外国人のサッカー選手が追徴課税される事態が相次いでいるという。
イニエスタら3選手、計21億円の申告漏れ 国税が「居住者」と判断 (朝日新聞デジタル)
日本で支払われる報酬について非居住者としての課税が行われていたが、
居住者に該当するので、日本で確定申告が必要でしたよという話である。
そもそも居住者と非居住者という考え方について。
基本的にはこのように規定されているそう。
我が国の所得税法では、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
日本国内に住所があるか、日本国内に1年以上居所を有しているかという。
ただ、何をもって住所とするかが明確ではないので、そこを補足する説明もある。
(1) その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
(2) その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して一年以上居住するものと推測するに足りる事実があること
継続して1年以上居住しなければ成り立たない職業とか、国籍・親族・資産の状況が問われるようである。
「継続して1年以上居住することを通常必要とする職業」という観点で、
近年明確になった話としては複数年契約のスポーツ選手は居住者になるというもの。
単年契約の場合は1年以上居住しなくてもよいので、非居住者の可能性があるが、
複数年契約の場合、シーズンオフに帰国したとしても、また戻る必要がある。
こういうのは継続して1年以上に含むということである。
ヴィッセル神戸所属だったイニエスタ選手は最初の1年だけ非居住者だったそう。
しかし、その時点から家族帯同であったことを理由として居住者として確定申告が必要でしたよねと指摘を受けたと。
実はイニエスタ選手、2年目以降は日本の居住者として納税を行っている。
でも最初の1年は「現在まで引き続き1年以上居所を有する」と考えていなかったと。
もちろんそれでも複数年契約ならば、最初から居住者となるべきなのだが、
そういう指摘ではなく、最初から日本に住所ありましたよねという指摘である。
調べてみると2018年に結んだのは「3年半契約」だったとか出てくるけど。
でも、形式的には1年未満の契約だったということなんだろう。
確かに調べてみると1年以上働くだろうと考えても、形式上1年未満の契約なら、最初の1年は非居住者として扱われることもあると見つかった。
報酬という面で見て、最初の1年というのは契約金が含まれることが多い。
すなわち契約金に日本で多額の課税をされることを避けるためにこうしたのではないか。
でも、それは成り立たないですよねと指摘された。こういう話に見える。
この裏返しで家族帯同で出国すれば非居住者になれると解釈してはいけない。
シンガポールなど金融商品の売却益が課税されない国というのがあり、
多額の資産を持つ人が日本から移住するということがあるらしい。
1人で出国するよりは、家族を伴って出国する方が有利なのは確かだが、
一方で日本との往来が頻繁だとか、日本にも家があるとか、
そういう実態からやっぱり日本の居住者だよねとなる可能性はある。
イニエスタ選手の場合、日本でサッカーすることで報酬を得て、シーズン中は家族と住み、
形式上は1年未満の契約としても、日本で定着してサッカーするつもりだと。
これはもはや神戸に来た最初から日本に住所がありますよねと。
こういう主張なのかなと思った。
国をまたいだ課税というのはホットな話題でもある。
国境を越えてインターネット上で提供されるサービスというのは、
実態として日本で使われていても、その利益に日本で課税できていないケースが多い。
税負担の軽い国の会社に有形資産、無形資産を持たせて使用料を集めたり、
株式を持たせて配当金を受け取ったり、お金を借りて利子を支払ったり……
租税回避以外の合理性がないものはタックスヘイブン対策税制で相殺されるが、
そこに該当しないようにして、実態として事業を行っている国の税負担を回避しているケースはある。
イニエスタ選手の場合、最初の年はスペインで日本を含む全世界所得の納税を行っている。
一方、日本で非居住者として受け取った報酬が日本で課税されていないわけでもない。
非居住者に支払う報酬には約20%の所得税を源泉徴収する必要があるから。
スペインでは日本での報酬にも課税する一方で、日本で払った税金は控除していたとみられる。
今回の指摘により日本で全世界所得の納税を行うべきとなったわけである。
そうするとスペインで税金を払いすぎたことになるが、これが返還されるかはわからない。
日本の場合は「更生」で払いすぎた税金が戻るのは申告期限から5年以内である。
もしかするとこの判断について日本とスペインで食い違う可能性もある。
その場合は租税条約に基づき両国間での協議が行われることになる。
ただ、主な部分というのは日本でサッカーして得た報酬への課税なので、
なかなかスペイン側としても反論しにくいんじゃないかなと思う。
ちなみに租税条約で183日ルールというのが設けられていることがある。
これは出張ベースで外国に滞在して仕事をする人を想定したルールで、
1年の滞在期間が183日以内で本国で給与を受け取っている場合は、
滞在国での税金がかからない、日本で言えば源泉徴収の対象外になるというもの。
むしろ出張ベースでもこういう規定がなければ滞在国で課税されることがある。
これと居住者判定はまた別の話なんですね。
シーズンを通じてプレーする外国人選手でも非居住者扱いであることが多いと、
以前見たときにはかなり驚いた覚えがある。
居所を置いて1年未満を繰り返せば居住者にならない場合があると。
でも、実際そうなのか? と言われるとかなり疑わしいところはある。
複数年契約の場合は居住者、家族帯同の場合は居住者、シーズンオフも荷物置きっぱなしの場合は居住者――
などとこの範囲は狭められているが、今でもそういう選手がけっこういることは事実のようである。
明らかに生活の本拠が本国に残っていると認めるだけの根拠があればいいんでしょうけど。
世界を転戦するテニスやモータースポーツの選手なんかはかなり難しいらしいですね。