全席指定だが自由席特急券で立席可

最繁忙期ののぞみ号が全車指定席になるとのこと。

この冬、年末年始は「のぞみ」号を全席指定席として運行します ― 3大ピーク期に「のぞみ」号の指定席を増やし、ご予約いただきやすくします ― (pdf) (JR東海)

全車指定の特急というのは数あれども、この のぞみ号の全車指定化はとてもユニークな方法である。


何がユニークかというと 自由席特急券 で のぞみ号 に乗車できるということ。

歴史をたどれば のぞみ号 は全車指定だった時代がある。

2003年に大増発が行われて以降、あわせて自由席の設定がなされるようになった。

のぞみ号の本数が多くなったからこそ、列車を指定せずにすぐ乗れることに意味があると考えたのだと思う。

確かに指定席だと指定された列車が来るまで待ちぼうけとなるので、

あまりに本数の多い東海道新幹線だからこそ自由席のメリットはあるなと。


全席指定の新幹線と言えば東北新幹線・北海道新幹線の はやぶさ・こまち・つばさ、北陸新幹線の かがやき がある。

これらの列車には基本的には指定席特急券を購入して乗車する。

ただし、例外がいくつかある。

はやぶさ・こまち・つばさ の末端区間を利用する場合は特定特急券で空席が利用できる。

特定特急券は制度上は列車を指定しない立席特急券で、自由席料金相当だ。

末端区間のため空席はあるだろうこと、指定席・自由席の料金差が比較的大きいので短距離利用への配慮といったところが理由だろう。

指定席が満席の場合には列車・乗車位置を指定した立席特急券が発売される。

(○号車 と指定されれば、○号車のデッキに乗車しなければならない)

料金は指定席特急料金-指定席差額なのだが、はやぶさ・こまち は加算料金があるので、他の自由席料金とは同額にならない場合がある。

これは着席すると指定席料金との差額が徴収されるので、本当の立席である。


あともう1つ、仙台~盛岡で停車駅のある はやぶさ号 で、

仙台~盛岡に限っては自由席特急券で指定席の空席を利用できる。

この区間は やまびこ号に乗車するための自由席特急券を購入できる。

(末端区間の特定特急券の発売区間は普段は自由席が設定されていない)

このタイプの はやぶさ号 は やまびこ号を置き換える形で設定されたので、

各停区間の利用は やまびこ号同様に利用できるようにしたと。

実は全席指定の のぞみ号 はこのルールに近い考えが適用される。


まず、のぞみ号が全車指定になっても ひかり・こだま の自由席は従来通り。

このため自由席特急券の発売は最繁忙期でも通常通り行われる。

ひかり号も最繁忙期はかなり混雑すると思われるが、

各停区間もあり こだま号 同様にローカルな移動への配慮もあるとみられる。

ただ、こうすると ひかり号自由席の混雑がひどいことになりそうだなと。

そこで自由席特急券で のぞみ号の普通車デッキに立席で乗車できるようにする。

これを認めることで全車指定にしても混乱を避けられると考えたようである。


自由席特急券では自由席車に着席・立席で乗車するのが基本である。

ただ、繁忙期には普通車指定席のデッキに立ってもよいという指示が出ることがある。

また自由席の客室内に立つことも可能だが、実態としてはデッキに立つことが多い。

このため、全車指定の のぞみ号普通車デッキに立つということは、

現状の最繁忙期の自由席特急券での立席利用の実態に近いと言える。

のぞみ号に自由席特急券で乗る限りは絶対に座れないというのが唯一の差異である。

その代わり絶対に座れる指定席特急券を買いやすくなる。


指定席特急券を購入して乗車したいというニーズが手堅いのが前提で、

もし買えなかった場合に立席乗車する場合は従来とほぼ同様に使える。

立席特急券と比べると列車・乗車位置の指定を行わない点が異なるが、

のぞみ号の本数が多いため、列車を指定しない方がスムーズに乗降できると見たのでは無いか。

列車の本数が限られている場合、立席で乗り切れない危険があるが、

東海道・山陽新幹線は本数が多く、むしろ乗車列車に柔軟性がある方がよい。

それは のぞみ号同士での自由度が高いということもあるけど、

自由席のある ひかり号・こだま号 と のぞみ号立席 を自由に選べることもある。


最繁忙期の利用実態を考えれば、そこまで変わらないなと思った。

指定席が取れなければ、ひかり号に乗るか、のぞみ号に立席だと。

そういう覚悟を持って利用してもらうのはよいことだと思う。

もっとも自由席に比べると指定席の方が高いことは事実である。

一般的には530円差だが、最繁忙期は930円まで広がり、のぞみには加算料金もある。

例えば、東京~京都では1250円差となる。

ただ、運賃料金全体で13320円から+1250円なので1割増程度である。

これなら指定席の座れるメリットの方が勝るというのは一般的な評価だと思う。


しかし、そういうレベルではない価格差が生じるケースもある。

それが6歳未満の幼児を連れたグループである。

大人または小児1人あたり幼児2人までは無賃で乗車できるのが基本である。

ところが大人に連れられた幼児であっても、指定席を1席利用する場合は、

6~11歳同様に こども の乗車券・特急券がともに必要になる。

例えば、東京~京都を 大人2人・幼児3人で最繁忙期に利用する場合を考える。

このグループが自由席で移動する場合の運賃・料金は26640円となる。

この5人が自由席でどのように座ったり立っても運賃・料金は変わらない。

一方で最繁忙期に指定席で移動する場合を考える。

大人だけ指定席を取ればよいが、現実問題として幼児3人を膝の上に乗せるのは難しい。

2人は膝の上に乗せて、1人は座席を取ろうというのが最小限と思うが、

この場合は14570×2人+7580円×1人=36420円となり、自由席の1.4倍となる。

さらに体格を考えればあと1人も膝の上に乗せるのは難しいとすれば、

14570×2人+7580円×2人=44300円となり、自由席の1.7倍となる。


よく幼い子どもを連れて長時間自由席を待ったりして、

どうして指定席を取らないのだ、かわいそうではないかという話を見る。

僕もそう思うのだが、上記の事情を考えると確かにと思うところはある。

最繁忙期の のぞみ号全席指定化後も ひかり号 は従来通り自由席があるが、

圧倒的に多い のぞみ号 の自由席がなくなると自由席の総量は大きく減る。

そんな中で長時間待ってでも自由席に座りたいと考える人が残るとすれば、

それはこのような層なのではないかと思う。

大人ならサクッとのぞみ号に立席で乗ればよい。


というわけで最繁忙期の東海道新幹線の利用実態を考えれば、

混乱を最小限に抑えながら、事前の指定席購入を推奨できる仕組みと言える。

はやぶさ号他の立席特急券は満席時の救済策にはなるが、

それをのぞみ号の立席に適用するのは確かにあまり筋がよくないと思った。

ひかり号自由席の代用として のぞみ号に立席乗車できるという解釈だが、

すでに最繁忙期の実態はそれに近いと言えるので、納得感はある。


なお、期間中であってもトラブル時には全車自由席の のぞみ号 を設定することもあると書かれている。

このような対応が可能なのも自由席特急券の発売をしているからこそと言える。

東北新幹線のアプローチでこれをやるのは難しい。

末端区間の特定特急券は普段から発売していて、これは自由席特急券の代用として使える。

しかし、例えば大宮~八戸の自由席特急券相当のものは普通は購入できない。

なのでこの区間で全車自由席の臨時列車を走らせても対応が困難となる。

(窓口では特別な操作で自由席特急券を出せるはずだけどね)

事情はほとんど異なるので比べるものではないけどね。