道路の一番左に普通自転車専用通行帯が設定されているとき、
そこを左折する自動車はそれを踏んでよいかという話で、
基本的には車道の左に寄るということは踏むということになるのだが、
実際そうなのかというと案外難しそうである。
車両通行帯についてのルールは道路交通法第20条に記載されている。
原則的なルールとして一番右は走らない、軽車両・原付・小特は一番左を走るとなっているが、
様々な例外規定があり、その例外規定にも様々例外規定がある。
というわけで標識令の規定と合わせて読んだ限りで、
概ね優先順位の低いものから高いものに並べるとこうなりそう。
なお、簡単のためトロリーバスは存在しないものとする。
- 軽車両・原付・小特以外は一番右以外の車両通行帯を走行できる(※)
- 普通自転車以外の専用通行帯があれば、その車両は従う、それ以外で軽車両・原付・小特以外は通行できない
- 一般原付・小特は第一通行帯を走行する(※)
- 軽車両・特定原付以外が右折する場合はできる限り中央(一方通行の場合は右)に寄る
- 普通自転車専用通行帯があれば、普通自転車はそこを走行する、軽車両・特定原付以外は通行できない
- 軽車両・特定原付は第一通行帯を走行する(※)
- 車両通行区分が定められている場合はそれに従う
- 追越しするときは1つ右の車両通行帯を走行する
- 左折する場合はできる限り左端に寄る
- 軽車両・特定原付が交差点で右折する場合はできる限り左端に寄って二段階右折する
- 環状交差点では直進・左折・右折ともはできる限り左端に寄る
- 進行方向別通行区分がある場合は軽車両・特定原付・二段階右折する交差点で右折・左折する一般原付以外は従う
- 一般原付は3車線以上の信号のある交差点 または 二段階右折の標識のある交差点で右折する場合はできる限り左端に寄って二段階右折する
- 一般原動機付自転車の右折方法(小回り)の標識があれば、それに従う
- 進路変更禁止の標示がある場合はそのままの車両通行帯を進む
- 緊急自動車に進路を譲る場合、交差点を避け左側または右側に寄って一時停止する
- 道路の損壊、道路工事、道路の状況、その他によりやむを得ないときはこの限りではない
といったところだと思う。(※)は第20条第1項の原則的なルールを分けたものである。
軽車両・特定原付は最後2つと追い越しを除いては第1通行帯を走るルールしか適用されないかな。
で、専用通行帯よりも左折・二段階右折で左に寄る、右折で右に寄る方が強いのだが、
それより強いルールもあって、それが進行方向別通行区分なんですね。
3車線+自転車専用通行帯で、中央の3車線を左折・直進・右折と指示した場合、
自動車は進行方向に従って中央の3車線を選ばなければならない。
なので、この場合は左端の自転車専用通行帯は踏まないんですね。
軽車両・特定原付は進行方向別通行区分に従わないので自転車専用通行帯でよい。
一般原付は二段階右折する交差点なので、右折時には進行方向別通行区分に従わないのはよいが、
なぜか左折時にも従わないと書かれている。直進時は従う。
このケースでは左端に寄るルールが適用されるので、自転車専用通行帯に入ってもよい。
ちなみに3車線以上というのは自転車専用通行帯も含めて3だと思うので、
2車線+自転車専用通行帯でも該当するが、そういう交差点は小回り右折の標識があるんじゃないかな。
でも、こういうケースってなかなかないんじゃないのと指摘があった。
というのも右折レーンや左折レーンを作る幅を捻出する場合、
交差点手前で自転車専用通行帯を削ってしまうことが多いからである。
この場合、指示された方向に進む自動車と全ての軽車両・特定原付は一番左を走ることになる。
左折車と自転車専用通行帯の関係があまり問題にならない印象があるのは、
左折車が多い交差点はだいたいこうなっているからだろう。
もっとも強い例外規定が緊急自動車に進路を譲る場合だが、
これは当然のことだと思う。自転車専用通行帯を割ってでも左に寄る。
