ILSと目視とGPS

先日、南風で混雑時の羽田空港への着陸ルートのことを書いた。

市街地上空を通って着陸する理由

この中でGPSを使った航行方式を使って騒音軽減に努めていると書いたが、

調べてみると着陸時の飛行機の航行方式って空港によりいろいろあるらしい。


空港ごとの飛行ルートはAIS JAPANというサイトで公開されている。

ユーザー登録は必要だが趣味目的で登録することも想定されているみたい。

空港ごとにいろいろな”Instrument Approach Chart”が登録されているが、

一体どういう使い分けなのか、わかる部分とわからない部分がある。

航空無線をよく聞くなどして研究すると実際の使われ方も見えてくるんだろうけど。

以下で書くのはいろいろな資料からこういう傾向なんじゃないかという話。


一番いいのは、ILSの電波に従って一列に並んで着陸する方法。

滑走路の端からの方角・距離・垂直方向の角度を把握できる電波を飛ばす。

これに従って降りてくると、滑走路が見えなくてもかなりの精度で降下できる。

そして高度200ftとか100ftとか定められた高度で滑走路が見えれば着陸できるというわけ。

成田空港・関西空港・中部空港では常時ILSを使っているとみられるが、

ILSが全ての滑走路の両側に付いている空港は限られるし、できれば直線的な着陸を避けたい空港もある。


日本では、滑走路の片側のみにILSが取り付けられている空港が多い。

コスト面の問題もあるのだが、それ以外の事情もある。

伊丹空港は長短2本の滑走路の南北から着陸できるが、長い方の南側だけにILSが付いている。

伊丹空港の南側だけにILSがあるのは、北側に山がある。

こういう地形の問題でILSが付けられないことはけっこうあるとのこと。

神戸空港もILSは西側だけで、これは地方空港仕様というのもあるけど、

関西・伊丹との関係で神戸空港の出入りは必ず西側になるという事情もある。


このような空港で風向きの都合で反対側から着陸する代表的な方法として、サークリングアプローチという方法がある。

伊丹・神戸とも多少の追い風ならILSのある向きに着陸するのだが、

それができない場合は、まずはILSに従って接近して、滑走路を目視する。

そして、滑走路を見ながら、その横を通ってぐるりと反対側に回って着陸する。

伊丹空港のILS RWY32Lのチャートを見ると、ILSで着陸する場合は高度250ftで滑走路が見えればよいが、

“CIRCLING”の場合は高度559ftまでに滑走路を発見しなければならない。

ある程度はILSを利用できるが、最後は目視に頼る部分が多いので、悪天候に弱いのが難点。

ただ、伊丹・神戸で滑走路の反対に回るにはほぼこの方法しかないみたいね。


天候がよければILSなど使わず、完全に目視で着陸するビジュアルアプローチという方法もある。

設備が整わない空港ではビジュアルアプローチ頼みということもあるけど、

ILSがあるのにあえてビジュアルアプローチを使う空港として、福岡空港・新千歳空港・羽田空港などがあるそう。

福岡・新千歳は海側からやってくる飛行機が、反対側から着陸する場合、

ILSに従うとかなり内陸に入り込んで直線的に着陸しなければならない。

これは遠回りになる上に、騒音の影響範囲が広がるのも不都合。

そこで、天候がよい場合には滑走路の横に誘導して、そこから滑走路を目視してぐるりと回り込んで着陸する方法があると。


羽田空港は海側の南北方向の滑走路に南側から着陸する場合に”HIGHWAY VISUAL”という方法が使われることがある。

海ほたるPAを右に見ながら目視で着陸しなさいという指示をするそう。

ただ、これって滑走路に直線的に着陸するルートで、ILSの着陸ルートとほぼ同じだったりする。

(実際、ILSの電波を参考にして着陸する操縦士もいるらしい)

なぜ「HIGHWAY VISUAL」があるのか【Short】 (Squawk.ID)

