電車専用道路とモノレール専用道

昨日、芳賀・宇都宮LRTの「電車専用道路」の話を書いた。

路面電車の名前と制度あれこれ

書いた後で、鬼怒川橋りょう区間を含めて40km/h規制を受ける根本的な理由ではないなとは気づいたものの、

調べてみるとこの特殊街路による軌道整備は意外な活用をされているようだ。


そもそも、軌道法という法律の話。

軌道法は一般には路面電車のための法律と考えられている。

この法律では事業の許可を「特許」と呼んでいる。特別に許可すると。

特許を受けると特別に道路上に軌道を敷設する許可が得られるわけである。

ただ、実際には軌道特許を受けるには、事業者負担で道路を拡幅するとか条件が付くわけですよね。

昔は路面電車が資金を出して道路拡幅というのもけっこうあったらしい。


時代を経て、道路を利用する車も多くなり、道路上空にモノレールを建設する話が出てきた。

普通鉄道ほどの輸送力はないが、道路上にコンパクトに敷設できると。

道路に支柱を立てるモノレールは軌道法を適用するべきで、

軌道法を適用するということは支柱や軌道(インフラ部と呼ぶ)は道路として建設できる。

と、こういう話になり、道路上に建設されるモノレールは軌道法を適用し、

インフラ部は行政で整備し、これを事業者が利用するという形で採算を取りやすくした。

道路上に建設されるAGT(いわゆる新交通システム)にも同様の考えが適用されている。

詳しいことは後で書くけど、道路扱いだと補助率がすごくよい。


ちょっと脱線するけど、地下鉄も道路の地下を利用するので軌道法を適用するべきという説があったらしい。

OsakaMetro(旧 大阪市交通局)はこの考えで軌道法を適用してきたが、他の地下鉄は鉄道事業法による。

地下鉄には事業費の35%を国が補助する制度がある。

地方でも国と同額補助して計70%、残りは事業者で借金して賄ってねと。

大阪市もこの制度で地下鉄建設していたので、国の補助という点でのメリットはなかったと思う。


行政がモノレールなどのインフラ部を整備する名目が「特殊街路」である。

都市計画道路の中で、一般の自動車が利用する以外のものをそう呼ぶ。

多くは歩行者道で、駅で線路の両側を結ぶ通路が特殊街路として整備されていることはあまりに多い。

都市計画道路には通常は「9・6・1」のような番号が付いているのだが、

それぞれ、区分・幅・区分ごとの番号 を表している。

で、この最初の数字が「8」だと特殊街路の歩行者道・自転車道、「9」だとモノレール道等、「10」だと路面電車道とのことである。

「9」「10」から始まる都市計画道路を見つければ、行政が軌道を敷設した、あるいはその計画があるということになる。


で、いろいろ調べたんだが、多くはモノレール・AGTだった。

千葉都市モノレール、ゆりかもめ※、日暮里・舎人ライナー、多摩都市モノレール、シーサイドライン、リニモ、ニュートラム※、大阪モノレール、ポートライナー※、六甲ライナー※、アストラムライン※、スカイレール、北九州モノレール、ゆいレール

(※は臨港道路区間や地下鉄区間が対象外)

臨港道路は港湾施設なので、臨港道路上に敷設するのは軌道法の対象外と。

これらの路線の建設当時は道路は建設省、港は運輸省と役所は分かれていたのだが、両者協調して同様の補助をしていたそう。


路面電車道というのは思った以上に少なかった。

  • 芳賀・宇都宮LRT(全区間)
  • 富山地方鉄道 富山港線(旧富山ライトレール) 富山駅~奥田小学校前
  • 富山地方鉄道 市内電車 丸の内~西町、安野屋~富山大学前
  • 岡山電気軌道 岡山駅前~駅前広場(建設中)、大雲寺前~西大寺町(計画路線)
  • 広島電鉄 駅前大橋線(建設中)

これらはいずれも近年の新設・改良区間である。具体的に動き出していない計画路線もある。

富山港線はJR高架化に合わせて富山駅付近で路面走行を導入するためのもの。

丸の内~西町は環状線のため、安野屋~富山大学は道路拡幅に合わせた複線化のため。

歴史的には路面電車は事業者側で必要な道路整備をして敷設するものだったので、

行政が道路事業で路面電車を整備するというのは新しい考え方らしい。


そしてこんなのも「モノレール道等」の特殊街路として存在した。

  • ゆとりーとライン(ガイドウェイバス) 大曽根~小幡緑地
  • かしてつバス専用道 石岡駅~四箇村駅 のうち石岡市内
  • 北大阪急行電鉄 箕面船場阪大前~箕面萱野 (建設中)

