今どきの柔道は消耗戦

ふとNHK BS1を付けたら、オリンピックで柔道をやっていた。

会場は日本武道館、東京開催なら当然ここですよね。

ちなみに柔道が終わった後には、今大会限り臨時で追加された空手の会場となる。

その都合かレスリングの会場は幕張メッセとなっている。今はテコンドーの会場になってるけど。


柔道の試合映像、リオデジャネイロオリンピックのときとはちょっと違う。

と言うのもリオのときは 100 のように3桁の数字を表示できる欄があったのが、「0」のように1桁分しか見えなかった。

3桁の数字はそれぞれ「一本」「技あり」「有効」を表していた。(それぞれアルファベットで I,W,Y と略され、数字の上に付されることもあった)

これが「有効」の判定が廃止されたことで「一本」「技あり」の2桁で表記できるようになった

開始時点では「0」で始まって、技ありを取れば「1」、一本勝ち(技あり2回含む)あるいは反則勝ちは「10」だが、

一本となったときは「IPPON」という表示で見ることも多い。相手が反則負けのときは「10」って表示されてたけどね。


スコアボードに表示される数字が「0」「1」「10」の3つしかないというのは、オリンピックでも珍しいと思うが、

これは柔道が一本重視ということでルール変更をした結果である。

合わせ技一本、廃止から一転復活 【五輪のミカタ この技このルール】(8) (JIJI.COM)

なぜ一本を取ればそれで試合が決着するのかというと、一本というのは相手の命を奪うぐらいの技という位置づけだからである。

そのために満たすべき条件は厳しいが、一本の条件を満たせば、即決着となるのはそういう意味があるとされている。

これに対して技ありというのは、一本の条件を全て満たさないが、相手に重傷を負わせるものであるということで、

そんなものを2発も食らえば、それはもう一本と同じだろうというのが「合わせ技一本」ということだった。


で、2017年以前のルールでは、技ありの条件は満たさないがある程度効いた技を「有効」とするルールがあった。

有効をいくつ取っても技ありに満たないし、ましてや一本となることはないのだが、

一方で一本・技ありが出ないまま試合時間を終えると、有効の数が多い方が勝ちとなるルールだった。

さらに、審判は軽微な違反(消極的な姿勢を含む)があったときは「指導」を出すのだが、

指導が4回になれば反則負けになる一方で、指導を受けた数の差で決着が付くルールもあった。

このことからダイナミックな技を狙うのでなく、「有効」「指導」で差を付けた状態で時間切れを狙うような試合も出ていた。

そこで有効の判定を廃止、指導は3回で反則負けとなるが、2回以下の状態では試合結果に影響を与えないこととなった。

さらに延長戦の時間制限もなくした。これにより、技で決着が付かないとき、審判の多数決で優劣を付けていた(旗判定)のも廃止された。


この過程で一時は「合わせ技一本」も廃止になったのだが、これは撤回されている。

一本重視とはいえ、なぜ合わせ技一本を廃止したのか気になっていたのだが、

それが今は技ありの解釈が広がり、以前の有効にとどまらず、効果レベルの技も2回続けば一本と同等になることが起こり得る。一本に近い技ありが、効果のような技あり2回に屈することを疑問視する見方は、柔道発祥国の日本に限らず世界的にもあるという。

