棺を安置するという埋葬方法だから

今日、イギリスのエリザベス女王の葬儀が行われ、

そのままウインザー城の聖ジョージ礼拝堂に安置されるとのことである。

あわせて夫のフィリップ殿下(昨年亡くなっている)の棺も礼拝堂内で移動され、

夫婦隣り合って安置されるとのことだが……


日本ではこういう形で埋葬場所を変えるというのはなかなかないと思う。

特にこの場合、最終的には夫婦隣り合って安置することは想定されている中で、

仮置きのような形で対応していたというのはなかなか考えられないことである。

もっとも現在の日本では火葬が一般的で、○○家の墓ということで一族の焼骨を同じところに納める対応が取られる。

天皇・皇后以外の皇族も現在は火葬の上、夫婦で合葬が通常ですからね。


イギリス王室の葬儀などの儀式については、イングランド国教会というカトリック系の教派による。

(ただ、ヘンリー8世の離婚騒動がきっかけで、ローマ教会からは独立しているという)

キリスト教の埋葬ってどうなっているのか?


まず、キリスト教では教義として最後の審判による復活があるため。

このため、特にカトリックでは火葬は推奨されないというが、イスラム教やユダヤ教ほどの忌避感はないようである。

このため日本ではキリスト教でも火葬が通常である。

日本においてはキリスト教における火葬も骨上げなど仏教の影響があるという。

世界的に見れば火葬時に機械的に粉末にしてしまうことが多いんですけどね。

イギリスも火葬が多くて、その場合は遺骨は粉末状にして渡されるようである。


世界的に見てキリスト教の埋葬方法として一般的なのは、寝た状態で納められた棺を土に埋めるという方法である。

日本では火葬が普及する以前は遺体を折り曲げた状態にして土葬するのが一般的だった。

イスラム教では遺体を布に包んで埋めるのが正統な埋葬方法である。

ここがキリスト教の埋葬の特色の1つと見てよいと思われるが、

もう1つのポイントが土に埋めるのが一般的だが、埋めずに安置する方法もある。

先ほど書いたようにイギリスの王族の埋葬方法としてはこれが多いわけである。

しかし、そのためには特別な配慮が必要でもある。

鉛の内張りで非常に重くなっているが、埋葬せずに地下室に入れるため、気密性も高くなる。

(30年前から準備されていた? エリザベス女王の棺の秘密。 (FIGARO.jp))

気密性? と思ったが、おそらく臭気が漏れ出すのを防ぐためではないか。


日本の法令では棺をそのまま安置するという埋葬方法は認められていない。

墓地、埋葬等に関する法律における定義は下記の通りである。

「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。

「火葬」とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。

「墳墓」とは、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設をいう。

「納骨堂」とは、他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。

日本においては遺体は土に埋めるか焼かなければならない。

火葬後の焼骨は埋めるか納骨堂に納めるか。埋めなければ個人で保管するのは許容されますが。

この規定もあって、沖縄・奄美の風葬は廃れたという話がある。

それは風葬の墓だった


仏教やイスラム教だと遺体を土に還すというような考えもあるわけだけど、

キリスト教では必ずしもそうではないということが読み取れる。

キリスト教の棺は土に埋めてもその形を保つことが期待されているようで、

金属製の棺であったり、丈夫なものが使われるようである。

なので管理上問題ないならば、棺を安置するという方法でも問題ないということなのではないか。

このような方法が取れるのはごく一部の人に限られるが、王室では可能なようだ。


なお、日本では皇族を含めて火葬の後、夫婦合葬が一般的になっていると書いたが、

天皇と皇后においてはその限りではなく、現在の上皇・上皇后については火葬ののち、隣り合って設けられた陵に納められるとのことである。

天皇の埋葬方法というのは時によって変化し、仏式で火葬されていた時代もある。

近年は土葬が一般的だったが、昭和天皇と‎香淳皇后を最後にして、火葬になる。

火葬では合葬することも容易なので検討されたようだが、どちらが先に亡くなるかわからず、儀式の不都合もあろうということで見送られたようだ。

火葬にしても焼骨を納めるまでは一連の流れとして行うがゆえのことでもあり、

冒頭に書いた、後で埋葬場所を動かすようなことは例え火葬でもあり得ないということだね。


ところ変われば埋葬の習慣も変わるわけですけど、なかなか不思議なもんですね。

そもそも葬儀の会場になっているウエストミンスター寺院について見ても、

その床下や壁などには埋葬されている人の名前が山ほど記載されているそうである。

これも日本の感覚ではなかなか考え難いことである。

近年だと、物理学者のスティーブン・ホーキングが埋葬されたそうで、遺骨を床下に納めたようである。

ホーキング博士、埋葬 ニュートン、ダーウィンとともに (朝日新聞デジタル)

日本でも納骨堂など屋内での埋葬はあるけれど、なかなかこうはならないでしょう。

イギリスでも一般的とは言いがたいのはそうだけど。