日本馬だってアメリカで表彰される

昨年、日本から遠征してブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ(G1)を優勝したラヴズオンリーユーがアメリカのエクリプス賞で最優秀芝牝馬に選出されたそう。

ラヴズオンリーユー 日本馬初の米エクリプス賞受賞 最優秀芝牝馬に選出 マルシュロレーヌは受賞ならず (スポーツ報知)

表彰式にわざわざ日本から矢作調教師が行くということで、受賞は堅いのではないかと言われていたが、その通りでしたね。


エクリプス賞は最初にも書いたようにアメリカ競馬の表彰である。

Eclipseは現代のサラブレッドの父の父……をたどっていくと、ほぼたどり着く馬だが、

Eclipseはイギリス生まれ、イギリス育ち、特にアメリカとは関係なさそうである。

基本的にはアメリカ競馬の活躍馬を表彰するものだから、アメリカ調教馬が表彰されるが、

いくつもある部門のうち、芝牡馬・芝牝馬については外国調教馬の受賞が多い。

ブリーダーズカップの芝レースのような大レースとなれば、主にヨーロッパからの遠征馬がかっさらっていくのが普通だからである。

アメリカにおいて芝の競馬は傍流であるというのはそういうことである。


エクリプス賞もそうだし、ヨーロッパのカルティエ賞もそうですが、

基本的には外国調教馬でも地域内のレースで実績があれば受賞資格があるという。

今回、ラヴズオンリーユーはアメリカの芝牝馬のレース体系で頂点にあたるレースを優勝し、

香港のクイーンエリザベス2世カップ(G1)と香港カップ(G1)を優勝していることから、

アメリカ競馬の芝レースにおいてもっとも実績を残した牝馬と評価されたということになる。

外国馬だと国内外の実績を合算して優劣を付けることになるわけだが、

この部門は地元馬が受賞できないのが普通なので、特に違和感はないのだろう。


ところで日本の競馬は統括機関が2つある都合もあって、JRA賞 と NARグランプリ という2つの表彰制度が知られている。

どちらも名誉ある賞だが、この2つの賞はスコープが違う。

JRA賞はJRAのレースで実績を残した馬が受賞対象で、地方競馬所属馬・外国馬でも受賞は可能である。

昔は地方馬・外国馬が受賞対象ではなかったようだが、2008年以降はいずれも対象とのこと。

ただし、JRA所属馬ならば外国や地方での実績だけで受賞することも可能という話がある。


一方のNARグランプリは、NAR(地方競馬全国協会)の表彰で地方競馬所属馬が受賞対象である。

NARグランプリには「最優秀ターフ馬」という部門があるが、

この賞を受賞するためにはJRAや外国のレースで優勝する実績がなければ難しい。

逆に地方競馬の芝レース(盛岡で少しある)での実績はなくてもOKであろう。

ということでこちらは所属に基づく表彰である。

ただし「ダートグレード競走特別賞」については、JRA所属馬でも受賞可能で、

地方開催のダートグレード競走での実績が優れた馬ならば、所属は問わないことになる。


ラヴズオンリーユーはJRA賞の最優秀4歳以上牝馬にも選出されている。

JRAでの実績は京都記念(GII)優勝、札幌記念(GII)2着である。

しかし、これらのレースをステップに、香港とアメリカのG1を計3勝したことが評価されている。

実際のところ、JRAでの実績だけ言えば、同年の牝馬三冠を分け合った クロノジェネシス と グランアレグリア の方が優秀である。

クロノジェネシス は宝塚記念(GI)優勝、有馬記念(GI)3着、外国ではドバイシーマクラシック(G1)2着 はすごい立派だし、

グランアレグリア はヴィクトリアマイル(GI)とマイルチャンピオンシップ(GI)で優勝、2000m挑戦でも天皇賞(秋)(GI)で3着と立派な結果を出した。

グランアレグリアについては、JRA賞 最優秀短距離馬に選出されている。

このことから最優秀4歳以上牝馬まで与える必要はないだろうという判断もあったかもしれない。

