TwitterのLikeの多機能化ゆえ

さすがにこれは厳しいのではと思ったのだけど。

杉田水脈議員に一転、賠償命令 「いいね」で伊藤詩織氏への侮辱 (朝日新聞デジタル)

それなりに考えた結果得られた結論であるとは言えるのだが、

Twitterを長く使っている人の1人としてはそうじゃないよなぁと思うのだ。


TwitterのLike(いいね)というのは、かつてはFavoriteと呼ばれていた。

略してFavとか ふぁぼ とか言ってましたね。

これが変わったのって2015年頃だったらしいですね。

もう7年前ですって。なのに未だにFavと言い続けてる人もいるけど。

実はこの改名の後に今回の決定の背景になったであろう機能追加があった。


現在、TweetにLikeをするとどのようなことが起きるかという話だが、

  1. ユーザーページでLikeしたTweetの一覧が(本人も他人も)見られる
  2. 投稿者にLikeがあったことの通知が行く
  3. TweetにLikeした人数と、そのユーザーの一覧が表示される
  4. Followerのタイムラインに「○○さんがいいねしました」と表示される
    (投稿順のタイムラインを使っている場合、無効化した場合をを除く)

元々、Favoriteというのは1.の機能しかもっておらず、自分用の備忘録という意味合いが強かった。

確かにこの頃からFavは公開だったのだが、わざわざ他人のユーザーページに見に行くような人はほとんどいなかったわけである。

そんな他人のFavを収集して集計する Favotter(ふぁぼったー) というサイトが生まれた。

(日本語で「ふぁぼ」と言う人がいたのはここに由来すると思う)

公開されているユーザーのFavを集めて集計するという性質上、全てのFavが数えられるわけではないが、Fav数の可視化は当時としては画期的だった。


続いて2.の投稿者への通知である。

これは確か2010年に導入されたUserStream APIの機能だったはず。

当時はTwitterクライアントというのを使う人が多く、APIの取得数制限に悩まされることが多かった。

そんな中で導入されたのがUserStream APIでサーバーから新着Tweetが送られてくるプッシュ型のAPIだった。

この機能の1つとして他人のFavが通知される仕組みが出来たと。

UserStream APIは2018年に廃止されたが、この機能自体はWebでも利用できる「通知」という形で残っている。

これによりFavが投稿者とのコミュニケーションという意味を持つようになった。

「見ました」ぐらいの意味でLikeを使う人は割と多い。


続いて3.のFavした人数の表示である。

明確な時期は不明だが2012年頃だと思う。

これは従来、Favotterのような外部サービスで実現していたことが公式の機能として提供されるようになったということである。

そういう意味では目新しさはなかったかもしれないけどね。

これによりFavotterのようなサービスは意義を失うこととなる。


そして問題の4.である。これが2016年頃の話らしい。

もともとTwitterのタイムラインはFollowerの投稿を時系列順に表示するだけだった。

これに対して2016年にトップツイートを優先して表示する機能ができた。

時系列順というのは自分がいない時間帯のTweetを知ることが難しい。

Followしている人が多く、その投稿頻度が高い場合にそうなりやすい。

僕のような古い人はタイムラインから流れ落ちるのがTwitterであると考えるが、

常時Twitterに貼り付いている暇人ばかりではないのだし、見ていなかった時間帯の重要そうなTweetを見られた方がよいのではと。

どうもそういう考えがあったらしく、現在のTwitterではトップツイート優先が標準になっている。

とはいえ従来型の投稿順のタイムラインも選択可能で、僕はそちらを選んでいる。


このトップツイートを判断する尺度にはLikeやReTweetの数であったり、

Follow相手との関係性、親しそうな人のTweetが優先されるなどあると思う。

ただ、このトップツイートにはFollowしている人のTweetだけでなく、

  • Followしている人がLikeしたTweet
  • Followしている人がFollowしている人のTweet
  • その他「おすすめのツイート」

が表示されるということになった。これこそが今回の問題であろうと思う。


Twitterにある人を侮辱したとみられるTweetがあって、

それを杉田議員がLikeしたということは名誉毀損にあたるということだったが、

それをさっきのLikeの各機能に割りあてると、

  1. 杉田議員の「いいね」を閲覧することで侮辱とみられるTweetを知ることが出来る
  2. 侮辱とみられるTweetの投稿者に杉田議員が「いいね」したことが通知される
  3. 侮辱したとみられるTweetの「○件のいいね」の件数が1加算され、そのリストに杉田議員のアカウントが掲載される
  4. 杉田議員のFollowerのタイムラインに「杉田さんがいいねしました」として侮辱したとみられるTweetが表示される

