い方ができて、

オフィス・住宅・倉庫・港湾施設といった建物が多く建ち並んでいる。


中央防波堤一帯の埋立地でさえ、西半分は浚渫土を中心とした埋立地で、

廃棄物主体の埋立地というのは東半分に限られている状況である。

このうちすでに埋立が完了した中央防波堤内側埋立地の東に作られた公園が海の森公園で、

一般向けの開園前にオリンピック会場として使われたという経緯がある。

西側の江東区海の森1~2丁目と大田区令和島の区域は港湾施設や倉庫として利用されている。


廃棄物の埋立地というのはその後の用途が相当限られてしまう。

中央防波堤一帯の前に使っていた廃棄物の埋立地は15号地(若洲)である。

ここも西半分は浚渫土系で、東半分が廃棄物系となっている。

ここは若洲海浜公園として大半がゴルフ場になっている。

そのさらにその前に使われていた埋立地が14号地のうち夢の島の区域である。

夢の島という名前は聞いたことがあったのだが、実は14号地にはもう1つ町名があって、

それが新木場である。文字通り貯木場を中心とした木材業者の町である。

14号地の浚渫土系の埋立地は新木場、廃棄物系の埋立地が夢の島となっているわけである。

夢の島は埋立後に夢の島公園として整備され、当初は交通の便もあまりよくなかったが、

後に新木場駅(有楽町線・京葉線)が開業し、駅至近の公園となっている。


では、そのさらに前の埋立地は? というと、8号地(潮見)の一角である。

あれ? でもここって埋立地跡らしい公園もないよなぁ。

そこには廃棄物処分の在り方が移り変わってきたことがある。

限りある処分場(ごみ埋立ての歴史)(東京都)

潮見一帯で埋立を行っていた1955年頃までは、ゴミを積んでは火を付ける野焼きが行われていた。

なかなか信じられないことだが、そんな処分方法が存在したのである。

ところがこれは煙や粉じんなど周辺への影響が大きく取りやめになった。

とはいえ、このような方式だったので、跡地は比較的普通に使えたらしく、

当時の埋立地とみられるあたりにオフィスなどが建ち並んでいる。


続いて夢の島一帯での埋立だが、これは生ごみ含めてそのまま積んでいた。

減容できないことも問題だったが、ハエやネズミが大量発生し大変な問題となった。

地図を見てもわかるが既存の市街地にもわりと近いので大きな問題だったと。

これではどうにもならないと重油を撒いて火を付ける「焦土作戦」が行われたり……

減容もできないので短命で1957~1967年と10年ほどで埋立が終わってしまったという。

仕方ない事情はあったにせよ、散々な埋立地である。

その代替の埋立地が若洲一帯で、当初は新夢の島と呼ばれていたらしい。

ここもかなり短命で1965年~1974年の10年ほどで終わってしまった。


実のところ、その次の埋立地である中央防波堤内側埋立地、

現在の海の森公園の埋立の頃もまだそんな状況が続いていたらしい。

ただ、焼却施設の整備もだんだん進んでいき、生ごみを直接埋めることは減っていった。

現在の中央防波堤外側埋立地・新海面処分場は焼却灰中心の埋立地になり、

今後50年ぐらいは使えるんじゃないかと言われている。


埋立地を長く使うための工夫だと思うが、海の森公園は山のようになっている。

海の森リーフレット (pdf) (東京都)

海風を和らげるように斜面に植樹し、その中に昆虫・鳥など多様な生き物が暮らせるようにと考えられている。

当然、人のレクリエーションの場としても有用である。

この一帯の埋立終了は1987年、しばらくはメタンガスが発生したり安定しないが、

将来的な公園化に向けて、建設発生土や堆肥などを積み上げて、

2007~2015年に植樹が行われ、オリンピックにも振り回された感はあるが、

やっと都市公園としてオープンするに至ったという状況のようである。


ところで海の森一帯へ向かう道路には、歩行者・軽車両・一般原付通行止めの規制がかかっている。

そもそも海の森公園は開園していないので公園に行くというニーズはないが、

港湾施設や倉庫へ行くというニーズはないとは言えない。

現在は自動車でなければいけないが、東京テレポート駅からのバスは存在する。

ただ、実は有明との間にある海の森トンネル、若洲との間にある東京ゲートブリッジには歩道が存在する。

すでに東京ゲートブリッジの歩道部は見学施設として昼間に限り開放されていて、

若洲側から出て若洲側に戻ることだけはできるようになっている。


海の森公園のオープン後はこれらのルートも開放されるのでは? と思うけど、まだ定かでない部分が多い。

東京都港湾局の資料を見ると、自転車走行環境整備の計画がある区間にはなっている。

港湾局自転車通行空間整備計画 (東京都)

なんとなくトンネル・長大橋区間は押し歩きになりそうな気はしますね。

ただ、一般原付まで押し歩きなのか? というとここはよくわからなくて、

一般原付の本線通行止めの規制が外れるということもありうる話である。

まだいろいろ時間はかかりそうですけど、将来的には有明-海の森-若洲-夢の島と公園同士を結ぶ回遊ルートに発展するんじゃないかと。

最恵国待遇とはなにか

アメリカのトランプ大統領、基本的に言うことがおかしいのだが……

トランプ大統領 カナダ メキシコ 中国に関税 報復措置や反発も (NHK)

トランプ大統領 輸入の鉄鋼製品とアルミに25%関税 日本も対象 (NHK)

実はこれどちらもWTOのルールにとって大きな問題がある話なのだ。

というわけで自由貿易に関わる世界のルールを勉強してみた。


関税及び貿易に関する一般協定、略称のGATTなら聞いたことがあるかもしれない。

WTOより長い歴史のある協定で、GATTが発展してWTOという組織になったという経緯があるよう。

関税及び貿易に関する一般協定 (外務省)

日本語版だってとても読めたような協定ではないけど、いくつか重要なルールをかいつまんで説明する。

第1条のタイトルが「一般的最恵国待遇」となっているが、

これはWTO加盟国はWTO加盟国との貿易に対して最恵国待遇を与えないといけないというルールである。

いずれかの締約国が他国の原産の産品又は他国に仕向けられる産品に対して許与する利益、特典、特権又は免除は、他のすべての締約国の領域の原産の同種の産品又はそれらの領域に仕向けられる同種の産品に対して、即時かつ無条件に許与しなければならない

全てのWTO加盟国に最も有利な条件を与えること(最恵国待遇)というのは、

全てのWTO加盟国に同じ条件を適用するということである。

条文を読んだらまさにそういうことが書かれていますね。


あれ? でも特定国からの輸入に対して安い関税率が適用されることってあるよね。

確かにこの考えで言えば、WTO加盟国からの関税率と、非加盟国の関税率の2つしか存在しないはず。

でも、実際には他にもいくつかの関税率が存在するんですね。

GATTの36条にはこんな文言が書かれている。

多くの低開発締約国が限られた範囲の一次産品の輸出に引き続き依存しているので、これらの産品の世界市場への進出のための一層有利な条件であつて受諾可能なものを可能な最大限度において設けることが必要であり