クロノジェネシスも立派なんだが、同じく国内外を渡り歩いた馬としてはラヴズオンリーユーの方が優秀という判断に至ったのだろう。


一方、ラヴズオンリーユーと一緒にアメリカに渡り、ブリーダーズカップ・ディスタフ(G1)を優勝したマルシュロレーヌだが、NARグランプリで表彰されている。

ダート競馬での大快挙

マルシュロレーヌはJRA賞ではどうしても表彰しにくい馬だった。

4歳以上牝馬という区分では、どうしても上に書いた3頭にはかなわない。

ダートという区分では、マルシュロレーヌはJRAでは平安ステークス(GIII)3着まで。

どうしてもチャンピオンズカップ(GI)優勝、これに加え地方開催の帝王賞(JpnI)優勝の テーオーケインズ が最優秀ダート馬 とするしかない。


一方でNARグランプリも基本的には地方競馬所属馬を表彰するもの。

さらに今年は地方競馬所属馬が交流重賞でも多く勝った年だった。

このため、ダートグレード競走特別賞 も船橋のカジノフォンテンが受賞している。

じゃあ何で表彰されたのかというと「特別表彰馬」である。

ダートグレード競走特別賞の創設以前はそういう同趣旨でJRA所属馬が受賞することがあったのだが、最近は引退後の馬が受賞することが多かった。

マルシュロレーヌの受賞理由は地方開催の交流重賞をステップに、ブリーダーズカップ・ディスタフを優勝したということに尽きる。

TCK女王杯(JpnIII)・エンプレス杯(JpnII)・ブリーダーズゴールドカップ(JpnIII)と地方開催の牝馬限定ダート戦で3勝、これをステップにしてのBC挑戦ですから。

これは地方競馬にとっても名誉あることということで特別に表彰されたのだった。


これまでJRA賞をJRA所属馬以外が受賞したのは、2004年に特別賞(特別敢闘賞)を受賞したコスモバルク(ホッカイドウ競馬所属)が唯一とのこと。

弥生賞(GII)・セントライト記念(GII)で優勝、皐月賞(GI)・ジャパンカップ(GI)で2着ですか。

最優秀3歳牡馬には値しないが、地方所属では異例ということで敢闘をたたえたということらしい。

これ以外では地方馬・外国馬に票が入ったことがあるようだが、受賞には至っていない。


ラヴズオンリーユーについては、この先、香港の表彰でも対象になる可能性がある。

香港競馬のシーズンの切り方が、南半球扱いで9月~翌7月ということなので、

ラヴズオンリーユーの香港G1 2勝は2シーズンまたいでの実績になるんだけど、

地元で2000m以上で目立った成績を出す馬がいなければ、アメリカでの戦績も合わせて、最優秀中距離馬という話もあるかもしれない。

あと「最優秀外国調教馬」というジャンルもある。

これは単なる人気投票で、特に香港での実績が無い馬が選定されることも多い。

アーモンドアイは2回受賞しているが、香港国際競走に登録しただけで出走はしなかった。

とはいえ、やはり香港で実績を残していれば、選ばれる可能性は高まりますよね。


この辺の表彰制度は複雑ですよね。

ラヴズオンリーユーはJRA賞とエクリプス賞、香港での表彰可能性もけっこうある。

かたや、マルシュロレーヌは大快挙だったけど、うっかりすると、JRA賞・NARグランプリ・エクリプス賞のどれも受賞しない可能性はあった。

JRA賞はJRAでの戦績は評価するほどではないし、それより評価するべき馬がいた。

エクリプス賞では、ダート牝馬戦の頂点とはいえ、その1レースでは決まらない。

最優秀古馬牝馬に選定されたのは Letruska だが、国内ダートG1 4勝でBCディスタフで1番人気となるほど評価が確立していた馬で、こちらの方が評価できる。

NARグランプリは地方競馬所属馬でない時点で基本的には門前払いである。

とはいえ、そこをなんとか理由を付けて賞を与えたわけですよね。

僕もこれが落とし所だと思いましたね。

本来はJRA所属馬が受賞できる枠はダートグレード競走特別賞しかないわけだけど、それを増設してでも表彰したくなる戦績だったというのはわかりますよね。