昨日・今日と苫小牧市のノーザンホースパークでセレクトセールというサラブレッドのセリ市が行われていた。
高額取引で世界的にも有名なセールで、取引の様子を貼り付いて見るファンもしばしばいるという注目度の高いセールである。
グリーンチャンネルではこの様子を生中継(無料放送)を行っている。
どういう層を想定しているのかはよくわからないけど、圧倒的にファンの視聴が多いんでしょうね。
牧場関係者や馬主というのもあるんでしょうけど。
サラブレッドのセリ市というのもいろいろあるが、デビュー前の馬の取引としては、2歳馬の市場と1歳馬の市場が主だそう。
2歳馬はある程度トレーニングされた即戦力の馬で、そこから早期デビューする馬も多い。
実際に走りを見て買うことができるので、リスクは比較的低いわけですね。
これに対して、1歳馬はこれから育てていく馬で、取引のボリュームとしてはここが大きいようである。
セリの参加者もいろいろだけど、変わったところではJRAは日本各地の1歳馬のセリに参加している。
この馬はJRAの育成牧場(日高・宮崎)で育てられ、トレーニングした上で2歳で「JRAブリーズアップセール」で売却される。
経験の浅い馬主への教育的な意味もあるセールで、JRAの競走馬育成研究のための材料という面もある。
では、セレクトセールはどんなセールかというと、1歳馬と当歳馬のセリ市ですね。
当歳馬? と思われたかも知れないが、当歳とは今年生まれの馬、すなわち「0歳」ってことですね。
馬の出産シーズンは1~5月、それで7月のセリ市に出品されるということは、生後2~6ヶ月ぐらい?
そんな生まれたての仔馬を売るセリ市は、世界でもセレクトセールぐらいだそう。
このあたりが世界的にも注目を浴びるセールである理由の1つなんだと思うけど、
生まれたばかりの馬の善し悪しを判断することは難しいとみられるが、そんなセールで高額の売買が成立するのは、
各牧場の出品希望馬を厳選している(これが「セレクト」セールの意味)ということで、信頼度の高いセリ市だからこそなんでしょうね。
ちなみに世界的にも珍しい当歳馬のセリ市が生まれた背景には、かつて日本で活躍した種牡馬、サンデーサイレンスの存在があるそう。
サンデーサイレンスがアメリカから日本にやってきて、1995年にその子供たちがデビューすると早速大活躍ということで、
この子供たちを買いたいオーナーが牧場に殺到したんだそうである。当歳で早速買いたいというオーナーも多かったんだろう。
既存のセリ市はこれほどプレミアムな馬を売るには不適という判断もあったのか、1998年にセレクトセールが生まれた。
初年は今と同じように1歳と当歳の2本立てだったが、1999~2005年は当歳馬のみの市場だった。
2006年に1歳馬市場との2本立てだがまだ当歳馬メイン、現在は1歳・当歳で1日ずつ、ほぼ同じぐらいの出品数で行われている。
生まれ時期によっては、当歳では売るに売れないが、1歳になれば見栄えして高額で売れる馬も少なくないでしょうからね。
そこは使い分けということで、現在は両市場とも活況のようである。
当歳馬を高額取引するセールというのはいかにも危なそうだが、多くの活躍馬を輩出した実績があることに尽きる。
いろいろな牧場が出品しているが、そのメインは社台グループなんて言われている牧場群である。
生産者リーディングの上位には社台グループの牧場が占め、特に重賞レースの勝ち馬ともなれば、昨年実績では、
ノーザンファームが49%、社台ファームが5%、社台コーポレーション白老ファームが2%ということで、
社台グループの4牧場合計でJRA重賞の勝ち馬のおよそ6割を輩出するというすさまじいことになっている。
そんな馬を買えるチャンスがあるとすれば、セレクトセールということで、高額でも買おうとするオーナーがいるんですね。
その他の牧場の馬もハイレベルですから、それ相応には活躍馬は出してるので、そういう期待もあろうとは思う。
今年の取引成績は下記の通りだったとのこと。
- 1歳馬: 249頭中229頭取引成立(落札率92.0%) 落札総額:104.3億円 最高額:5.1億円 平均価格:4554万円
- 当歳馬: 226頭中203頭取引成立(落札率89.8%) 落札総額:83.3億円 最高額:3.8億円 平均価格:4105万円
5.1億円の馬への投資が取り返せる確率ってどれぐらいなんだろう……なんていうのは気になりますが。
絶好調だった去年の数字は割っているが、1歳馬では歴代2位の落札総額、当歳馬も2017~2018年と同程度で、
落札率も9割ほどとこの手のセールでは極めて高水準の数字とのことである。
この経済状況で売れるのか? という話はあったけど、少なくともセレクトセールはあまり問題なかったようですね。
セレクトセールは多くのオーナーにとって大一番の買い物というのもあるので、そこは頑張ったというのはあるんでしょうけど。
セールの様子を休み時間にちらちら見てたのだけど、
1億円超の超高値が付く馬というのは全体にして見ればそう多いわけではないのだが、
多くの馬は簡単に数千万円にせり上がってしまうということで、それがセレクトセールのレベルの高さなんだろうなと。
