VRSへの登録が遅れると困る

ワクチン担当大臣がこんなことを言うのはなぜだろう?

接種記録遅い自治体、ワクチン配送見送りも 河野担当相 (朝日新聞デジタル)

実はここにはいろいろな事情があるので掘り下げて考えてみる。


ここまでファイザー製ワクチンの市町村への供給は、

概ね人口に応じて、市町村の希望数を考慮して供給してきたのだが、

来月に入ると、希望数が供給可能数の倍ぐらいに達するらしく、全然希望数に追いつかないらしい。

一方で各市町村に供給してから、接種するまでの在庫というのもある。

これまでの供給数に比して接種数の少ない市町村には在庫が滞留しているはず。

だから、接種数の少ない市町村はワクチンを配布しないこともありうるという話である。


ただ、問題はワクチン接種数の把握にVRSの記録を使っていることである。

地域の体制によってはVRSの記録が遅れているところがあり、極端な場合は全く記録されていないところがある。

極めてシステムの数値が低い自治体がある。在庫を積み増しても仕方ないという考え方もある

なんて大臣は言ったらしいが、とにかく実際の接種状況とは乖離があるわけである。


実はそのことは国も把握していて、ちょっと前にこんなことがニュースになった。

菅義偉首相は9日午後、立憲民主党の枝野幸男代表との党首討論で、新型コロナのワクチン接種について「順調に進んでいる。昨日は100万回を超えてきた」と述べた。ただ、加藤勝信官房長官は同日午前の記者会見で100万回は「未達」との見方を示した。

(首相「接種は大体100万回」 官房長官「未達」の見方 (朝日新聞デジタル))

VRSに登録された接種回数が1日で100万回増えたことをもって、1日100万回程度の接種に達していると総理大臣は解釈したが、

官房長官は実際に達している可能性は低いんじゃないかと言っているわけである。


VRSへの接種記録登録の推奨方法は接種会場でタブレットPCを使って記録する方法で、

国は接種会場(集団接種・医療機関)にタブレットを貸し出すと言っているが、実際には医療機関ではほとんど使われていないという。

これは医療機関がVRSの操作に人手を割けないといった理由で、市町村が肩代わりしているケースが多いからである。

接種できる医療機関の数を多くするためにはここは妥協せざるを得なかったと言われている。

この場合、医療機関から予診票を回収してから登録となるので、タイムラグが発生する。

なので、ある日の接種回数の増分というのは、A会場では前日の接種数だが、B会場では1週間前の接種数ということは当然ある。

この観点では1日の増分は平均的には1日の接種数であり、1日100万回接種数が増えれば、1日概ね100万回の接種だということになる。

しかし、実際にはVRSへの登録はもっと滞っており、今は接種が優先だと先送りにしてきたところも多かったんだという。

ところが国からさっさと登録しろとケツを叩かれ、休日返上で登録したとか、まぁそういうこともあるらしい。


で、当初はVRSへの登録が遅れることでワクチンの配分が遅れるなんてことは全く想定されていなかったという。

なぜならば、接種回数の管理はワクチンの配分に使うV-SYSというシステムで管理していたからである。

V-SYSにはA会場の累計接種回数は何回とか数字で入れればいいので、各医療機関で予診票の枚数を数えて入力するだけでOKと。

ところが、ある時期からV-SYSとVRSで二重管理になるのは好ましくないということで、VRSに一本化されることになった。

しかしながら、上で書いたようにVRSへの登録はもともとリアルタイムでできない接種会場も多い上に、

実際には登録を先送りにしていた市町村もあって、全然実態に合わない数字になってしまったのだという。


本来はVRSはワクチンの接種状況を全国広域でリアルタイムで把握できるようにする仕組みだった。

実際、大手町の接種センターでの接種記録が、すぐに各市町村に伝達されるなどはVRSのおかげとも言える。

これがうまくいっていれば、大臣の言うようにワクチンの在庫数や消費ペースをリアルタイムで把握して、

それに応じて配分数をコントロールすることはできるかもしれない。

が、実際にはVRSのタブレットが全接種会場に設置されることはなく、リアルタイムでの把握は出来ていない。

また、それが問題であると各市町村が認識したのは比較的最近だったというところも問題だった。


じゃあ、これでワクチン接種が滞るのか? というといくつか回避方法はある。

1つは都道府県による調整で、各都道府県は総数をどのように市町村に割りあてるか加減できるので、

VRS上の進捗は悪いが実際に在庫がないという市町村には多く配分することは都道府県の判断としてできる。

とはいえ、接種数とVRSの乖離が大きな市町村だらけだとこういう調整はうまくいかない。

でも、それでもやりようはあって、それはこれがファイザー製ワクチンの配分数であること。

モデルナ製ワクチンの配分は別にあるので、こちらで必要な接種回数を稼ぐということもある。

すなわち、広域接種センターなどモデルナ製ワクチンをすでに使っている会場での接種を見込んで、

その周辺市町村の配分数を減らして、集団接種会場を広域センターに集約するとか、

あるいは市町村の接種に使うワクチンをモデルナ製に切り替えるという方法がある。


実はこの問題というのはファイザー製ワクチンの供給を5~6月にドカンと固めた結果であり、

このおかげで市町村は在庫を尽きることを気にせずに接種体制を拡大できたとも言える。

ところが、ファイザーの供給スケジュールというのもあるので、7月の供給量は概ね半減することになる。

その見通しは少し前から示されていたのだが、この段階でより具体化してきたという状況である。

一方で、後発のモデルナ製ワクチンは同一会場で混在しないようにやってきたところだが、

市町村の接種ペースが維持される前提だとファイザー製ワクチンが尽きてしまうので、

従来はファイザー製ワクチンを使ってきた会場の一部をモデルナ製に転換する必要があるが、

かといって1回目・2回目は同じメーカーにするルールなので、混在する時期があり、これがどうなるかということである。


とりあえず各市町村とも計画を立て直す時期にはあるんだと思う。

当初計画にはなかった広域接種センターや職場での接種数を見込んだ上で、

市内医療機関でこれだけ、市の接種会場はファイザーがこれだけ、モデルナがこれだけとか。

ただ、そのために必要な情報もそろっているとは言えないし、一方でファイザー製ワクチンの供給数は来月には細ってしまう。

市町村担当者はなかなか大変である。


製造業でも現場の情報をリアルタイムで把握することの難しさが言われることがある。

ワクチン接種ではVRSにありのままの接種データがリアルタイムで入れば、

それをリアルタイムで分析して、地域・年齢層・接種場所などの切り口で状況が把握できるはずだった。

でも、それはすぐに頓挫してしまったんですよね。

VRSの操作性の問題などが課題として語られることは多いし、実際それは大きな問題なんだけど、

今までのそういうシステムが定着していなかったところに、無理やり導入しようっていったってうまくいくわけない。

結局は従来の定期予防接種のフローを生かしながら、VRSとどこかで連動させるような形が受け入れやすく、

それでもVRSのメリットはあるのだが、リアルタイムでの把握というところは多少なりとも失われてしまうわけである。


というわけで、VRSへの登録が滞っている市町村は打つワクチンがなくなるということはすぐにはないと思うが、

ただ、結果としては早期にモデルナ製ワクチンの割合を増やすことにはなるかもしれない。

このことから、近所で接種できると思っていたら、想定外に広域接種センターでの接種を迫られるような地域も出るかも知れない。

でも、全くワクチンにありつけない地域が出るというのは現実的な心配ではないと思いますね。

これで困る地域はモデルナ製ワクチンの接種会場にありつきやすい地域とみられているので。