あと、全てに通じることなのだが道路状況によりやむを得ない場合は従わなくてよいとある。
これをどう考えるかは1つ大きな問題である。
交差点手前の左端に自転車がいる場合、左折車は後ろに並ぶのがルール上は正しいが、
幅に余裕ある交差点でそうやっているのはそうそう見なくて、だいたいは右に並ばれてしまう。
そのまま左折すると巻き込み事故が起こるので自転車を見送って発進するべきですが。
自転車(特定原付)にとっても一番左の車両通行帯を通るのが難しいケースはある。
それが一番左が左折専用レーンの場合である。
第一通行帯の中でできるだけ右に寄って通行するので済むケースが多いが、
左折車との関係でもう1つ右の車線に入る方が安全なケースもある。
他の車両との関係に注意しながら入る判断は成り立つ可能性はある。
普通自転車の場合は歩道に入ることで回避していることも多いんですけどね。特定原付はそれ大変なので。
ところでさっきの車両通行帯のルールでは追越しは1つ右の車両通行帯に出て行うとある。
同じ車両通行帯の右側から追越すのは禁止されていて、1つ右に出なければならない。
あと、これは車両通行帯うんぬんではなく左からの追い越しは禁止されている。
ところが「追い抜き」はこの限りではないんですよ。
追い抜きとは進行方向を変更せずに他の車両を抜くことを言う。
軽車両・特定原付とその他の車両の間ではこれが容易に成立する。
なぜならば軽車両・特定原付は「道路の左側端」を走るルールだからである。
道路の左端というのは車道外側線の外側も含む。車道外側線の外に自転車走行の目安があるのはこのためである。
ゆえにそれぞれ真っ直ぐ走っているだけで追い抜きができてしまう。
他の二輪車でもこの解釈が成立する場合はあるのだけど、
自転車に比べると無理のあるケースが多く、左からのすり抜けは追い越しの違反になることが多い。
追い抜きが成立しない場合は、右側の車両通行帯に出て追い越す必要がある。
左折時には自転車専用通行帯も車両外側線の外側も問わず、車道の左端に寄るのが原則としても、
それは余裕を持って左に寄っておくのが前提のことである。
左に自転車が迫っている中で自転車を潰すように左に寄っていいわけではない。
左ウインカーを出す車を妨害してはいけないルールはあるが、
自転車に急減速を強いることは出来ないし、左折車側が減速せざるを得ないだろう。
となれば左端にいる自転車の後ろに並ぶことになるが、幅に余裕のある道路ではめったに見ないことである。
そもそもの問題として停止線を守らない自転車が多すぎるという話があるんですけどね。
歩道通行している自転車が車道通行に移転して、交差点手前の車道左端を自転車がずらりと並ぶと、
これはこれで大混乱になるのではないかと考えることはある。
そうはいっても停止線を守るのは基本ルールですからね。
それがうまくいかないなら構造的な工夫を考えるのであって、
はなから停止線なんて守られませんからねなんて言ってはいけない。
というわけで原則に従ってうまく行くケースもそれなりにあるとは思うが、
自転車も自動車も多いとうまくいかないケースが増えてくる。
そのような場合は安全になるまで待つしかないんですよね。
左折する自動車としては左に自転車がいる場合は巻き込まないように見送る。
自転車としては左に曲がる自動車の左を通らずに待つ必要があり、
左ウインカーを出していれば明確だが、交差点は変則的な動きも多いので、前の車の動きをよく見て進むべきだろう。
自動車の運転者は巻き込み事故のことを知っているはずだが、
自転車の運転者がその危険性を正しく認識しているかは課題がある。
だから左端に寄って自転車が物理的に入れないようにしたいが、
それができないケースでは左にいる自転車を見送る選択をせざるを得ないのではないか。
結局は「道路の状況その他の事情によりやむを得ないとき」というところに結実してしまうのかもしれない。
原則は原則で大切だけど、事故を起こしてはどうしょうもないですから。