先日、ニューデリーでG20サミットが行われた。
端から見る限りは混乱の多いサミットだった印象はあり、特にこれ。
突然の首脳宣言合意 日本政府関係者「聞いてない」「ふざけるな」 (毎日新聞)
インドとしては各国折りあいが付く内容が決まった時点で合意としたのだろう。
実際、首脳宣言のとりまとめは大変だったらしいんだけどね。
このG20サミットの少し前に話題になった話がある。
G20サミットの参加国関係者に送られた夕食会の招待状に
“The President of Bharat”という記載があって物議を醸したという話。
これまでインドでは自国の英語表記はIndiaと書いてきたのだが、
なぜかBharatという記載を出してきたので、なんだこれとなったと。
Bharatというのはヒンディー語の国名のラテン文字表記ですね。
インドの憲法は英語版とヒンディー語版があるのだが、
英語版ではIndiaと表記しているものがヒンディー語版ではभारत(Bhārat)になっていると。
インド国内でも英語表記としてはIndiaの方が正確な表記である。
ただ、多くのインド国民にとってみれば国名はBharatに相当する表記で人しきれているので、
その点では英語表記の中でBharatと使われてもそこまで違和感はないと。
日本におけるJapanと日本(Nippon)の関係みたいなもんだろうと。
もしインドが国名の英語表記をBharatにしたとしても、
対外的にはそんなに問題があるとは思えない。
それが定着するかというのは課題はあるが、時間をかければそれなり?
ただ、どちらかというと国内の問題の方が大きそうだし、
そもそもこのG20サミットの夕食会招待状も国内的な事情によるものではと。
野党連合がINDIAという名前でまとまったことへの反発や、
ヒンドゥー至上主義で支持を得てきたモディ首相の考えがあると。
さっきインドの憲法に英語版とヒンディー語版があると書いたが、
実はインドがイギリスから独立するときに英語を公用語から外す案があった。
ところがそれは実現せず、連邦レベルの公用語としてはヒンディー語と英語が並立する形となった。
そもそもインドでは州レベルの公用語があり、18言語にも及ぶ。
このほかに公的な地位を持つ言語もあり、多数の言語が使われている。
インド国内では圧倒的に話者数が多いのがヒンディー語ではあるが、
連邦レベルの公用語をこれに統一することには南部を中心に反発があり、
共通語としての英語を公用語として残すこととなったという経緯がある。
ヒンディー語以外でもBharatに相当する表記が多いようではある。
Names of India in its official languages (Wikipedia)
大きく異なるのはウルドゥー語のHindustānとタミル語のIntiyāあたりか。
ヒンドゥー教徒の土地という意味のヒンドゥスターンはいかにもムスリムの言い分だが。
(ヒンディー語とウルドゥー語は根本的には同じ言語なのだが、ヒンドゥー教とイスラム教という宗教の違いで表記や語彙の差がある)
パキスタン(現バングラデシュ含む)と分かれたとは言え、世界有数のムスリムを抱えるのがインドである。
タミル語を公用語とするタミル・ナードゥ州はヒンディー語を連邦レベルの公用語に統一することへの反発が強かった地域ですよね。
どっちもめんどくさそうな話だなと思いますね。
英語表記の中でBharatと使ったことは、植民地時代に決められたIndiaという表記を捨てることが目的だという話もあるけど、
インドという国がこの形になったのはイギリス領インド帝国ありきのもので、
連邦レベルの公用語として英語が残ることになったのもその結果である。
そのような経緯を考えたときにBharatという表記への納得感には疑問は残る。
そこの納得感が深まった上で英語表記もBharatとするべきとなったならいいけど、
現時点ではモディ首相の暴走と取られても仕方ない話だよねと。