発展途上国に対して優遇措置が必要であるというようなことを言っていると。

この目的のため、発展途上国に有利な税率を適用すると、それ以外の国に対する最恵国待遇を満たせなくなるので、

1979年にGATTの会合で「異なるかつ一層有利な待遇並びに相互主義及び. 開発途上国のより十分な参加に関する決定」が行われ、

発展途上国に有利な税率を適用する制度(GSP)が公認されるに至った。

ちなみに2019年まで中国・メキシコ・タイ・ブラジル・マレーシアなんて国もGSPの適用対象だった。

日本の制度上、GSPからの卒業要件が意外と厳しく、ここまでかかってしまったらしい。


で、もう1つ重要な例外措置があって、それが自由貿易地域(FTA)ですね。

これはGATT 24条に定められているのだが、

自由貿易地域とは、関税その他の制限的通商規則(略)がその構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止されている二以上の関税地域の集団をいう。

最恵国待遇の枠組みの外で、関税が「事実上のすべての貿易について廃止」することは認められているということである。

この「事実上のすべての貿易について廃止」というのはいろいろ論点があるようだが、

分野の偏りなく85%以上の関税をせいぜい10年ぐらいで撤廃することを指すものだと言われている。

ちなみに最近は貿易に限定しない経済連携に関わる協定だということで経済連携協定(EPA)と書かれることも多い。


日本にとってはCPTPPとRCEPが代表的なものである。

CPTPPはアメリカ抜きのTPPということで、2018年に発効している。

RCEPはASEAN+5(日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド)医で締結された協定で2020年に発効している。

日本とASEANとは2008年にEPAが締結されており、中国・韓国とのEPAという意義が大きい。

あと、日本とEU・スイス・イギリスの間でもEPAが結ばれている。

この結果、日本の貿易額のうち79%が関税が「事実上のすべての貿易について」廃止された状態になっている。

原産地規則もあるのでこれらの国からの輸入品全てが無税に近いかというと、

なかなかそうもいかないが、RCEPやCPTPPのような多国間の協定になったことで、

国を超えたサプライチェーンをカバーしやすくなり、FTAの活用はより進んでいるとのこと。


で、冒頭の話に戻るのだけど、

まず特定の国に対して高い関税を掛けるというのは、最恵国待遇に真っ向から反する行為である。

セーフガード措置やアンチダンピング措置というのはあるけど、

トランプ大統領の言っていることはこういう話ではないので、WTO加盟国としてはあり得ないことである。

これはわかりやすい話だと思う。


もう1つ、日本を含む全世界からの鉄鋼・アルミに高い関税を課すというもの。

全ての国に等しく高い関税を課すのは最恵国待遇に反しない気もするが、

これは逆にFTAとの兼ね合いで問題になってくる。

実は日本とアメリカの間では日米貿易協定というFTAが結ばれているのだ。

まぁこの協定がFTAなのかというのは議論がある話なのだが、

さっきも書いたように特定の国への関税を引き下げる手段というのはGSPとFTAの2つで、

日本とアメリカの間で選びうるのは当然FTAしかないわけである。

で、関税が「事実上のすべての貿易について廃止」されているはずなのに、

そこに例外なく関税を掛けるというのは当然FTAからの逸脱であり、

こうなってくると最恵国待遇の例外にあたらないという話になってくるのである。


もちろんこれらはWTO加盟国に課しているルールであって、

アメリカがWTOから脱退すればその限りではなく、実際そういう検討もなされているようである。

ただ、こうなってくるとアメリカはWTO加盟国からの最恵国待遇が受けられなくなる。

一応、WTO非加盟国というのは存在して、そのための税率も存在していて、

日本では赤道ギニア、エリトリア、アンドラ、北朝鮮、南スーダンからの輸入品に適用されている。


日本とアメリカに限った話を言えば、アメリカがWTOから脱退したとしても、

WTO非加盟国の関税が適用されることはとりあえずはない。

なぜならば日米貿易協定が存在するからである。

WTO非加盟国でも協定などで最恵国待遇を適用するとなっている国があり、

ブータン、バチカン、ナウル、イラク、イランなどが該当する。

すでに日本に最恵国待遇を適用されている場合は、日本も最恵国待遇を適用するというポリシーのようだ。

で、WTOとは別に協定が結ばれているというのもありまして、

日本としてはアメリカに対してWTO加盟国に対する約束に加えて、

協定で約束した関税撤廃などを行うと約束しているわけである。

なので、アメリカがWTOから脱退しただけならば、日本はアメリカに最恵国待遇を適用しなければならない。

逆もしかりでアメリカは日本に対して最恵国待遇を適用しなければならないのですが。


実のところ、GATTの最恵国待遇に関わるルールは本当にそうなのか?

というところに様々疑問符が付くところはあるのが実情である。

さっき日米貿易協定はFTAなのかというのは議論がある話と書いたが、

実はアメリカ側の関税撤廃率は実質6割程度だと言われている。

日米貿易協定、関税撤廃率低く 米のTPP復帰につなげるか (産経新聞)

そもそも日本とアメリカの間ではTPPがすでに存在している。

TPPはかなり高い水準のFTAであり、お互いこのレベルならよいと考えていたわけである。

ところが前のトランプ政権のときにTPPは凍結され、とりあえずはアメリカ抜きのCPTPPが発効することとなった。

日本としてはアメリカにTPPに戻ってきなさいという立場でいるわけだが、

当のアメリカにその気がないので、じゃあ二国間で可能なところからやりましょうと。

そのために結ばれた協定が日米貿易協定で、将来的にはTPPレベルの関税撤廃を実現しましょうという建前はある。

ただ、実態として自動車関係の関税撤廃の見込みが立っていないので、

これが実現しないままだと関税撤廃率は6割ぐらいになってしまいますよと。

この件については日本の国会でもかなり問題となったそうなのだが、

どうしてもアメリカをTPPにつなぎ止めておきたい意向もあり、成立した経緯がある。


実態はどうなのかと突き止めるといろいろあるんですけど、

こんな具合にいろいろな言い訳を活用しているのが実情である。

そんな中、GATTに反することを公然と言う大統領の国ってどうなのよと。

日米貿易協定のFTAとしての趣旨を踏まえれば、日本からの輸入品に関税を掛けるのはおかしいでしょと反論するのは当然のことである。


日本で暮らしていると自由貿易の恩恵は様々感じるところである。

日本のメーカーが外国で生産し、日本を含む全世界の輸出しているのはその典型で、

そこで使われる部品というのは日本産の部品というのもけっこうある。

日本はどうしてもエネルギーや農畜産品など外国からの輸入に頼る部分が多く、

円滑に輸入するために様々な措置がとられているところである。

小麦、砂糖、乳製品など国産農家の保護も必要だけど、国内では需要が賄えない品目はいろいろあって、

そこはいろいろ調整をしているわけだが、それでも自由貿易には叶わんわけである。

経済版「2プラス2」新設へ 米保護主義対抗で連携―日英 (JIJI.COM)

