現状、4K映像の伝送にもっとも多く使われているのはHDMIかと思う。
HDMIは2K映像の伝送でも高い割合を占め、家電のほぼ全て、PCでもかなりの割合を占めているのが実情かと思う。
PCについては、DisplayPortも広く使われているが、どちらかというとVGA, DVIからの置き換え用途ではHDMIが強いようで、
今は職場ではデスクトップ・ノートPCともにHDMIが主になっていて、
会議卓に設置されたプロジェクタ・ディスプレイの接続もHDMIが使えるようになっている。(一方でVGAを使う人も未だに多い)
4Kの伝送方式としてHDMIが広く使われているとは言え、実情としてはなかなか難しいものである。
HDMIという規格は2002年にできたものである。
当時、PC向けのデジタル映像出力に使われていたDVIを家電向けにしたもので、音声伝送が追加されたのが1つのポイントだった。
この時代はDVD全盛期で、次世代光ディスクの規格争いが始まろうとしていた時代である。(2008年までにBlu-rayに集約された)
当初のHDMI 1.0は2K(フルHD)の伝送にも制約があって、60iまたは30pのみ対応とある。
60iは毎秒60フレームのインターレース方式、30pは毎秒30フレームのプログレッシブ方式という意味。
インターレスは1行おきに交互に伝送する方法で、アナログテレビの頃からテレビでは一般的で、現在の2K放送もこれ。
インターレス方式は情報量の削減に効果があり、ブラウン管テレビとは相性が良かったが、今の液晶テレビでは不都合なので、補完処理をしているのが実情である。
さすがにこれでは2K対応というのも厳しいし、さらなる高解像度化に対応できない。
そこで、2006年にHDMI 1.3が標準化され、伝送効率の向上で約2倍のデータレートを獲得して、更なる高解像度化や、8bit超の色表現に対応した。
現在、僕が使用している 4K 30p伝送もHDMI 1.4で対応したもので、ちょっと無理はあるが4K対応が実現できた。
しかし、これでは本格的な4K時代には対応できないと、さらなる伝送効率向上を目指し、1.8倍のデータレートへの拡張が行われた。
これはHDMI 2.0で、4K 60p HDR対応を実現して、現在の4K伝送に十分な性能を獲得したのだった。
が、DVI当初の4倍にもなるデータレートに対して、もはやHDMIケーブルは限界に達しており、これ以上の拡張は厳しい、というか現状でもかなり厳しい。
4K/HDRプロジェクタ導入で直面した18Gbps伝送問題。光ファイバーHDMIを検証 (AV Watch)
テレビの接続なら5m程度で十分だが、プロジェクタではそうもいかないので、光信号に変換して途中を光ファイバーにしたHDMIケーブルが有用だという話。
ここまで苦労した割には 4K 60p HDR(ハイダイナミックレンジ)の伝送となれば制約事項がある。
HDRの伝送方式としては、従来8bitの色深度を10bitにしたHDR10方式と、テレビ放送用のHLG方式の2つが主に使われている。
PC・ゲーム・Ultra HD Blu-rayではHDR10方式が基本となっている。
HDR10に対応するためには、色データを10bit表現にしないといけないが、
4K 60pでクロマサブサンプリングがYCbCr 4:4:4の場合は8bitが限度で、HDR対応ができないのである。
HDR10に対応するためには YCbCr 4:2:2 か 4:2:0 を使用する必要がある。
どういう意味かわからない人も多いと思う。僕もこの概念はよく知らなかったから。
映像伝送を効率よく行うために輝度(Y)と色差(Cb, Cr)に分けて伝送することはよく行われ、HDMIもこれが標準である。(HDMIではRGB伝送も可能)
人の目は色よりも輝度に対して鈍感なので、輝度に帯域を多く割き、色差の帯域を抑えることは常套手段で、アナログテレビもそうだった。
4:4:4はY・Cr・Cbを全ピクセルに割りあてる方式、1ピクセルの色を完全に表現できる。
4:2:2はYは全ピクセルに割りあてるが、Cr,Cbは横2ピクセルに1つ割りあてる。YCrCbが全部同じビット幅ならデータ量は2/3になる。
4:2:0はYを全ピクセルに割り当て、Cr,Cbを2×2ピクセルに1つ割りあてる。YCrCbが全部同じビット幅なら1/2になる。
YCbCr 4:4:4 8bitが精一杯であっても、YCbCr 4:2:2ならば 12bitまで表現することができるわけである。
それってどうなの? という話だが、実は家庭用ビデオではYCbCr 4:2:0が標準なので全く問題ない。
品質をできるだけ保ってデータ量を1/2に削減できるのだから、たいへんお得な選択肢なのだ。
制作段階ではもうちょっとグレードが高いものを使うが、それでも4:2:2が主流のようである。
というわけで、4K 60p YCbCr 4:4:4 10bitに対応できないことの問題はあまりないとされている。
ただ、PCではちょっと困っちゃうんだよね。文字の輪郭など急峻に変化するところでは色のにじみがでるから。
試しに現在の4K 30pでYCbCr 4:2:2設定にしてみたが、アプリによっては文字の輪郭で色が滲むのが気になる。
さて、HDMI 2.0対応したとして、どれを選ぶのがよいのだろうか?
