上場企業の総合出版社はなぜ生まれた?

出版社で上場企業というのは珍しいもので、調べたら売上高の高い順に、

ベネッセ、KADOKAWA、学研ホールディングス、ゼンリン、インプレスホールディングスといったところ。

ベネッセは出版社には違いないが、通信教育の会社というのが一般的な認識であろうし、

学研はベネッセよりは出版社らしいが、教育関係、最近は福祉事業で稼いでいるという。

ゼンリンは地図の会社であって、出版物というよりはデジタル地図の会社という理解であおる。

とすると、大きなところはKADOKAWAとインプレスしか残らないですね。

KADOKAWAについては、ドワンゴと経営統合した経緯もあるが、言うても総合出版社である。

インプレスホールディングスはインプレス、山と溪谷社、リットーミュージックとマニアックな出版社を多く抱えているのが面白い。コンピュータ・アウトドア・音楽では脈略もない。


さて、そんなわけでKADOKAWAというのは総合出版社としては特異である。

講談社や小学館といったところは非公開会社で同族経営が続けられているところである。

ドワンゴとの経営統合は置いておいても、奇妙な出版社という印象はあるし、

それで上場企業であるというところも特異だが、ちょうど昨日、その謎が解けた。

KADOKAWAのメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展 (BOOK☆WALKER)

KADOKAWAの社史なんですが、今月中は無料で購入できるとのことである。

ここに1980年頃から2010年代に至るまでの角川書店~KADOKAWAの歴史が書かれている。


実は角川書店が上場企業となった大きなきっかけは1993年に当時の角川春樹社長のコカイン密輸を巡るスキャンダルにあったらしい。

その直前に角川歴彦副社長が角川書店から追放され、メディアワークスを創業している。

このときゲーム・ライトノベル関係の編集者や作家などが多く移籍している。

ところがその直後に角川書店の社長がスキャンダルを起こしてはどうしょうもないので、

メディアワークスの角川歴彦社長が角川書店の社長となったのだった。

後にメディアワークスは角川書店の子会社となっている。

だからKADOKAWAの社史において、一部はメディアワークスが本線になる歴史もあるんですね。


で、とりあえず逮捕された社長を追放したはよいものの、依然として筆頭株主だったわけですね。

そこで、経営の透明性を確保するという観点もあって、資本と経営の分離に向けて動くこととなり、

角川春樹元社長とその一族の持分を金融機関に買い取ってもらい、株式上場を目指すこととなった。

こうして1998年に東京証券取引所市場第2部に上場を果たしたわけである。

結局のところ角川春樹元社長の暴走を止められなかったことが、いろいろな問題を引き起こしたわけですよね。

この反省が上場企業の総合出版社という、日本では珍しい存在となる理由だったんですね。

そして、後にドワンゴというIT企業と経営統合し、当初はいろいろあったが、

なんとか軌道に乗り、紙の書籍の出版からデジタルコンテンツの配信プラットフォームまで手がける会社として評価されるに至っている。


さて、出版社に非公開会社が多いのは、出版物への市場からの干渉を避ける意味合いがあるとみられ、

このあたりは新聞社も多くが非上場であるところにも通じる。(cf. 社主から手離れする日)

朝日新聞社は有価証券報告書を提出しているが、新聞ではさっぱり儲かっていないのは有名な話である。

そんな会社が上場企業では新聞事業に注力することは許してもらえないでしょう。

有価証券報告書が出ているからこういう憶測もできるのであって、

講談社も小学館も有価証券報告書出してないから、実情は全くわからない。


短期的な利益を追求するがゆえに、作家の自主性を伸ばすというようなところに課題があるのではないかという指摘はまぁあって。

KADOKAWA夏野社長「失うものよりも得るものが大きい」「日本のIPはまだまだいける」テンセントグループとの資本業務提携にコメント (Yahoo!ニュース)

じゃあ「失うもの」というのは本当に失っていいのかと。具体的になにとは言ってませんが。

しかし、すでにKADOKAWAは上場企業であり、株主からの期待も大きいわけである。

そういう会社だからこその選択だし、それは日本の他の出版社にはマネできないし、

上場企業のやるようなことをマネするようでは、日本のコンテンツの多様性も育んでいけないだろうと。


けっこうこの本は興味深いことがいろいろ書いてあって、

「ザテレビジョン」という雑誌から派生して、ゲーム雑誌「コンプティーク」、アニメ雑誌「Newtype」ができ、

ゲームに注力する中で、ゲーム的な表現を求めて、富士見ファンタジア文庫、角川スニーカー文庫、電撃文庫といったライトノベルのレーベルが生まれ……

それを涵養していくうちにインターネット時代にたどり着いたわけである。

そうか、My Girl(今はなき CD&DLでーた の増刊号に由来)とNewtypeは同根だったというのは驚きの発見だった。

KADOKAWA(旧エンターブレイン)が発売している「My Girl」というムックがある。不定期刊ですかね。

2014年創刊で、当初は女性アイドルのグラビアを掲載する雑誌だったようである。

2016年2月発売のVol.8では”VOICE ACTRESS EDITION”と銘打って女性声優の特集を行った。(略)後に”VOICE ACTRESS EDITION”という表記も消えて、完全に女性声優のグラビアを掲載するムックになっている。

どういう気変わりがあったのか知らないけど、”VOICE ACTRESS EDITION”が当たったのは確かですね。

(主婦の友社が強い)

旧エンターブレインとは書いたけど、1986年に「CDでーた」として創刊したときは角川書店である。

ここに行き着く背景はやはり気になるが、テレビに目を向けてザテレビジョンという雑誌が生まれたことが全てのスタートであることは確からしい。