1.については本人の備忘録という面もあるが、他人が杉田議員がLikeしたTweetとして知ることができる。

でも、あえて杉田議員のアカウントを見に行かなければわからない。

人の「いいね」を調べに行くのはTwitterの一般的な使い方とは言えない。

2.については見ました程度の意味とも言えるが、投稿者に賛意を示したとは言えると思う。

ただ、これはあくまでも1対1の問題であり、これだけならば賛意を公にしたとまでは言えないと思う。

3.についてはほとんどの人は数字だけの問題と思っているのではないか。

調べようと思えば誰が賛同したというのはわかるけど、そこまでしますかね。

4.は杉田議員のFollowerに当該Tweetを拡散し、またそこに賛意を表したことがついて回るわけである。


おそらくはこの裁判で問題とされたのは4.ではないかと思う。

訴訟で伊藤氏側は、衆院議員で多数のフォロワーがいる杉田議員の影響力は大きく、多くの中傷投稿に「いいね」を押したことは名誉感情の侵害になると主張した。

「名誉感情」というのは「自分が自分に対して持つ肯定感」という意味なので、

他人からの評価ではなく、伊藤さん自身の感じ方が問題となったものである。

1~4はどれも侮辱行為への加担を認められる内容かもしれないが、

「名誉感情の侵害」という観点に立てば、

1.については信条がかなり違う人の「いいね」を見に行くのは一般的ではなく、

2.の1対1のコミュニケーションはおそらく問題にはならず、

3.の件数に加担したことの責任を1人に問うのは無理がある。


しかし、4.については自分を侮辱するTweetが「杉田さんがいいねしました」と流れること、またそれを多くの人が目にすることが考えられる。

これは杉田議員が多くのFollowerを抱えていることによる。

Likeは必ずしも賛意を表すものではないという主張はあったのだが、

杉田議員の使い方は客観的に見て、侮辱への賛意であると認定している。

このことから、杉田議員はLike機能を通じて名誉感情を侵害したので賠償責任を負うという結論が導かれたわけである。


でもやっぱり無理があるんじゃないかなと思うんですよね。

Likeには1~4の機能があるが、4.の機能を重視してLike機能を使う人というのはそうそういないと思う。

基本的には1.のうち自分の備忘録として使うか、2.の投稿者への通知として使うか、どちらかではないかと思う。

実は現在のTwitterにはブックマーク機能というのがあり、この機能を使うと非公開でTweetを記録することが出来る。

備忘録としてはこちらの方が適していると言えるが、歴史が浅く、ボタンも押しにくいのであまり一般的ではない。

多くにおいてはLikeはTweetへの「賛意」ではあると思うのだが、これを「推薦」と解するのはさすがに厳しすぎると思うのである。


この件について、原告側の弁護士はこのように述べている。

あくまで今回は杉田議員と伊藤さんとの関係やこれまでの経緯に照らして「いいね」が違法と判断されたものであり、「特定の事例における特定の判断だと認識してもらいたい」と話した。

(「いいね」で賠償命じる初判断、原告代理人は「特定の事例における特定の判断」と強調 (弁護士ドットコム))

これは無責任な言い方ではないかなと思う。

影響力のある人が、客観的に見て賛意を持って「いいね」をすると民事上の責任を負うということ前例を示したことは事実ではないか。

影響力、Tweetの内容、賛意の程度など、それなりの条件を満たす必要はあるが、

有名人でなくとも、小さなコミュニティの中で影響力を持つ程度はあるだろう。

必ずしも万単位のFollowerを抱える人だけの問題ではないのではないかと思う。

そうするとLike機能の使い方について慎重に考えざるを得ないのではないか。


ただ、なぜそれが引き起こされたかというと、それはトップツイートに「○○さんがいいねしました」として表示する機能があるからである。

この裁判は以前から話題になっていたのだが、そのとき比較対象として出されたのがReTweet機能である。

中傷投稿への「いいね」やリツイート、賠償求める訴訟相次ぐ…「賛同か」で判断分かれる (読売新聞)

ReTweetについては「自身の発言と同様に扱われる」という判例が定着している。

当たり前じゃないかと思うのだけど、実はここも利用者間でギャップがある。

世の中には「見ました」ぐらいの意味でReTweetを使う人もいるんだよね。

これはTweetに付いたボタンを押すだけという手軽さもあるのだと思う。


公式機能としてのReTweetは「○○さんがリツイートしました」とは付記されるが、あくまでも元の投稿者の名前でタイムライン上に現れる。

この特徴から内容についてReTweetした人が責任を負う必要はないという主張にも理由はあったと思う。

しかし、それは斥けられているので、ReTweetは慎重であるべきというのが一般的な考えである。

今は「引用ツイート」としてコメントを付記して他人のTweetを引用する機能がある。

批判的な意味でTweetを紹介するならばこのような機能を使うべきだろう。


ReTweetもLikeもボタンを押すだけという点では操作は似ている。

ただ、その意味は全く異なり、ReTweetには「推薦」という意味が明確にあり、

Likeについては自分向けの「記録」か、投稿者向けの「賛意」か、そんなところだと思う。

しかし、Twitterのトップツイートの仕様により、実態としては「推薦」の意味を持ってしまっている。

これが今回の判決の原因だとすれば、それは多くのユーザーにとっては不本意なことではないかと思う。


というわけでTwitterの歴史からFavorite→Like機能を追った上で考えると、

この判決は歴史的経緯を踏まえたものではないとは言えると思う。

それなりの検討を踏まえたものであるのは理解するが、

Like機能にここまでのことが問われてしまうと、とても厳しい。