1000万円台なら安いなと思ってしまうが、他のセリ市なら1000万円台だって十分高額である。
落札額の中央値は1歳馬で3100万円、当歳馬で2900万円となっている。ここ3年はこのぐらいの水準。
落札額のばらつきが大きいので、なかなか捉え方は難しいが、1500~8000万円ぐらいがホットなようである。
高額馬と言えば、ディープインパクトの子たちですね。
2019年没だが、2019年はほとんど種付けをしていないから、2019年生まれがほとんど最後。
なので今年のセレクトセール1歳がディープインパクトの子を買える最後のチャンスと、ここは特に気合いが入ったよう。
だから1歳馬はなんやかんや高額取引になるだろうとは元より言われていたそうだが、当歳はどうだと。
これもさっきまで見てきた数字の通り、全体としては堅調だったよう。
閉場後のインタビューでは母馬のレベルの高さにも支えられたのかもねとのこと。
そもそも、このセールはどういう形で開催されるかというのは、直前までなかなかわからなかった。
サラブレッドのセリ市は日本各地、セレクトセールにおいては世界各地から購買者が訪れる。
冒頭に出てきたJRAブリーズアップセールは4月開催だったが、メール入札という形での実施になった。
同時期の2歳馬のセールでは、インターネットオークションを取り入れたり、インターネットでの売買頼みだった。
それでも例年と同程度には売れたようで。逆に会場に行かなくても買えるということで、活況になった面もあったようだ。
セレクトセールの時期には北海道の状況も改善してきて、ノーザンホースパークに集まってのセリ市が行われた。
状況を鑑みて、初めて電話入札の制度を設けて、少ないながらにこれで購入した人もいたようである。
ただ、高額なサラブレッドのセリですから、実際に馬を見て判断したかったでしょうから、
北海道に行くのは難しいとしても(特に外国人購買者)、代理人に買ってもらう人が多かったんだろうなと。
実際、セールに買いに行くオーナーは馬のわかる人を連れて買いに行くことが多いわけで、代理人を立てるのは難しくないよね。
ファンとしては、この馬をこのオーナーが買うかというところがやっぱり注目ポイントでしょうかね。
名物オーナーも多く参加しているわけだけど、やはり「3番のお客様」こと金子真人オーナーですかね。
この方の所有馬の活躍はすさまじいものがあって、最近は自分の所有する馬同士を交配させた馬の活躍が目立つ。
父・母・父母・母母が全部金子オーナーの所有馬なんていうのもあって、なんだこれはと。
ただ、セリ市で購入した馬が活躍した例も多く、ディープインパクトもセレクトセールで金子オーナーが購入した馬である。
今回は計15頭、総額10.7億円購入だったそうです。むやみに高額馬ばかりでもなく、オーナーのこだわりを感じる。
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あと、名物オーナーといえば、野田順弘オーナー(ダノックスの法人名義で購入)と野田みづきオーナーですかね。
それぞれ「ダノン」と「ミッキー」を付けた馬で賑わせているオーナーなんですが、2人は夫婦なんですね。
ダノックスは11.5億円で9頭購入、野田みづきオーナーは7.6億円で9頭購入、うーんすごいなぁ。
多くの活躍馬を出しているオーナーなのも納得ではあるが、購入額に見合った活躍と言えるかは不明。
ちょっと面白いところでは、ノーザンファームが他の牧場の馬を5頭購入している。
ノーザンファームは大口出品者だが、購入者としてもそこそこ大口である。
他の牧場で生産された馬を、自分たちの育成牧場で育ててどれぐらい活躍するかとか、あるいは引退後の権利が欲しいとか。
そんなところに期待しているんでしょうね。
ちなみに出品者も購買者番号を持っていて、もしも誰も入札者が付かなかったり、入札者が付いても希望価格以下の場合は、
出品者自身が落札するのが慣例で、これを「主取」と言っている。
セールの様子を見ていると、普通に取引が成立したように見えるが、実際には不成立ということである。
一部は出品者と交渉してか、値下げして再上場となることもある。
セレクトセールの場合、当歳で売れなくても1歳があるし、1歳で売れなくても他の1歳馬セールはあるし、
あるいは自分の牧場でトレーニングして2歳馬のセールに出すこともできるし、やや強気の出品者も多いんだろうと。
ファンが見てもそこそこおもしろいセールというのはこういうことなんだろうなと。
この中でも重賞レースに出走するような活躍をする馬は限られるとは思うが、
確実にいるだろうとは思うので、「ああ、あのときのセレクトセールで激しい競り合いを制して○○オーナーが買った馬だ」とか、
そんなことを思い出すファンももしかしたらいるのかもしれない。忘れてるかも知れないけど。
ちなみにデビュー前の馬については「シーヴの2019」のように「(母馬の名前)の(生まれ年)」で表すのが慣例である。
そこにデビュー時のオーナーが名前を付けて競走馬になるわけで、実際の名前はまだわからない。
母馬の名前を見れば「ああ、あのときのセレクトセールで――」となるかもしれないと。上級者向けですね。