ゆとりーとライン は走っているのはバスだが、この区間は軌道法準拠なので。

ただ、この先例があったからなのか、旧鹿島鉄道の跡地の一部を利用したバス専用道も「モノレール道等」の特殊街路として規定されていた。

この区間は道路交通法でバス専用道として規制しているだけの道路そのもの。

代替バスが国道6号線との交差部で渋滞にはまるのを回避するために、

廃線後にバス専用道を行政が道路として整備するために特殊街路に指定したらしい。

行政が道路としてバス専用道を整備するのは後にひたちBRT(日立電鉄跡地)でも行われたが、こちらは都市計画上の位置づけはないらしい。

ただ、一般の自動車用ではない道路を行政が整備するという点では共通的である。


そして、最後に書いた北大阪急行の箕面市内区間、来年春開業である。

実は千里中央~箕面萱野の延伸事業は画期的な仕組みで国から高率の補助を引き出している。

道路扱いだと補助率がよいと書いたが、社会資本整備総合交付金 という制度は国が最大50%を補助する制度で、様々な社会資本に使える。

しかし、陸上交通関係は昨年度までは道路が唯一の用途だった。

モノレール・AGTを道路扱いにすると、この補助金が使えて国の補助が最大50%付くと。

これは地下鉄の国35%などと他の鉄道の補助制度よりとてもよい。


そこで箕面市はこの制度を使うためにこんな口実を考えたようである。

  1. 箕面船場~萱野で新御堂筋上を走る軌道を敷設する
  2. あわせて両駅に交通広場などの道路整備してバスルートの再編を行う
  3. これらの効果を発揮させるためには千里中央~箕面船場の地下鉄を整備して北急と接続して、1.の軌道にも電気設備などを付ける必要がある (関連事業)
  4. 追加で北急の車両を購入することで1~3の効果を高める (効果促進事業)

という口実で1~4の全てに最大50%の国補助を取り付けたわけである。

普通はモノレールなどを整備するための制度だが、北急と接続することで効果を発揮するということで、

地下鉄と同規格の高架鉄道、そして千里中央~箕面船場は明らかな地下鉄を整備する有様。


冒頭に芳賀・宇都宮LRTの専用区間が道路扱いであることは「40km/h規制を受ける根本的な理由ではない」と書いたが、

軌道運転規則では、新設軌道(道路以外に敷設する軌道)または路面以外に敷設する併用軌道は鉄道の規定を適用するとなっている。

道路に敷設する軌道でも高架や地下だけを走行するならば、鉄道の規定が適用できる。

これは特殊街路として整備されたモノレール道でも同様である。

鉄道としての保安装置を備えて、軌道運転規則の40km/h制限によらず制限速度を定めることが出来る。


ただし、路面走行とそれ以外が混在する場合、全体に軌道運転規則を適用できるともなっている。

芳賀・宇都宮LRTの電車専用道路には砕石を敷いた路面走行とは言えない区間もある。

しかし、それでも全体に軌道運転規則を適用しなければならない理由がある。

実は保安装置がないのである。

路面電車は40km/h制限を受ける一方、複線ならば保安装置なしの目視運転が許されている。

現状の芳賀・宇都宮LRTはこの方式にしか対応できないらしい。

速度制限緩和のための条件は今後の役所との調整により決定し、必要ならば保安装置を取り付けるということなのだろう。


特殊街路として路面電車専用道路を整備するのは初の事例と思われるが、

道路上空に モノレール専用道、AGT専用道 というのは多数整備あるし、

箕面市に至っては実質的な高架鉄道を道路として整備しようとしている。

これらは全て鉄道の規則に従って運転を行っている。

路面電車の場合、既存の道路敷地を利用する場合は路面走行になってしまうが、

今回は鬼怒川を電車専用橋で渡る必要があり、電車専用道路が発生した。

ここで鉄道相当を選択することもできた可能性はあるが、全部を路面走行区間と同等に扱うことを選んでいるのが現状である。