かえってきた中華民国館

1970年の大阪万博が行われた万博記念公園に行くと、

各国パビリオンの跡地が表示されているわけだけど、今はなき国もしばしば。

そんなパビリオンの1つが「中華民国館」である。

中華民国はなくなったわけではなく、現在も台湾を支配する国として存在する。

しかし、中華民国は現在はBIE(博覧会国際事務局)の加盟国ではない。

1971年に国連に中華人民共和国が加盟したことで各種の国際機関を抜けざるを得なくなったためである。


2005年の愛知万博のとき、台湾も出展したいという話があったようである。

ところがBIEの加盟国ではないので国のパビリオンとしては出展出来ない。

いろいろあった結果、台湾貿易センターの日本法人、遠東貿易サービスセンターはレストラン「イラ・フォルモサ」を設置することが認められた。

博覧会への出展というにはほど遠い話だが、博覧会参加の足跡ではある。


意外にも博覧会への本格復帰の足がかりになったのは2010年の上海世界博覧会である。

テーマが「より良い都市、より良い生活」ということで国内外いろいろな都市に声がかかり、

日本でも日本館とは別に大阪府・大阪市も出展している。

また、民間パビリオンとして日本産業館も出展していたわけである。

同様に台湾にも大陸側から出展してほしいと要請があったわけである。

上海万博に輝く台湾の星 (台湾光華雑誌)

台湾からは3つのパビリオンが出たそうである。

台北市、これは大阪同様に都市としての出展なので特に問題はなかった。

震旦館、これは震旦集団(AURORA)という台湾企業の民間パビリオンで、

特に台湾所在の企業であるということは問題なく出展できたようである。

問題は「台湾館」である。まさか中華民国が国として出展出来るわけはない。

民間団体である台湾貿易センターがパビリオンの運営を行うという体裁でお互い折りあいがついた。

ところで上海万博では国内各省・特別行政区のパビリオンもあった。

それと同列に並べられては困るという話があり、一応同列には並ばない配置にはなったらしい。

大陸側としては各省パビリオンと同じような扱いだったのかもしれないが。


さて、2025年の大阪・関西万博でも台湾は出展したいという話があったようである。

とはいえ、BIEの加盟国ではない中で国としてパビリオンを出すわけにはいかない。

そのため選ばれたのは日本国内の企業として民間パビリオンを出すことだった。

民間パビリオンの中にあまり聞き慣れない会社がある。

「TECH WORLD」を出展する 玉山デジタルテック(株)である。

うーん、なんだこれは? と思ったわけだが「玉山」というのは台湾最高峰の名前である。

(ちなみに日本統治下にあった時代は日本最高峰でもあり「新高山」と命名されていた)

実はこの会社、台湾貿易センターが出資して作った博覧会出展のための会社である。

本社は東京都、すなわち日本企業であるので、国内の民間パビリオンという扱いになる。


これを中華民国館が博覧会に帰ってきたと見るべきかは微妙なところはある。

「TECH WORLD」の看板には台湾とも中華民国とも入ってないわけだし。

とはいえ、それでも博覧会に参加できることに意味があるということだろう。

いかにもこの方法は上海のときに思いついた方法なわけで、

大陸からの入れ知恵もあったのかもしれない。


玉山デジタルテックのことを謎に思っていた人はけっこういるかもしれない。

真相はこういうことである。