発電用ダムから砂を運び出すために

あれ? と思ったニュース。

国、トンネル新設検討 大町・高瀬ダム湖の土砂搬出のため (中日新聞)

ダムの土砂を運び出すためにトンネルを建設するの? というのはそういうものかなと思ったけど、

あれ? と思ったのは高瀬ダムは東京電力所有のダムなのに、なんで国がトンネルを作るの? ということ。

勘違いじゃないよね? と思って調べたら、確かに高瀬ダムの所有者は東京電力だった。


そもそも、ダムの堆砂ってご存じですかね?

ダムがない場合、山から流れ出した土砂は海にたどりつき、それがさらに陸に流れて砂浜ができる。

海岸線にきれいな砂浜があるというのは、近くの川から砂が流れてきているからこそである。

もっともよいことばかりではなく、河口付近が砂で埋まって、港の機能を阻害するようなこともある。

大和川付け替えで、大和川流域から大阪港に流れ込んでいた土砂が、堺港に流れ込むようになり、

当時は南蛮貿易(鎖国前だった)などで栄えていた堺港の機能は衰退していった。

一方の大阪港は土砂流入が軽減された後、明治以降に貯まった土砂を浚渫して埋め立て、港湾機能を拡大。現在では日本有数の貿易港である。


ダムができると、もともと海に流れ込んでいた砂の一部がダム湖に貯まることになる。

これにより2つの問題が生じる。1つは海に砂が流れ込まなくなり海岸線が維持できなくなること。もう1つは単純にダム湖が埋まること。

ダム湖が埋まるという点については、もともとそれを見越して堆砂容量を確保してあるので問題ないという説明も出来る。

ただ、水系によっては土砂の流入が多く、ダム湖への影響、海岸線への影響ともに大きい場合があり、

そのような場合は積極的な対策が行われているケースもあるようだ。


さて、ここで最初の話に戻るわけだが、高瀬ダムは信濃川水系に属する。

信濃川水系は比較的土砂の流入が多い水系で、高瀬ダムの上流は土砂崩れの影響で特に流入が多いようで、

そのため総貯水容量の半分が土砂で埋まっているとのこと。

それでも機能が維持できていると言えればよいのだが、問題は高瀬ダムが揚水発電の上池を構成するダムであるということ。

揚水発電は電気を蓄えるのが目的だが、蓄えられる電力量は上池と下池の高低差と貯水容量で決まる。

ということは高瀬ダムが砂で埋まってしまうと蓄えられる電力量が減り、揚水発電の効果が減少してしまう。

そのため東京電力も高瀬ダムの土砂を取り除いて、揚水発電の機能を維持しようとしているが、土砂の行き場に困ってなかなか進まないようだ。


土砂の本来の行き先は海、というわけで取り除いた砂は下流の川に流せばよい。

といっても高瀬ダムのすぐ下だと、下流の七倉ダムに貯まるだけだから意味がない。さらに下流に大町ダムがあるから、その下流に流す必要がある。

そこで高瀬ダムから大町ダム下流へ継続的に土砂を流せるようにトンネルを整備し、ベルトコンベアで輸送するとのこと。

なるほどと確かにという対策ではあるが、気になるのは、このトンネルを作るのが東京電力ではなく国だということ。

調べたところ、土砂を削って確保した容量を洪水調整にあててもらおうという意図があるようだ。


大町ダム等再編事業の概要 (千曲川河川事務所)

本来、電力会社所有の発電用ダムは洪水調整機能を持たない。

なので、洪水時は上流から来た水量と同じ水量を下流に流せばよいが、電力会社が洪水調整に協力する場合もある。

実際、高瀬ダム・七倉ダムも空き容量の範囲で洪水調整に応じたことがあったとのこと。

それをさらに推し進め、電力会社所有の発電用ダムではあるが、一部を洪水調整用に割りあてるわけだ。

そのためには堆砂を取り除いて容量を確保する必要があり、そのための設備は国が整備するということ。

具体的にどういう運用になるのかは不明だけど。


堆砂対策としては、いろいろな方法があるが、削った土砂を下流に流すという方法だけでなく、

平時から土砂を多く含んだ水は直接下流に流す、ダムに土砂ごと流せるゲートを用意するという方法もある。

土砂を多く含んだ水は直接下流に流すというのは、ダムの入口でより分けて、土砂を含む部分は土砂バイパストンネルに流す。

確かにこの方法であれば、ダムが必要以上に土砂をため込むことがないのでよさそう。下流の環境改善にも役立っているようだ。

土砂ごと流すゲートを用意するというのはこういうこと。

ダム排砂設備 (黒部河川事務所)

黒部川は土砂が貯まりやすく、通常の考え方では莫大な堆砂容量が必要になるが、それではなかなかダムが成立しない。

そこで時々、ダムを空っぽにして、土砂を押し流す機能を持たせたわけ。最近は年1回程度、洪水に乗じて押し流しているらしい。


ちなみに堆砂が必ず問題なのかというと、そうでもないらしい。

総貯水容量に対する堆砂量が多いダムの多くは水力発電用で、

特に調整池式の水力発電であれば、高低差を稼ぐことと、短期間の水量の変化に対応できればよい。

そのため、堆砂量が総貯水容量の98%にも達するダムもあるが、それでも運用上は問題ないらしい。

ただ、治水目的では問題だし、発電目的でも揚水発電では問題だ。想定の範囲内ならばよいが、想定を超えると対策が必要になる。それが高瀬ダムということ。