今や、世界の自由貿易の盟主は日本とイギリスだってよ。


もちろんアメリカにしても国内産業のバランスというのは重要な話で、

その観点で関税などで外国からの輸入品の制約がかかることは仕方ない部分はあるけど、

それに見合った国内産業の振興策があるのかというと、ここは疑問はある。

鉄鋼の関税が上がったところで、USスチールは老朽化する製鉄所の生産性を高める体力がなく、

そこで日本製鉄が買収して投資をしようとしたのはよい方である。

いろいろ現実が見えてない気はしますけどね。

必要なのは名目上の独立

石破総理大臣がアメリカを訪問してトランプ大統領と会談して、

最近のアメリカと諸外国の関係を考えればかなり融和的な会談だったのでは?

と言われていますが、それも両国政府関係者の尽力によるものではとかなんとか。


で、その中で日本製鉄がUSスチールを買収しようとしていることについて、こういう話があったようである。

また、日本製鉄が買収することで合意している大手鉄鋼メーカー「USスチール」について「われわれにとってとても重要な会社だ。私たちは、その会社がなくなってしまうのを見たくなかった。買収は印象的によくない」と述べました。
そのうえでトランプ氏は「買収ではなく、多額の投資を行うことで合意した。来週、経営トップと会う予定だが、とても素晴らしい会社だ」と述べました。

(【詳しく】日米首脳会談 石破首相「対米投資額1兆ドル規模に」 (NHK))

けっこう言っていることはまともな気がするな。


大統領選挙の公約で日本製鉄によるUSスチールの買収を破棄させると言う一方、

アメリカに投資を呼び込むのだというのは矛盾した話だが、

買収ではなく投資でなければ歓迎だという形で整合を取ったわけである。

で、後に「買収ではなく」ということの意味は、USスチールの株式の過半数を保有しないことだという話があった。

トランプ大統領 “日本製鉄はUSスチール株 過半数保有できず” (NHK)

なるほどね。


日本製鉄はUSスチールの株式の100%を現金で買うことを考えていた。

よくあるやり方ではあるけど、なぜこの方法が選ばれることが多いのか。

そこには既存株主への配慮という側面が大いにある。


会社に投資する方法としてもっとも素直なのは増資を引き受けることである。

投資額に見合った株式を得て、議決権と配当を得るわけである。

ただ、この方法は投資先の会社の株主にとっては好まれない話で、

なぜかというと株式の希薄化が起きるからである。

例えば、元々6000万株発行していた会社が、増資を行って新規に3000万株を発行したとする。

会社の利益が変わらないとすると、1株あたりの利益は2/3に減少してしまう。

結果として1株の価値が下がってしまうというのが定説である。

もちろん増資によって得た資金で投資することで将来的にはそれ以上稼ぐ会社になる可能性はあるし、

当然それを目指しているのだが、短期的にはこのような評価になってしまう。


そこで一旦現金で精算してしまうという手法が一般的なのである。

現時点の企業価値に対して、将来的な見込みを踏まえて上乗せした金額を現在の株主に一旦払ってしまう。

100%の株式を取得すれば、全ての株主が等しく恩恵を受けられる。

その上で新しい親会社は議決権と配当を100%独占することになるので、

新たな投資により得た利益は100%回収できるというわけである。

この方法は既存株主に払う現金が多く必要なのが欠点なのだが、

既存株主への配慮としては理にかなった方法だとされている。


既存株主に払う現金を節約する方法としては、自社株式を対価に株式を取得する方法もあるが、

こちらは新しい親会社の株式で希薄化が起きるのが問題なのだろう。

あと国を越えた企業再編には使いにくいですよね。

ただ、買収される会社の議決権と利益を100%独占して投資を回収できるという点では同じ効果はある。

なので、この方法もそれなりに活用されている方法ではある。


ところで日本では親子上場というのがしばしばみられる。

ソフトバンクグループとかイオンは上場子会社が多いことで知られている。

ソフトバンクグループは金策でしょうかね。

ソフトバンク(2015年までのソフトバンクモバイル)が2018年に上場したのはいかにもそんな話。

イオンは昔は過半数に至らない出資が多かったらしいのだが、

近年はいろいろな手法で出資比率を過半数まで引き上げている。

100%子会社にするには既存株主に払う現金が多くなるが、過半数得るだけなら幾分節約できることや、

ある程度は各子会社の自主性を求めているとか事情があるよう。


ただ、親子上場というのはアメリカではあまりみられない形態である。

世界的に稀とまでは言えなくて、フランスやドイツでは一定あるらしいが。

どうしてかと考えて見ると、子会社の少数株主(親会社以外の株主)の利益が損なわれる懸念があるからで、

基本的に親会社は子会社の議決権の過半数を持っているわけで、

こうなると子会社は自律的に経営方針を決めることができないわけである。

親会社の利益を優先して、子会社の少数株主の利益が損なわれる選択をする可能性があると。

そこは承知の上で株主になってるんだろうという話はあるけど。

親会社の視点にしても子会社の経営方針を決めるのに少数株主への配慮が必要なわけだし、

何らかの方法で100%子会社にした方が自由度が高まるという考えもあり、

以前に比べれば日本の親子上場は減っているようである。


トランプ氏の言う「買収ではなく、多額の投資を行う」具体的な方法は不明だが、

既存株主から100%の株式を現金で買うというのは、

特に既存株主の保護という観点では理にかなった方法である。

日本製鉄が株式の100%を取得せずに投資するということが、

既存株主が新生USスチールの株主として残るということかは一概に言えないが、

そうなったとき一番不利なのはUSスチールの既存株主ですからね。

でも、もうそれしか復活への道はないのだとなれば納得するのかもしれない。


経済的な合理性はともかくとして、形式上の独立が必要なことはあって、

思い起こされるのが2012年のソフトバンクによるイーアクセスの買収である。

当時のソフトバンクモバイルはFDD-LTEのネットワークが狭く、

当時のiPhoneはLTEではFDD-LTEしか対応しておらず、通信網の逼迫が課題だった。

そんな中でEMOBILEのFDD-LTE網を借りることで打開しようとしたわけである。

で、これに伴ってソフトバンクは会社ごと買収することになったわけである。


文字通り電波を買うような買収だったので、買収後も独立した会社を装う必要があった。

で、どうしたかというとイーアクセスの株式の大半を議決権なしの株式にして、

議決権付きの株式の67%を通信機器メーカーなどに売却したわけである。

結果としてソフトバンク(現:ソフトバンクグループ)がイーアクセスの株式の99%以上を保有しながら、

議決権ベースでは33%しか保有していないという状況になった。

まさに名目上の独立である。(この期間も連結会計上はソフトバンクの子会社だったようだが)