ということで、有効を廃止する中で技ありの範囲が広げられたんですね。

とはいえ、合わせ技一本という勝ち方を認めた方が試合進行などの面でメリットがあるだろうという判断だったようだ。


では新ルールでの柔道はどうなるのかというと、ハイレベルで実力が拮抗するオリンピックでは非常に過酷である。

すんなり一本を決められればよいが、相手が強いとそうそう簡単に一本も技ありも決められない。

このため延長戦に突入することも多く、時間制限がないので、消耗戦の末に一本が決まるような決着が多いようだった。

さらに双方が決め手に欠けるような状態では延々と決着が付かないことにもなりかねない。

積極的に技をかけることを促すために審判は指導を出すわけだが、それでも決め手に欠けるようなこともある。

その場合は指導3回での反則負けで決着することになる。

これは従来のルールなら「優勢勝ち」ということで決着していたのが、相手の「反則負け」となるケースがけっこうあることを表している。


柔道は1日に男女それぞれ1階級ずつの決勝戦まで終わるというスタイルで、今日は男子60kg級・女子48kg級だった。

男子60kg級の方が新ルールの影響が顕著だったように見えるのでこちらに着目しますが。

準決勝の2試合は11分・8分にも及ぶ大変な消耗戦だった。

どっちも指導2つ取られた選手が追い込まれて、ヘロヘロになる中で技を決められてしまうという状況だった。

ここで勝ったのが日本の高藤選手と、台湾の楊選手だった。

この2人が決勝で戦って金メダルか銀メダルか決まるんですけど、双方とも消耗も激しく、

積極的に技をかけようとするも決め手に欠けるような状況が続き、結局は楊選手が指導3回の反則負けとなった。

これにより高藤選手は今大会日本初の金メダルを獲得、楊選手は銀メダルで台湾初の柔道でのメダル獲得となった。


反則負けっていうと後味が悪いなと思うのだが、ここまでの戦いを見てたら無理はないなと。

どっちもよく準決勝をくぐり抜けて決勝にやってきたということに尽きる。

チャンスを狙いつつも、指導を取られないように注意を払いながら守りに努めた結果なんだろうと。

試合後に高藤選手は「豪快に勝つことができなかったのですがこれが僕の柔道です」というコメントを残しているが、

消耗しながらもなんとか優勢を保って決勝戦を終えることができたことが、相手の反則負けということなんですね。


というわけで、新ルールでの柔道は実力が拮抗するオリンピックでは非常に過酷な競技となっている。

消耗戦に持ち込まれたときにどういう勝負ができるかということも問われるようになっている。

今までのオリンピックなどの国際大会で見てきた柔道とはだいぶ感じが違う印象を受けた。

一方で早々に一本で豪快に決めて終わる試合もあるんですけどね。

これはこれで作戦が問われるようになったのかなという感じは受けましたね。


女子48kg級もすごかったですね。

これは日本の渡名喜選手が銀メダルで、これが日本のメダル第1号となった。

準々決勝ではリオデジャネイロの金メダリスト、アルゼンチンのパレト選手と当たり、関節技で「参った」で決着。

あんまり「参った」って見た覚えがなかったんだけど、関節技で勝つには相手に「参った」させるしかないらしい。

準決勝ではウクライナのビロディト選手、世界選手権の金メダリストで、背が高い分だけ足が長く、これに苦戦しつつも延長戦の末に一本勝ち。

ビロディト選手はその後に3位決定戦で勝ち、銅メダルを獲得していったが、まぁ強いですよ。

後で調べてびっくりしたけどモデルとしての活動もしてるらしい。確かに美人だとは思ったけど。

決勝戦はコソボのグラスニチ選手、なんと世界ランキング1位だという。

強いんだろうなと思ったら時間ギリギリで技ありを決めてきて、渡名喜選手は敗れたのだった。

でも、ここまで勝ってきた相手はどう考えても強い選手ばかりですから、そこは立派ですよね。


というわけでこの先も柔道は大変タフな試合が続くことになりそうである。

オリンピックでおなじみの格闘技としては、レスリング、テコンドー、ボクシングがありますけど、

一撃での決着(レスリングではフォール、テコンドーとボクシングではノックアウト)もある一方で、基本は点数制。

柔道の一本重視というのはかなり特色があると言えるし、現在のルールはその考えをより徹底したものとなった。

その結果、一本、それに準ずる技あり、あるいは指導3回という決着が付くまで延々と試合が続くことになってしまったが、

とはいえ、それが柔道らしいというのは世界の柔道関係者の共通見解ということですから。