それは風葬の墓だった

こういうニュースがあって、なかなか難しい話だなと。

京大収集の琉球人遺骨の返還認めず、住民ら敗訴 京都地裁が判決 (京都新聞)

今の感覚ではなかなか考えにくいが、昔は研究者がこういうのを持っていくことはあったんだよね。

それで返還を求めて裁判するも、子孫など祭祀を継承した人とは言えないということで、骨を返す義務はないという判決にしかならないと。

まぁだいたいこういうのは戻らないですね。骨に限った話ではありませんが。


それにしてもどんな墓なのだろうと「百按司墓」の写真を調べてみると、

骨を箱に入れた「木棺」の写真があって、どうにも違和感がある。

そこで調べたところ、ここには沖縄で伝統的に行われていた「風葬」と「洗骨」が関係することがわかった。

そこには沖縄における宗教観もあるそうだが、土地の限られた島特有の事情もあったようだ。


日本では死者の埋葬方法はほぼ火葬になっているが、それは近年のこと。

かつての日本の主流は土葬だったし、世界的に見れば未だ主流である。

土葬は埋めるだけなので省エネルギーで容易に埋葬できるものの、埋葬に大きな土地を要するのが難点である。

現在の日本では先祖代々の墓とか焼骨を納めることを前提にコンパクトな墓が多いが、

都市部で土葬墓を確保するとなれば、そこら辺が墓地だらけになったり、遠くに運搬して埋葬する必要があったり、とにかく大変である。

そういう問題が無く、とりあえず火葬さえしてしまえば、骨を納める場所は後付けでなんとでもなる火葬は都市化には好都合である。


ただ、沖縄での伝統的な埋葬方法は「風葬」だったんですよね。

そもそも風葬ってなんやねんという話だが、遺体を放置して白骨化させることを指す。

沖縄においては洞窟などを利用して、そこに棺に入れた遺体を数年と放置することを指す。

これにより骨以外の部分は腐って分解されていくわけである。

そして、あるタイミングで残った骨を洗浄する。これを「洗骨」という。

そしてその骨を厨子甕(ジーシガーミと読むらしい)に納める。

これにより埋葬が完了するという仕組みである。


このような方法が採用されたことには沖縄は土地が限られる島が多い事情がある。

この方法は遺体を長期間放置するために洞窟などが必要で、

1つの墓の規模は大きくなるものの、数年で洗骨を経て骨の形で納めることになる。

骨の形にすると合葬が容易であり、複数人の骨を1つの壺に納めることも多かったという。

「門中」とかいうかなり広い一族、あるいは地域で共有の墓を持ち、

そこには風化を待つ遺体を納めた棺と、洗骨された遺骨を納めた厨子甕が納められているというわけである。

そういう風習のない人にはなかなか想像がつかないところはあるが、土地が限られる中では合理性があったわけである。


現在の沖縄県ではほとんどが火葬になっているという。

まず、風葬は皆無であるとのこと。

風葬は一見して遺体を放置している状態であることから問題視され、土葬した後に掘り返して洗骨という形に移行して、現在がそれも続いている島もあるという。

だから、土葬というのは島によってはある話で、そこに洗骨の文化も残るのが沖縄特有である。

ただ、骨にするという点では現代では火葬がもっとも合理的である。

洗骨は精神的・肉体的な負担も重く、安全面の問題もあった。

なので、火葬場のある島や、あるいは火葬場への運搬が容易な島であれば火葬されるのが普通になっている。

風葬を経ずに遺骨を納めるということで、巨大な墓を共有する必要はなくなり、

沖縄の伝統的な破風墓のミニチュアを作って、そこに骨を納めることが一般的だという。

そもそも離島で亡くなるまで住み続けること自体が大変であり、離島在住者でも入所・入院により火葬場のある島で亡くなることが多いという。

こうなると火葬して島に持ち帰るのが便利なので、火葬は沖縄県全土に根付いていると言えそうだ。


というわけで、これが墓の写真を見たときの違和感だったわけですね。

現在もその伝統は形を変えて沖縄に根付いているということである。

骨にする部分はほとんどが火葬、離島で困難な場合は土葬だが、

それはいずれも風葬の伝統を継承しているということである。


なお、百按司墓から持ち出した骨は、京都大学だけでなく、国立台湾大学(かつての台北帝国大学)にもあったがこちらは沖縄に戻っている。

ただし、戻った先は元の墓ではなく、沖縄県立埋蔵文化財センターである。

保管場所が県内になっただけで、研究施設に保管されていることは変わらない。

なお、保管場所を埋蔵文化財センターとする件は墓の所在する今帰仁村とも合意している。

上の裁判で訴えた自称「祭祀継承者」はこのことにも反発しているようだが。

考え方はいろいろあるだろうが、少なくとも日本の法令上は具体的に祭祀継承者が特定された骨以外は元の墓に戻す必要はないことは確からしい。

その上で研究者の考えとしては戻すべきではないというのは一貫しているようだ。