もはや貨物調整金がない

北海道新幹線の新函館北斗~札幌間の開通後、

平行する函館本線(小樽~札幌を除く)についてJR北海道は撤退することとなっている。

このうち長万部~小樽についてはバスでの代替が決定している。

新幹線開通後に在来線がバスで代替されるのは 北陸新幹線(長野新幹線)開通後の碓氷峠区間以来である。

一方の函館~長万部は調整は難航していたが、とりあえず鉄道としては残る方向になったようだ。

函館線の貨物網維持へ有識者会議設置 国交省など26日にも決定 (朝日新聞デジタル)

ただ、まだ具体的なところは固まっていないのだが。


そもそもこの区間は廃止はおおよそ考えにくい区間だった。

なぜならば五稜郭~長万部には本州~北海道間の貨物列車が多く運行されているから。

また、函館~新函館北斗については新幹線接続や沿線の通勤通学のために旅客列車も継続して走らせる方向で考えられていた。

問題は新函館北斗~長万部と2つの支線である。

貨物列車が走るのは決まっているが

まず、七飯~大沼で新函館北斗駅を経由しない支線がある。

旅客列車の運行だけならば必要ない支線なので継承する必要はないと。

さらに残りの区間も列車のコストが高いのでバスでの代替を想定していると。

このような形で貨物列車専用となった線路は誰が管理するのか? これが問題だった。


過去にも新幹線開業後にJRの旅客鉄道会社撤退後の線路維持費が問題となることはあった。

旅客列車だけならばともかく、貨物列車が走るとなれば維持費がかさむから。

しかし、それでもなんとか折りあいが付いていたのは貨物調整金という制度による。

従来、JR貨物はアボイダブルコストルールとして、JR旅客会社に支払う線路使用料は変動費分だけに抑えられてきた。

以前、JR東日本が日本海縦貫線を構成する各線で大赤字を出している話を書いた。

日本海縦貫線は大赤字

この赤字は貨物起因による部分も相当あると考えられる。


一方で、JR撤退後の各路線では、旅客・貨物間で維持費を按分して線路使用料を請求することを認めている。

青森県内の旧東北本線は青森県が所有している。

旅客列車を運行する青い森鉄道が本来払うべき使用料は年間およそ5.7億円。

(実際には青い森鉄道が赤字になる場合は減免されている)

これに対してJR貨物の線路使用料はおそらく35億円程度である。

(青い森鉄道が青森県から受け取る指定管理料から推定)

しかし、JR貨物はこれだけの線路使用料を負担しきれないのが実情で、

そこで従来との差額は貨物調整金という形で補填をされている。

これがJR貨物全社で136億円と有価証券報告書に記載されている。


貨物調整金があれば、函館~長万部の線路を維持できそうな気もするのだが、

実は現在の貨物調整金の制度は2030年度に終わることが決まっている。

というのも、この貨物調整金の原資は整備新幹線の貸付料なんだけど、

貸付料が発生するのは開通後30年間なので、北陸新幹線の高崎~長野(1997年開通)や東北新幹線の盛岡~八戸(2002年開業)などはそろそろ満了となる。

さらに言えば本来は新幹線の貸付料は借入金の返済に充てるべきお金である。

そういう事情も考えたときに貸付料から貨物調整金を出すのは持続性がないと。

このため、北海道新幹線開通後の函館~長万部ではこれをアテにしていない。


ではどうやってこの問題を打開するのか? というと具体的なところはわからない。

先の記事にはこう書いてあるが。

道などが出資する第三セクターが線路などを保有し、JR貨物が列車を運行する「上下分離方式」を軸に検討が進むとみられる。ただ、JR貨物が支払う線路使用料以外に収入の柱はなく、負担割合をめぐる議論は難航しそうだ。

JR貨物の負担能力がない中で、一体誰が補填するのか?

沿線市町村では困難なことを考えれば北海道か国かだと思うのだが。


新函館北斗~長万部では旅客列車の運行をやめる方向で議論が進んだこともあり、

このようにクローズアップされたのだが、必ずしもこの区間特有の問題でもない。

えちごトキめき鉄道 日本海ひすいライン(旧北陸本線)はほぼ貨物依存である。

北海道内でも五稜郭~木古内の旧江差線を継承した道南いさりび鉄道もそうである。

貨物調整金への依存が大きく、沿線にとっても多額の赤字を肩代わりすることを強いられている状況である。


貨物調整金の制度がなくなるといっても、代替となる制度は設けられる予定だという。

その制度はどのような制度になるかということは明らかではないが、

貨物列車が多くを占める路線にとって現在の貨物調整金の制度がよくないのは、

維持費を旅客・貨物の比率で按分する都合、貨物列車の運行状況が同じでも、旅客列車を増やすと貨物の線路使用料が減ってしまうことである。

列車を増発すると、列車を運行するためのコストが増加するのは当然だが、

それ以上に貨物の線路使用料減の影響の方が大きいという状況が発生する。

新函館北斗~長万部で旅客列車廃止の話が出たのは、

線路の維持費を抜きにしても列車の運行コストが見合わないのもあると思うが、

旅客・貨物の比率で維持費を按分するという仕組みにも原因があったと思う。


鉄道貨物は長距離輸送では存在感があるとされている。

北海道~本州は道路で行き来できないこともありなおさらである。

一方で海に囲まれた日本ではフェリーやRO-RO船による海上輸送も盛んである。

北海道~本州の貨物輸送ではすでに海上輸送の割合がかなり高い。

長距離の海上輸送は遅いのではないか? と思われるかも知れないが、海上輸送の方が時間が読めて早いというのが一般的な認識だという。

JR貨物の負担能力がないのは海上輸送との競合というのはけっこうある。

じゃあ、貨物列車いらないじゃないかという話もあるのだが、

鉄道貨物は内陸も含めて対応できるため、港までのトラック輸送がいらない点にメリットがある。

この特徴から速さはそこそこでいい農産物の輸送で使われることが多いという。

北海道~本州の貨物輸送で占める割合としては高いとは言えないが、区間によってはなかなか代えがたい面はあるようだ。


本当は今までこの手の問題が顕在化する機会はなんぼでもあったはずだが、

アボイダブルコストルールとか貨物調整金という形で回避し続けていた。

これまでも貨物調整金で対応しきれない分はあったはずだが、

それでも地域の足として評価して沿線で肩代わりしてきたのが実情である。

これらの条件が一気に成り立たなくなったのが 新函館北斗~長万部 だった。

この区間に限れば北海道がなんとかしろという話もあるけど、

そもそも貨物調整金の問題は全国各地に散った話でもあり、国レベルでの対応は避けられないでしょう。