こんなニュースを見て、本当にクック諸島とニウエに大使館開設するの? と。
米大統領、クック諸島とニウエに新たな大使館オープンを発表へ-AP (Bloomberg)
実際に島に大使館を開設するかはともかく、アメリカと両国はこのたび外交関係を結ぶことになったそうである。
米 クック諸島 ニウエと外交関係樹立へ 中国念頭に関係強化か (NHK)
そもそも今まで外交関係なかったの? と疑問に思った人もいるかもしれない。
これにはクック諸島とニウエに特有の事情がある。
実はこの2つの国はニュージーランドと自由連合協定を結んでいる。
この協定では国防・外交に関する責任をニュージーランドが持つこと、
クック諸島・ニウエの人々はニュージーランドの国籍を持つことになっている。
このため実務上はニュージーランドとの外交関係があれば足りると考えられている。
しかし、自由連合協定を結ぶ各国は独自の外交をすることが認められており、
このことを踏まえて日本は2011年にクック諸島を、2015年にニウエを国家承認している。
駐ニュージーランドの大使がクック諸島・ニウエも兼任する形なんですけどね。
果たしてクック諸島とニウエは独立国なのかというのは見解が分かれるところがある。
ニュージーランドの制度では、ニュージーランド王国は ニュージーランド、クック諸島、ニウエ、トケラウ、ロス海属領で構成されるとなっている。
ただし、ロス海属領は南極条約により領有権の主張は行われていない。
このうちニュージーランド、クック諸島、ニウエは対等な関係にある国同士となっている。
対等な関係にあるというのは、各国の判断で自由連合協定から離脱できるということである。
国防・外交はニュージーランドが代表して行うが、各国独自の外交を行うことも可能である。
一方、トケラウについては一定の自治権を有するが、対等な関係にあるとは言えない。
実はニュージーランドとしてはトケラウに自由連合協定への移行を提案しているのだが、
トケラウでの住民投票で否決されたそうで、移行できないままだそう。
複数の国が結合した国というのはけっこうある。
例えばイギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国の国王が兼任する形で生まれている。
現在もこの4つの国それぞれにサッカー協会が存在することが知られている。
一方で主権国家としては1つの国として扱われている。
イギリス全体の議会や内閣が国レベルの最高機関として存在しているし、
他の国との外交関係もイギリス全体で結ぶことになるからである。
ニュージーランドと似たような形で複数の国が対等に結合した国としてオランダがある。
オランダ王国は、オランダ、アルバ、キュラソー、シント・マールテンで構成される。
オランダはヨーロッパ地域とカリブ海地域の3島(BES諸島)で構成される。
オランダ以外の3つの国はカリブ海の島だけで構成される。
各国は独自の憲法・政府・議会を持つが、それより上位にオランダ王国憲章を持ち、
国防・外交・国籍についてはオランダ王国として責任を持つ。
実態としてはオランダ王国の構成国であるオランダが代表してやっている。
このあたりは必ずしも対等とは言えない関係性ではあるが、
オランダ以外の構成国に関わる条約にはその国の同意が必要などの規定があるという。
逆にフランスはヨーロッパの本土と同じ地位にある海外領土が多数ある。
国会の選挙権は有しているし、EUの市民としての権利も有している。
海外領土の中には高度な自治権を持つ物もあり、
特にニューカレドニアでは独立に向けて住民投票も行われたが否決されている。
独自の法体系を持ち、高度な自治を認められているが、フランス議会の選挙権もあるし、独自の外交関係を結ぶことは出来ないという状況である。
現在、海外領土などと言われるいわゆる本土から遠く離れた領土の多くは離島である。
経済的な自立が難しい国が多いため、独立の機運が高まらないと。
地理的に離れているが本土と同じ地位を選ぶ地域もしばしばある。
オランダのBES諸島はオランダ領アンティル解体時に本土化を選んだ比較的小さな島である。
本土住民と同等の権利を主張できる一方で、独自の政策には制限がある。
かといって完全な独立国になることも容易ではない。
そこで複数の国が対等な関係で結びついたものを選ぶことがあるのだろう。
オランダの場合は各国は主権国家とは扱われないが、
オランダ王国憲章は全ての構成国の同意がなければ変更できないし、
その憲章の範囲で各国は独自の政策をとることが出来る。
ニュージーランドの場合は、自由連合協定からの離脱の自由がある。
国防・外交の責任はニュージーランドが代表することにはなっているが、
各国に独自の外交を行うことも認めているのでそれぞれが主権国家という主張である。
あと、自由連合協定というのはアメリカとパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシアの間でも結ばれている。
こちらは国防をアメリカ軍が担い、外交のうち安全保障に関わる部分はアメリカに委ねている。
その代わり、アメリカから経済的な援助がある。
それ以外の分野については全面的な主権が認められているため、主権国家として扱われるのが普通である。
実態としてクック諸島、ニウエとの外交関係がどれぐらい効果的なのかはよくわからない。
確かに両国は独自の政策をとることはできることになっている。
でも、実務的にはニュージーランドと方針を合わせざるを得ないだろう。
経済的に困難な島にとって、自由連合協定からの離脱は現実的ではないので。
太平洋諸島フォーラムなどの場で国同士の対等な立場で議論するための体裁なのかな。
ちなみに現在、クック諸島とニウエに実際に大使を駐在させているのは、ュージーランドとオーストラリアだけとのこと。
どちらも国王を同じくする国同士なので高等弁務官って言うけど。
逆にクック諸島とニウエが大使(高等弁務官)を駐在できている国もあまりなくて、
ニュージーランド、フィジー(クック諸島のみ)、ベルギー(ニウエ)に留まる。
実態としてはニュージーランド駐在の高等弁務官が、ニュージーランド駐在の各国大使とやりとりするという形みたいですね。
ニュージーランドの首都ウェリントンにおいて、我が方、伊藤康一駐クック諸島日本国特命全権大使(ニュージーランドにて兼轄)と先方エリザベス・ライト=コテカ駐NZクック諸島高等弁務官(H.E.Mrs. Elizabeth Wright-Koteka, Cook Islands High Commissioner to New Zealand)との間で、供与額1.5億円の無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡の交換が行われました。
これが実態に即してるんでしょうね。