独立した会社を装い続けるためにワイモバイルという社名にしてヤフー傘下に移管する話もあったが、

その後、状況の変化により独立した会社を装う必要が無くなり、

2015年にソフトバンクモバイル(現:ソフトバンク)に合併されたのだった。

Y!mobileというブランドで旧EMOBILEの事業は存続しているが、

ネットワークについては完全に一体化して区別の付かない状態になっている。


勤務先でもお国の事情により子会社ではなく関連会社に留まる会社がある。

実態としては子会社とほぼ同じ扱いではあるのだけど、子会社であってはいけないのである。

従来の買収計画でもUSスチールに特殊な事情があることは理解していて、

買収後もUSスチールという社名は維持することや、取締役の過半数はアメリカ国籍にするなどの一定の配慮があった。

そうはいっても議決権の100%を日本製鉄がもっていることに変わりは無い。

これよりも名目上の独立が保てる方法を何か考えるのだろう。

既存株主の納得が得られて、投資に見合った効果が得られる方法というのは難題だが、

トランプ氏としては日本製鉄の「投資」に期待しているわけですから、

なにか折りあいが付く案はありそうだなとは思う。


トランプ大統領の発言にしては意外とまともな気はした。

商売としてはもっともな話だが、アメリカ国民の心情に配慮しなさいと。

そういう話って世の中しばしばあるんですよ。

そこを打開する策が株主に受けいられるかという課題はあるものの、

日本製鉄とUSスチールの統合というのは競争法上の問題は少ないので、

この点ではかなり有利な案という側面はある。

日本製鉄の手腕も含めて、トランプ大統領はかなり評価しているのでは?

対等な関係とはなにか

こんなニュースが流れてきて、大概呆れられていたのですが……

ホンダ・日産の経営統合、破談の公算 日産子会社化案で協議継続困難 (毎日新聞)

ホンダと日産が共同で持株会社を作って経営統合するという話について、両社で議論が行われていたが、

日産の経営再建という点ではホンダが日産を子会社化するのがよいのではないかと提案があるも、

これでは「対等の関係」とはいえないと日産からの抵抗が大きく、破談になりそうだという話である。


日産というのは社内での権力闘争についてのエピソードがいろいろある会社で、

そういう会社がホンダの子会社になることに抵抗するのは、容易に想像できる話だとか言われてたが。

子会社になれば日産の経営陣のほとんどは残れないのはそうなのだろうけど。

ホンダが想定している子会社化の方法がどのようなものかはわからないけど、

株式移転での持株会社設立であれば、株主に払う現金はいらないが、

例えば、株式公開買付で子会社化するとなれば、それだけの現金が必要である。

観点によってはホンダにとってリスクを負う話である。


確かに子会社化というのは資本的に言えば「対等の関係」とは言えないが、

「対等の関係」での経営統合といいつつ、一方の子会社になる決断をする会社もある。

DMG森精機が「日独統合」を早めた理由 (東洋経済ONLINE)

森精機がDMG森精機と社名を変えたのは2013年のこと。

2009年にドイツのGILDEMEISTER社と提携関係を結び、

同社も2013年にDMG MORI SEIKI AGと社名変更をしているが、

この時点では両社はお互いの大株主という程度の関係である。

当初描いていたのは、東京とフランクフルトの両株式市場に上場する1つの会社になるという案で、

株式の買付などにお金を使わず、社内での投資に回したいという意図があったわけである。


ところがこのような国をまたぐ株式交換というのは大変難しい事情があった。

独立した2つの会社のままでは経営の一体化はおおよそ困難である。

そこで日本のDMG森精機はドイツのDMG MORI SEIKI AGを子会社化することを決断した。

公開買付のためにお金はかかるけど、両社の経営を一体化することを急いだわけである。

日本のDMG森精機としては短期間で回収可能であるとの判断である。

資本的には親子関係ではあるが、「対等の関係」とはアピールされており、

ガバナンスについても「両者間での(意思決定の)取り決めは厳密に決められている、AG社の自由度は確保する」(森社長)と明言。さらに「保有比率が100%となれば取締役の数は(DMG森精機とAG社と)半々にしたい」と、対等の経営統合を目指す姿勢を鮮明にした。

と書かれているとおりである。なお、現在もドイツのDMG MORI AGは当地で上場を維持している。


形式的にはそっちが存続会社だけど……という話もあって……

イオングループ内の食品スーパー事業の再編の話だが、

フジとマックスバリュ西日本(2021年にマルナカ・山陽マルナカを合併)が2022年に経営統合、統合後の社名は「フジ」となった。

ただ、統合して早々、本社を松山から広島に移転している。

ここはマックスバリュ西日本の本社であり、イオンリテール中四国カンパニーの事務所である。

統合の経緯もあり、上場企業で後からイオングループに入ったフジの名前は残したが、

組織という面では旧マックスバリュ西日本を継承する部分が多かったようである。


イオングループでは今後、ツルハとウエルシアの経営統合が控えている。

この経営統合の具体的な手法はまだ明らかではないが、

統合後はツルハホールディングスがイオングループのヘルス&ウエルネス事業の統括会社になるとされている。

でも、事業規模で見ればウエルシアの方がはるかに大きく、同社の体制を引き継ぐ面が多いのではないかとは言われている。

この経営統合の経緯としては同族経営が続くツルハの体制にオアシス・マネージメントが問題視したことがある。

体制が整った会社の傘下に入るのも手段と、大株主のイオン傘下に入る選択肢が呈示され、それを選んだわけである。

ツルハがイオン傘下を選ぶまで

ツルハホールディングスが存続会社になる予定であるのは、創業家にとっての納得感のためだと思われる。

だからといって現在のツルハの経営陣が残れるという保証はないのである。

歴史ある会社を様々傘下に入れてきたイオンだからこそ探れた妥協点なのかもしれないけど。


というわけで形式的な部分だけ見てもいけないのである。

ホンダと日産の件に付いて言えば、このような提案がなされた背景には、

日産側に「対等の関係」という考えが欠けていたんじゃないかと想像するところはあり、

ホンダとしてはこのような会社と一蓮托生となるのは受け入れられないとなったのではないか。

それなら単純に破談としてもよかったのかもしれないけど、

ホンダが日産の経営に責任を持てる形であれば受け入れられるとしたのではないか。

その手法として公開買付を選べばホンダとしては余計なお金はかかってしまうが、

それでも日産の再建に成功できれば価値はあると。そう判断したのだと思う。

けっこうな譲歩だったんじゃないですかね。で、それを日産は蹴りそうだと。


そもそもこの経営統合の引き金を引いたのが、台湾のホンハイ精密工業による日産の買収提案だったとされている。

で、なぜホンハイは日産を買おうとしたのかというと、

同社の自動車部門のトップの関氏が日産出身という縁があったからである。

ただ、関氏は日産からホンハイに直接転職したわけではない。

その間には日本電産(Nidec)の社長、永守氏の後継者候補だった時期がある。

永守氏は日産の副COOを引き抜いてきて後継者にしようとしたのである。

ところが永守氏のお眼鏡にかなわず、ホンハイに転じたという経緯がある。

このあたりの経緯はかなり理不尽な話で、永守さんもひどいことをしたもんだと思うのだけど、

そもそも関氏が永守氏の誘いに応じたのも、日産社内の権力闘争が背景にあったのではという説がある。

結局は身から出た錆なんじゃないですかね。真相はさておき。

女同士で浮気って言う必要あるの?

