先週、燃料油のことを書いたが、この話には続きがある。
今月18日、京都アニメーション の社屋にガソリンを撒いて放火されるという事件が起きた。
京アニ放火、吹き抜け構造で一気に燃焼か 4人なお重篤 (朝日新聞)
今日時点で死者35人、その他30人以上の負傷者を出している。
殺人事件という観点では「津山三十人殺し」こと津山事件(1938年) や オウム真理教事件(1988~1995年・死者計29人)を超えるもので、
ビル火災という観点では、防火設備の不備で大きな被害を出した歌舞伎町ビル火災(2001年・死者44人)や 千日デパート火災(1972年・死者118人)に次ぐものである。
なお、この事件においては、防火設備の不備はなかったとされている。
このニュースを聞いたとき「ガソリンで放火!?」と思ったのだが、過去にもガソリン火災は大きな被害を出しているそうだ。
先の記事で書いたが、ガソリンは引火点が低く、容易に爆発的な火災を起こす。
爆発的な火災により、周辺の可燃物へ一気に延焼し、室内であれば、不完全燃焼により大量のススや一酸化炭素を発生させる。
さらに、ガソリン火災は消火が難しいと言われているが、これは水での消火が難しいということである。
水での消火は水の窒息効果と冷却効果に期待しているが、ガソリンは水より軽いので水では窒息できず、引火点が-40℃なので冷却しても無意味ということ。
粉末消火器は比較的効くようだが、これほどの火災となればそもそも初期消火どころのことではないだろう。
というわけで、このような場合は逃げるが勝ちなのだが、逃げるのも大変だったようだ。
まず、室内にらせん階段があったため、そこを通じて建物内全体への火のまわりが早かったこと。
らせん階段には必要な防火対策はなされていたのだが、ガソリン火災では十分な効果がなかった。
ガソリン火災の場合、一般的な防火設備では不十分であったり、爆発的な火災で破壊されて効果を発揮しないことがある。
大量のススにより視界が遮られ、さらに一酸化炭素中毒で避難中に意識を失った人も多かったようだ。
せめて外階段など安全が保たれた避難通路があればよかったのだが、あったとしても効果的に働いたかはわからない。
防火設備に問題はなかったとされているが、そもそも大規模なガソリン火災で効果的に働く防火設備は用意していないのだ。
京都アニメーションは従業員数150人ほどのアニメーション制作会社である。
その中で最大規模の事業所が全焼し、設備や各種資料に壊滅的な被害を出した。
(ただ、幸いにも社屋内にあったデータサーバーは焼損を逃れたとのこと)
人的な被害としても、従業員の半数ほどの70人が死傷というのはただ事ではない。
果たしてこの状況から会社を立て直すことができるのだろうか?
それこそ、大きな被害に耐えきれず、全員解雇という事態が起きても不思議ではないほどだが、
ニュースでの社長の発言を読む限りでは、事業継続に向けて前向きに動いているようである。
人気作を多く手がけてきたアニメーション制作会社とあってか、ファンなどによる支援の動きも広がっている。
自然災害であれば、赤十字社や共同募金会などが義援金を募り、それを一定の基準で分配することが定着している。
ただ、今回は犯罪被害であり、そのような仕組みはそぐわない。
一体どういう仕組みで支援金を届ければよいのか。よくわかっていないのが実情である。
先行したのが同社製品を多く扱う アニメイト が店頭で始めた募金活動で、
それに続いて、日本アニメーター・演出協会、日本動画協会、そして京都アニメーション自身も支援を受け付けるようになった。
公的な制度が及ばないわけではなく、警察庁は犯罪被害給付制度を用意しており、死亡・重傷病・障害について給付を行っている。
おそらく、ファンなどから寄せられた支援金も、亡くなった社員の親族、療養中の社員とその親族への給付、
すなわち個人への給付に宛てる分にはなんら問題ないことだと思う。
ただ、会社の再建に期待して支援を寄せた人も多いことだろう。
でも、これをどうやって会社の再建に充てればよいのだろうか? というと難題だと思う。
自然災害でも、会社への支援というのは、貸付制度がメインである。
地域産業への影響を考慮して補助金が出る場合もあるが、再建には不十分であることが普通で、
貸付制度で借金をして再建を目指したが、返済の負担が重すぎて、結局廃業に至る事例も多い。
中小企業が犯罪により壊滅的な被害を受けるということはとても稀な事例だが、
それだけに公的な支援制度は皆無で、税制上の優遇措置もないんじゃないだろうか。
せっかく差し伸べられた支援金だが、受けとった支援金に課税されてしまっては、結局、会社再建に生きないことになる。
全焼した社屋の除却費用 なら支援金を充てても全く問題にならないと思ったが、それが再建支援に十分とも思えない。
いろいろ考えてはいるんだろうけど、行政も巻き込まないと難しいんじゃないだろうか。
この事件で思ったことはいろいろあるけど、やっぱりガソリン火災は怖いなと。
そもそもガソリンは安全に注意を払って使わないと危険で、意図せずとも容易に事故を起こしてしまう。
それを悪意を持って大量に持ち込まれると、もはや防火設備が無力になるほどの被害を出してしまうわけだ。
自動車への給油以外のガソリン販売はこれまでも事故・事件が繰り返されてきたことから、
金属製の携行缶を使うことや使用目的の確認が行われてきた。今回の事件でもガソリンスタンドは適切な対応をしていたようだ。
草刈機や小型発電機など、自動車以外にガソリンを使う用途はあるので、自動車への給油以外での販売をやめるのは難しい。
一体、どうやって同種の犯罪を防げるのか。これはとても難しい。
中小企業を襲った事件というのもまた問題だなと思った。
犯罪被害が個人だけでなく会社に及ぶこともあり得るが、そもそも公的な支援はほとんどない。
それでも大企業なら自力再建というのはそこまで難しいことではないと思う。
でも、主要事業所が全焼、従業員の半数近くが死傷というのは、事業規模に対して過大すぎる被害である。
各所から支援金が集まっているのは幸いだが、このようなことは一般的には想定されていない。どうしたもんか。