飛鳥・藤原の宮都が世界遺産になる

4月に吉野に行くとき、橿原市内で乗換などしているが、

このときに「飛鳥・藤原の宮都 世界遺産国内推薦決定」というような掲示がデカデカとされていて、

まだ登録されると決まったわけではないのにな……

と思っていたが、「登録勧告」が出たとのことで、登録は確定的な状況になった。

「飛鳥・藤原の宮都」世界遺産へ ユネスコの諮問機関が「登録」勧告 (朝日新聞デジタル)


これで奈良県では4つ目の世界遺産が登録されることになる。

  • 法隆寺地域の仏教建造物(1993年)
  • 古都奈良の文化財(1998年)
  • 紀伊山地の霊場と参詣道(吉野・大峯と大峯奥駈道) (2004年)
  • 飛鳥・藤原の宮都 (2026年登録見込)

どこいっても世界遺産だなという感じですね。

飛鳥・藤原は世界遺産暫定リストに記載されたのは2007年のこと。

推薦まで相当な年数を要しているのだが、いろいろ事情がある。

もっとも大きな理由と言われているのが藤原宮跡の特別史跡指定範囲である。

史跡に指定されると利用に大きな制限がかかるため、地権者の同意を得て指定する慣例がある。

(史跡に指定されたからといって住宅などに使えなくなるわけではないが、建替などに制限がかかる)

暫定リストに記載された頃はカバー率は8割程度だったという話もあるが、

これが98%ほどになるのを待って推薦したという事情がある。


僕は飛鳥・藤原の宮都の構成資産の多くに足を運んでいるが、

その上で思うのは、ここから往時の姿を想像するのはまだ難しいということである。

これは平城宮跡との比較で言っているのだが、発掘調査の歴史やそれを補強する資料が圧倒的に少ない。

まだこれから掘って調べて行かないといけない部分がたくさんある。

それも平城京と比べても短期間で放棄された宮都ばかりなので情報が限られている。

一方で、飛鳥・藤原→奈良(平城京)→京都(平安京)の3つの世界遺産がシリーズになるということで、

それらがまとめて継承されることへの期待もあるのかなと思う。


ところで今回の世界遺産推薦にあたっては、暫定リストに記載されていた大和三山が落とされている。

大和三山は藤原京を囲むようにあった香久山・畝傍山・耳成山である。

2005年に名勝に指定されているが、世界遺産登録の前提となる国内法での保護対象とするためだったのかも。

これ自体は考古遺跡ではないという理由で外されたようだ。

説明がしにくいという理由で外される資産もけっこうあるんですよね。

地元では世界遺産と同じように紹介されてたりするんですけど。

実際、藤原京を理解しようとすれば外せないものだとは思うのだけど。


基本的に日本は世界遺産に推薦するというのは相当な確度があるからこそである。

ICOMOSの審査結果には 登録勧告・情報照会・登録延期・不登録の4つがある。

登録勧告は文句なしで登録に値するということで、今回はこれにあたる。

情報照会は何らかの修正など必要だが、それなりに絞り込まれているもので、

このパターンはすぐ修正して同年に登録されるケースも多い。

登録延期は出直してこいということなのだが、同年登録というケースもある。


近年のものでいうと、まず一発で登録勧告になったのは、

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群 (2021年登録)
  • 百舌鳥・古市古墳群 (2019年登録)
  • 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 (2018年登録)
  • 宗像・沖ノ島と関連遺産群 (2017年登録)
    • 宗像大社辺津宮・中津宮は除外を勧告されていたが、世界遺産委員会ではすべて登録することが認められた
  • 明治日本の産業革命遺産 (2015年登録)
  • 富岡製糸場と絹産業遺産群 (2014年登録)
  • 富士山 (2013年登録)
    • 三保の松原は除外を勧告されていたが、世界遺産委員会では登録が認められた
  • 小笠原諸島 (2011年登録)

ここ最近はかなり確度が良いので一発登録となることが多い。

ただ、一部除外を勧告されたことはけっこうあって、でも全体的には登録すべきと認められている。


次に情報照会だが、近年では 佐渡島の金山(2024年登録)がそうで、

すぐに対応できるとみた日本政府は、遺産範囲の見直しなどして勧告された年の世界遺産委員会で登録されている。

ただ、これは特殊なケースのような気はしますね。

翌年以降に申請するのが基本的なフローのようである。


登録延期、これはけっこうあって、けっこうな年数かけて出直しているケースが多い。

  • 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 (2018年延期勧告・2021年登録)
  • 平泉 (2008年延期勧告・2011年登録)
  • ル・コルビュジエの建築作品 (国立西洋美術館 含む)
    (2009年延期勧告・2011年不登録・2014年登録)
  • 石見銀山遺跡 (2007年延期勧告・同年登録)

石見銀山は延期勧告から逆転して同年登録というのはよくわからん話だが。

奄美・沖縄では保護範囲の拡大、平泉とル・コルビュジエでは構成資産の絞り込みで登録に至っている。

今のところ、延期勧告で出直し準備中という案件は日本にはないよう。

平泉は登録勧告を得るために落とした資産を拡張する計画はあるようだけど。


最後に不登録なのだが、これは 武家の古都・鎌倉 で2012年に不登録勧告を受けている。

この後、世界遺産委員会で不登録決議を得ると今後推薦できなくなるので、

勧告の段階で取り下げ、現在も世界遺産暫定リストに含まれている。

ただ、登録に向けた動きはほぼ止まった状況にある。

彦根城とともに世界遺産暫定リストに長いこと居座っているが、

一旦、不登録勧告を受けたこともあり、永遠の暫定リストなのかもしれない。


世界遺産というのは日本の文化財・自然保護制度とはだいぶ違うものである。

とはいえ、普通は国内でも重要度が高いとみなされているはずである。

文化遺産の場合、遺跡や建造物をキーとして登録されることになるが、

奈良県は国宝(建造物)が64件、特別史跡が10件と都道府県別ではいずれももっとも多い。

今回の飛鳥・藤原の登録が実現すれば、10件の特別史跡のうち8件が世界遺産の構成資産となる。

国宝建造物も法隆寺・法起寺の19件を筆頭に相当数が世界遺産の構成資産となっている。

世界遺産に登録されるには何らかの保護制度の対象になっていればよいし、

百舌鳥・古市古墳群にいたっては史跡指定すらしなかった資産もある。

(現役の王族である皇室の陵墓であることは考慮されたとみられる)

でも、普通は国内制度でもトップクラスの保護体制にあると考えるのが自然で、

奈良県所在の世界遺産はいずれもそのようなものである。