ウイルスの変異にこれほど苦しめられるとは

新型コロナウイルスで気がかりなのが変異株のこと。

インフルエンザからの類推で言えば、やはりいろいろな変異は起きるだろうと。

その結果、ワクチンが開発されても、例えば はしか のワクチンのような非常に高い感染抑止効果は期待できず、

不十分な成果に終わる可能性はけっこうあって、いたちごっこ は続くだろうと。

ただ、重症化を抑制する効果はわりと期待できるので、その点では期待度は高い。

そんなところでごまかしながら「Withコロナ」の道を行くのではないか。

そう思っていたのだが、思っていたよりひどい状況である。


日本国内でウイルスの変異による影響が大きいと言われているのが大阪府である。

意識のない患者の中には、40代や50代の働き盛りの人たちがいます。

私は去年の1回目の緊急事態宣言が明けた後から1年近くこの病院の取材を続けてきましたが、いままで見てきた患者は80代や90代の方々が中心でした。
今回の第4波は、これまでと明らかに違うと感じています。

(“第4波はまるで違う”大阪の記者が感じる医師の危機感 (NHK))

現在、大阪府での新型コロナウイルス患者のうち、サンプリング調査の8割以上がN501Yという特徴があるという。

この多くは、B.1.1.7系統というイギリスで報告があった変異の系統だとみられる。

B.1.1.7を指してイギリス型の変異株というならわからなくもないが、それもイギリスで発見されただけで由来はよくわからないし、

あとN501Yについては他のところでも独立に同様の変異を獲得しているので、用語的には疑問もあるところですが。

で、N501Yの特徴を持つウイルスが多く流行するようになった大阪府では、

まず感染性が高まっている。これは同じ対策を行っても従来よりも感染抑圧が難しいということである。

また、これまでに比べて若くても重症化する患者の割合が増え(といっても軽症・無症状のまま推移する割合の方がはるかに高い)、

そういう患者は集中治療に耐えうると判断して入院させたはよいものの、なかなか退院できないし、

新しい重症患者受入要請が来ても応じることができないというのが、大阪府で起きている実情だという。


近畿圏ではこのような状況だが、関東圏では少し事情が違うが、こちらも変異株の懸念がある。

こちらは大阪府と同じN501Yの変異株も3割ぐらいあるらしいんですけど、

実はそれ以外にE484Kという特徴を持つ変異株が多くて、N501Yの特徴を持たないがE484Kの特徴を持つウイルスが半分以上を占めているとのこと。

東京iCDCにおける変異株スクリーニング検査について (東京都)

これについては症状の重症化に寄与するものではなさそうだが、

すでに免疫を持ってる人が再感染したり、ワクチンの効果が得られないという、免疫逃避の特徴を持ってる可能性があると。

どちらかというと将来における地雷ですかね。感染性への影響もある可能性はありますが。


世界に目を向けるとひどいのがブラジルで、もとより政府のウイルス軽視の姿勢が強く、

政府がやらないならギャングが外出禁止を呼びかけたというトンデモニュース(cf. アングル:ブラジルの街に新型コロナの波、ギャングが外出禁止令 (ロイター))も流れた。

大量の犠牲者を出しながらWithコロナを突き進むブラジルだったが、これゆえ、今困ったことが起きているという。

それがP.1系統という変異株だが、若くても重症化する割合が高いということで、

これは死者数にも明確に表れているという。

ブラジル、若年層でコロナ感染拡大 死者数急増=報告書 (ロイター)

20~40代で今年初めから今月初頭までの間に、新型コロナウイルスによる死者数が10倍ぐらいに跳ね上がったと。

医療リソース不足も深刻であり、それも影響していると思うが、単純に重症化しやすいと取るべきである。

このような深刻なウイルスが生まれたことには、ブラジルでの感染者数の多さが影響しているはずで、

すなわち感染者が増えれば増えるほど、深刻な変異が起きる確率は増え、そうして発生した変異が広域に拡大するリスクも高まっていると。


程度の問題ではあって、厳格に抑え込んでいるオーストラリアなどを除けばこういうことはいくらでも起きうるんじゃないか。

オーストラリアが極めて厳格な対策を取ったのはお国柄(家畜伝染病などでも見られる)ということであって

一時は人々の往来が極めて困難になるなど、人道上の問題も発生したところである。

現在も突発的なロックダウンが起きるなど、それはそれで影響が大きいところである。

日本はインフルエンザ対策に準じて対策をしたわけだけど、それは一定程度の市中感染はある前提ということだろう。

その中でも影響度が大きいクラスタをつぶしていけば、深刻な問題は回避出来るはずとやっていた。

ただ、まさかここまで変異の影響が大きくなるとは……というのが正直な感想では?

このような状況を予測できた人なんているのかな?


ワクチンの効果が期待できないわけじゃないが、当初は重症化するのは高齢者が多いということで、

すなわち高齢者の重症化を抑止すれば、市中感染の抑制は不十分としても、それである程度楽になるという読みだったが、

どうもそう簡単な話ではないということで、これは困った困ったということだと思う。

かといって今さらウイルスを根絶するのはこれも不可能である。

例え一定の地域で根絶しても、再流入(しかも感染性や重症化リスクの高い変異株かもしれない)への警戒は続く。


オーストラリアはこれがあるから、国境を越えた人の移動が困難な状況が続いている。

最近になってオーストラリア・ニュージーランドの往来は現実的に可能になったみたいですね。

豪とNZ、双方向の自由渡航を再開 入国時の隔離なし (BBC)

これだけ読むと他の国との往来は隔離すればできそうに見えるが、実務的にはオーストラリア国民すら帰国が困難な状況らしい。

国境閉鎖のオーストラリアにスターが続々入国 「二重基準」に国民が怒り (BBC)

オーストラリアの方法はよいことばかりではないということである。

ただ、変異株に怯える現状からすれば、最善の選択肢だったのかなと今にしては思う。


でもそれを当時、合理的に説明できる人はいなかったと思うし、それで抑え込んでも社会的な影響度が大きすぎる。

今の日本ぐらいでのらりくらりと乗り越えられればそっちの方が……というのは立場によるか。

なにより大阪府の医療状況を考えると、何で命を落とすかわからない状況ですからね。

東京都はまだやりようはあるかなぁ……でも状況が悪化しうる要素はいろいろありますからね。