市街地上空を通って着陸する理由

今日は新宿で用事を済ませて、渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)でコンサートというので、

時間調整もかねて新宿駅南口から代々木公園まで散歩していた。

新宿駅南口付近は渋谷区に一部かかっており、意外と近いのだ。


散歩する中で気になったことがあった。それは上空を飛ぶ飛行機である。

それなりに高度が下がっていることもあり騒音もなかなかだし、

便数も多く、2機が並んで飛んでいる姿もしばしば見られた。

これは羽田空港で2020年から適用されている新飛行ルートの1つで

南風で夕方の混雑時間帯に使われる着陸ルートに該当する。


羽田空港は井桁状に4本の滑走路がある。南北方向にはA滑走路(陸側)・C滑走路(海側)、東西方向にはB滑走路(陸側)・D滑走路(海側)とある。

羽田空港の南側・東側は海上(住宅利用以外の埋立地を含む)である。

できるだけここを通って離着陸するようにしている。

ただ、全てをそこに収めようとすると便数が限られてしまう。

そこで混雑時間帯に限って、複数の滑走路で同時離陸あるいは同時着陸をする飛行ルートを決めることになった。


飛行機は風に逆らって離着陸するのが基本である。

南風のときに2つの滑走路を同時に使うルートとしては下記の2つが考えられる。

  • 東側からB・D滑走路に着陸、A・C滑走路を南向きに離陸
  • 北側からA・C滑走路に着陸、B滑走路を南西向き、A・C滑走路を南向きに離陸

東側から着陸するのは従来のルートだが、離陸ルートがD滑走路と競合する。

北側から着陸すると、離陸ルートとの交差は最小限になる。

B滑走路を南西向きに離陸したら川崎区の臨港地帯上空で旋回して海に向かうので比較的周辺への影響は抑えられるが、

着陸は直線的に並ぶのが効率がよいので、どうしても市街地上空を通る。


飛行機は昔より静かになったというけど、エンジンが静かになっても着陸時はほとんど変わらない。

従来より飛行機が小型化したことで平均的には静かになったかもしれないが、

羽田空港は国内の他の空港に比べれば中型機以上の割合が多い。

なので取れる対策は可能な範囲で高度を上げるということになる。

そのための対策の1つとして、GPSを活用したRNAVと呼ばれる航行方式がある。

滑走路の端から出ている電波を使うILS方式に比べると柔軟性が高く、

滑走路の少し内側に着地するようにして少しでも市街地での高度を上げたという。

ただし、着陸判断高度の点では不利なので悪天候のときはILSを使うルートになる。


それで渋谷区周辺だと2500~3000ftぐらいのところを飛行する。

国土交通省のデータを見ると、2500ftを飛行して着陸するとき直下の騒音レベルは、737-800で65dB、777-300で72dBなどとなっている。

騒音が気にする人が増えるのは65dB程度からというので、

これが混雑時間帯に断続的に発生するのはけっこう気になるのも当然。

品川区内ではさらに高度が下がり、大井町あたりでは1000ftまで下がる。

こうなると737-800で76dB、777-300で80dBほどになる。

80dBはサイレンを鳴らしながら走る緊急自動車並みの騒音とのこと。

着陸とはいえなかなか大変である。


北風の場合も従来より市街地への影響が拡大している。

午前中にB・D滑走路から同時に北東向きに離陸するルートを使うのだが、

2つの滑走路からの離陸後のルートが干渉しないようにするため、

B滑走路から離陸した飛行機は荒川沿いに北上することになる。

できるだけ海上で高度を上げて、江戸川区・江東区の市街地にかかるあたりでは3000ft以上となる。

離陸時はエンジンを吹かす分うるさいが、新しい飛行機では低騒音化が進んでいる。

3000ft飛行時で737-800が73dB、787-8が69dB、777-300で77dBと。

787はだいぶ静かだなと思うけど、急上昇可能なのでさらに高度も稼げる。

離陸時の騒音対策として最新鋭の飛行機を導入する効果の大きさがわかる。


ところで羽田空港は複数の滑走路から同時離陸・同時着陸するために新飛行ルートを導入したわけだが、

同じようなことをやるかもしれない空港として関西空港がある。

現在の関西空港は2本の滑走路を離陸・着陸で使い分けている。

滑走路の両側が海なので使える向きが制約されないので、これでも悪くないが、

出発が多い場合は2本とも離陸、到着が多い場合は2本とも着陸にできるとよい。

しかし、現在のルートはそれができるようにはなっていない。


関西・神戸の両空港はできるだけ海上に収まるルートを取っている。

このため遠回りを強いられることもあることも課題である。

今後、関西・神戸の両空港は発着枠を増やしていきたいという話があり、

そのためには陸上を通るルートの拡大も考えなければならない。

羽田空港を見てもわかるけど、着陸は飛行ルートの広い範囲で騒音の影響がある。

羽田に比べれば、関西・神戸はある程度は海上に押し込められるのはよいけどね。