ILSは視界が悪くてもある程度までは降下できるが、降下して滑走路が見えなければ着陸をやり直さなければならない。

2本の滑走路にILSで同時着陸するためには、待避ルートも別々に取らないといけない。

この条件を満たすには木更津付近から2本の着陸ルートを真っ直ぐ引くとよい。

これは悪天候時には使われているが、木更津付近の騒音が大きくなるのが問題。

騒音対策には陸側の滑走路へのルートを富津岬の方に曲げたいということで、

海側の滑走路に目視で降りられるなら、陸側の着陸ルートを曲げていると。

目視にしたことでやり直しのルートも操縦士任せにできるというわけ。


少し前まではこれらの方法や、その変種が使われていた。

しかし、現在は地上設備と目視以外にGPSなどの人工衛星を使った測地技術が使える。

これを使った着陸方法を RNP進入 とか RNP AR進入 という。

RNP AR進入は滑走路直前まで曲線を描いて飛行して着陸する方法で、

機材・操縦士の訓練体制などに特別な許可が必要となっている。

しかし、従来では取り得なかったルートが使えると言うことで、

飛行時間の短縮や就航率の向上に役立っているという。


まず、ILSがどうしても付けられない空港の場合。

松本空港は周囲が山なのでILSが付けられず、悪天候にとにかく弱かった。

RNP AR進入では周囲の山を器用に避けながら、着陸するルートが開拓され、

最短距離で空港へ向かい、高度300ftで滑走路が見えれば着陸できるようになり、

就航率の向上・飛行時間の短縮・操縦士の負担軽減とメリットが大きい。

松本空港は地形の都合でどうしてもILSが付けられなかったが、

離島の空港などILSの導入が見送られてきたところでの導入も進んでいる。

東京都でも調布・新島・神津島は従来ILSなどなかったところに導入している。


滑走路の片側しかILSがない空港でも積極的に導入されている。

例えば、北九州空港は北側にILSが付いている。

ILSを使う場合は門司区方面から着陸する。

高度200ftで滑走路が見えればよいので一番確実な方法ではあるが、騒音や遠回りになるのが気になる。

騒音対策の面では東側に誘導してそこから目視で着陸するルートがVOR A, VOR Bとして記載されていて、騒音対策から推奨ルートらしい。

滑走路のどちらにも遠回りせず着陸できるが、高度979ftで滑走路が見えないといけない。

これに対してRNP ARで東側から滑走路の両側に直行できるルートがあって、

高度300~306ftで滑走路が見えれば良く、遠回りもしなくてよい。

ILSよりやや劣るが、ビジュアルアプローチやサークリングアプローチより悪天候に強い。


伊丹空港だと短い滑走路に着陸するルートとしてRNP進入方式が選べるそう。

伊丹空港の長短の滑走路は機材の大小で使い分けているのだが、

ILSを使う場合は、長い方の滑走路に向けて直線的に降下して、

滑走路が見えたら短い方の滑走路に方向転換する方法になる。

これもサークリングアプローチの一種である。

RNP進入だとILSがない短い方の滑走路に直行することもできるので、一部で活用されているらしい。

(なお北側にはRNP進入ルートはないので、サークリングアプローチとなる)


両側にILSの付いた主要空港だとあんまりという感じはあるが、

羽田空港では騒音対策でRNPが活用されていて、

1つが冒頭に書いた南風・混雑時の都心部での高度を少しでも稼ぐ方法で、

こちらは多くの飛行機が利用できるRNP進入方式。

もう1つが深夜に海上を小回りで着陸するルートで、こちらは特別な許可を要するRNP AR進入方式。

許可を受けていない飛行機がいることを考えれば、RNP AR進入の着陸ルートに列を成して着陸させるのは難しそうだが、

深夜にまばらに来る飛行機をさばくなら使えるという話なんでしょうね。


というわけで飛行機の着陸ルートもいろいろあるという話だった。

ILSが最善ではあるけど、RNPもそれなりによいということですね。

目視で対応というのもけっこうよい場合があるのだが、悪天候に弱かったり、管制が難しくなったり欠点もある。

乗り入れる航空会社が限られるならRNP AR進入方式への対応もしやすいので、

まずはそういう空港から導入が進んでいる状況ですね。