国政選挙で行われる在外選挙の投票方法は3つあって、
在外公館投票・郵便等投票・日本国内における投票の3つがある。
いずれも在外選挙人名簿に登録された市町村に投票用紙が送られて、
国内の不在者投票と同様に投票箱に入る仕組みである。
基本的には前2つのどちらかを選ぶわけだが、
台湾に住んでいる日本人は郵便投票しか選べないことが知られている。
在外公館投票でも郵便投票でも投票できることは同じだが、
郵便投票では登録されている市町村との間で書類が3往復する。
- 投票用紙等請求書と在外選挙人証を市町村に送る
- 市町村から投票用紙・封筒のキットと在外選挙人証が返送される
- 記載した投票用紙を封筒に入れたものを市町村に送る
1.をだいぶ余裕を持って送っておけば、2.の発送も早くなるが、
衆議院の解散が急にあった場合にはどうしてもタイトになる。
3.は選挙期間が始まってから送るわけだが、衆議院の選挙期間は12日、
一見、なんとでもなりそうな時間だが、国際郵便は予想外に時間がかかってしまうこともある。
そんなこんなで郵便投票では1票をフイにしてしまうことも多いという。
これに対して在外公館投票は、あらかじめ在外選挙人証を入手しておけば、
選挙期間が始まってから投票日の6日前までに在外公館に持参して出向けば確実に投票できる。
締め切り後、在外公館から外務省まではハンドキャリーで確実に運ばれ、
外務省ではとりまとめ後に各市町村に郵送されているという。
在外公館が近くないと難しいが、確実性の高さは他に代えがたい。
でも、台湾ではできないんですよ。在外公館がないから。
この状況は次回の参議院議員選挙から解消されそうである。
台湾の2か所に在外投票所を設置へ 夏の参院選から (TBS)
日本台湾交流協会の台北事務所・高雄事務所に設置されるという。
確かにこの事務所は事実上の大使館・総領事館だが、表向きは民間団体の施設である。
そんなところで「在外公館投票」ができていいのでしょうか?
気になって公職選挙法を読んだが全く問題なさそうである。
前提として台湾における在外選挙を含む領事業務は在タイ日本国大使館の管轄である。
交流協会の事務所は在タイ日本国大使館への取次窓口として機能している。
その上で公職選挙法における在外公館投票の定義だが、
衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙にあつてはイに掲げる期間、衆議院議員又は参議院議員の再選挙又は補欠選挙にあつてはロに掲げる日に、自ら在外公館の長(中略)の管理する投票を記載する場所に行き、在外選挙人証及び旅券その他の政令で定める文書を提示して、投票用紙に投票の記載をし、これを封筒に入れて在外公館の長に提出する方法
通常は大使館・総領事館内のホールなどが「投票を記載する場所」だが、
それ以外の場所に「投票を記載する場所」を設けることができる。
調べたら領事事務所ってのがそうらしいんですよ。
アメリカのアラスカ州は 在シアトル日本国総領事館の管轄地域なのだが、
アラスカ州には 在アンカレッジ領事事務所 というのがある。
(元は総領事館だったが、シアトルに集約した上で領事事務所に代替されたらしい)
これも在外公館の一種であり、在外公館投票を実施する施設である。
すなわち在タイ日本国大使館の管轄する「投票を記載する場所」を、
交流協会台北事務所・高雄事務所に設ければいいわけですね。
事務所の職員に記載した投票用紙を入れた封筒を渡すと、
バンコクにいる「在外公館の長」に取り次いでもらえるわけだ。
(実際には東京の外務省に直送するのだろうけど)
交流協会の職員を介して 在タイ日本国大使 に書類を提出するのはいつもやっていることである。
じゃあ、昔からできたんじゃないの?
在外公館ではないもので「在外公館投票」ができるのは気になるかもしれないが、問題はその程度である。
郵便投票という手段があるから、あえてこういう手段をとってこなかったが、
郵便投票は実用上難しいということで、やっと動いたのが実情なのかなと。
遠隔地で行われる在外選挙こそ電子投票の技術を活用したいところなのだが、
投票の秘密などの体制が担保しやすい在外公館投票の方が活用しやすいように思う。
封筒に入れたり署名したりという手間が省けたり、投票できる期間が延びたりメリットはありそうだ。
そのための足がかりとしても台湾で「在外公館投票」ができることは意義があるのではないか。
郵便投票は在外選挙人証の現物を送って投票用紙を取り寄せる部分はイマイチな仕組みで、
ここは電子投票のアプローチで解決できる部分はあると思う。
国内ではオンラインで選挙人名簿の照合を行うことで、
複数の期日前投票所を同時開設するのはごく一般的な方法である。
投票用紙を在外公館から送るという方法も可能かもしれない。
すでに在外選挙人証の発行は、市町村→在外公館はデータで行い、
在外公館で出力した在外選挙人証を国内郵便で行う仕組みが行われている。
しかし、記載された投票用紙を国内に送るという部分は譲れないんじゃないかなと思う。
ところで冒頭に「日本国内における投票」というのが出てきたけど、
なんで在外選挙なのに日本国内で投票するなんて話があるのだろうか。
これ、選挙期間に偶然帰国しているケースも想定しているのだが、
外国からの転入後3ヶ月以内の国政選挙で投票する場合も想定している。
この場合は請求書とともに在外選挙人証の送付が必要な点以外は、国内の不在者投票と同じ仕組みになる。
さらに言えば、在外選挙人名簿は転出前の住所地の市町村で登録されるのが基本で、
すなわち元の市町村に戻ってくると、市町村の中で在外選挙が完結するのである。
このように在外選挙人名簿に登録されている市町村に行く場合は、
わざわざ不在者投票にはしなくて、在外選挙人証を提出することでその場で期日前投票ができる。
さらに言えば選挙当日でも、市町村内の指定された投票所で在外選挙人証を提出して投票することもできる。
そういう仕組みがあるんですね。用語としては知ってたけど、それなりに役に立ちそうな仕組みですね。