先日発売された2つの小説が話題になっていて……

人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話2 (KADOKAWA)

彼女のカノジョと不純な初恋 (KADOKAWA)

同じ出版社で発売日が同じ、そして女同士の恋愛と浮気である。

同じ出版社といってもライトノベルのガリバーであるKADOKAWAだから普通……

と思いきやどっちも電撃文庫ということでレーベルまで同じでしたか。


「人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話」というのはタイトルがひどすぎるが、

以前もカクヨムネクストの話で話題にしてますね。

小説投稿サイトのプロ部門

上下巻構成で終わると思っていたら、収まりきらなかったようで3巻構成になりそうと。

既婚の高校教師、苺原樹が教え子の女子生徒に誘われるがままに手を出してしまうという内容である。

そんなことあるか? という感じはあるが、そこは小説ということで。うまく書いている。

2巻の紹介が「こんにちは! 私淫行教師の苺原樹! 十歳年下の教え子と関係を結んで平気な顔で教壇に立っているどうしようもないやつだよ!」とあって、

これは実際に小説の中で出てくる文言なのだが、ここにこの話の特色が現れている気がする。


「淫行教師」という部分は全く言い訳が立たないのですが……

高校生相手に女同士だから問題ないとは言えないでしょう。

一方で夫がいる中で女同士で付き合うことを「不倫」と重く考える必要があるのかというのは意見が分かれるところはあるかもしれない。

表に見える部分だけ集めれば、教師と生徒が公使ともに親しくしているぐらいの話で、

そこには教え子のプライベートな事情もあるということで。

2巻の結末はまさにそんな話だった。(ネタバレになるから書かないけど)

表向きはそんなにおかしな話ではないが、「不倫」と考えれば危ないというやつ。


逆に「彼女のカノジョと不純な初恋」は、紹介文に「恋愛感情がなければ浮気じゃない」なんて書いてあるけど、

これは浮気ではないかと言われる中で、友人関係の範疇であると言い張る話である。

そもそも背景として 碧海つかさ と 狭山玲羅 はよく知られた「カノジョ」同士ということがある。

女同士で付き合っていると考えられている。(実はここに疑義があるのでは? と書かれていたが)

で、この2人、元々は同居していたのだが、つかさが家を飛び出してきたところ、

事情があり、高校生でありながら1人暮らししている 拝島雪 の家に転がり込んできたと。

で、女同士で付き合っているとされる人と同居して親しくするのは浮気ではないかという指摘があり、

実際そういう見方もできる……というか際どいところはあるというか、言い訳できない部分もあるが、

先ほど書いたように表向き「恋愛感情がなければ浮気じゃない」としているところである。


で、この浮気ではないかと言っているのが、雪の友達である久留米弓莉なのだが、

口絵のキャラクタ紹介に「ユキに強い感情を向けている」とあるように、

この指摘は表向きは友人からの忠告に過ぎないのだが、おそらく別の思惑もあって……

転がり込んできた女に友人を取られることへの危機感なんでしょうよ。

「最近友人づきあいが悪いじゃないか」というような話なら一般的な友人関係にもありそうだが、

それを越えて独占したい人間関係ってもはや……ということなんですね。

玲羅-つかさ、つかさ-雪、雪-弓莉 の関係それぞれに着目してみると、

表向き恋人同士、友人同士、その実態は両思い、片思いの恋愛関係というのが交錯して大変煩雑である。

あとがきに「なぜかとても湿度が高い作品になっていました」とあった通り。


「夫がいる中で女同士で付き合うことを『不倫』と重く考える必要があるのか」と書いたが、

これは意見はいろいろあると思うが、男女間の関係と男同士・女同士は別という考えは一定ありそうである。

実際、男同士だからそれは別という考えを聞いたことはあるような気がする。

それで当事者同士が納得してしまえばそれで全部済んでしまうと。

もっとも「淫行教師」という部分は教員としての倫理とか、

現代的な言い方では「不同意性交等罪」への該当性とか問題はありますけど。

(かつての強姦罪だが、2023年以降、この名前になってからは女同士でも適用される余地が生じた)


そもそも浮気はいけないという考えはどこから出てきたのかという話もある。

さっき弓莉が浮気ではないかと忠告するのは「友人を取られることへの危機感」か?

なんて書いたけど、わりとそういう素朴なところが起点なのかもしれない。

ただ、男女間、特に婚姻関係となれば、より大きな問題がある。

まず重婚が禁止されているので、2つ以上の婚姻関係が同時に存在することはできない。

重婚があると絶対に困るなと思うのは嫡出推定である。

生まれてきた子の母親に2人以上夫がいたら嫡出推定なんて成り立ちませんよね。

(世界的には一夫多妻制が制度化されている地域はあるが、その逆がおおっぴらに行われている話は聞かない)

