先日発売された2つの小説が話題になっていて……
人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話2 (KADOKAWA)
同じ出版社で発売日が同じ、そして女同士の恋愛と浮気である。
同じ出版社といってもライトノベルのガリバーであるKADOKAWAだから普通……
と思いきやどっちも電撃文庫ということでレーベルまで同じでしたか。
「人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話」というのはタイトルがひどすぎるが、
以前もカクヨムネクストの話で話題にしてますね。
上下巻構成で終わると思っていたら、収まりきらなかったようで3巻構成になりそうと。
既婚の高校教師、苺原樹が教え子の女子生徒に誘われるがままに手を出してしまうという内容である。
そんなことあるか? という感じはあるが、そこは小説ということで。うまく書いている。
2巻の紹介が「こんにちは! 私淫行教師の苺原樹! 十歳年下の教え子と関係を結んで平気な顔で教壇に立っているどうしようもないやつだよ!」とあって、
これは実際に小説の中で出てくる文言なのだが、ここにこの話の特色が現れている気がする。
「淫行教師」という部分は全く言い訳が立たないのですが……
高校生相手に女同士だから問題ないとは言えないでしょう。
一方で夫がいる中で女同士で付き合うことを「不倫」と重く考える必要があるのかというのは意見が分かれるところはあるかもしれない。
表に見える部分だけ集めれば、教師と生徒が公使ともに親しくしているぐらいの話で、
そこには教え子のプライベートな事情もあるということで。
2巻の結末はまさにそんな話だった。(ネタバレになるから書かないけど)
表向きはそんなにおかしな話ではないが、「不倫」と考えれば危ないというやつ。
逆に「彼女のカノジョと不純な初恋」は、紹介文に「恋愛感情がなければ浮気じゃない」なんて書いてあるけど、
これは浮気ではないかと言われる中で、友人関係の範疇であると言い張る話である。
そもそも背景として 碧海つかさ と 狭山玲羅 はよく知られた「カノジョ」同士ということがある。
女同士で付き合っていると考えられている。(実はここに疑義があるのでは? と書かれていたが)
で、この2人、元々は同居していたのだが、つかさが家を飛び出してきたところ、
事情があり、高校生でありながら1人暮らししている 拝島雪 の家に転がり込んできたと。
で、女同士で付き合っているとされる人と同居して親しくするのは浮気ではないかという指摘があり、
実際そういう見方もできる……というか際どいところはあるというか、言い訳できない部分もあるが、
先ほど書いたように表向き「恋愛感情がなければ浮気じゃない」としているところである。
で、この浮気ではないかと言っているのが、雪の友達である久留米弓莉なのだが、
口絵のキャラクタ紹介に「ユキに強い感情を向けている」とあるように、
この指摘は表向きは友人からの忠告に過ぎないのだが、おそらく別の思惑もあって……
転がり込んできた女に友人を取られることへの危機感なんでしょうよ。
「最近友人づきあいが悪いじゃないか」というような話なら一般的な友人関係にもありそうだが、
それを越えて独占したい人間関係ってもはや……ということなんですね。
玲羅-つかさ、つかさ-雪、雪-弓莉 の関係それぞれに着目してみると、
表向き恋人同士、友人同士、その実態は両思い、片思いの恋愛関係というのが交錯して大変煩雑である。
あとがきに「なぜかとても湿度が高い作品になっていました」とあった通り。
「夫がいる中で女同士で付き合うことを『不倫』と重く考える必要があるのか」と書いたが、
これは意見はいろいろあると思うが、男女間の関係と男同士・女同士は別という考えは一定ありそうである。
実際、男同士だからそれは別という考えを聞いたことはあるような気がする。
それで当事者同士が納得してしまえばそれで全部済んでしまうと。
もっとも「淫行教師」という部分は教員としての倫理とか、
現代的な言い方では「不同意性交等罪」への該当性とか問題はありますけど。
(かつての強姦罪だが、2023年以降、この名前になってからは女同士でも適用される余地が生じた)
そもそも浮気はいけないという考えはどこから出てきたのかという話もある。
さっき弓莉が浮気ではないかと忠告するのは「友人を取られることへの危機感」か?
