ウィルスを防ぐにも限界がある

先日、HIVウィルスに感染した血液が輸血されていたということが判明した。

HIVウィルスの有無についてはNATで検査しているが、それでも感染してから間もないと検知できないことがある。

この期間をウィンドウピリオドと呼んでいるのだが、そのウィンドウピリオドに採血されたもので、ウィルスの検出はきわめて困難だったようだ。

それがなぜ判明したのかと言えば、その人が後に献血に協力して、それでその血液を調べたらHIVの抗体が見つかったと言うことで、

過去にさかのぼってNATで調べたら、かろうじでウィルスがあることが判明したとのこと。

ウイルス混入なぜ防げない? 二重の検査すり抜ける (msn産経ニュース)


そもそも輸血は本質的には感染症のリスクを排除することは出来ない。

血漿分画製剤だとその製造プロセスにウィルスの不活化処理が入ってたりするんだけど、

まさか輸血用血液製剤に熱を入れたりそういうことはできないわけだし。

となると検査でウィルスがないか調べることになるのだけど、

抗体検査で見つかればいいが、感染してから抗体ができるまでは少し時間がかかる。

そこで抗体ができるのを待たずに検査できる方法としてNATが導入された。

遺伝子を増幅させてウィルスの遺伝子がないか確かめるわけだ。

これでウィンドウピリオドはかなり短縮された。こうして感染症のリスクはかなり排除できることになった。


ただ、それでもウィンドウピリオドはあるので、ウィルス感染のリスクが高い人は献血への協力を断ることになっている。

問診票の質問のほとんどは感染症関係のことなんだよな。

平成23年4月より問診票が改訂されました (日本赤十字社)

6ヶ月以内にピアス・入れ墨をした・使用後の注射針を刺した・肝炎キャリアとの性的接触を持ったというのはまさに肝炎ウィルスのことだし、

外国滞在のことについては、日本にはない各種の感染症に関わることだ。

特に厳しいのがイギリスへの滞在歴で変異型クロイツフェルト・ヤコブ病対策でいろいろ書かれている。

そしてHIV関係の質問もあるのだけど、その内容は、

  • エイズ感染が不安で、エイズ検査を受けるための献血ですか
  • 6ヶ月以内に 不特定多数の異性、新たな異性、男性同士の性的接触があったか、麻薬・覚せい剤を使用した、HIV検査が陽性だった(6ヶ月以前も含む)、またはこれらのいずれかに該当する人と性的接触を持ったか

となっている。

実はこの変更以前は 新たな異性と性的接触を持った ことは質問には含まれてなかった。

男性同士でなくて不特定多数でなければ問題ないのかというのはかねてから少し疑問には思っていたところで、

それが反映されたんだろうが、なんとも言えない書き方だね。


僕はこの質問が的確なものであるかに疑問を持っているものの、確かにリスクが高い事項を並べてはいると思う。

そして今回の協力者はこの質問にウソの回答をしていたらしい。

となればそもそも献血への協力は断られただろうから、こういう問題は起きなかっただろうと思われている。

どういう思いでウソの回答をしたのかは明確ではないが、

質問内容もあまり的確とは言えないし、アホらしいと思ってウソの回答をして協力する人もいそうなものだ。


献血に協力しようとして、最初に注意書きを見せられて、問診票を書いてと、いろいろあるわけだけど、

その中でやたら エイズ検査のための献血はお断り ということが書かれている。

それもこれも昔、献血すればエイズ検査してもらえるということを吹聴した人がいたのがよくなくて、

当然抗議もしたのだろうが、最終的にはHIVが陽性であっても協力者に通知しないという実力行使に出ることにした。

他の感染症であれば教えてくれることになっている。以後、献血に協力してもらえないわけだし伝えるのが筋と考えていたのだろう。

それでかなり献血の血液のHIV陽性率は下がったようだが、過去にそんなことがあったもんだから、

未だに検査してもらえるもんだと思ってやってくる人がいるんじゃないかという話がある。


この一件の対策としてさらなるウィンドウピリオドの短縮のために、

現在20人分の血液を混ぜてNAT検査にかけているところ、1人ずつNAT検査するようにする方針のようだ。

東京の関東甲信越ブロック血液センター、千歳市の血漿分画センター、福知山市の血液管理センターにNATがあって、

最近、久留米市の九州ブロック血液センターにもNATの設備が整ったようだ。

これをいずれのブロックでもNAT検査できるようにして、1人ずつの検査を行う体制を整えるとのこと。

ただ、それでも完全に排除できるわけではないので、協力者の正直な申告も重要だ。


ただ、今回はまだ運がよかった。

このままHIVウィルスが入っていることに気付かなければ、輸血された患者のHIVウィルスを調べようとはならなかっただろう。

HIVウィルスへの感染が早めにわかれば、対策を打つことができる。

明らかになっていないだけでウィンドウピリオドをすり抜けて輸血された例は他にもありそうなもんである。

それが原因でHIVに感染したものの、エイズを発症するまで気付かないとなれば悲惨な話である。


早期発見が重要であるが、HIVウィルスの検査は気になることがあった人が受けに行くばかりで、広く普及しているとは言いがたい。

保健所などに出向かずにHIVウィルスの検査を受けることがあるのは妊婦検診のときぐらいじゃないのかな。

母子感染を防ぐために各種の感染症について調べているのだけど。

ただ、これだけではなかなか早期発見にも限界があるわけで、定期健康診断に取り入れることも考えた方がいいんじゃないのかなとも思うんだけどね。

ただし無断で検査して問題となった事例は多くあるようで、

検査内容を予め示して、それで結果の通知にはプライバシーへの配慮は必要だが、当たり前の事だ。

そういう環境を整えないとエイズの撲滅なんて実現しようはないと思うんだけど。

現状は各自の取り組みに任されているわけだが、さてはて。