夫婦間には強い扶養義務がありますが、配偶者が2人以上いた場合には実現性にかなり問題がありそうで、

一夫多妻制が認められている地域でも扶養義務を確実に履行できることが要件にあったりする。

不貞行為が糾弾されるのも、親子関係や扶養関係というところへの憂慮が大きいんだと思いますけどね。

あとは税制や年金で優遇のある配偶者が2人以上いては不公平というのもあるでしょうしね。


で、この上に書いたようなことの起点がどこにあるのか考えると、

夫婦間に子供が生まれる可能性があるというところにあるんじゃないかと。

だから、結婚は嫡出推定や親権などの親子関係に影響を与えるし、

出産・育児などで仕事から(一時的かもしれないが)離れるのも珍しくない中で、

強い扶養義務、所得税・住民税の控除、社会保険料の軽減であったり、

配偶者の死後においては最低でも1/2の法定相続分、1/4の遺留分があり、

それに伴って相続税も軽減されることとなる。

制度面の話ばかり書いたけど、それ以外の慣例を生んでいる背景の多くはそこだと思いますよ。


じゃあ、男同士・女同士には成り立たないねという考えもあると思うんですよ。

男同士・女同士の恋愛関係があってもよいけど、

そこに男女間の関係にあるルールを当てはめてもうまくいかない可能性は大いにあるんじゃないか。

それでだいぶ前から同性婚に関する議論がとても危ういなと思っているんだよね。


というのも同性婚が制度化されたら、専ら相続時の優遇を目的に使う人が出てくるんじゃないかと。

もちろん男同士・女同士であっても相続が安定的にできることは、

同性婚を切望するひとにとって切実な課題の1つであるとは理解している。

でも、果たして節税同性婚なんてのが問題になったときに、世論は納得するのか? と聞かれると、

僕はそうもいかないんじゃないかなと思うんですよね。


本当に不公平かというと必ずしもそうとは言えないんだけど。

というのも男女間の結婚であってももっぱら節税目的で行われる可能性は存在する。

さっき結婚についての制度や慣例の多くは夫婦間に子供が生まれる可能性から来ているのではと書いたが、

夫婦間に子供がいるとは限らないし、おおよそ子供が生まれるとは思えない結婚でも成立するし、

親子関係に関わるものは関係ないにせよ、それ以外の効力は同様である

同性婚だってそれと同じことだから問題ないし、

重婚の禁止などの規定も適用されるだろう特段不公平とは言えない。


でも、なんやかんや言っても男女間だといろいろな慣例があって、

制度上可能だとしても踏みとどまるようなケースが多いと思うんですよね。

ところが男同士・女同士は別とすっ飛んで「節税同性婚」が容易に成立する可能性はかなりあるんじゃないかと思うんですよ。

で、そこに世論が納得しない場合、何らかの制限が必要になるかもしれないが、

男女間の結婚と同性婚に大きな差が生じるような制度は作れないでしょう。

子供がいることに着目するのか、婚姻期間に着目するのか、いろいろ考えはあると思うけど、

従来は全く問題なかったはずの男女間の結婚に問題が生じることになる。


ところで「節税養子」という言葉もありますが、

相続時の優遇を目的として成人同士の養子縁組が行われることは日本ではよくある。

というか日本の養子縁組のほとんどが配偶者の子に対するものと成人同士のものなんじゃないかね。

(養子縁組には家庭裁判所の許可が必要だが、この2つのケースは家庭裁判所の許可が不要である)

成人同士の養子縁組は子供の福祉に全く寄与しないので本来の趣旨から逸脱しているのだが、

日本では後継者を養子にして継承するということが伝統的に行われてきた。

現在もこの考え方は日本社会においては広く受け入れられているので、

節税養子というのも一定の制約のもとに公然と認められている。


そういう背景のない節税同性婚はおそらく社会的に受け入れられないんじゃないですかね。

そこをつぶす制度変更をするかどうかというのは政治的な判断だが、

そこをつぶすと男女間の結婚関係の慣例を多少なりとも破壊しかねないので、

そこが受け入れられるかというのは難しい問題ではないかと思う。

夫婦間に子供がいるような典型的なケースは従来通りカバーできる制度にすると思うが、

そこからこぼれる夫婦は不適格なのかという人は絶対に出てくるわけで、

そこに納得しない人が同性婚を制度化させるように仕向けたひとを批判するのは目に見えている。


話は長くなってしまったが、いろいろ突き詰めると難しい問題がある。

小説の話に戻ると――

「人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話」の特徴というのは、

男女間でやれば「不倫」ということを女同士でやって、これは不倫だと自らを責め立てるところにあると思っていて、

でも「後悔自体は一切ない」とあるように、そういう選択は普通にあるなというところが妙である。

「彼女のカノジョと不純な初恋」というのは、

友人関係と主張できる女同士の関係だとか、浮気をすれば糾弾されるような女同士の関係だとか、

なんとでも言えてしまうという要素がいろいろなところに現れている。

そんな中で関係を深めていくというところが面白いのではないかと思う。

どっちも大爆発エンドという可能性もありそうな作品ですけど、

何らかポジティブな結果には終わるんじゃないかと期待しているところである。

「彼女のカノジョと不純な初恋」の方は続刊出るか知らんけど。

ラブラッドアプリがない人の献血

金曜に献血に行っていた。平日にしてはえらい混んでた気がする。

そこで掲出されていたのだけど、来年1月から献血カードの発行・更新をしなくなり、

ラブラッドアプリを使用しての受付が基本になるそう。


こうなると気になるのがアプリを使えない人への対応である。

アプリがないと献血できない? そんなわけはないでしょう。

何年も前に献血したことがあるような……という人が献血会場に来て、

じゃあ受付用紙に情報を書いてくれと言われて、それを元に検索して、

ありましたねと言われて献血している人はナンボでもいるわけである。

それは来年以降も変わるわけはない。献血久しぶりの人を拒むわけはないのだから。


今後、アプリがない人のワークアラウンドは明示されるかもしれないが、

おそらく都度、氏名・生年月日などで検索するということになるのだと。

取り違えが心配だが、最近は指静脈情報での認証を行っているのでおそらく問題はないだろう。

明確に変わるのは献血カードの発行・更新を行わなくなること。

あのリライタブルカードのシステムを維持するのをやめるということで、

次回献血可能日などをカードに記載して教えるということはやりませんよと。

代替手段として献血者コードを書いた紙切れを渡すようなことはあるかもしれない。

これでも献血時の本人確認としては一定の意義がある。

次回献血可能日は自分で計算するかラブラッドのWebサイトで見るか、それで勘弁してねと。


アプリへの一本化はどうかと思うところはあるけど、

ラブラッドアプリは便利であることは確かである。

1つはアプリからサクッと予約ができること。

昔は予約という概念がなく出たとこ勝負だったり、電話をかけて予約したり、

そんなのだったけど成分献血だと予約しないなんてあり得ないよね。

さすがにバスでの献血を予約する人はそうそういないだろうけど。

もう1つはやはり問診の事前入力である。これは本当に楽である。

15分前までに入れておかないと受付時に反映できないのが注意だが。


ラブラッドアプリを多くの人が利用するようになっていて、

リライタブルカードで献血カードを発行する意味が薄れていて、

ゆえに発行・更新を停止するというのは、理解できる話ではあるが、

全ての人がその恩恵にあずかれるというわけではないのも事実。

で、似たような話があったなと思ったんですよね。

それがETC専用のインターチェンジを暴力団員が利用できるかという話である。

高速6社「暴力団員もETC使わず走行可に」 憲法違反の訴えに反論 (朝日新聞デジタル)