- 4K 60p 4:2:2 10bit(HDR)
- 4K 60p 4:4:4 8bit
- 4K 30p 4:4:4 10bit(HDR)
いずれにしても現状の4K 30p 4:4:4 8bitよりはグレードアップであるが、何かに妥協が必要だ。
PCの画面でなければ最初に書いたのでほぼ満点、でもPCの画面としてはケチが付く。
PCの通常の用途では2番目がよさそうだが、ゲームなどはHDR対応の方が嬉しいので1番目かなとか悩ましい。
あえて3つ目の選択肢を選ぶ人がいるかは知らんが、一応、HDMI 2.0になって増えた選択肢ではある。
この問題の解決方法の1つがDisplayPortで、DisplayPort 1.3以降はHDMI 2.0よりも高い転送レートを持っていて、
間引きなしで4K 120p 10bit または 8K 30p 10bit伝送に対応している。データ圧縮を併用して8K 60p伝送も可能らしい。
8Kはとりあえず30p対応だが、今年にはさらに伝送レートを上げたDisplayPort 2.0が規定された。
ディスプレイ1枚なら16K 60pまで、8K 120pのディスプレイ2枚(DisplayPortは複数ディスプレイ出力も出来る)まで対応するという。
まだ多少は拡張の余地が残されているのがDisplayPortである。
日本ではNHK BS8Kが世界初の8Kテレビ放送としてスタートしたが、それに対応して8Kの家庭用テレビはSHARPが販売している。
おそらく家庭用では世界唯一で、博物館で8K映像の放映にSHARPの8Kテレビを使っていたけど、家庭用のお手頃(?)価格の8Kテレビは有用だったんじゃないか。
そんなSHARPのBS8K対応のテレビの諸元を見てみると「8K入力端子」に「―」と書いてある。
実は8Kチューナー搭載以前はHDMI4本を使った8K入力機能があったようなのだが、8Kチューナー内臓後はなくなったらしい。
こんなことからもわかると思うが、テレビの8K映像の伝送方法について、未だ確立された方法はないということ。
僕の理解としては、HDMIは4K時代をもって終わりを迎えるのではないかと考えている。
HDMI 2.1で8K伝送への対応を目指しているのだが、すでに限界に達しつつあるHDMI 2.0以上のデータレートの実現は難しそう。
一方のDisplayPortなのだが、拡張余地が残されているのも良いし、実は最近急速に普及している規格でもある。
というのも、USB Type-CはDisplayPort Alternate Modeに対応することができて、ノートPCでは普及が進んでいる。
実は職場のノートPCもUSB Type-Cのポートは対応しているらしい。変換器も必要なので使ってる人は見たこと無いが。
調べてみると、PCのディスプレイでもUSB Type-Cのコネクタを備えたものが出ているようで。
USB Type-Cを接続すると、DisplayPortで4K画面を表示して、かつUSB3.0のハブとしても機能するという機能を備えている。
HDMI 4入力、DisplayPort 1入力、USB Type-C 1入力という構成で、HDMIの機器を多く接続する想定もある一方で、メインはDisplayPortという感じもする。
これが家電に波及するかというと、これはまた難しい問題だが、8K時代はDisplayPortで迎えようという考えもあるんじゃないか。
いろいろ書いたけど、4KテレビにとってHDMIは最適の選択肢というのは間違えないことなので。
あくまでもテレビであるSHARP AQUOSにHDMI以外の入力がないというのも妥当だし、
4Kテレビとしては 4K 60p YCbCr 4:2:0 10bit で十分、YCbCr 4:4:4はオーバースペックである。
PCにとっては事情は違うけど、一般的な目的においてはHDMIは接続機器が多くて有用である。
というかこのPCにはDisplayPort付いてないし。他に使えるのがVGAとDVIだから、HDMIは曲がりなりにも4K対応できる唯一の規格だし。
HDMIでは8K時代は迎えられないと思うが、HDMIで4K時代を迎えたのは正しいと思いますよ。
8K実用放送は始まったけど、本当に8K時代が来るのかという疑念すらあるので、8Kに向けて備える時間の余裕はまだまだあるさ。