塩作りもいろいろ

日本で食べられている塩の原料はほぼ全て海水だが、作り方はわりといろいろある。

でも、食用の塩でもっとも一般的なのはイオン交換膜を使って海水を濃縮して、

そこから釜で加熱して結晶化させる方法で、日本国内の海水から作られる塩は基本的にこれ。


その昔、日本国内でも塩田を使って塩作りをしていたときは、塩田で濃い海水を作って、釜で結晶化させていた。

日本は天日だけで塩を結晶化させるところまでやるのは難しくて、かといって海水をそのまま炊くとあまりにエネルギー消費が多すぎるので、

日本では一貫して、塩田で濃い海水を作って、そこから釜で結晶化させるという方法を取ってきた。

古代には藻に海水を付けて乾燥させるとかやっていたが、1950年代には流下式塩田という方式に発展していた。

この塩田の部分がイオン交換膜になったということで、日本の塩作りの伝統を踏襲したものだと理解していた。


イオン交換膜を使った方式のよいところは、海水に含まれる重金属や有機物は濃縮されないこと。

何も考えずに海水を濃縮すると有害物質も濃縮されるし、細菌が繁殖することさえある。

でも、イオン交換膜では前処理で不純物や細菌は取り除かれるし、原理的に有害物質が濃縮されないので安全性が高い。

重金属などが取り除かれる一方、塩化ナトリウム以外に塩化マグネシウム(にがり)や塩化カリウムなども濃縮される。

なので、食塩だけでなく、にがりの製造もこの方法で行われている。

塩化ナトリウム分の多い塩を作るのは、どちらかというと結晶化のプロセスでの工夫である。


ただ、この方法は世界的にはあまり一般的な方法ではない。

世界の塩生産の2/3が岩塩、1/3が海水からということで、岩塩の方が多いんだね。

岩塩は固形で掘り出すか、水を注入して塩水を吸い出すことで取り出す。

固形で掘りだしたとしても、食塩以外の不純物も多いので、一旦水に溶かして再結晶化されるのが普通。

まれに岩塩そのままを売ってたりするけど、扱いは良くない。


1/3の海水からの塩作りも、普通は天日塩ということで、ひたすら太陽と風の力で濃縮して結晶化される。

日本でもメキシコやオーストラリアで作られた天日塩を輸入して、食用・工業用に使っている。

いろいろな「塩」の違いとは?/塩作りの原理/その原理の使い方 (カンホアの塩)

塩分濃度25~30%ぐらいの範囲で結晶化させると、塩化ナトリウム分の多い塩が得られるのだが、それだけでは高純度な塩化ナトリウムは得られない。

そこで、その後に塩田から刈り取った塩を、飽和食塩水で洗うことで、不純物を洗い落とし、塩化ナトリウム以外の成分を抜いている。

通常はそこまでして天日塩として完成を迎えて、工業用途としてはそのまま使えばいいんだけど、

海水を濃縮させる中で細菌が繁殖するので、天日塩を安全に食用にするには、水に溶かして釜で炊くという工程を加える必要がある。


最初に書いた通り、日本で食べられている塩の原料はほぼ海水だが、作り方にはいろいろバリエーションがある。

「伯方の塩」ができるまで (伯方塩業)

「赤穂の天塩」の原料 (天塩)

日本では1997年まで塩の専売制があった。そして、1972年からイオン交換膜を使った製塩が始まり、塩田を廃止することになった。

安全性が高く高純度な食塩が安価に入手できるようになったのはよかったが、塩田で作っていた頃の純度の低い塩の入手は難しくなる。

それは困るということで、専売制の枠組みの外で「特殊用塩」という名目で塩の製造許可を受けたのが先に書いた2社である。

今でこそ個性的な塩がいろいろあるが、専売制があった時代から個性的な塩作りに取り組んでいたということ。

どちらも当初は専売公社が輸入していた天日塩を加工することで塩作りに取り組んでいて、

「伯方の塩」はオーストラリアまたがメキシコから輸入した天日塩を瀬戸内の海水で溶かして、不純物を取り除いてから加熱して結晶化して作っている。

「赤穂の天塩」はオーストラリアから天日塩とにがりを輸入して、天日塩とにがりを溶かして再結晶化したものと、天日塩を洗浄・粉砕したものを混合して作っている。


天日塩を海水に溶かしたり、にがりを別途輸入したり、なんとなく回りくどい気がするが、

高純度の塩化ナトリウムは工業用途でニーズの高いこともあって入手性がよいのが理由のようだ。

赤穂の天塩なんて塩とにがりを分けて輸入するぐらいだが、それぞれ汎用品を輸入できるのは理由なんじゃないか。

その上で所望の成分が得られるように工場で調整すればよくて、そこは塩田時代からのノウハウが生かせる。

なおかつ、イオン交換膜を使って海水から濃縮をスタートすると大がかりな設備が必要だが、

天日塩をスタート地点にするなら、天日塩を溶かした先は塩田時代とあんまり変わらない設備で済むのも理由だったのかも知れない。

ちなみに、「赤穂の天塩」と同じようなことを国内の海水からイオン交換膜を使って作った塩とにがりを使ってやることもできて、

専売公社の塩事業を継承した塩事業センターも「にがり食塩」という商品名で販売している。


かつての専売制の反動か、多種多様な塩作りが行われている影響か、塩の商品表示でのトラブルは多かったようで、

食用塩公正取引協議会が表示ルールを決めて運用していて、それに適合した商品には公正マークが付けられている。

その中で製造方法や原料について一定の用語を使って表記することになっている。

伯方の塩だと原料は「天日海塩(93% メキシコまたはオーストラリア)、海水(3% 日本)」なんて表記になるし、

赤穂の天塩だと製法は「洗浄・粉砕」と「溶解・立釜」の2ルートできたのを「混合」するという表記になる。

ユニークな塩を見かけたらよく見てみると面白いかも知れない。

見比べてみると特徴的なところとそうでないところが見えてくるだろう。