暴力団員はクレジットカードを作ろうとしても拒まれる状況にあり、

ETCパーソナルカードというデポジット式のカードでさえ拒まれる状況。

一方で都市高速を中心に既存の料金所がETC専用化される流れもあり、

こうなるとヤクザは高速道路を使えないという状況にもなりかねない。

それっておかしいんじゃないのという話で、本当に道路が使えなければ確かに問題である。

しかし、高速道路各社の回答としてはサポートレーンに入って料金を後払いするという方法はあると。

この方法ならばETCがない人でもETC専用出入口が使えるという理屈である。

ETCで何らかトラブルがあり、Web・電話で申告してETCカードに請求してもらったり、後で料金所事務所で払ったり、

そういう手続きを行うことは普通にあるわけで、できない話ではないが、

それが正当な手段ですよと言われてしまうと、そうなの? とはなる。


ラブラッドアプリのない人の献血ってのも同じような話だと思いますね。

都度検索すればアプリがなくても献血することはできるが、

それが当然となる人がいていいのかという話は当然の指摘である。

でも、アプリがないひとを拒むことはないのはほぼ間違えない。

【令和8年1月5日(月)から】献血カード・献血手帳の新規発行および更新の終了について (日本赤十字社)

ここに「アプリやカードをお持ちでなくても献血の受付は可能ですが」って書いてあるよね。

所得税の申告で手入力は少なくなった

所得税の申告書類が揃っていることに気づいたのでe-Taxでサクッと申告した。

確定申告の期日前だが、そもそも還付申告なので関係ないし。


で、今回の提出書類の多くがXMLデータだった。

GMOクリック証券の年間取引報告書はXMLで受信にしていたし、

市町村・道府県への寄付金については、各プラットフォームがXMLを出している。

ふるさとチョイス、さとふる、au PAYふるさと納税、それぞれでダウンロードできた。

XMLデータを食わせていくと、これらの項目はほぼ自動入力である。

(譲渡所得は他の費用がないかなど手で入れる項目は多少あったが)


結果として他の入力項目は給与の源泉徴収票と、

それ以外の寄付金(日本赤十字社・国立文化財機構)だけだった。

給与の源泉徴収票は入力項目が多くて煩わしいのだが、

実は事前登録しておけば源泉徴収票のデータが自動入力される機能があるそう。

給与所得の確定申告がさらに簡単に!【利用者用ページ】 (国税庁)

よくわからん書き方だが、e-Taxの「本人確認/情報取得希望」を登録しておく必要がある。


ただ、現状はかなり穴があって、それは勤務先から税務署に源泉徴収票が電子的に送信されている必要があること。

源泉徴収票というのが問題で、給与の源泉徴収票は支払額500万円以下の場合は税務署に送信する必要はない。

ただ、その場合でもほぼ同じ内容を記載した給与支払報告書を市町村に提出する必要があり、

多くの場合はeLTAXという地方税ポータルサイトで電子的に提出されている。

これを元にして住民税の計算を行い、6月に住民税額が届くわけである。

ほぼ同じものをe-Tax(税務署)とeLTAX(市町村)に提出するのは無駄ということで、

eLTAXに提出すれば税務署への提出も兼ねるという制度変更がなされるようだし、

現状でもeLTAXへの送信データ作成時に500万円以下の分も含めてまとめてe-Taxのデータにして提出することはできる。

なのですでに解消されている場合もあるし、将来的にはほぼ解消する見込みである。


あと、僕は職場の年末調整で提出したけど、保険料控除の書類も手入力になりがちだが、

こちらも実はXMLでの受信が可能になっていることがあって、

全国生協連は昨年分からXMLでの発行が可能になったそう。

現状は職場での提出方法が紙での提出だから、郵送されてきたのを出しているけど、

職場でもXMLデータで提出に対応しているところはあるかもしれない。

そもそも所得税の申告をするのなら会社に紙で提出する必要が無いのはそうなのだけど。


その他の寄付金控除もXML形式で作成することはできるが、

ニーズがどの程度あるかという問題はあると思う。

あと、住民税の申告を兼ねるという点では条例指定か否かという情報も必要だが、

これはe-TAXでは自動判別できないので手入力になるはず。

圧倒的にニーズの多い市町村・道府県への寄付金は自動的に判別できるけどね。

(東京都と洲本市・都農町以外は全て対象なわけだし)

日本赤十字社の受領証はどうせPDFでダウンロードするのだし、

同じ情報をXMLでも用意してくれれば助かるのはあるんだけどね。


申告前のチェックで寄付金の条例指定状況の入力がミスしているのに気づき、

危ない危ないと思って修正した程度で、もう慣れたもんですね。

あと、振込先の入力もいらなくなったんですよね。

公金受取口座を使うとしたらそれで済むからである。

この公金受取口座というのも過去の所得税の還付に使った口座なわけで、

実態としては前回のデータを使うに近いのだが、こういうデータを行政機関で保持するようになったのは大きな変化ではある。

USスチールがぶち切れるわけ

USスチールがぶち切れているということで話題となっていたのだが……

日鉄のUSスチール買収阻止にCEO「中国が小躍り」と激怒 労組は「歓迎」で温度差 (産経新聞)

社長のコメントとしてこういうことを言うかという話だが、それだけ道理のないということで。


外国企業がアメリカ企業を買収する場合、CFIUSの審査を受けなければならない。

多くはすぐに承認されるようだが、詳細な検討が必要となると時間がかかる。

日本製鉄によるUSスチールの買収はこのパターンにあたったわけだが、

CFIUSの審査結果は「合意に達することができなかった」というものだった。

は? と思ったのだが、複数の省庁の合議体で全会一致できないとこうなるらしい。

その場合に最終判定を行うのは大統領ということでめんどくさいことしてくれたなと。


バイデン大統領は日本製鉄によるUSスチールの買収を阻止すると豪語していた。

これは民主党の支持団体の1つである 全米鉄鋼労働組合(USW)の働きかけもあったのだが、

次期大統領のトランプ氏も同じようなことを言ってるから、2大政党が揃って阻止すると言ってるのだが。

じゃあ、大統領が判定するとなればNO GOになるに決まってるじゃないかと。単純に考えればそうだが。


ただ、CFIUSの審査で残った懸念は「国内の鉄鋼生産量が減少するおそれ」なんですよね。

日鉄のUSスチール買収審査、国家安全保障リスクで合意できず=米紙 (ロイター)

