間接的にダムの水を使っている

西日本では梅雨入りが余りに遅れて水不足が問題になっている地域もあるようである。

水不足といって真っ先に思い浮かぶのが四国の早明浦ダムだが、貯水率は83%となっている。

24時間前の貯水率は65%だったそうで、台風の影響である程度の蓄えができたようだ。


一方で、同じ画面に表示されていた銅山川3ダム合計の貯水率が35%となっている。

これは愛媛県にとって危機的状況なのではと思ったらやっぱりそうらしくて、

銅山川では第3次取水制限ということで、工業用水30%カット、上水道5%カットとなっている。

この程度ならば生活用水への影響はそう多くないかとは思うが、危ない状況である。


早明浦ダムは吉野川上流の高知県の山間部に作られたダムで、下流の吉野川は徳島県内を流れて海に注ぐ。

これだけだと、早明浦ダムの水は徳島県内でしか使えない。

高知県内を流れるうちに使える可能性はあるが、高知県の吉野川流域は山間部の過疎地域なので。

ところが実際の早明浦ダムは四国の4県全ての利水に貢献している。


まず、香川県への水の供給だが、下流の池田ダムで水を取水して、香川用水という水路から供給する。

これはわかりやすい。専用の水路を早明浦ダムの下流に作ったわけだね。

ゆえに徳島県と香川県はともに早明浦ダムの渇水の影響が直接的に現れる。


次に愛媛県への供給だが、実は早明浦ダムの水が直接的に愛媛県に行くことはない。

吉野川の支流で銅山川は主に愛媛県内を流れていて、この水は四国中央市に供給されてきた。

四国中央市というと製紙業で有名だが、それを支えてきたのが銅山川のダムということである。

銅山川は愛媛県内を流れる川だが、その下流には徳島県内の吉野川があるので、

本来ならば銅山川のダムは愛媛県内と徳島県内の両方の利水の役割を持つべきなのだが、

徳島県内への利水は早明浦ダムに肩代わりしてもらうことで、銅山川のダムは徳島県側に水を流さなくてよい。

早明浦ダムの存在により、銅山川の水は愛媛県内で全部消費することができるので、愛媛県の利水に貢献しているということ。


高知県への供給は、早明浦ダムに流れ込む前の瀬戸川・地蔵寺川から水を取って、

別の水系の鏡川にある鏡ダムに導水される。ここの落差で発電もしているらしい。

この鏡ダムは高知市の水道用水として使われている。

ダムに入る前の水を取ってしまっても、その分は早明浦ダムの貯水分で補えるよねってこと。

この利水ルートを高知用水と呼んでいるが、高知市にとって高知用水の重要度はそこまで高くないようで、

徳島県・香川県のピンチとなれば真っ先に100%カットされるのだった。


銅山川の水を愛媛県内で使い切るというところで気づいた人もいるかもしれないが、

銅山川3ダムのもっとも下流にある新宮ダムから下流には水を流さなくてもよいということになる。

もちろん洪水時など過剰なときは下流に水を流すんだけど、渇水時に下流に流す水は常に0m3/sだ。

それでも吉野川の流量は早明浦ダムで確保できるが、新宮ダム下流から吉野川に合流するまでの銅山川に流れる水はなくなってしまう。

このままでは銅山川が枯れ川になってしまい環境への影響があるということで、

対策として新宮ダムの下流に作られた影井堰で、流量調整を行い、銅山川の維持に必要最低限の流量は保つようにしているそうだ。

ただ、新宮ダム自体には河川機能維持という役割はないので、常に流量が保たれているわけでもないらしく。可能な範囲でということのようだ。


そんなわけで、ダムの水って下流以外でも間接的に使えるんですね。

水不足に悩まされた奈良盆地に紀の川(奈良県内では吉野川と呼ばれている)の水を供給する吉野川分水は

紀の川上流の 大迫ダム と 津風呂ダム から放流された水を取水して奈良盆地に供給している。

ただ、紀の川下流の和歌山県内も水に余裕があったわけではなく、この計画は単純には実現しなかった。

どうしてこれが実現できたかというと、奈良県でも水に余裕があった熊野川流域に猿谷ダムを作り、

ここから紀の川水系の丹生川に水を放流し、それで和歌山県内の農業用水を確保できるようにしたからという。

だから、吉野川分水は間接的には熊野川の水なんだよね。直接はやってこないんだけど。