路面電車の名前と制度あれこれ

昨日、芳賀・宇都宮LRTが開業した。

路面電車がなかった都市に路面電車が新設されるのは1948年の高岡市内(現:万葉線)以来のことだという。

とても珍しい取り組みだが、これにはそれなりの理由がある。


それはさておき、この路線をどう呼ぶかというのは微妙なところがある。

  • 運行会社: 宇都宮ライトレール
  • 届出上の路線名: 宇都宮芳賀ライトレール線
  • 案内上の路線名: 芳賀・宇都宮LRT

とそれぞれ微妙に違うのである。

宇都宮ライトレールとして報じられることも多かったのだが、それは社名。

当地では「ライトライン」という記載もあるが、これは車両の愛称らしい。

でも、実は「ライトライン」が一番通りがよい名称なのかもしれない。


このような交錯の背景には宇都宮市・芳賀町にまたがる路線というのもあるのだと思う。

芳賀町はこれまで鉄道がなかったので、これが初めての軌道系交通機関である。

宇都宮駅から芳賀へ至る路線と理解するとわかりやすい一方、走行するのは大半が宇都宮市内である。

おそらくこれが現れたのが「芳賀・宇都宮LRT」という名前なのだろう。

一方でこの計画は宇都宮市が主導しており、宇都宮駅より西側の計画もある。

そのような事情から社名は 宇都宮ライトレール(株) となったのだと思う。

なお、同社には芳賀町も出資しているので、宇都宮市だけのものではない。


届出上の「宇都宮芳賀ライトレール線」だが、これは都市計画上の名前である。

路面電車・モノレールは都市計画法で特殊街路として扱われる。

すなわち路面電車の線路やモノレール軌道は道路事業で作ることができる。

現在、東大阪方面への延伸を行っている大阪モノレールもそうで、

支柱・軌道桁(インフラ部)は大阪府が公共事業として建設を行っている。

芳賀・宇都宮LRTも同様で線路は宇都宮市・芳賀町が建設している。

ともかく、都市計画上の名前をそのまま届出したのではないか。

こういうのは他でもあって、大阪モノレールでも彩都線の届出上の路線名は「国際文化公園都市モノレール線」とかいうクソ長い名前だったりする。

いかにも都市計画上の名前ですね。(国際文化公園都市は彩都の計画上の名前)


路面電車は道路事業として整備されることに関連して、こんなものがある。

これは踏切なの? 「宇都宮LRT」道路との交点に遮断機なし 代わりにあるものとは 開業まもなく (乗りものニュース)

芳賀・宇都宮LRTの多くは路面走行区間だが、鬼怒川を渡る前後を中心に道路から離れて走るところがある。

一般的に線路と道路が交差するところは踏切という。

ただ、路面走行区間では電車も道路のルールに従って走るので、一般的には踏切とは呼ばない。

一方で路面電車でも遮断器を設けた踏切は存在する。

軌道法の規定では軌道は原則道路に敷設するが、道路から離れることも認めており、これを「新設軌道」というそう。

都電荒川線、東急世田谷線、嵐電は大半が新設軌道でごく一部が路面走行区間なので、ほぼ普通の鉄道である。

新設軌道では一般の鉄道の規定が適用される部分があり、道路との交差部は踏切となる。

(東急世田谷線は環七通りと交差する通称「若林踏切」を除き、道路との交差は踏切で処理している)


で、芳賀・宇都宮LRTで道路から離れて走る区間の扱いなのだが、

どうも 電車専用道路 という扱いで、新設軌道ではないらしい。

実際、緊急車両の走行を想定して舗装されている区間が多いらしい。

(鬼怒川橋りょう など、砕石を敷いた一般的な鉄道の構造の区間もあるが)

公共事業で線路を建設する方便だとか、踏切の新設が原則認められないことへの対応とかいろいろ言われているが。

デメリットとしては軌道法の規定により40km/hの速度規制を受けること。

(ただし、鬼怒川橋りょうなどで将来的な速度制限緩和の計画はあるそう)

電車専用道路と一般道の交差部は道路同士の交差として扱うことができるので、

一般道に「止まれ」の標識を付ければ交差部の処理としては問題ないと。

とはいえ、さすがにこれだけでは心配と警報器は取り付けられているよう

ただ、それを言うなら電車専用道路に通行止(電車を除く)の標識が必要だと思うのだが……

一応、交差部の路面には「はいらないで」という表示はあるけど。


芳賀・宇都宮LRTが実現したことには工業団地への通勤路線という裏付けがある。

すなわち工業団地の送迎バスからの移転である程度利用が見込めると。

それに加えて沿線のバス利用・自家用車からの転換に期待しているわけである。

多くが路面走行区間ではあるが、電車の走行空間は独立して確保できているのでスムーズな走行が期待できる。

路面電車では珍しい快速運転も予定されており、追い越し設備も用意されている。

芳賀町にとっては町域の端にある工業団地を通過するに留まるが、

芳賀町工業団地管理センター前停留所(長い!)に隣接してトランジットセンター(旧:芳賀バスターミナル)が設けられ、

バス・自転車・自家用車といった町内交通と接続できるようになっている。

道路空間をうまく利用しながら、宇都宮市街の道路交通を削減することが、芳賀・宇都宮LRTの目的ということになろうと思う。

自家用車からの転換がどれぐらい実現するかが課題でしょうか。


当面は運賃収受に時間を要することも考えて余裕を持ったダイヤ設定だが、

利用者が慣れてくることを前提に詰めていく予定である。

そうすると全区間走破して快速で37分、各停で44分という想定らしい。

平均速度24km/h(快速)・20km/h(各停)というのは物足りない気もするけど、それでも従来のバスよりは速くなる想定らしい。

鬼怒川橋りょう などのスピードアップも実現すればさらに効果的になる。

なかなかこういう条件が揃うところは少ないと思うのだが、

道路整備と一体化できることなど、路面電車ならではの特色を生かせれば確かに面白い。