本当に150年後の国宝はいるのか

今日は横浜アリーナでANIMAX MUSIX、夕方からのPart2に参加してきたが、

そこまで時間もあるのだしと東京国立博物館に寄り道。

先日、奈良で作った奈良博プレミアムカードが早速役に立つ。


現在、東博では創立150年記念ということで「国宝 東京国立博物館のすべて」という特別展をやっている。

どうせ所蔵品だし、わざわざ混んでるところに見に行くことないでしょって。

そんなわけで平常展を見ていたわけだけど、その中で多く見られたのが「未来の国宝」というテーマである。

未来の国宝といっても、すでに重要文化財だとそんなに意外性もないと思うが。

そうじゃないのもありましたけどね。


表慶館では「150年後の国宝展」というのがあったが、これは企業・一般から募った国宝候補を並べたものである。

国宝候補とはいうが、おおよそ現在の制度の国宝にはならなさそうなものである。

でも、もしかするとこの中に国宝やそれに準ずる形で伝承されるものはあるかもしれない。


150年後の国宝展―ワタシの宝物、ミライの宝物 / 企業部門

この中にはコンテンツとか量産品というのがけっこうある。

もちろん古い時代のものだと、写本だとか、日用品でも残っていることが貴重ということで国宝・重要文化財になっているようなものはある。

でも、そういう意味で価値が見いだされるには150年ぽっちでは全然足りない。

図書館や国立映画アーカイブとかで保存して常に利用可能な状態にあることこそが伝承である。


この中でまぁあるかもなと思ったのが2つあって、

1つが「ベネッセアートサイト直島」ですね。

瀬戸内国際芸術祭などの芸術活動と土地の結びつきは、史跡として伝承されてもいいと思う。

あるいは島に伝来する彫刻・建造物・絵画は重要文化財・国宝になるかもしれない。

そのような文化財保護の対象になっても、生きた芸術との両立は可能であろう。

もう1つが東芝の「万年時計から量子暗号通信まで」というが、

そもそも万年自鳴鐘はすでに重要文化財に指定されている。(会場にはレプリカが展示)

このように科学史・技術史にとって重要な足跡が国宝になる日は来るかも知れない。

このグループで国宝ってのはないはずですね。

その技術が国宝というわけではないけど、

フィルム修復技術 (IMAGICA GROUP)と1万年コンクリート EIEN(鹿島建設)は結果として国宝に含まれていたというのはあるかもしれない。


建造物って重要文化財・国宝になるよねと言われれば、

Port Plus 大林組横浜研修所 とか 新宿住友ビル とかどうなのって。

前者は高層木造耐火建造物、後者は超高層ビルの足跡として価値があるかもしれない。

ただ、こういう現役のビルが重要文化財・国宝になると手が入れにくいと。

現役のビルとして活用されてこそ価値があるものですから。

そういうのが問題になりにくいのが宗教施設なんですかね。

目的が固定されているので、形が変えられないというのは問題になりにくいと。

その点では東急の「まちづくりのDNA」とか「首都高速道路のネットワーク」というのも足跡を残せると良いが、

しかし都市構造を史跡などで保護してしまうと、時代のニーズに合わせて変化することが難しくなる。

生きた都市を保護する制度としては伝統的建造物群保存地区と重要文化的景観があるが、そういうのじゃないんだよなぁ。


こういうのは何かのきっかけで止めてしまうとすぐ失われるなと思ったのが、

  • 麹と清酒 (八海醸造)
  • しょうゆ (キッコーマン)
  • 競馬 (JRA)

といったところでしょうか。続いてるうちは当たり前のことなんだけど。

しかし、実はこの中で1つだけ文化財保護法の対象になっているものがある。

それが「伝統的酒造り」である。

2021年に創設された登録無形文化財に初めて登録されたのがこれ。

これまであった重要無形文化財に比べると緩くて幅広い保護制度としてできた。

重要無形文化財というと、その保持者の通称「人間国宝」で知られる。

これは無形文化財の対象が「わざ」そのものであることによる。

そのわざを習得しているのは人だから「人間国宝」と呼ばれるわけですね。

実は「伝統的酒造り」が登録無形文化財になったのは、ユネスコ世界無形遺産への提案に向けた足がかりという話もある。

酒造りの人間国宝が現れる時代が来るかというと、ちょっと怪しいが、わざの伝承について公的な制度の対象になったことは事実である。


かねてより思っているのだが、現代の文化で伝承されないとなと思っているのが、

キャラクターを背景としたステージパフォーマンスである。

涼宮ハルヒ、アイマス、ラブライブ!…『アニサマ』で羽ばたいた“作品発ユニット”の歴史を振り返る (Character JAPAN)

2006年ぐらいから出てきた新しい流れだが、わりと大衆化して、2015年末の紅白歌合戦にラブライブ!のμ’sが出演している。

150年後の国宝展に初音ミクがいたが、これはバーチャルシンガーの先駆けということで将来にわたって残るものかもしれないけど、

キャラクタの声が出せるというだけでステージに立ってパフォーマンスをするというシステムは失われても不思議はない。

でも、そういう時代があったんだということは伝承されるべきだろうと思う。

映像については図書館などで残るとしても、それだけでは惜しいよねと。

能面のように道具が伝承されるのか、何がいいのかはわからないけど。


そうして考えて見ると国宝というのは実に狭い制度であると思うわけだよね。

建造物の場合、建築後50年経つと登録有形文化財・重要文化財になりうるとされている。

国立西洋美術館本館は世界遺産登録のため、48年で重要文化財になったが異例とされる。

あくまでも50年というのは建造物の場合の数字だが、文化財の価値が決まるのに最低限必要な年数はそのぐらいなのかなと。

重要文化財と国宝というのは制度的にはほとんど同じものである。

重要文化財の中で卓越したものが国宝になっているが、保護制度はほぼ同じ。

重要文化財はだいぶ多様化してきたと言われているが、国宝はまだまだである。

でも、重要文化財は常に国宝候補と言えるので、先ほど書いたように科学史の国宝とかいうのも出てきても不思議はない。


無形文化財については、違う制度で保護されているが、重要無形文化財の保持者の通称が「人間国宝」であるように国宝に準ずるものかもしれない。

ただ、やはりこれも難しくて、かなりの歴史が求められる。

それだけの歴史を持って続くということがまず大きなハードルである。

150年後の国宝として吉本興業が「漫才」というのを挙げていたが、

果たして漫才がそれだけの歴史の深さを持つかは時が経たないとわからないなと。

現代のコメディアンの漫才が記録として伝承されることとはまた違う話である。


いずれにせよ「150年後の国宝」に列挙されたようなことは、伝承される価値はあるものだと思う。

ところが公的な制度はあまり頼りにならないところはある。

登録無形文化財の「伝統的酒造り」というのはあるけど。

建造物だと登録有形文化財は制度的にゆるやかで一時的に活用されるかもしれない。

ただ、建物の役目が果たせなくなると抹消されることも現実的である。

抹消できるのは重要文化財・国宝との大きな違いですから。

そもそも文化財としての価値が決まるには50年ぐらいはかかるものである。

そこまで維持できるかどうかが1つのハードルである。

もちろんここに並べられたものにはそれぐらい経過したものもありますが、

まだ新しいものもあって、果たして50年とか経過して価値があると言えるものはどのぐらいあるか。これは残してみないとわからない。

そこで図書館や博物館が果たす役割というのはあるでしょうけどね。