ロケットが肩代わりするのはなぜ?

もうだいぶ前の話だけど、H-IIAロケットの高度化ということで、新しい静止衛星の打ち上げ方法を行った。

ファン!ファン!JAXA!/基幹ロケット高度化とH-IIAロケット29号機への適用


静止衛星は地上との位置関係が見かけ上変わらない衛星で、放送・通信・気象観測などに広く活用されている。

位置関係が見かけ上変わらないというのが地面が動くのと同じ速度で地球を回っているから。

具体的には地上35786kmの高度で赤道上を飛ぶと実現できる。

非常に利用価値が高いわけだが、よくつかわれる人工衛星の軌道の中ではかなり高いところを飛ぶ。

そこで、こんな投入方法を取る。

  1. 東向きにロケットを飛ばし、低軌道に投入する
  2. 赤道上でロケットエンジンを再点火して、遠地点が35786kmになる静止トランスファー軌道(GTO)に変換する
  3. 遠地点で加速して、静止軌道に変換する (通常、衛星のエンジンで加速する)

エネルギー的にも効率がいいですからね。


この方式で静止衛星を打ち上げるのは万国共通ではあるが、日本のH-IIAロケットは不利らしい。

なぜならば打ち上げ地点が種子島だから。種子島から打ち上げたロケットで1,2 の手順を踏むと、GTOは赤道に対して28.5°傾いた軌道になる。

ここから静止軌道に変換するときには、この傾きを打ち消す必要がある。

ところが、ほぼ赤道直下にあるフランスのギアナ宇宙センターから打ち上げると、GTOはほぼ傾かないので、静止軌道への変換に必要なエネルギーが小さいと。


静止軌道を飛ぶ衛星は約3100m/s、近地点250m・遠地点35786kmのGTOの速度は1600m/s、

GTOが赤道に対して全く傾いていない場合は、単純に進行方向に加速するだけだから、およそ1500m/sの加速で済む。

ところが種子島から打ち上げるとGTOが同じ1600m/sでも、28.5°の傾きを打ち消す必要がある。

三角関数を使って計算すると、種子島発のGTOだと1860m/sの加速が必要となり、ずいぶん不利なのだ。


といっても種子島から打ち上げるなら、これは仕方のない問題とも言える。

GTO→静止軌道の変換に燃料が多く必要になるなら、その分だけ衛星に燃料を多く積んでもらえばよいだけのこと。

赤道直下から飛ばすのと、種子島から飛ばすのでは、必要なエネルギーに差がでるのは仕方ないのだから。

でも、人工衛星を作る側からしてみれば、これは不都合な話らしい。

というのも種子島から飛ばす場合と赤道直下から飛ばす場合で積む燃料の量を変える必要があるから。

当初から種子島からの打ち上げを想定している気象庁の気象衛星とかだと問題はないのだけど、

人工衛星を打ち上げる側にしてみれば、どこから打ち上げるかで人工衛星の設計を変えなければいけないのは不都合だと。


そこで、この差をロケット側で吸収して欲しいという話があるようだ。

このロケット側で吸収する方法もいくつかあるようだ。

1つ目は最初から高い軌道に投入するとか、傾きを補正しておくという方法。

最初にロケットでエネルギーを投入して、後が楽になるようにしておくと。

2つ目はGTOへの変換時に余分に加速するという方法。すると遠地点が35786kmよりも高くなる軌道に入る。

ここからうまくやると通常のGTOより少ないエネルギーで静止軌道に投入できると。この軌道をスーパーシンクロナストランスファ軌道というらしい。

複雑だが、GTOへの変換時に余分にエネルギーを投入しておけば、後が楽になるということ。

3つ目がH-IIAロケットが選択した方法で、GTOから静止軌道への変換の一部をロケットが肩代わりするという方法。


他の方式に比べればH-IIAロケットの選んだ方法はわかりやすいですよね。エネルギー効率もよいらしい。

ただ、これをやるためには、低軌道への投入、GTOへの変換、静止軌道への変換の一部 と3回ロケットエンジンを点火する必要がある。

H-IIAロケットの2段目エンジンはそのための仕込みとして、再々点火機能はあったのだが、

再点火~再々点火の間に4時間かかるので、その間に燃料が蒸発しにくくなるようにとか、バッテリーを増やしたりとかする必要はあった。

でも、その程度で対応できるように最初から仕込みはされてたのよね。


人工衛星側で積む燃料の量は減らせるけど、その分H-IIAロケットの燃料は消費するのだから、お得かというとなんとも言えない。

けど、GTO→静止軌道への変換に必要な加速は1500m/s程度というのが国際標準だから、

そこには適合させないと、H-IIAロケットは静止衛星打ち上げの選択肢にも入らないという実情があったんだろう。

なお、打ち上げ能力への影響だが、1800m/s加速のGTOへの投入能力が6tのロケットで、1500m/s加速のGTOへの投入は5.0t程度になるとのこと。

衛星側で対応するのと、ロケット側で対応するの、どっちがお得なのかこれを見てもよくわからないけど。


そういう経緯があるので、次期基幹ロケット、H3ロケットでは打ち上げ能力についてこう書かれている。

静止トランスファー軌道に6.5トン以上(ΔV=1500m/s)

ΔV=1500m/sというのが静止軌道への変換の一部を肩代わりしてという意味ですね。

おそらくH3ロケットでも同じ方式で実現するんだと思うけど。2段目の構成はあまり変わらないようだし。

というわけで今後の日本からの静止軌道打ち上げはこの方式が標準になるのかなと。

もともと種子島から打ち上げる前提なら、従来からのGTOを使ってもいいんだろうけど。


ちなみに種子島というのも、日本国内でできるだけ赤道に近いところということを考慮したらしい。

あえて不利になるところを選ぶ理由もないですからね。

ただ、地球レベルで見るとやはり不利な方という話にはなる。

不利なところから打ち上げることも考慮して設計するという考えもあるが、ほぼ赤道直下から打ち上げるアリアンスペース社が強い業界ですから。

そこに合わせざるを得なかったということですね。