百貨店か疑わしいからストライキ

当初、まさかこんなことになるとは思わなかったんだけど。

そごう・西武、31日のスト実行へ 大手デパートでは60年ぶりスト (朝日新聞デジタル)

交渉次第で回避の可能性は残されているが、今のところは決行の可能性がかなり高いようである。


そごう・西武って買いたいですか?

セブン&アイホールディングス傘下で百貨店を営む そごう・西武 だが、

赤字続きで、株主からの圧力もあり売却に向けて動いたという話。

この記事は売却先が決まる前に書いたもので、誰が買いたいんだろうねと書いている。

結果的に売却先に決まったのは投資ファンドのフォートレスだった。

また、この事業のパートナーには ヨドバシホールディングス が付くとのことだった。


第一報を聞いたときに、なるほどヨドバシかと感心したのである。

ヨドバシといえば、電器店として日本一の売上を誇ると言われるヨドバシ梅田である。

直営売場だけ見ても電器店の枠組みに留まるものではないが、

テナントを含めれば衣食住が揃い、規模・立地の面では百貨店に近い。

このような店舗を手がける会社ならば、そごう・西武 の立て直しの道もあるのかもしれないと。


しかし、フォートレス・ヨドバシ連合の考えは僕が思っていたものとは違う点が多かった。

まず、ヨドバシがパートナーとして付く店舗について。

そごう・西武 は店舗整理を進めたものの、福井・秋田といったローカル店舗もある。

これらの店舗の立て直しも期待されていると思うのだが、

ヨドバシが興味があるのは 池袋・渋谷・千葉 に限られるということ。

この時点でかなり失望したのだが、池袋への出店形態も問題だった。

西武池袋本店といえば全国有数の売上を誇る百貨店である。

都心型の百貨店として広域からの集客をしているところである。

これに対してフォートレス・ヨドバシの当初構想はこんなのだったらしい。

セブン立案「池袋西武トンデモ改装」で深まる迷走 (東洋経済ONLINE)

地下1階から地上6階までぶち抜きでフロアの大半をヨドバシが占めるという。

池袋といえばビックカメラ、ヤマダデンキ と同業の大型店舗がある中で、

共存共栄を考えればこれはかなり厳しいと思うのだが……

なにより百貨店としての事業の継続性に疑問が付く内容である。

確かにそごう・西武の経営する店舗には百貨店としての期待に乏しい店もあるが、

池袋・千葉・広島あたりは各都市を代表する百貨店として期待が大きい。


これには地元の反発も大きかったのだが、労働組合の反発も大きかった。

その後、池袋への出店計画は見直されたのだが、それでも依然としてヨドバシが多くを占める状況は変わらなかった。

ヨドバシは1階と地下1階への出店を一部にとどめ、中層階以上への進出をメインとする方針に転換する。藤沢氏は「(低層階は)どうしても欲しかったが、お譲りしようということになった」とし、ヨドバシカメラが占める専有面積については「半分くらいを検討している」と述べた。

(ヨドバシ、西武池袋への進出を一部断念…中層階以上メインに (読売新聞))

これでは百貨店としての事業継続に疑問が付くことに代わりは無いし、

ヨドバシカメラが出店するというのは、その部分がそごう・西武の経営ではなくなるということ。

これは従来、そごう・西武で働いていた人の雇用が失われる可能性が高いと。


ストライキに至るまでの経緯として、セブン&アイホールディングスが労使交渉に出てこないのもあったよう。

そごう・西武の従業員と セブン&アイホールディングスの間には直接的な関係はない。

セブン&アイが そごう・西武 の持分を売却したとしても会社がなくなるわけではない。

売却後の会社の経営方針は売却後の経営陣と交渉することができる。

このような理屈もあるのか、労使交渉に出てこようとしなかったらしい。


ただ、ストライキに向けた動きが進む中で、セブン&アイホールディングスも労使交渉には出てくるようになったらしい。

労組のスト権確立後は、セブン&アイの井阪隆一社長が交渉の場面に顔を出し、現状の事業計画などを示して説得を続けてきたという。

(そごう西武スト通告 セブン&アイ深まる労使の溝 イメージ悪化も? (毎日新聞))

この点では一定の効果はあったようだが、実効的な議論が深まったとは言えないようだ。

セブン&アイにとってみれば売却してしまう事業、ストライキも大した痛手ではない。


セブン&アイにとってもいかんともしがたい問題ではあるのだろう。

そもそもこの売却は株主からの圧力を受けてのもの。

これまでも そごう・西武 の事業は整理を進めてきたが、地権者や従業員との関係もあるので、すぐに改善することは難しい。

そんな中で一括して売却に応じてくれる会社がいたことは渡りに綱だった。

雇用維持は売却の前提条件だから、表面上は問題ない。

なぜこんな条件で引き受けたのかという背景を考えてみると、百貨店としての事業継続は疑わしい。

でも、GOサインを出すべき条件は揃ってしまっている。


一方で そごう・西武 にとってもどうしようもない話である。

結局は親会社の意向に従うしかないのである。

だから、労働組合としては実質的な決定権のある セブン&アイ を労使交渉に引きずり出したのだが……

だからといって問題が解決したわけではない。


いろいろ振り返ってみると、確かにヨドバシは都心型の大型店舗を経営し、

その中には百貨店的な機能を持つ店舗もあるのは確かなのだが、

周辺店舗との協調は疑わしいよなとか、根本的には電器店だよなとは思った。

特に池袋は従来型の百貨店ビジネスが受け入れられる一方で、

一般的な電器店のニーズは十分に満たされている土地ではないかとも思う。

このような事情も考慮した上で、共存共栄の道が示されるべきだと思うのだが、

そういう道も示せないのかと気づいてしまってはガッカリである。

本当にこれやるんですかね? 千葉と渋谷もどうなんですかね?