どうも2021年度の国の税収が過去最高を更新しそうらしい。
そもそも2020年度に税収は過去最高を更新しているので、2年連続で税収は堅調に伸びたということである。
でも、なんでこの状況で税収が伸びるのだろう? というのは気になる。
国の税収として大きいのが所得税・法人税・消費税である。
これらすべてが増収となっている。
これらは都道府県の税収とも関係が深く、(個人・法人)住民税・事業税・地方消費税はわりと類似している。
このため東京都も税収は過去最大となる見込みとのこと。
大阪府・愛知県なども税収は大きく増える見込みとのこと。
2020年度と2021年度の各税の増収要因を調べてみると、
- 所得税(2020年度) : 株高の影響で株式譲渡所得が伸びる
- 所得税(2021年度) : 2020年度に比べ雇用状況が改善し給与所得が伸びる
- 法人税(2020年度・2021年度とも) : 製造業・情報通信業の業績が好調
- 消費税(2020年度) : 消費税率変更(2019年10月~)の影響
- 消費税(2021年度) : 物価高の影響で消費税も伸びる
とのことである。
物価高で消費税が増えるというのは言われて見ればそうか。
消費税という税金は稼いだときに課税されるのではなく、お金を使うときに課税されるものである。
過去に稼いだ金を取り崩しながら生活する人からは所得税は取れない。
所得税にしても各種の社会保険料にしても、現在稼いでる人に負担が集中してしまう。
そこを緩和しながら税収を稼ぐ方法として考えられたものと言える。
ただ、この仕組みは裏返せば、同じ稼ぎなら生活が苦しくなるほど税収が増えるというものなんですよね。
支出を切り詰めて餓死するよりは、貯蓄を崩してでも生存する選択をしたということで、
そのための金が捻出できるなら消費税は応分に支払わなければならない。
とはいえ、寄与度として大きいのは法人税である。
これは2020年度も2021年度も要因はあまり変わらず、製造業や情報通信業の業績がよいということである。
ただ、一方で飲食業・観光業では非常に経営が厳しいという話もある。
でも、それは法人税収の減収という形ではほとんど見えないんですね。
これは法人税というのは赤字の法人には発生しないためであろうと思う。
小規模で収益性に乏しい業者が多いから、もともと法人税に占める割合が低く、
そういう業者の経営が悪化しても法人税への影響は低いということではないか。
一方で、製造業や情報通信業はこれまでも多くの法人税を納めてきた。
こういう稼ぐ力を持っている事業者がさらに稼げるようになれば、税収は増える。
そういうことである。
よく自動車業界が、俺たちは多額の税金を納めていると自慢することがある。
それに対して赤字企業というのは、税金をろくに払わないので存在意義がないような気がするが、
実はそんなことはなくて、赤字企業も人を雇って給料を払っているからである。
赤字でもオーナーや銀行からの借入金で設備投資をして、売上があって、それで仕入や給料の支払いができれば、とりあえず事業は存続できる。
また中小企業には税制面などの優遇措置もあり、これも事業存続に寄与している。
このため、経営が悪化した大企業の中には資本金をいじって中小企業になろうとするものもいる。
JTB、1億円に減資へ 「中小企業扱い」で税負担軽減 (日本経済新聞)
そして、そういう企業に雇われている人は実は多いのである。
給料の支払いがあるということは、所得税も払うし、社会保険料も払う。
ただ、さっきも書いたように新型コロナウイルスの影響がある。
もともと収益性に乏しい業者の経営が悪化し、赤字とかそれに近い水準でギリギリ持っていた会社が存続が危ぶまれる状況になっている。
各種の助成金により雇用の維持に努めたので、すぐには問題は顕在化しなかった。
というわけで、法人税収が伸びているからといって、国全体として企業の稼ぎが増えているとは言えないわけである。
稼ぐ力のある企業と稼ぐ力に乏しい企業の二極化を表しているとみるべきかもしれない。
もともとそういう傾向はあったかもしれないけど、最近はさらに顕著だと。
その結果として税収が増えるのは悪い話ばかりでもないが……
ただ、この恩恵を受けられるか否かにより、貧富の差は広がっていくのは確かである。
これとは別の話ですが、全体的に社会保険料の負担が伸びている。
健康保険・介護保険といったところが高齢化の影響を受けているのが大きい。
額面上の給料が同じでも、社会保険料が増えれば、手取りは減るし、会社の人件費負担も増える。
これはサラリーマンの社会保険料が労使折半のため。
あと、年金受給者は年金の額面は大きく変わらずとも、社会保険料の負担増で手取りは減る。
もっとも税金も多く投入されているし、サラリーマンの負担割合が多いので、だいぶ軽減されているのは確かだが。
例えば、後期高齢者医療制度の場合、税金:支援金:保険料(75歳以上)=5:4:1で分担している。
支援金は74歳以下の健康保険料に含まれるが、多くはサラリーマンの支払う健康保険料である。
こういう形で稼ぐ力に乏しい企業、そこで薄給で働く労働者、貯蓄も年金も少ない高齢者は追い詰められているわけだが。
ただ、それすらも所得税の税収という形では見えないんですね。
2020年度すら株式譲渡所得で増収ということで覆い隠されてしまっているという。
稼げる会社はその利益を配当という形で投資家に還元できますからね。
気づいてみれば投資を通じて、稼げる企業の稼ぎが増えた恩恵を受ける人も増えていたのである。
もっとも税収が増えたところで国の予算は大赤字なのだが。
社会保障関係に費やす費用があまりに多いので、税収が12%も増えても全然間に合わないのである。
「社会保障費の負担増で手取りが減る」とは書いたが、一方で「税金も多く投入されている」と書いたのはこのことである。
これを減らしてしまうと、生活が立ちゆかなくなる人がたくさん出てしまう。
そうすると結局は生活保護という形で税金を投入しなければならなくなる。
だから税収という裏付けがないのに、社会保障費だけが増え続けたんですね。
最近気になることとしては、サラリーマンから個人事業主への流れがあること。
フリーランスだとかギグワーカーだとか、そういう雇用によらない働き方が増えていることである。
サラリーマンというのは、給与に応じた厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料を労使折半で払うことになる。
これに比べると自営業者の国民年金保険料・国民健康保険料は割安なんですよね。
雇用保険料はそもそも自営業者は対象外である。
自営業でサラリーマン以上に稼げる人にとってはより有利に働くと思うが。
ただ、いいことばかりではない。サラリーマンの社会保険にはある下記のようなものはないから。
- 健康保険の傷病手当金
- 障害厚生年金 (障害基礎年金より支給対象が広く、給付水準も高い)
- 雇用保険の失業給付・育児休業給付金
こういうものを自営業者が備えようとすると、とても大変である。
なにより各種の社会保険制度というのはサラリーマンからの安定した保険料収入によって持っているところが多い。
これが失われると、税金の投入を増やすなどしなければならない。
サラリーマン向けの保険制度を自営業者にも拡大するような話はあるが、そこにはなかなか困難もあるのが実情である。
そういう意味でも雇用が維持される方がよいのだけど……