昨日はHLA適合血小板献血の話を書いた。
(参考記事 : HLA型を調べて輸血する必要がある)
このとき抗体ができると血液型があわない輸血をすると困るということを書いた。
こういう問題は輸血の時だけに問題になるわけではない。
それは妊娠である。
母と子の血液型がちがうと言うことは普通にあることである。
ABO型を例に取れば、母がAB型で父がO型だと、子は典型的にはA型かB型になる。
母と子は生まれてくるまでへその緒で繋がっていて、これを介して酸素や栄養を与え、老廃物を捨てている。
へその緒には子の血が流れているわけだが、供給元は母の血である。
この2つが直接往来すると問題が起きるのは誰でもわかること。もちろん直接往来することはなくて絨毛膜を介して往来している。
これにより血液型がちがっても一応大丈夫ということになっている。
ところが全く問題が無いわけでもない。
これを越えて往来してしまう抗体が存在するのである。
といってもABO型に関係ある抗A抗体・抗B抗体は往来することはないようでABO型の不適合が問題になることはあまりないよう。
問題はそれ以外の抗体、不規則抗体と呼ばれるものですが、この中には母から子へ往来するものもあるよう。
その代表的なものが抗RhD抗体ですね。
ABO型とともに重視される血液型であるRh型、詳しく言うと複雑だけど普通はD抗原があるかないかでRh+、Rh-と呼んでいる。
日本人はやたらRh+が多くて、Rh-は1%ぐらいしかいないことで有名、とはいえまれな血液型という領域でもない。(参考記事 : 血液が足らないなんてことにならないように)
このD抗原に対する抗体が抗RhD抗体ですね。
ところで抗原・抗体という言葉が出てきた。
抗体というのは体に入ってきたものを壊しに行くものだが、最初からあるのかというとそうでもない。
基本的には体に入ってきてはじめて作られるものなんですね。
大学で はしか が流行ったときに、抗体を検査して抗体がなかった人に予防接種をするという話があったけど、
あれの抗体があるというのは、これまでに予防接種を受けたか、 はしか にかかったことがあるとほぼ同じことと言える。
ただ例外もあって、それが抗A抗体・抗B抗体ですね。これは生まれつき持っていて自然抗体と呼ばれている。
血液型がA型の人は生まれつき抗B抗体を持っているもんだから、B型・AB型の血液を輸血すると赤血球を壊してしまう。
ただ、それはあくまでも例外で、他の不規則抗体はちがう血液型の赤血球がやってきてはじめてできる。
Rh-の人は生まれつき抗RhD抗体を持ってるわけでもなくて、Rh+の人の赤血球がやってきて初めて抗RhD抗体ができる。
その辺は昨日も書いたけど、血液型がちがう血液を輸血しても初めてならどうにかなってしまうこともあるという話の理由になる。
ちがう人の赤血球がやってくるのはなにも輸血だけではない。
それこそ注射針を再利用したりいろいろ考えられる。そんなことあってたまるかという話だが。
ところが女性にとっては出産やらわりにある話なんですね。子の血が入ってくることがあると。
母がRh-で子がRh+というのは珍しいことではないが、そうなると子の赤血球をうけて抗RhD抗体が作られる。
それがすぐに問題になることはない。輸血を受けるにしてもRh型は調べて合わせて輸血するわけだし。
ところが女性の場合、その後に妊娠するとへその緒を通じて子と繋がることになるわけだけど、このとき抗RhD抗体が子に行ってしまう。
するとが子の赤血球を壊してしまう。そうなると大問題で、流産してしまったり、生まれてきても子が貧血になったりする。
ただ、この問題はよく知られたことで、対策法もちゃんと用意されている。
出産の前と後に抗RhD免疫グロブリンという血漿分画製剤を注射すれば、抗RhD抗体ができずに済む。これでその後の妊娠も大丈夫と。
ちなみにこの 抗RhD免疫グロブリン を作るためには抗RhD抗体を持った人の血漿が必要なのだが、そんなもん持ってる人ほとんどいない。
というわけで献血で用意することができなくて、こればかりは売血に頼らざる得ない。
日本では売血は禁止されているから輸入に頼っている。こればかりは仕方ない。
こういう問題は抗RhD抗体だけで起きるわけではない。
まれな例ではあるのだけど、それ以外の抗体が問題となることもある。
この人は2人目の子が生まれてきたときに貧血による症状が問題となった。治療の結果、無事に育っていったんですけどね。
そのときに検査をしたらRh型の不適合があることがわかった。とはいえよくいうD抗原の問題ではなくてE抗原があるかないかが問題だったと。
輸血の時は特にE抗原の有無を気にすることはないし、こうして問題となることはほとんどないんだろうが、たまにあると。
この人は3人目の子を作りたいと考えたが、さてどうしたもんかと病院に相談に行ったら、ある医師はこう返事をしたそうだ。
「すべての原因は胎児が貧血になることだけ。そうなったら治療をすればいい。」
(その後の経過を3人目を決意するまで より)
実は胎児が貧血になったときの治療についてもいろいろノウハウが蓄積されていて、死亡率はずいぶん低くなったらしい。
その後生まれた子は2人目よりも貧血に悩まされたが、最終的にはなんとかなっている。
治療法の1つは光線療法という青とかの光を当てて貧血が原因で生じるビリルビンを分解してやる。今回の話ではそれで済んでいる。
それでもどうにもならないなら交換輸血というのを行うことになる。ようは血を入れ替えてやるって事な。
このときにはO型の赤血球をAB型の血漿に浮かばせたものを使う。これを使うのもノウハウってことだ。
ともかくこうしてかつてなら失われていたかも知れない命が救われて、そして育っていくわけだから医療の進歩とは偉大なもんだなと思うわけである。