女子校が多いもんだから

僕は高校を出ていないし、なんなら高専の合格内定も早かったから高校入試も受けてなかったが、

東京都の都立高校で男女で合格点に差がある場合があるという話がニュースでちらほら話題になっていた。

どうも男女の合格点に差がある場合は、必ず女子の合格点の方が高いらしい。

都立高校入試の“男女別定員制” 同じ点数なのに女子だけ不合格? (NHK)

その理由が掘り下げられていて、なるほどそういう理由だったのかと。


男女別の定員設定があるのは、全日制普通科のみで、工業・商業などの専門学科、定時制は対象外である。

どうも見た感じでは中学校卒業者のうち、都立高校の全日制普通科に入学が想定される人を、

全学校で同じ男女比で割り振っているように見え、

募集人数317人(8クラス)の学校はいずれも男165人・女152人(1人程度の差はあるかも)となっている。

そんなところからもわかるように、学校間で男女比に大きな偏りが発生しないようにするためという目的は予想できるが、

それならば男の方が合格点の高い学校があってもいいような気はする。


実はこのようなことが発生している要因というのが私立学校は女子の受入人数の方が多いということ。

都立高校が男女別定員制をやめて男女比のバランスが変わると、私立に入学する生徒の男女比にも影響が出る可能性があります。都立高校に合格する女子生徒が増えると、私立高校へ進学する女子生徒が減ることが予想されますが、そこで課題として浮上するのが「私立の女子校」です。都内の私立高校233校のうち、34%にあたる80校は女子校で、その数は男子校32校の倍以上です。

都立高校からあぶれたのが女子ならば、私立高校のあてもつきやすいが、

男があぶれると入学するところがないという事態が発生しかねないということで、

都立高校の定員は女子の人数を少なめに設定しているわけですね。

就職希望者・専門学科・高校以外(高専・専門学校など)への入学希望者なども勘案しての設定なので、

私立学校の事情は抜きにしても男女の定員に差が付く可能性はあるが、男女差は私立高校の定員が支配的のようである。


何が男女平等かというのは難しい。

歴史的には男女別定員は、学習機会に恵まれなかった女子を救済する目的があったという。

女子が通っていた旧制高等女学校では、理数科目の授業時間が少なく、外国語も必修ではなかったため、当時は男女間に大きな学力差がありました。そのため、男子が通っていた旧制中学校を共学化しても、女子の学力の水準では入学することが難しかったのです。そうした中、教育庁から、共学制を実現するために、男女で別の枠を設けて募集するよう指示が出されます。

しかし、現在は中学校での学習機会に男女差はなく、ほぼ同じか、若干女子の方が成績がよいぐらいだという。

現在は都立高校・私立高校であわせて男女の入学者数を確保するという目的で男女別定員を設定しているとすれば、

目的は多少変われども、これも学習機会の均等化という点では妥当であると考えられる。


一方で、男女で比較すると、女子の方が希望する学校へ入学することが難しいと言える。

特に都立高校と私立高校と二分して考えれば、明確に都立高校への入学には不利を受ける。

そして授業料やその他の費用負担は私立学校の方が高い傾向にある。

(というか今は都立高校なら授業料は不徴収でしたね)

すなわち男女ともに学校を選ばなければ高校に入学することは可能だが、

平均的に見れば、女子の方が私立学校への入学を強いられ、金銭的負担が重くなる傾向があるということになる。


この問題の原因としてある女子校は減少傾向ではあるものの、男子校に比べれば減少ペースは鈍い。

2000年では共学76校・女子104校・男子57校だったのが、2020年では共学121校・女子80校・男子32校と。

もともとそんなに女子校多かったんですね。そうすると都立学校をあぶれた男が行くべき高校がないのは現実的な危惧だったか。

男女ともに選べる学校が増えるという点では緩和傾向かもしれないが、全体としてはどうかはこの数字だけでは判断しにくいですね。

減ったとは言え、女子校が多すぎるということなのかな。

で、この女子校を支えているのが都立高校の男女別定員なわけだけど、それがなくなると女子校の入学者は減ることが予想される。

共学化という方向に行けばよいが、現実的にはアイデンティティの喪失から廃校へ進む道も考えられ、

それは結果として女子の修学環境を悪化させる懸念もある。

また、生徒が減って苦しむ私立女子校もあるでしょう。それは、建学の精神があって社会のために尽くしてきた学校が無くなるということで、その学校が受け入れてきた生徒の受け皿も新たに必要になります

そうなんですよ。こういう副作用も懸念されるわけですね。


というわけで単純ではないということである。

現在、男女別定員は若干の弾力的運用が図られており、男女の合格点の差を小さくする方向へは向かっている。

ただ、全面撤廃とすると、いろいろなリスクがあり、そのリスクは男女ともに及ぶ可能性もある。

そこを見極めようとしている段階かもしれないが、私立学校との協調が必要でしょうね。


このあたりの考えは高校と大学では若干の差があろうと思う。

国際人権規約の教育に関わる規定でも、中等教育(中学・高校相当)と高等教育(大学など)ではちょっと違って、

第十三条

2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。

(a) 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。

(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。

(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。

(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)(外務省))

ここの無償化の規定を日本では長らく留保してきたが、公立高校の授業料不徴収で中等教育の無償化はしたという話。


で、中等教育と高等教育、いずれも全てのものに機会が与えられることが求められているが、

中等教育は限定なしに「すべての者に」と書いてあるが、高等教育では「能力に応じ」ということで若干の差がある。

すなわちは国際的な認識としても、高校レベルまでは学力によらず進学機会は与えられるべきという考えである。

一方で大学レベル以上は、大学進学レベルの学力を問うのは妥当であるという、ちょっとした考えの差がある。

高校の定員を男女問わずに成績上位から争えば、学力の高い人は高校に入学できるが、

女子校が多い実情からすると学力の低い男子はあぶれる可能性が出てくる。

それは能力に応じて機会を与えているからだ、というのは大学では許されても、高校では難しいかなと。


実は以前は、中学卒業後の進路として、進学以外の道を充実させることを前提として、進学の適性を問うべきではないか。

すなわち学力が足りないものは高校進学への道を閉ざすべきだと思っていたのだが、

高校程度までは学校を選べなければ希望する人は進学できるという形にするべきというのが国際的な認識だという。

とすると、学習機会の均等化のために男女別定員を取り入れている都立高校の対応は妥当ではないかと。

ただ、一方で授業料負担という点では女子の方が重くなるという課題はある。

定員は確保できても、授業料が払えなければ機会の均等化にはならないので、こっちが問題になる可能性もある。

それでも低所得世帯だと授業料減免とか公的な補助制度もあるから、学習機会の均等を重視するのも妥当だと思う。


好ましい制度とは言えないので、私立学校と協調して撤廃・緩和する方向へ持っていくべきとは思うけど、

そんなに単純な話ではないなと思ったのだった。こういう深掘りは大切ですね。