ドーピング頼みのフィギュアスケートか?

北京オリンピック、屋外の競技は寒さ・強風・雪の硬さに苦しんだりありますが、

氷の競技となれば、やはり最大の騒動はこれでしょう。

ドーピング陽性のワリエワに出場許可 16歳未満であることを考慮 (朝日新聞デジタル)


フィギュアスケート団体、日本は銅メダルを獲得したということが報じられた。

これは従来、他のチームに大きく差をつけられていた ペア と アイスダンス の強化を進めた結果であろうと思う。

弱点を埋めながら、長所を生かして挑戦していくのは、他の競技を含めて日本チームらしいオリンピックへの立ち向かい方だなと思う。

というわけで、個人種目に向けて弾みが付くと思っていたのだが……

なぜか表彰式が「法的問題」により延期されてしまった。

後に明らかになったところによれば、ロシアオリンピック委員会(ROC)チームのワリエワ選手が抜き打ちでのドーピング検査で陽性反応が出ていたということだった。

本来ならばその時点でオリンピック出場できなくなるべきだったのだが、

そのまま競技に出たがために、結果が変更になる可能性があるということだった。

国際スケート連盟・国際オリンピック委員会・世界アンチドーピング機関はスポーツ仲裁裁判所に資格停止処分の解除を取り消すように申し立てたが、

これは却下され、団体戦同様に個人戦も出場可能という決定になったわけである。


まず、これの不気味なところは、選手・チーム側が出場停止の取消を申し立てたわけではなく、

主催者側が資格停止処分の解除を取り消すように申し立てたというところですよね。

これについては、ロシア国内の反ドーピング機関であるロシア反ドーピング機関が、

この選手の資格停止処分を出してすぐに取り消す決定をしたことに原因がある。

しかし、知っての通り、ロシアチームはソチオリンピックでの組織的ドーピングをきっかけにして、国としての選手派遣が停止されている。

果たしてそんな地域の反ドーピング機関の決定が妥当なのかという疑問はある。


とはいえ、禁止薬物を検出したときの扱いはこういうものらしいですね。

日本では 日本アンチ・ドーピング機構(JADA) が国レベルの反ドーピング機関で、

ここに国体・アジア大会・オリンピック、あるいは障害者スポーツ大会・パラリンピックに選手を派遣する競技団体は参加している。

JADAは参加団体の選手に対してドーピング調査を実施している。

ここでドーピングが疑われることがあれば、日本アンチ・ドーピング規律パネル という中立機関が資格停止などの決定を行う。

JADAが直接決定するわけではないんですね。


なお、プロスポーツについてはJADAに加盟せずに反ドーピング活動を行っている場合があり、プロ野球と大相撲がよく知られている。

どちらも現在はドーピング検査を実施し、実際にそれにより制裁を受ける選手も出ている。

ただ、調査方法や制裁内容は統括団体の裁量により行われているわけだけど。

禁止薬物などの基準はプロスポーツでも整合しているとみられる。

野球についてはプロ選手が国際大会に派遣されることも多いわけだが、

それについてはJADAのドーピング調査が及んでいると思うが。


というわけで、ロシア選手であればロシア国内での決定によるのは本来のルール通りであろう。

とはいえ、確かに組織的ドーピングが行われた地域の反ドーピング機関とあって、検査機関としては認められなくなっているらしい。

ゆえに今回問題となった検体というのも、スウェーデンで分析されたものだという。

この検査結果の通知が遅れたことが、この問題の決着がオリンピック期間にかかった理由だと言われている。

結果的には出場可という決定は維持されたわけだが。


今回、検出された薬物については練習後の回復力を上げることを目的としていると言われている。

15歳ワリエワ騒動を“ただのドーピング事件”にしてはいけない理由…選手たちが語った“ロシアフィギュア界の闇”「みんなやってるよ」 (NumberWeb)

この点では抜き打ち検査で見つかっても、大会時の検査で見つからないのは妥当であり、大会時に陰性であるからOKというのは的外れな指摘だと思う。

過去にロシアのフィギュアスケート選手でこの種の薬で検出された実績もあるそうだ。

サプリメントなどに含まれるうっかりドーピングというのも考えにくい薬だし、

家族の薬がコップなどを通じて体内に入ったという主張もあるが、果たしてその程度で検出するのかという疑問はある。


今回、出場可という決定がなされた背景としてこういうことが書かれている。

ワリエワが16歳未満で、世界反ドーピング機関(WADA)が定める「要保護者」であることなどを考慮した

15歳の選手がドーピングしていたという事実こそが大きな問題だと思うのだが。

出場は認めても、その結果が認められるかは今後の国際スケート連盟の決定であり、個人戦の結果は無効になることも前提とした運営になるようだ。

ワリエワ選手が実力を発揮すれば入賞あるいはメダル圏内に入らないことは考えにくいので、面倒なことになる可能性が高い。


しかし、この一件で浮かび上がってきたのは、フィギュアスケートのロシアチームは相当マズいことをしている可能性が高いということである。

ワリエワ選手の15歳というのはシニア大会に出られる下限の年齢である。

フィギュアスケートの大技というのは体格が小さい方が出しやすいと言われている。

ロシアはこういう選手を多用しているのだが、その年齢で国際大会で上位争いをできる選手を育てる方法というと、ドーピングしてのハードトレーニングだったのではないかと。

15歳の選手が自分の意志でドーピングする可能性というのは低いだろう。

これが「要保護者」という概念の背景であろうが、しかしそれはチームの責任がより重いということである。

選手自身の責任は追及されなくても、チームとしての責任は大きく追及されることになろうと思う。しかし、それはオリンピック閉幕後に持ち越しらしい。


ちなみにロシアチームがロシアオリンピック委員会の名前で参加しているのも、

組織的ドーピングをきっかけとして、ドーピングと無縁の選手の出場機会が失われないようにするためだという話だという。

ただ、ドーピング問題で排除されたロシア選手はさほど多くないとみられ、団体競技への出場もできていることから、実質的なダメージはあまりないとみられる。

弱腰という批判はあるわけだけど、チームの責任と選手の責任は切り分けて考えることを基本としているようである。それにしても……と思うけど。


さっき紹介したNumberWebの記事では、厳しい体重制限により摂食障害を患った選手のことなどが紹介されている。

ドーピングというのも問題だが、やはりその背景にはチームの体制が非人道的であるということがあって、これが選手を苦しめている可能性が高い。

ロシアは特に極端ですが、フィギュアスケートの選手生命の短さは問題視されていて、シニア大会に出場可能な年齢を引き上げるということも検討しているらしい。

国際スケート連盟がフィギュア国際大会出場の年齢制限引き上げ検討 〝ロシア包囲網〟の指摘も (Yahoo!ニュース)

ただ、これが実際に長く活躍できるフィギュアスケート選手を生み出すことにつながるかはよくわかっていない。

選手生命の短さはフィギュアスケートの普及の妨げになるという危機感はあるが、

どうやって打開するのがよいかというのは難題のようである。


以前、アメリカ競馬の薬物問題を紹介しましたが、一番の問題はここですよね。

アメリカ競馬の薬物問題というのは、馬の健康を軽視していることが根本的な問題であろうと。

そこを改めなければ未来はないですよね。

(薬物頼りのアメリカ競馬は恐ろしい)

ロシアのフィギュアスケートチームも同じですよ。選手の健康あってのスポーツですから。