とはいえ、USスチールは買収不成立となれば、老朽化したモンバレー製鉄所を閉鎖すると言っているほどである。

USスチールには老朽化した製鉄所を改修する金はないのである。

大義がないのに大統領が買収を差し止めたとなれば、国の信用にも関わる話である。

公約で買収を阻止するとは言ったけど、CFIUSの見解を見て阻止するには値しませんでしたというのもあると思っていた。

ところがなんと大統領の手で買収を阻止したのである。そんな野蛮な国が存在したんですね。


それに対するUSスチールの社長のコメントもひどいものである。

「北京の中国共産党指導者たちは路上で小躍りして(喜んで)いる」というのはいかにも陰謀論めいた話である。

USスチールを追い詰めた要因の1つが中国での鉄の過剰生産だとされている。

世界的にも製鉄業が苦境になる中、日本製鉄は高付加価値の鉄でうまくやっていて、

過剰生産に打ち勝つための方策があり、そのための投資をすると言っている。

ところが買収阻止によりこれが打ち砕かれれば、過剰生産をする中国の思うつぼじゃないかと。


買収が成立しなければモンバレー製鉄所の閉鎖もあるという話が出てきて、

日本製鉄としても丁寧な説明をしたこともあってか、USスチールに近いところでは買収への理解は深まっているところである。

地元市長は買収を承認するようにと大統領に陳情をしていたというし、

実はUSスチールの労働組合も買収には賛同しているところである。

上部団体のUSWは反対しているのだが、その下部では賛成なんですね。


日本だと会社別の労働組合が基本だが、アメリカでは業種別の労働組合が基本である。

業種全体として処遇改善を訴えかけるには協調して労使交渉やストライキにあたるのが効果的だが、日本ではあまりみられない。

善し悪しはあるが、会社ごとの事情を見ながら対話できるのはよい側面である。

USWとしては製鉄業全体を見て買収を阻止するべきと主張したという理屈だが、

下部団体の組合員の意向が反映されていないのはどうなんだという話になり、

それが実際に影響を与えたとすれば、USWにとっても大きな問題ではないか。


司法判断を仰ぐという話もあるのだけど、早々どうにかなりそうな話ではない。

ビジネス的には買収失敗という方向で動かざるを得ないわけだけど、

こうなると日本製鉄がUSスチールに違約金を払わないといけない。

そうなんですよ。競争法上の問題などで買収が成立しなかった場合は、

買収をしかけた会社が違約金を払うという商慣例があるんですよ。

その額はなんと約890億円、USスチールに投資額に比べれば小さいが何のリターンもないお金である。

買収不成立の違約金といえば、T-Mobile USのことを思い出す。

ソフトバンクがアメリカで当時加入者数3位の携帯電話会社、Sprintを買収したとき、

業界4位のT-Mobile USと経営統合して、上位2社と戦うことを目論んでいたとされている。

この当時、AT&TによるT-Mobile USの買収が2社合計のシェアが高すぎると阻止されている。

ならば3位のSprintなら認められるだろうという目論見はあったのだが、

このときT-Mobile USは多額の違約金を得て、このお金で顧客開拓を進めたと。

するとみるみる契約者数が増加し、Sprintを抜いて業界3位となったわけである。

こうなるとSprintがT-Mobile USを買収するという目論見は成り立たず、

最終的にはT-Mobile USにSprintが吸収されるという形になっている。

ソフトバンクは引き続き大株主だが、親会社はドイツテレコムである。


いろいろ信じがたい話ですよね。

アメリカがわりと閉鎖的な国であるのは今さらではあるけど、

それにしてもさすがにこれはおかしいと思いますけどね。

アメリカの製造業にとっても波及効果の大きな買収案だっただけに本当に変な話である。

都ホテルが手放さなかったホテル

昨日、名鉄名古屋駅の駅ビルに近鉄が経営するホテルが入居するという話を書いたが、

実は近鉄は2021年に所有するホテル8つをブラックストーンが出資する特定目的会社に売却している。

これにより、近鉄・都ホテルズはホテル運営の受託を主とする会社となっている。


ただ、全てを売却したわけでもないというのもポイントである。

近鉄グループとブラックストーンとのホテル事業に関する合弁事業開始について (pdf)

最終ページに載っているのだが、売却しなかったホテルも11店舗ある。

そもそもが借り物のホテルが3店舗、それは売却できるわけはない。

鉄道施設と切り離せない、すなわち駅ビルに入居しているのが3店舗、

シェラトン都ホテル大阪(上本町)、都シティ天王寺(あべの橋)、ホテル近鉄京都駅と。

そして「フラッグシップホテル」として挙げられた5店舗である。

うち1つは大阪マリオット都ホテル、あべのハルカスに入居するホテルだから、駅ビルのホテルでもある。

それを除いて4つ、これは明確な意図を持って自己所有にしている。

ウェスティン都ホテル京都、これは蹴上にある元祖都ホテルだな。

志摩観光ホテル ザ クラシック と ザ ベイスイート、サミット会場にもなったVIP御用達のホテルである。

シェラトン都ホテル東京、白金台にあり、東京での事業拠点として重視したか。

でも、元祖都ホテルや志摩観光ホテルと比べると重要度は低そうではある。


自己所有から運営受託に移行してもやること自体はあまり変わらない。

ただ、その場合に課題になるのは、委託してもらえるかというところで、

都ホテルよりいい委託先があるとなれば、捨てられる可能性はある。

もっとも売却先の特定目的会社には近鉄も出資しているそうだから、

ブラックストーンの意向だけで決められる話でもないんだろうけど。

ともあれ、都ホテルとしては接客など磨かないとどうにもならないと。

でも、もしもブラックストーンに見放されたとしても、

駅ビルのホテルと「フラッグシップホテル」だけは都ホテルであり続けることができるわけである。


当時は鉄道事業もホテル事業も経営が厳しく、売却によりリスクを移転して、現金を得たという側面もあるのだが、

今後は受託ビジネスで事業を拡大していきたいという意図もあるようで、

特に沿線外への進出となれば、この形がよいのではないかと考えているよう。

沿線外と言えば、2017年に閉鎖された金沢都ホテルがある。

「金沢都ホテル」跡地の開発に向け 市長が不動産会社を訪問へ (NHK)

高さ制限の緩和を見越して空き地のまま放置されているようだが、

緩和のための手続きを進めているので、近鉄に早期にホテルを建てるようにと言っていると。

こういうのは共同事業の対象としてやっていく可能性が高そうである。


逆に投資する側としては、ホテルというのは浮き沈みが激しい商売だが、

それゆえに投資に値するという事情もあるようだ。

金余りの末に向かった先がホテルだったという側面もかなりある。

同様のことはプリンスホテルなど経営する西武グループにもあったようだ。

西武HD、赤プリ跡地ビル4000億円で売却 業績も上方修正 (日本経済新聞)

2022年にもシンガポールの投資ファンドGICにホテル・スキー場を売却しており、

さらに今年に東京ガーデンテラス紀尾井町をブラックストーンに売却したと。

この金額が4000億円ととんでもない金額なので、使い道が話題になっている。

行き先の1つとしては、西武ライオンズや西武ドームも考えられており、野球ファンからの期待も大きいとか。

なお、これらの売却後もプリンスホテルは引き続き受託を続けているところである。


というわけでいろいろあるんだなという話だった。

果たして近鉄は名鉄名古屋駅の駅ビルでどんなことを考えているのだろうか。