このニュースを見て、そういえばと思い出したのだが。
【独自】ADHDの治療薬、国内で不足 厚労省、供給量増を要請 ‘Yahoo!ニュース)
コンサータの供給が不安定でADHDの患者が困っているという話。
背景には世界的に需要が増加しているのに対応できないというのがあるそう。
そして代替薬に乏しいという事情もある。これは日本特有の事情もある。
何を思いだしたかというと、この薬の成分のこと。
メチルフェニデートというのは、もう1つリタリンという薬がある。
同じ成分なのだが用途が異なる薬で、こちらの方が古くからある。
僕が中学生の頃、怪しげなBlogでリタリンを乱用する人の話を見たんだよな。
処方薬というのは医療上の必要性があるから処方されるもの。
ところが当時はリタリンの不適切な処方が多く、それを狙って受診しては乱用する人がしばしばいた。
精神科分野の薬というのは、特定の薬を狙って受診する患者はけっこういる話も聞きますが。
偽造処方箋を薬局に持って行く事件なんてのもあったらしい。
そんな問題が積み重なった結果、2007年にリタリンの適応から「難治性うつ病」が外された。
「難治性うつ病」というなんとでも言いようのあるものを外したと。
これにより「ナルコレプシー」が唯一の適応になった。
コンサータとリタリンの用途が異なるというのはそういうこと。
ナルコレプシーというのは日中に耐えがたい眠気が生じる病気で、
厳格な診断基準があり、必要性が明確なので残ったようだ。
これによりこれまで問題となっていた乱用は収束していったようだ。
ところでこの薬は精神刺激薬に分類されるが、外国語の表記を見ると覚醒剤と同じ表現になる。
日本では覚醒剤取締法の規制を受けるものを覚醒剤と呼ぶので、
覚醒剤以外で精神を刺激する薬を言い分ける必要から精神刺激薬というよう。
日本では覚醒剤の医療目的での処方は制度上可能だが極めて厳しい。
現在でも覚醒剤に該当する医療用医薬品として「ヒロポン」が存在する。
太平洋戦争期から戦後にかけて薬物乱用の象徴的な薬だが、まさにそれである。
実はこの3月をもってヒロポンの全ての製剤が薬価から削除されるそう。
すなわちすでに事実上は使用されない薬になっているということである。
リタリンの乱用が問題になったのは覚醒剤と類似した効果があるからなのだろう。
もっとも日本で一般に覚醒剤と知られるメタンフェタミンよりは依存性は低いそう。
だから同種の薬とはいえ、向精神薬という比較的処方しやすい分類にあったんだろうけど。
ナルコレプシーやADHDの治療では日本で覚醒剤に分類される薬が使われることも世界的にはあるという。
ただ、先ほど書いたように日本では医療用覚醒剤は事実上ない状況である。
仮にあっても覚醒剤取締法の規制からすると薬局での処方ができないから使い物にならない。
さて、冒頭の話に戻るのだが、ADHDの治療薬もいくつかあり患者の状況により使い分けられているが、
精神刺激薬というグループではコンサータとビバンセという薬がある。
コンサータは成分としてはメチルフェニデートだが、徐放性を持つように作られている。
これにより朝飲むと晩まで効果を発揮するというわけである。
これがナルコプレシー用のリタリンとの使い分けだったんですね。
もう1つのビバンセ、成分としてはリスデキサンフェタミンメシルという。
これもかなり覚醒剤に近い薬である。
というか体内で分解されるとデキストロアンフェタミンという覚醒剤に分類される成分に化ける。
これは覚醒剤ではないというメリットとともに、長時間効果が持続するというメリットもある。
同種の薬が2つ選べるなら代替性もありそうなものだと思うが、
ビバンセは6歳から18歳未満のみ適応となっている。
18歳までに処方されていた患者が18歳以上になって継続使用するのは許容らしいが。
原理的には18歳以上にも使用できるのだが、あえて書いていないよう。
さっきも書いたように覚醒剤に近い薬で、覚醒剤原料としての規制は受けている。
安易に大人に処方しては先々危ないという製薬会社や役所の判断があったのかも。
コンサータが日本で承認されたのは2007年のこと。
ちょうどリタリンの乱用が問題となっていた時代である。
徐放性などの差はあるにせよ根本的に同じ成分となれば乱用の懸念がある。
そこで医師・薬局・患者を登録制にするという方策がとられ、
医師はADHDの診断にふさわしい専門医で教育を受講していること、
薬局は薬をきちんと管理できる体制などあること、患者の登録制は重複調剤を防ぐ意図があるそう。
さらに処方箋偽造事件もあったことから、医師が処方データを管理システムに登録して、
薬剤師は処方箋とシステム上の登録を照合しなければならないという。
同様のシステムは後にリタリンにも導入され、2019年に承認されたビバンセの承認条件にもなっている。
日本では厳しい制約により利用が進まない側面もあったようだが、
最近ではシステムの活用が進み、コンサータの処方が増えてきたようだ。
治療効果の得られる患者が増えたとすればそれはよいことだが。
ところが世界的な需要増は乱用目的もあるのでは? という話もある。
「勉強ができる薬」と誤解も…韓国でADHD治療薬、9カ月連続の供給不足 (KOREA WAVE)
韓国国内で2020年比で2024年に処方を受けた患者数は2.4倍というのだから急激な需要増が見て取れる。
で、ここにこんな話が書いてある。
一部では、コンサータが「勉強ができる薬」として誤って認識され、不適切に使用されている懸念もある。
受験戦争の厳しい韓国、そこで集中力を高める薬として不適切に利用されている? という話があると。
真相は不明な部分もあるが、日本のような厳格なルールがなければこういうことは容易に起こるのかもしれない。
薬物規制の歴史をたどると、1951年制定の日本の覚醒剤取締法は世界的にも早期のものである。
それだけ覚醒剤の蔓延がひどかったという事情はあるのだが。
新しい薬物乱用には適宜、麻薬としての規制を追加してきた。
最近では一般用医薬品の販売規制なんてところにも踏み込んでいる。
ただ、治療目的で使いたい薬が使えない、使いにくいという問題も多々生じている。
まさに精神刺激薬というのはそういう問題が詰まった領域なんだなと。
リタリンを巡る一連の騒動で、歴史は繰り返すと見た関係者も多かったんだと思う。
そして、もうこういうことを繰り返してはいけないと決意したわけですよね。