なんて書いたけど、わりとそういう素朴なところが起点なのかもしれない。
ただ、男女間、特に婚姻関係となれば、より大きな問題がある。
まず重婚が禁止されているので、2つ以上の婚姻関係が同時に存在することはできない。
重婚があると絶対に困るなと思うのは嫡出推定である。
生まれてきた子の母親に2人以上夫がいたら嫡出推定なんて成り立ちませんよね。
(世界的には一夫多妻制が制度化されている地域はあるが、その逆がおおっぴらに行われている話は聞かない)
夫婦間には強い扶養義務がありますが、配偶者が2人以上いた場合には実現性にかなり問題がありそうで、
一夫多妻制が認められている地域でも扶養義務を確実に履行できることが要件にあったりする。
不貞行為が糾弾されるのも、親子関係や扶養関係というところへの憂慮が大きいんだと思いますけどね。
あとは税制や年金で優遇のある配偶者が2人以上いては不公平というのもあるでしょうしね。
で、この上に書いたようなことの起点がどこにあるのか考えると、
夫婦間に子供が生まれる可能性があるというところにあるんじゃないかと。
だから、結婚は嫡出推定や親権などの親子関係に影響を与えるし、
出産・育児などで仕事から(一時的かもしれないが)離れるのも珍しくない中で、
強い扶養義務、所得税・住民税の控除、社会保険料の軽減であったり、
配偶者の死後においては最低でも1/2の法定相続分、1/4の遺留分があり、
それに伴って相続税も軽減されることとなる。
制度面の話ばかり書いたけど、それ以外の慣例を生んでいる背景の多くはそこだと思いますよ。
じゃあ、男同士・女同士には成り立たないねという考えもあると思うんですよ。
男同士・女同士の恋愛関係があってもよいけど、
そこに男女間の関係にあるルールを当てはめてもうまくいかない可能性は大いにあるんじゃないか。
それでだいぶ前から同性婚に関する議論がとても危ういなと思っているんだよね。
というのも同性婚が制度化されたら、専ら相続時の優遇を目的に使う人が出てくるんじゃないかと。
もちろん男同士・女同士であっても相続が安定的にできることは、
同性婚を切望するひとにとって切実な課題の1つであるとは理解している。
でも、果たして節税同性婚なんてのが問題になったときに、世論は納得するのか? と聞かれると、
僕はそうもいかないんじゃないかなと思うんですよね。
本当に不公平かというと必ずしもそうとは言えないんだけど。
というのも男女間の結婚であってももっぱら節税目的で行われる可能性は存在する。
さっき結婚についての制度や慣例の多くは夫婦間に子供が生まれる可能性から来ているのではと書いたが、
夫婦間に子供がいるとは限らないし、おおよそ子供が生まれるとは思えない結婚でも成立するし、
親子関係に関わるものは関係ないにせよ、それ以外の効力は同様である
同性婚だってそれと同じことだから問題ないし、
重婚の禁止などの規定も適用されるだろう特段不公平とは言えない。
でも、なんやかんや言っても男女間だといろいろな慣例があって、
制度上可能だとしても踏みとどまるようなケースが多いと思うんですよね。
ところが男同士・女同士は別とすっ飛んで「節税同性婚」が容易に成立する可能性はかなりあるんじゃないかと思うんですよ。
で、そこに世論が納得しない場合、何らかの制限が必要になるかもしれないが、
男女間の結婚と同性婚に大きな差が生じるような制度は作れないでしょう。
子供がいることに着目するのか、婚姻期間に着目するのか、いろいろ考えはあると思うけど、
従来は全く問題なかったはずの男女間の結婚に問題が生じることになる。
ところで「節税養子」という言葉もありますが、
相続時の優遇を目的として成人同士の養子縁組が行われることは日本ではよくある。
というか日本の養子縁組のほとんどが配偶者の子に対するものと成人同士のものなんじゃないかね。
(養子縁組には家庭裁判所の許可が必要だが、この2つのケースは家庭裁判所の許可が不要である)
成人同士の養子縁組は子供の福祉に全く寄与しないので本来の趣旨から逸脱しているのだが、
日本では後継者を養子にして継承するということが伝統的に行われてきた。
現在もこの考え方は日本社会においては広く受け入れられているので、
節税養子というのも一定の制約のもとに公然と認められている。
そういう背景のない節税同性婚はおそらく社会的に受け入れられないんじゃないですかね。
そこをつぶす制度変更をするかどうかというのは政治的な判断だが、
そこをつぶすと男女間の結婚関係の慣例を多少なりとも破壊しかねないので、
そこが受け入れられるかというのは難しい問題ではないかと思う。
夫婦間に子供がいるような典型的なケースは従来通りカバーできる制度にすると思うが、
そこからこぼれる夫婦は不適格なのかという人は絶対に出てくるわけで、
そこに納得しない人が同性婚を制度化させるように仕向けたひとを批判するのは目に見えている。
話は長くなってしまったが、いろいろ突き詰めると難しい問題がある。
小説の話に戻ると――
「人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話」の特徴というのは、
男女間でやれば「不倫」ということを女同士でやって、これは不倫だと自らを責め立てるところにあると思っていて、
でも「後悔自体は一切ない」とあるように、そういう選択は普通にあるなというところが妙である。
「彼女のカノジョと不純な初恋」というのは、
友人関係と主張できる女同士の関係だとか、浮気をすれば糾弾されるような女同士の関係だとか、
なんとでも言えてしまうという要素がいろいろなところに現れている。
そんな中で関係を深めていくというところが面白いのではないかと思う。
どっちも大爆発エンドという可能性もありそうな作品ですけど、
何らかポジティブな結果には終わるんじゃないかと期待しているところである。
「彼女のカノジョと不純な初恋」の方は続刊出るか知らんけど。