参議院選挙の告示があって、近所のポスター掲示板にも選挙区の立候補者のポスターがぽつぽつ貼られている。
東京都選挙区は改選数6ということもあって、様々な候補者が出てくる傾向が強い。
組織力の弱い候補者にとってはポスターを貼りきれないのは普通のことである。
2日目にしてポスターが掲出されているのは半分程度である。
立候補者もいろいろだが、いろんな意味で驚いたのがこれ。
れいわ山本太郎氏、比例区で出馬 特定枠にALS患者ら (朝日新聞デジタル)
「れいわ新撰組」は今回の選挙に向けて新しく立ち上げられた政治団体である。
パッと見ても様々な背景を持つ候補者を擁立しているのがわかるが、その中で注目したいのが 舩後靖彦氏 と 木村英子氏 である。
舩後氏はALS患者、体をほとんど動かすことができず、意思の伝達には特殊な装置を使う必要があるが、それで講演活動もしている。
ALS患者というのは、意思を表すのは難しいが頭脳は働く。過去には市議会議員選挙に立候補したこともあるらしい。落選したが。
木村氏は脳性まひにより体をほとんど動かすことが出来ず、絶えず介助が必要である。その立場からこれまで介護の充実などを訴える活動をしてきた。
なるほど。確かにこれほど重度の障害を持つ人が国会議員になったことはないが、そういう議員もいていいかもしれない。
比例代表での立候補を想定しているとのことで、全国の有権者の意図を集められるのだから、もっとも適切な立候補先だろう。
このような人が国会議員になることには賛否が分かれるかも知れないが、
参議院の比例代表は非拘束名簿方式、政党・団体内での当選順序は個人名での得票により決まる。
個人名でも多くの得票を得て当選すれば、これが民意だと反論できないのだから、もし当選したら大きな意味があるだろう。
これだけ注目される立場になれば、個人名での得票を集めて当選することも十分あるかも知れない。
……と、立候補のニュースを初めて見たときには思った。
ところが、フタを開けてみれば、この2人は比例代表の特定枠での立候補となった。
特定枠というのは、去年の公職選挙法改正で新しくできた制度で、
本来は参議院の比例代表は非拘束名簿方式で、政党・団体が当選順序を決めるのではなく、個人名での得票で当選順序が決めるところ、
政党・団体が希望すれば、何人か優先的に当選できる候補者を決められるということで、最初の何人かを拘束名簿にできるということ。
この制度は自民党の提案で作られた制度で、背景には鳥取県と島根県、徳島県と高知県で1つの選挙区を構成することになったことがある。
2県で1つの選挙区が生まれた背景には、一票の格差を是正するためにはやむを得ないという決断があった。
そもそも政権与党の自民党は1つの都道府県で改選数1以上を割り振ることにこだわっていたのだが、
参議院の選挙区の定数は146人、でも参議院は半数改選なので改選数は73で、これで人口規模の少ない県まで改選数1を割り振るのはとても難しい。
議員数を増やせば緩和できるが、それは否定的で、それでも、これ以上一票の格差を放置しては裁判所から違憲と言われ、選挙無効ということにもなりかねない。
そこで2015年には人口規模の特に少ない4県で2県で1つの選挙区にして、それを人口の多い都道府県に振り直すという対策を行った。
それでも1票の格差は3倍にも達する状況だが、以前は5倍にも達していたほどで、かなりの改善効果があった。
ところが自民党内での不満は相当なものだったようで、立候補者を出せなくなる県への手当が必要になり、
そこで立候補者を出さない県からは、比例代表の特定枠の立候補者を出してもらい、確実に国会に送るという対策を取ることにしたのだという。
これには自民党の党利党略だとかなんとか非難も多かった。
ただ、自民党は立候補者を出せない県への対策に使うが、これをどう使うかは各政党・団体の自由だし、そもそも使わなくてもよい。
特定枠を使わない政党・団体としては共産党、オリーブの木、社民党、公明党、国民民主党、日本維新の会、幸福実現党、立憲民主党、NHKから国民を守る党がある。
特定枠を使う政党・団体は自民党、労働の解放をめざす労働者党、そして れいわ新撰組 の3つである。
自民党は先ほど書いたように徳島県・島根県からの候補者で、それぞれ選挙区から出せない方の県から出ている。
労働の解放をめざす労働者党は立候補者4人の中で1人いる女性候補者を特定枠にしている。
そして れいわ新撰組 では障害者を特定枠にあてたわけで、確かに使い方はいろいろである。
確かにこの制度をどう使うかはそれぞれの政党・団体の自由だが、投票する有権者がそのことに納得しているかが問題だ。
