今作っている製品はうちの職場の製品には珍しくもディスプレイが付いている。
小さいんですけど、ドットマトリクスであれこれ表示できる。
稼働状態の表示やエラー表示などに使うらしい。
で、動かそうかと思ってマニュアルを見ると文字データを送れば表示できる、
というものではなくビットマップデータを送る必要があるという。
え!? そういうもんなのか。
確かに世の中には文字を送れば表示できるLCDユニットってのもあるけど。
そういう機能を備えていなくて、単にバッファメモリ上に書いたビットマップデータが表示できるというものらしい。
となると、フォントが必要じゃないか。
表示するのは数値とアルファベットぐらいのもの。
その気になれば手でドットを打てなくもないが……
かといってPCで普通に使っているフォントをビットマップ化して組み込むわけにもいかない。
製品にフォントを組み込むというのは様々制約がある。
で、調べたところ「SIL Open Font License」というのが、
比較的制限の緩いライセンスで、多くのフォントに適用されているという。
有名なのはNotoフォントですね。
Unicodeにある全言語のフォントを作ることで”No tofu”を目指そうというものである。
文字化けのことを豆腐って言うのがなんとも日本的だが。
このライセンスの日本語訳文がここにある。
SIL Open Font License (SILオープンフォントライセンス)
「フォントの使用、研究、改変、再頒布」は原則自由だが、一部は制約を受けるというもの。
オリジナルのフォントの再頒布、改変したフォントの再頒布、その他の3類型を考えれば良さそう。
- フォントソフトウェアのオリジナルバージョン
- それ自体を販売することはできない
- 複製に上記の著作権表示およびこのライセンスが含まれている限り、他のソフトウェアとバンドル、再頒布および販売を行える
- フォントはSIL Open Font Licenseに基づいて頒布しなければならない。
- 他のライセンスに基づいて頒布することはできない。
- フォントソフトウェアの改変バージョン
- SIL Open Font Licenseを適用する(ゆえに上記の条件にも従う)
- 予約されたフォント名を使用することは、その著作権所有者が書面による明示的な許可を与えていない限りできない
- フォントソフトウェアの著作権所有者または著作者の名前は書面による明示的な許可がある場合を除き、改変バージョンの推奨、支持または宣伝に使用することはできない
- 上記に該当しない 使用、研究、複製、統合、埋め込み、改変、再頒布および販売
- 制限なし
- フォントをこのライセンスに基づいた状態に保つという要件は、フォントソフトウェアを使って作成されたいかなるドキュメントにも適用されない
という解釈でよさそう。
フォントを使ってフォント以外のものを作った場合、
例えばフォントを使って文字を描画してポスターを作ったとすると、
全く自由に使用・配布・販売ができ、どんなライセンスを適用してもよいし、フォントの著作権表記もいらない。
フォントをそのままバンドルする場合、フォントファイル自体に著作権表示とライセンス表記があれば、
自由に使用・配布・販売ができて、フォントを使用するソフトウェア自体はどんなライセンスを適用してもよい。
一般的なフォントファイルにはメタデータに著作権表示とライセンス情報を組み込むことができるので、
ダウンロードしてきたファイルをポンと置くだけでもOKであることが多い。
(著作権表記とライセンスを書いたテキストファイルを同梱するのが好ましいが)
多くの場合はこの2つで済んでしまうのだが「フォントソフトウェアの改変バージョン」に該当すると事情が変わってくる。
まず、フォントを他の形式に変換すると、基本的には改変にあたるという。
その場合、著作権表記で”Reserved Font Name”で指定された名前があれば、
それは改変されたフォント名に付けてはいけないというルールがある。
混同防止のための規定ですね。全く別の名前を付ければいい。
もう1つは「フォントソフトウェア」の範囲である。
文字を描画した画像は一般的には自由に利用できるわけだけど、
文字を描画した画像を並べられるようにしたものは「フォントソフトウェアの改変バージョン」に該当しうるのである。
とはいえ、フォントソフトウェアの改変バージョンにあたったとしても、
フォントに著作権表示とライセンス情報があればOKである。
画像データを格納しているフォルダなどに著作権表示とライセンス情報があればよいのであり、
このフォルダを見る必要がない人に著作権表示やSIL Open Font Licenseの情報が知覚できる必要はない。
それはフォントファイルをそのままバンドルする場合と同じですね。
もう1つはもはや「埋め込み」に過ぎないというものである。
1.11 What do you mean by ‘embedding’? How does that differ from other means of distribution?
By ‘embedding’ we mean inclusion of the font in a document or file in a way that makes extraction (and redistribution) difficult or clearly discouraged. (略)(OFL-FAQ)
PDFのフォント埋め込みというのがまさにこれに該当するらしいんだけど、
通常の方法ではフォントを抽出することはできないし、
できたところでドキュメントで使用されている文字しか入っていないから使い物にならない。
こういうものはフォントの配布ではなく、フォントを利用した文書の扱いでいいということですね。
ゆえにターゲットの環境に極めて特化した埋め込み方がされていて、
通常の方法では抽出して利用できないものは、もはやフォントではないという解釈が成り立つ。
一方で、汎用的に利用する意図をもって作られたものはフォントなので、
わずかに数字10種類と小数点・符号で13文字ぐらいの画像データでも、
画像データ部分が汎用的に使える余地があれば「フォントソフトウェアの改変バージョン」に該当する。
というわけで非常に微妙なところはあるんですよね。
ただ、販売する機器はフォントそのものではないので、
説明書にフォントの著作権表示やライセンス情報は書かなくてよいことは確かである。
MITライセンスのフォントとかいうのもあったけど、
それを使用したソフトウェアを販売することは問題ないけれど、
著作権表示とライセンス表示をしなければならないことになる。
SIL Open Font Licenseは派生したフォントにも同ライセンスの適用を強制する点では厳しいが、
フォントではないものには一切制約がないという点では緩いライセンスである。
フォント専用のライセンスだからこそできることである。
このあたり検討は必要そうだけど、自分でドット打ちするのは勘弁だし、
説明書に著作権表示やライセンス情報の記載となれば面倒だし、
ましてや商用利用に制約がかかるようなことはできない。
画像を生成するというだけならば比較的問題は少なそうだが、
数値データを表示するために並べる画像を作る行為はリスクが高い。
日本語を表示したりするなら素直にフォント買うべきですけどね。
ただ、表示する種類がたかが知れているので、わざわざ買うほどでもなかろうと。
むしろ最適な形式に変換して組み込む方が効果的だろうという判断ですよね。