自民党の使い方も、国会議員はそもそも全国民の代表という憲法の考えからするとどうかとは思うが、党内では熟慮されて決められたことではある。
自民党ではこれまでも衆議院では、何らかの事情で選挙区への立候補ができない候補者を比例代表で優先的に当選させることはよくあった。
良くも悪くも一貫していて、有権者にとっても納得感はあるのかもしれない。
ただ、れいわ新撰組 に票を託したい有権者にとっては、この2人が優先的に当選するのが本意なのかは疑問で、
というのも、立候補者のラインナップを見ると、この人の個人名で票を稼ごうとしてるんだろうなというのが透けて見えるんだよね。
確かに、かつての全国区では、票の取り過ぎによる死票が多く発生するという欠点があったわけだが、
非拘束名簿方式の比例代表制では、個人名の票が多く集まりすぎても、同じ政党・団体の他の候補者の当選につなげられるし、
逆に票が少なくて当選に至らなかった人の個人票も同じ政党・団体の他の候補者の当選につなげられる。(cf. 非拘束名簿式比例代表制のいいところ)
ところが、特定枠を使うがために、特定枠の2人が当選しないと、それ以外の候補者は当選できない。
有権者はこのことを正しく理解して投票してくれるのか。結果として自らが希望した候補者が当選しないことは受け入れられるのか。
当選したとしても、どうせ特定枠で当選したんだとか、果たしてそれは民意なのかと非難される危うい立場になりかねない。
障害者への合理的配慮というのは れいわ新撰組 の政策の1つで、それに従ったものではあるとはいえ、
得票結果次第では、団体の政策とかそんなことより代表の知名度で取った得票じゃないかと言われかねない。
重度の障害があっても、配慮があれば国会議員としての役目は果たせるはずという話ではあるが、実際には厳しいのではという見方もある。
十分な責務が果たせない国会議員なんていくらでもいたはずだが、その議員を選んだのも民意だからと尊重されるのが通常だった。
でも、民意であるかも疑わしいとなれば、果たしてどうなるんだろうかという懸念がある。
ここまで書いてきたのはかなり悪いシナリオだが、
そもそも れいわ新撰組 が1議席も取れなければ、みんな仲良く落選なので、何ら支持は得られなかったということで終わり。
当選者数が十分多ければ、れいわ新撰組という政党(5議席以上取るなどの条件を満たせば政党になる)の地位が確立されて、多くの活躍も期待できる。
一番悪いのは れいわ新撰組 が1~2議席だけ取って、しかもその得票の大半が代表とかの個人名で集めた票だったときだよね。
他の会派に入れてもらうか、1議席なら無所属、2議席なら2人会派で細々とやっていくのか。代表不在ではなかなかやりにくいでしょう。
なにぶん新しい政治団体なので、どこに転ぶかは読みにくい。
ちなみに特定枠の候補者も名簿登載者には違いないので、投票用紙に記載することは出来る。
ただし、書いたとしても政党名を書いた票と同じく集計されることになるらしい。
なぜならば、政党・団体内での当選順序を決める上では全く関係ないからである。
本来、参議院選挙の比例代表の候補者は個人でビラやハガキを作成することができるのだが、
特定枠の候補者は個人名での得票を集める必要が無いので、個人名でのビラ・ハガキの作成はできないし、街頭演説もできない。
衆議院議員選挙では政党がビラを作ったり、街頭演説をすることができるが、参議院は政党の選挙運動もできない。
ということは、特定枠の候補者が訴える手段は皆無ということになる。
選挙運動という点では特定枠の候補者の制約は厳しく、使わない選択をした政党・団体が多いのもそういう事情があるそう。
比例代表の立候補者個人での選挙運動といっても、政党の選挙活動という側面はあるわけだし、選挙活動出来る人数は多いに越したことはない。
れいわ新撰組 はこの課題に対してどう考えたのだろう?
障害がゆえに選挙運動が難しいなら、そもそもやらなくてよいということだろうか? それもそれで一理あるかな。
でも、それではなおさら立候補者への理解が深まらないし、団体の政策を訴える機会を失うことになる。
特定枠をマイノリティを議会に送る方法として使うこと自体は悪くないと思うんですけどね。
ただ、それを れいわ新撰組 が使うのはとても危ういように思うし、
そうして送り込まれるのが、国会議員としての活躍に疑念を持たれるような人だとなおさら。
最初に立候補のニュースを聞いたときには、そんな議員がいてもいいと思うし、よい挑戦だと思ったけど、
特定枠と聞いた途端に、それは危ないという考えに変わってしまった。それは先ほど書いた事情の通りである。